第341回:イタリア政府が公用車151台をオークションで売却! その中身とは?
2014.04.04 マッキナ あらモーダ!39歳首相の決断
2014年3月、イタリアのマッテオ・レンツィ首相は、財政再建策の一環として、政府公用車をネットオークションサイト「ebay(イーベイ)」で売却することを発表した。まずは3月26日に内務省で使用されていた25台が出品された。予定では4月16日までに合計151台を出品する。
レンツィ首相は39歳。欧州圏内最年少の首相として2014年2月に就任した。前職のフィレンツェ市長時代に、公用車だった「アルファ159」と「ボルボS60」を同様にイーベイで売却したことがある。いっぽうで、自家用車の初代「スマート」や自転車を通勤や公務に利用して話題となった。また2011年には、ルノー・日産アライアンスとフィレンツェ市内の充電ステーション拡充計画などで調印している。
首相としての初登庁にも、「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」を自ら運転して向かった。その後も首都ローマ市内をタクシーで移動したり、都市間移動に特急「フレッチャロッサ」(イタリア語で「赤い矢」の意味)を利用したりする姿が報じられている。
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「世界ダントツの公用車保有国」の汚名返上へ
イタリアにおける公用車の多さは、従来たびたび問題にされてきた。2011年にその数は国家機関のものだけでも8万6000台に及び、人口比でみると、米国の5分の1にもかかわらず、公用車の数は10倍にものぼっていた。その年間維持費用は10億ユーロ(当時のレートで約1150億円)にも達していた。
そうした批判が出るたび政府関係者は、公用車需要によって販売・リース整備業界を潤し、運転手の雇用を促す経済効果を創出しているため急激な削減は難しいと説明してきた。
また、公用車に輸入車が多いのは、国産車(イタリア車)に適切な車種がないこと以上に、入札の際、国外ブランドのほうがより安い価格で応札する場合が多いから、つまり納税者に対しても公正な結果である、という説明がなされていた。
今回のレンツィ首相の公用車売却に対しては、批判もある。野党「五つ星運動」は、レンツィ内閣が代わりに210台の新車導入を計画していることを指摘。一時的なパフォーマンスにすぎないとしている。
しかしながら、屈強なボディーガード数名によって常に守られながらメーカー特注の装甲仕様「アウディA8」で移動していたベルルスコーニ元首相の時代からすると、イタリア政界と公用車の関係は、急激な変化を遂げつつあることは事実だ。
「世界ダントツの公用車保有国」という汚名返上への一歩になり得るか、今後の展開を見守りたい。
納車リストで一番多いメーカーは?
3月末時点でイーベイにリストアップされた売却予定のイタリア政府公用車を見てみよう。
最も多いのは「BMW 525」の40台で、以下「ランチア・テージス」20台、「アルファ166」の10台と続く。いずれも内務省から出品されるクルマだ。
法務省からは、ジャガーの「Sタイプ」および「XF」、フォルクスワーゲンの「フェートン」などが出品されている。同省からは日本車として、スバルの「インプレッサ」1台と「アウトバック」2台も出品されている。
いっぽう、面白いのはメルセデス・ベンツが1台もないことだ。これだけ輸入車を導入していて、メルセデスがないということはあり得ないので、引き続き使用を決めたと思われる。
本稿を執筆している2014年3月28日現在、一番高値をつけているイタリア車は、2007年「アルファ・ロメオ166 2.4JTD マルチジェットターボディーゼル」だ。走行距離は12万6718kmのMT車である。最初の入札者は3000ユーロ(約42万3000円。付加価値税22%込み。以下同じ)だったが、その後86人のビッダーによって目下13万50ユーロ(約184万円)まで競り上がっている。
ランチア・テージスも数々出品されている。そのうちの1台は上記のアルファ166と同じ年式、同じエンジンを搭載していて、走行距離は16万9138kmのAT車だ。最初の入札はアルファ166より高い4410ユーロ(約62万円)だったが、その後ビッダー数は40で頭打ちとなり、価格も現在のところ前述の166より大幅に安い8550ユーロ(約120万円)にとどまっている。
もしかしてボンドカー並み?
しかし、これら2台の同年式、同型車を自動車検索サイトで探してみると、いずれも6000ユーロ(約84万円)以下で手に入ることがわかる。公用車といっても、次官級の乗ったクルマなので、コレクターズアイテム的価値もあまりない。また、いずれのモデルもイタリアでは諸税や保険が高く、かつ公用車もしくは運転手付き観光タクシー用途のイメージが強いので、リセールバリューは限られている。
入札価格の高騰は、たぶんに話題の盛り上がりによって支えられているものとみるべきだろう。
さらに納車はローマでの引き取りが条件だ。ナンバーが無効な状態で引き渡しとなるので、仮ナンバー持参もしくは、陸送車の手配を求められている。
それでも、過剰なまでに整備を受け、プロの丁寧な運転のもとにあったため、コンディションは市場に出回っているものよりかなり良いと思われる。それらの一部は、ボクが払ってきた血税によるものかと思うと、購入して乗り回すことは、専制国家で革命後に独裁者のフェラーリを奪って乗るようなサディスティックな快感がある……かもしれない。
政府による売却リストに再び戻ると、マセラティも防衛省から9台出品される。あるテレビニュースは、一部の公用車は防弾装備などで重量増になっているので、燃費や走りは決して理想的なものではなかろう、と老婆心的コメントを述べていた。
だが、逆にボンドカー並みの防御&秘密兵器を取り外した痕跡や、それどころかイタリアゆえに外し忘れがあったりするかもしれない。そう考えると、政府大放出セールの夢は広がるのである。
参考までに、イタリア政府はクルマより先に2013年8月、政府専用旅客機3機の売却も決めている。お財布に余裕がある方は、そちらもどうぞ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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