日産スカイライン350GT ハイブリッド Type SP(FR/7AT)
自動運転時代への架け橋 2014.05.06 試乗記 数々の次世代技術を搭載し、かつてないドライビングプレジャーを提供するという最新型「スカイライン」。その実力は、どれほどのものなのか? 最上級グレード「Type SP」で試した。歴史に名を残す
50年後か100年後に『自動車の歴史』が編纂(へんさん)される機会があれば、新型日産スカイラインの名前がどこかのページに記されるのは間違いないだろう。なぜなら、ハンドル操作を電気信号に変換してタイヤの向きを変えるステアリング・バイ・ワイヤ技術(日産はダイレクトアダプティブステアリング=DASと呼ぶ)を初めて搭載した市販車であるからだ。
ちなみに、ステアリング・バイ・ワイヤはすでに飛行機には採用されている技術だ。
いままでのクルマは、ハンドルを回すとステアリングシャフトと呼ばれる軸が回転することで、ドライバーの意思を機械的に伝えていた。日産スカイラインも万が一の時のためにステアリングシャフトが残されているけれど、通常の走行状態ではステアリングシャフトはクラッチで切り離され、電気信号で方向を決めることになる。
つまり日産スカイラインのハンドルは、乱暴に言えばゲーム機のコントローラーと同じ仕組み。ハンドルも丸い形状のものがあの位置にある必要はなくなって、ジョイスティックでもよくなる。
この技術は将来のクルマの自動運転化にも大きな影響を与えるだろうし、ステアリングシャフトがなくなればクルマの形ははるかに自由になる。
といった具合に、DASは実に興味深い技術であり、それを搭載する新型スカイラインに乗るのは楽しみだった。
ここで走りだす前に、新型スカイラインの概要をさらっとおさらいしておきたい。
クルマを“着る”感じ
初代モデルが登場したのは1957年だから、スカイラインという車名は半世紀以上もの歴史がある。けれどもご存じの通り、海外では日産の高級車販売チャンネルであるインフィニティから「Q50」というモデル名で販売されている。
また、北米市場では3.7リッターのV6エンジン搭載モデルも用意されるけれど、日本ではハイブリッドモデルだけの設定となる。「3.5リッターV6エンジン+1モーター2クラッチ」のハイブリッドシステムは、同社の「フーガ ハイブリッド」に採用しているのと同じ仕組みだ。
なお日産は、近い将来にダイムラー(メルセデス・ベンツ)製の2リッター直4ターボエンジンをスカイラインに搭載することを明言している。両社のコラボは、おそらく年内にはお披露目されるだろう。
ドライバーズシートに乗り込むと、未来感とクラシックな雰囲気が同居していることに気付く。新しさを感じさせるのは、上下2段構えの液晶モニター。上のモニターは主にカーナビで、下のモニターをタッチすることでオーディオやドライブモードをセッティングする。上段が情報表示、下段が操作系というように役割を分担している。
ドライブモードの設定は細やかで、エンジンとトランスミッションを「スポーツ」「エコ」「標準」「スノー」の4段階から選べるほか、ステアリングの手応えを「しっかり」「標準」「軽い」から、反応を「クイック」「標準」「おだやか」から選べる。一日の試乗ではとてもじゃないけれどすべての組み合わせは試せないけれど、クルマのセッティングをオーダーメイドできる感覚は新鮮だ。
逆にクラシックさを感じたのは、囲まれ感のあるタイトな雰囲気。「男の仕事場」「コックピット」といった懐かしいフレーズが頭に浮かぶ。クルマをぴたっと着るこの感じ、運転に集中できる隔離されたムード、かなり好きです。
エンジンを始動、ではなくてハイブリッドシステムを起動してスタート、スカイラインはモーターの駆動力だけで(つまりEVの状態で)静々と走りだした。でもこのハイブリッドのインプレッションは後回し。早くDASを試したくてうずうずしていたので、早速レーンチェンジを繰り返して反応を確認する。ところが……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
DASの数多い利点
「新しい自動車テクノロジーの仕上がりをチェック!」と意気込んで東京・大手町周辺の一般道を走りだして、肩すかし。ハンドルの手応えは自然だし、路面から伝わる情報の量や質も、フツーのステアリングシステムの自動車と変わらない。
もちろん、ステアリングシステムを根本から改めたのにフィーリングが変わらないというのはすごいことに違いない。では、あえて手間暇をかけてDASを開発したのはなぜか。
まずひとつは、ハンドル操作を機械的に伝えるよりも、電気的な信号で伝えるほうが素早くタイヤの向きを変えられる、ということがあげられる。実際、ドライブモードを「スポーツ」にセットすると、ハンドルの手応えが重くタイトになると同時に、操作に対する反応が超クイックになる。
MINIではないけれどゴーカートフィーリングで、そこそこのサイズがあるスカイラインがキュキュッと曲がるのはちょっと不思議な感覚だ。そしてドライブモードを「スタンダード」に戻すと、ハンドルの手応えはほどよい軽さに戻る。
このスポーティーさとラグジュアリーを行ったり来たりできるのが、DASの利点だと思えた。
ドライバーの操作を電気的に伝えるということは、反対にタイヤからの入力も電気信号でドライバーに伝えるということでもある。この時に、必要な情報だけを伝えられるのもDASの利点だという。
どういうことかというと、轍(わだち)や傾斜のある路面、凸凹の道などでハンドルから伝わる振動を感じたドライバーは無意識のうちにハンドルを修正する操作を強いられ、これが運転時の疲労につながる。ところがDASは、たとえ轍に入っても車両側がそれを検知して自動で舵(だ)を修正する。したがって、ドライバーに負担をかけずに直進性を確保する。
直進安定性にDASがどれだけ貢献しているのかを知るには、厳密にはDAS未装着のモデルと乗り比べるほかないけれど、高速道路走行中に路面コンディションによって針路が乱される頻度はかなり減ったように感じる。
高速道路をすーっと直進するのは、これまた世界初の技術であるアクティブレーンコントロール(ALC)との合わせ技でもある。これは70km/h以上の速度で作動する仕組みで、前方のカメラで車線に対するクルマの向きを検知し、タイヤの角度を微調整することで直進性を高めるというもの。この技術もDASがあってこそのものだ。
ただし、DASには「むむむ?」と思わせる一面もあった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ライバルよりもスポーティー
低速で走る一般道では違和感を覚えないと述べたけれど、70~80km/h以上の速度でハンドルを切ると、挙動変化がやや過敏に感じた。本当はもうちょっとじわーっと向きを変えたいのに、ハンドルの操作に対してクオーツ式時計の秒針が1から2へぴょんとジャンプするように反応する。こう感じるのは、決して「操作が電気的な信号に変換されている」という先入観のせいだけではないはずだ。
この日は、たまたま日産スカイライン ハイブリッドで「アウディA8」の試乗会に出席した。同じ場所でアウディA8のハンドルを操作すると、じわじわと向きを変えたい時にはアナログ式時計の秒針が1から2へシームレスに進むようなナチュラルな反応を得ることができた。
ただし、気になったのはそのぐらい。ドライブモードを「スポーツ」に入れて、速度域がそこまで高くないワインディングロードを走ると、ボディーがぎゅっと引き締まったように感じる。やはりゴーカートフィーリングで、「BMW 3シリーズ」や「アウディA4」といった同セグメントのライバルと比較すると、はるかにスポーツカー的だ。
乗り心地は固いは固いけれど、不快に感じないのはボディーがしっかりしているからだ。たとえば荒れた路面を通過するとそれなりのショックが伝わるけれど、ボディーが一丸となって突破しているような爽快さがある。そしてそのショックはだらだらと続かず、「カン!」と一発で収まる。
乗り心地は、後味さわやかな辛口である。スカイラインを選ぶ方はふんわりソフトな甘い乗り心地を望んでいるわけではないだろう。
そしてスポーツカー的なフィーリングの源には、1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムが供給する豊かなパワーとレスポンスのよさがある。
新しいファン・トゥ・ドライブ
このハイブリッドシステムにおいて、エンジンとトランスミッションの間に位置するモーターは駆動と発電の2つの役割を果たす。また2つのクラッチのうち、1つはエンジンを切り離したり接続したりする役割をはたし、もう1つは変速や発進を受け持つ。
たとえばバッテリーが十分にある状態で発進する時は、クラッチ1がエンジンを切り離してEVとして走行する。減速時に減速エネルギーを電気に変換する回生ブレーキが作動する時も、クラッチ1がエンジンを切り離して効率を高める。
反対に全力で加速する時にはクラッチ1がエンジンを接続して、エンジン+モーターのパワフルな加速を味わうことができる。
この2つのクラッチの連携は上々で、気がつくとエンジンとモーターが合唱していたり、どちらかが独唱していたりする。
スポーツセダンとして好ましいのは、アクセルペダルを踏み込むとレスポンスよく加速することだ。これは、通常のAT車のトルクコンバーターがある位置にモーターとクラッチ1が位置していることによる。つまり加速が必要な時にはエンジンとモーターとトランスミッションがダイレクトにつながるので、レスポンスがいいのだ。
日産スカイラインは、燃費だけを求めるのではなく、加速力や加速フィーリングのよさも狙った肉食系のハイブリッド車だと言っていいだろう。モーターがターボチャージャーのようにエンジンに加勢した時の加速感は圧巻だ。
資料によれば、0-100km/h加速は4.9秒と、「ハイブリッド車世界一」をうたっている。世界一かどうかはともかく、「ポルシェ911カレラ」のMT仕様の0-100km/h加速タイムが4.8秒であることと比べれば、その速さがわかるだろう。
そして高速巡航時にアクセルペダルをふっと緩めると、エンジンがスッと停止して無音、無振動のEV走行に入る。
EV走行での滑らかな発進加速、エンジン+モーターによる強烈な加速、そして風に乗ったグライダーのように感じるEV状態での高速巡航。新しいステアリングシステムによるスポーティーなフィーリングとともに、今までの自動車とはひと味違うファン・トゥ・ドライブを味わわせてもらった。
(文=サトータケシ/写真=田村 弥)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
日産スカイライン350GT ハイブリッド Type SP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1820×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1800kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6800rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/5000rpm
モーター最高出力:68ps(50kW)
モーター最大トルク:29.6kgm(290Nm)
タイヤ:(前)245/40RF19 94W/(後)245/40RF19 94W(ダンロップSP SPORT MAXX 050 DSST)
燃費:17.8km/リッター(JC08モード)
価格:541万5120円/テスト車=562万5720円
オプション装備:ビジョンサポートパッケージ<ハイビームアシスト、アクティブAFS+自動防眩式ルームミラー>(6万4800円)/Boseサウンドシステム(14万5800円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:3611km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:377.8km
使用燃料:32.5リッター
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
レクサスRZ350e“バージョンL”(FWD)【試乗記】 2026.2.16 「レクサスRZ」のエントリーグレードがマイナーチェンジで「RZ300e」から「RZ350e」へと進化。パワーも一充電走行距離もググっとアップし、電気自動車としてのユーザビリティーが大幅に強化されている。300km余りのドライブで仕上がりをチェックした。
-
トヨタbZ4X Z(FWD)【試乗記】 2026.2.14 トヨタの電気自動車「bZ4X」が大きく進化した。デザインのブラッシュアップと装備の拡充に加えて、電池とモーターの刷新によって航続可能距離が大幅に伸長。それでいながら価格は下がっているのだから見逃せない。上位グレード「Z」のFWDモデルを試す。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.2.11 フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。
-
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】 2026.2.10 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
NEW
第861回:冬道性能やいかに ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を北の大地で試す
2026.2.18エディターから一言2025年9月に日本ミシュランタイヤが発表した最新のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」の冬道性能を確かめるために、北海道に飛んだ。ドライやウエット路面に続き、ウインターシーンでの印象を報告する。 -
NEW
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】
2026.2.18試乗記かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。 -
NEW
ストロングハイブリッドか1.8ターボか 新型「フォレスター」の悩ましいパワートレイン選択に雪道で決着をつける
2026.2.18デイリーコラム新型「スバル・フォレスター」には2.5リッターハイブリッドと1.8リッターターボの2つのパワートレインが設定されている。ローンチ時からの人気は前者だが、果たして後者の利点は「低価格」だけなのか。雪道をドライブして考えた。 -
NEW
第103回:フランス車暗黒時代(後編) ―おしゃれだったアナタはどこへ? フレンチデザイン没落の原因と再生への曙光―
2026.2.18カーデザイン曼荼羅おしゃれなクルマをつくりたくてもつくれない? かつてセンスのかたまりだったフランス車は、なぜコテコテ&ゴテゴテのデザインに移行せざるを得なかったのか? カーデザインの識者とともに、フレンチデザインが変節した理由を深掘りし、復活の光を探った。 -
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】
2026.2.17試乗記「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。 -
「ユーザーには伝わりにくいが、実は手間がかかっていること」は?
2026.2.17あの多田哲哉のクルマQ&A自動車開発においては、つくり手のこだわりや苦労のすべてがユーザーに伝わるとは限らない。そうした「気づかないかもしれないが、実はメーカーが多くの労力をかけている」こととは? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いてみた。






























