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第345回:大矢アキオ式 ああ悠久の北京ショー(前編)
ラストエンペラーなあのクルマ

2014.05.02 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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福田風景というバン

第13回北京モーターショーが2014年4月29日に閉幕した。
今回会場では、大都市の大気汚染対策と、それに伴うエコカー買い替え政策を見据えたハイブリッド車が各社から積極的に出展されていた。同時に、一人っ子政策で大切に育てられ、従来世代と違う価値観をもつ新世代をターゲットにしたSUV&クロスオーバーも百花繚乱(りょうらん)となった。
それらに関しては、すでに他のリポートで報じられているので、本欄では、なかなか報じられることのない、大矢アキオ視点の北京ショーを記すことにしよう。

北京ショーは商用車も包括していて、その展示スペースは屋外に割り当てられている。そこを散策していて、思わず足をとめてしまったのは、「福田(フートン)汽車」のコーナーである。同社製バン「風景(フンジン)」の新型「G7」が展示されていた。

風景のデビューは17年前である。先代は明らかに「トヨタ・ハイエース」を参考にしたデザインで知られていた。それでもカタログには、2005年の宇宙船「神舟6号」の乗組員地上輸送に正式採用されたことをはじめ、軍・官公庁、さらに映画撮影用(いわゆるロケバスと思われる)に至るまで幅広く使われてきたことが、誇らしげに記されている。

新型はというと、やはりハイエース風であった。乗用車やコンセプトカーはオリジナリティーあふれるデザインが主流となりつつあり、もはや露骨なコピー車は格段に減ったのと対照的である。
しかしながら、内装を見せてもらうと、先代より立派になっている。思えば4年前、貧乏旅行のため初めてこの国の土を踏んだとき、旅行代理店を通じて頼んでおいた空港からホテルまでの送迎車は福田風景であった。

将来、もっと「アルファード」風に豪華になっていき、いつしか日本のように著名芸能人や政治家が移動のために使うようになるのか?
たとえ「なんちゃってハイエース」といわれようと、ボクが中国大陸で初めて乗ったクルマであることは変わらないわけで、いつか福田風景がさらに立派になってもその存在は気になることだろう。

北京モーターショー2014の会場から。奇瑞の近未来セダンを示唆する「コンセプト アルファ」のプレゼンテーション。
北京モーターショー2014の会場から。奇瑞の近未来セダンを示唆する「コンセプト アルファ」のプレゼンテーション。 拡大
モデルチェンジした福田汽車のワンボックスバン「風景G7」。エンジンは2リッターガソリンと、2.7リッターディーゼルの2本立て。変速機は手動5段のみ。
モデルチェンジした福田汽車のワンボックスバン「風景G7」。エンジンは2リッターガソリンと、2.7リッターディーゼルの2本立て。変速機は手動5段のみ。 拡大
「風景G7」の室内。ハイヤーなどで、中国で福田風景にお世話になる人は、意外に多い。
「風景G7」の室内。ハイヤーなどで、中国で福田風景にお世話になる人は、意外に多い。 拡大
紅旗のブース。メインステージには、高級シリーズL系のショートホイールベース版「L5」が2台展示されていた。
紅旗のブース。メインステージには、高級シリーズL系のショートホイールベース版「L5」が2台展示されていた。 拡大
若者たちが熱心に紅旗をカメラに収める光景が印象的だった。
若者たちが熱心に紅旗をカメラに収める光景が印象的だった。 拡大
紅旗ブースの一角には、こんなおもてなしスペースも。なお、今年のモットーは「紅旗譲理想飛揚」。理想的な飛躍を実現する紅旗、といったところ。
紅旗ブースの一角には、こんなおもてなしスペースも。なお、今年のモットーは「紅旗譲理想飛揚」。理想的な飛躍を実現する紅旗、といったところ。 拡大

限りなくチャイニーズビューティー

中国で政治家仕様といって忘れてはいけないのは、「紅旗」であろう。歴代と今日の紅旗については、本欄の第295回で記したのでそちらをお読みいただくとして、今回の北京でも製造元の中国第一汽車は、昨年の上海ショーに増してゴージャスなブースを展開していた。
ブースの脇にはレクサスのショールームもびっくりの、おもてなしサロンまで用意されている。さらに観察すると、高級シリーズである「L系」の車内が公開されているではないか。その日はトレードデイであったが、見学待ちの人の列ができている。やはり、紅旗は別格だ。ボクも並ぶことにした。

待っている間にスタッフに価格について聞くと、L系はホイールベースが最も短い「L5」でも、50万元(約818万円)という。ちなみに、下位シリーズであるH系の「H7」の価格は約30万元(約490万円)だから格がひとつ違う。原則として政府関係者向けのみとされたL系の価格を知ることができるようになるとは。時代の変化を感じた。

いよいよボクの番がまわってきた。後部ドアを開けると、いきなり華やかなつり下げ式オーナメントが目に飛び込んだ。一瞬、紅旗流の乗員用グリップか? と思ったが、よく見ると純粋な飾りだった。室内のドアハンドルには、中国で珍重される石・白玉(はくぎょく)が用いられている。
次に運転席にまわると、ステアリングパッド、ダッシュボードそしてセンターコンソールに、あでやかな文様の素材があしらわれている。聞けば漆塗りだった。

ちなみに製造元の中国第一汽車は、長年フォルクスワーゲン(VW)と合弁事業を展開している。1990年代、過渡期の紅旗が「アウディ100」をベースにしていたように、今日の紅旗の開発にもVWグループが一部協力していると思われる情報を筆者はいくつかのソースから得ている。それでも、愚直なまでの“チャイニーズビューティー”の表現が、このクルマの個性に違いない。見ると、ボクのあとにも、多くの人が紅旗L系に触れるべく、まだまだ列をなしていた。

そして帰路、中国国際航空の機内誌を開けば、ドイツ系&日系自動車メーカーの広告と並んで、なんと紅旗の広告が載っていた。
政治体制・経済政策の変化とはいえ、かつて周恩来や鄧小平といった中国の要人しか乗れなかったブランドが今、豊かになった一般市民のものになりつつある。

ボクにとって、紅旗ブースのにぎわいは、映画『ラストエンペラー』で、かつて皇帝・溥儀が俗世から隔絶されて暮らしていた紫禁城に、第2次大戦後になって人民服を来た観光客が押し寄せるシーンをほうふつとさせるものだった。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

漆塗りのボードが随所にあしらわれた「紅旗L5」の運転席。ダッシュボードのメーターは、センター配置である。
漆塗りのボードが随所にあしらわれた「紅旗L5」の運転席。ダッシュボードのメーターは、センター配置である。 拡大
「紅旗L5」の後席。L系はこのほか、L5よりホイールベースが長い「L7」および「L9」がある。
「紅旗L5」の後席。L系はこのほか、L5よりホイールベースが長い「L7」および「L9」がある。 拡大
気分は党幹部? 後席でくつろぐ筆者。
気分は党幹部? 後席でくつろぐ筆者。 拡大
リアのガーニッシュも、1960年代中期の紅旗のイメージを継承している。
リアのガーニッシュも、1960年代中期の紅旗のイメージを継承している。 拡大
こちらは民生用の「H7」シリーズ。今回の北京滞在では、街中を走っているのを1度だけ目撃した。
こちらは民生用の「H7」シリーズ。今回の北京滞在では、街中を走っているのを1度だけ目撃した。 拡大
今年から「H7」シリーズも、ホーンパッド中央に、Lシリーズと同じ赤いバッジが加えられていた。もし筆者がオーナーになった暁には、この赤カーペットは絶対オーダーしたい。
今年から「H7」シリーズも、ホーンパッド中央に、Lシリーズと同じ赤いバッジが加えられていた。もし筆者がオーナーになった暁には、この赤カーペットは絶対オーダーしたい。 拡大
中国国際航空の分厚い機内誌を開けば、「紅旗H7」の広告が掲載されていた。
中国国際航空の分厚い機内誌を開けば、「紅旗H7」の広告が掲載されていた。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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