ポルシェ911タルガ4S(4WD/7AT)
オリジナルへの回帰 2014.05.15 試乗記 2011年の登場以来、順調にバリエーションを広げてきた「ポルシェ911」のラインナップに、オープントップモデルの「タルガ」が加わった。初代タルガを思わせるBピラーを備えた、どこか懐かしい新型の実力は? 南イタリアからの第一報。新しくて懐かしい新型「タルガ」
低いノーズに始まるやや丸みのあるファストバッククーペ、という基本スタイルを長いこと踏襲しながら、ポルシェ911ほど人々に飽きられていないクルマも珍しい。それは911が、リアエンジン2+2座のスポーツGTとしての機能に、きわめて忠実なカタチをしているからではないだろうか。機能美には飽きがこない、というわけである。
だがその911にも、ピュアなスポーツクーペとは少々趣のことなるボディーバリエーションが、時として登場する。「カブリオレ」、空冷時代に2つのシリーズと水冷の「997」に用意された「スピードスター」、それにタルガ。で、そのなかでも最も数奇な運命をたどったのがタルガである。
タルガはまずそのプロトタイプが1965年秋のフランクフルトショーに登場、それから1年強ほど後の67年に販売が開始される。初期型は頭上のソフトトップが取り外せるだけでなく、リアウィンドウもビニール製で取り外し可能だった。それは、当時のアメリカでオープンカーに対する安全規制が強化されることへの対応策で、オープンの開放感と転覆時の安全を、太いBピラーによって両立させようというデザインなのだった。
この形式のタルガは「930」「964」とボディー形式が変わっても踏襲されたが、「993」の時代になって巨大な電動グラスルーフというべきスタイルに変更され、それが水冷の「996」「997」の時代も継続された。ところが最新の「タイプ991」になって大きな方向転換がなされた。空冷時代のオリジナルモデルの現代版というべき、新デザインのタルガが登場したのである。
そこで、通常のクーペを見慣れた目に新鮮な印象を与えるチャーミングなボディーのニュー911タルガに、長靴形の半島の踵(かかと)のあたりに位置する南イタリアで乗ってきた。
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19秒で空を味方に
シルバーのアルミ製Bピラーカバーが示しているように、それはオリジナルタルガのなかでも最も初期型の、クラシックなデザインを再現している。とはいえ991ボディーは空冷911よりはるかに大きいからリアウィンドウの傾斜はオリジナルよりずっとなだらかで、それによって現代のスポーツクーペにふさわしいスタイリッシュさが演出されている。
クラシックな造形を踏襲しながらモダンでもあるこのデザインをディレクションしたのは、スタイルポルシェのスペシャルプロジェクト責任者たるグラント・ラーソン氏だが、実は彼は「356」と「912」を所有するヒストリックカー好きなのだった。古いクルマの魅力を存分に知っているだけに、今回のタルガをデザインするのにとてもふさわしい人物だったに違いない。
ところでオリジナルのタルガ、実はその開閉には、取り外した頭上のソフトトップを畳んでフロントフードの下に収納するという、ちょっと面倒な作業が必要だった。ところが新しいタルガの場合、現代の高価格車だから当然ではあるけれどそれは電動開閉式で、コンソールのスイッチによって開閉作業をたった19秒でこなしてしまう。
とはいえ、写真で見れば一目瞭然のように、その手順はなかなか複雑なものだ。そのためもあって、よくあるカブリオレ系のように低速なら走行中でも開閉可能というものではなく、開閉するには完全停止を強いられる。しかも、ポップアップしたリアウィンドウ部分は一時的にボディー後端より40cmほど後ろに出っ張るため、クルマの後方にそれだけのスペースがないと判断されるとアラームが鳴って、それを知らせる策まで備わっている。
ボディー剛性に不満なし
先代997の場合もそうだったが、タルガはすべて4WDを採用し、エンジン排気量の違いなどによって「タルガ4」と「タルガ4S」の2モデルがある。トランスミッションには7段MTと7段PDKがあるが、日本仕様はPDKのみになる。今回、南イタリアの陽光のなかで僕らの試乗を待っていたのは、すべて高性能版のタルガ4Sだった。
タルガのボディーは4も4Sも、リアフェンダーがワイドな「カレラ4カブリオレ」用をベースとし、そこに例のBピラーや二重ガラスのリアウィンドウ、それに複雑な開閉機構などを加えて成り立っている。そこから容易に想像できるように、車重は4Sで1575kgと、クーペボディーのカレラ4Sより110kg重く、カブリオレと比べても40kg重い。
ボディー剛性はというと、ねじり剛性の数字は1万3400Nm/度と、Bピラー追加の恩恵でカブリオレの1万1800Nm/度より12%強化されている。一方、クーペは3万Nm/度という鮮烈な数字を誇るから、それと比べるとタルガの剛性はその45%ほど、ということになる。
そこで、まずはトップを閉じたままのタルガ4Sで走りだすが、ボディーの剛性感はどうか。その昔「964タルガ」に乗ったときには、不整路面でボディーがねじれて、ソフトトップとウィンドウフレームやBピラーなどの接点が擦れ音を発するのが気になったものだが、幸い991タルガではそういう傾向は明確には感じ取れなかった。
しかも、けっこう荒れた部分もある南イタリアの道でも、20インチのピレリPゼロを履いたタルガ4Sは、乗り心地に不満を感じさせることがなかった。もちろん、きわめてカッチリとしたクーペボディーと比べればヤワな感触は皆無とはいえないが、不快感を意識させるような緩さは実感できなかった、ということである。
裾野を広げる新しい「911」
一方、3.8リッター水冷フラット6の捻(ひね)り出す400psのパワーと440Nm(44.9kgm)のトルクは増加した車重をモノともせず、スロットルを深く踏み込むと胸のすく勢いでスピードを上げていく。0-100km/h加速が標準モードで4.6秒、スポーツ・プラスモードで4.4秒、最高速294km/hというタルガ4Sのパフォーマンスは、大半の人間にとって十分に速いと実感できるものに違いない。
では、110kgの重量増の大半がボディー後半部に集中し、しかも比較的高い部分にそれがあることで、直進性やハンドリングに悪影響はないのか。まず直進性に関していえば、心配は無用だった。前後にまったくクルマのいないアウトストラーダで、速度無制限区間のアウトバーンのようなスピードを経験したが、タルガ4Sは真っすぐに突き進み続けた。
コーナリングに関しては、限界付近まで攻め込むとクーペとの違いを実感するのではないかと想像できるが、今回のテストルートには本気で攻められるワインディングが皆無だったから、それについて結論づけるのは難しい。いずれにせよ、限界のはるかに下しか使わない通常のコーナリングでは、テールヘビーを実感することはなかったといえる。
そこでいよいよタルガの真骨頂、トップをオープンにして走ってみると、ウインドシールドとBピラー+リアウィンドウに囲まれてのオープンエアドライビングは、いわばパティオでくつろぐような半戸外的空間独特の爽快さがあって、カブリオレとは違った快感がある。ただしスピードを高速道路ペースまで上げると風がコックピットに侵入してくるし、Bピラーに当たった風が奏でるノイズもけっこう耳につく。ウインドシールドフレーム上に上下調節可能なディフレクターが備わっているが、それをいじっても風切音は完全には消えなかった。
つまり新型タルガ4/4Sは、スタイリッシュなエクステリアと半戸外的オープンエア感覚をエンジョイするためのモデルであり、これまでのユーザーとは異なるゾーンの人々をその世界に招き入れる可能性を秘めた、新種の911といえるのではないかと思った。
(文=吉田 匠/写真=ポルシェ ジャパン)
テスト車のデータ
ポルシェ911タルガ4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4491×1852×1289mm
ホイールベース:2450mm
車重:1575kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400ps(294kW)/7400rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/5600rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/30ZR20
燃費:9.2リッター/100km(約10.9km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1800万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格は日本市場でのもの。8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

吉田 匠
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