シボレー・コルベット クーペ(FR/6AT)
これぞヒーロー 2014.06.05 試乗記 1953年に誕生して以来7代目となる、伝統的スポーツカー「シボレー・コルベット」。ベーシックな「クーペ」のAT車を駆り、最新モデルの仕上がりを確かめた。新しさの中に“味”
ちょうどいい湯加減の露天風呂に入っている。そういう心持ちがする。見上げれば、5月の青い空が広がっていて、風がそよそよと髪をなぶっていく。55mph(約88km/h)以下でサイドウィンドウを上げていれば、空気はそれほど乱れない。気分は男前である。私の身体は『ウルヴァリン』のヒュー・ジャックマンになっている。気分、の話であります。
2013年1月のデトロイトショーでデビューした7代目シボレー・コルベット、通称C7は、今年4月に日本で発売となった。先代C6は2005年に登場したので、8年ぶりのフルモデルチェンジということになる。従来型から受け継いだ部品は2つしかない。なにからなにまで徹底的に新しい。
とはいえ、コルベットは1953年デビューのアメリカのアイコニックなスポーツカーである。歴史と伝統がある。フレームにプラスチックパネルを貼り付けるという初代以来のボディー構造は、今回も継承されている。V8エンジンは新設計だが、排気量が6.2リッターに据え置きされていてOHVのままだし、サスペンションも、あいかわらずコイルではなくてリーフスプリングを使っている。それらがコルベットの味を間違いなく作りだしている。
ハンドステッチが随所に使われているインテリアは、クオリティーがグッと上がっている。
着座位置は低い。斜め後ろの視界はあまりよくないけれど、絶望的に悪いわけではない。スターターボタンを押してエンジンを目覚めさせると、一瞬ボディーがグラリと揺れる。大排気量アメリカンV8ならではの動きに思わずニンマリする。車重は1540kgと軽く、LT1型と呼ばれるV8は最高出力460ps、最大トルク63.6kgmを発生する。
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ハイテクが伝統を生かす
テスト車はスタンダードモデルの6段オートマチックで、ステアリングホイールに変速用のパドルがついている。トルクコンバーター式オートマチックゆえ、フツーに動かすのは実に安楽だ。前245/40ZR18、後ろ285/35ZR19という巨大な偏平タイヤの割に、乗り心地はさほど硬過ぎず、適度なしなやかさを感じさせる。路面が荒れていても、巨大な偏平タイヤの存在を少々意識させる程度のことで、高性能版の「Z51」には付いてくる電子制御サスペンション、「マグネティックライドコントロール」はなくても不都合ない、というのが筆者の印象である。
運転感覚としては、冒頭記したように、いい湯加減の露天風呂に入っているみたいである。その第一の要因は、ぬるめのお湯のようなトルクをとうとうとわき出すV8 OHVエンジンにある。オーバー・ヘッド・バルブという古典的な様式ゆえ、のんびりした味わいを醸し出すのだ。加えて、100km/h巡航が1200rpm少々というハイギアードぶりが拍車をかける。低中速トルクがたっぷりしているから、回さずとも悠然と走る。新開発エンジンなのに、あえてOHVを採用しているのは、全高をおさえてコンパクトにまとめるためだけれど、やっぱりコルベットにはこの悠然たるフィーリングが似合うのだろう。
OHVではあるけれど、オールアルミニウム製で、直噴を採用する。さらに可変バルブタイミング機構に加えて、クルージング中はV8からV4となる「アクティブフューエルマネジメント」を備えている。伝統の味をハイテクによって守り続けている。
最近の高性能モデルに不可欠な車両特性の切り替えデバイスもついている。「ドライバーモードセレクター」と呼ばれるこれは、(1)ウェザー/(2)エコ/(3)ツアー/(4)スポーツ/(5)トラックと5つの設定がある。
(1)は雨や雪、(2)は燃費優先、(3)は日常仕様の基本セッティングで、(4)と(5)はそれぞれスポーツ走行とサーキット走行用とされる。(3)を選んで、のんびり走っていると、温泉気分に浸れるわけである。
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違いは峠であきらかに
スポーツモードにすると、シフトプログラムが明瞭に変わる。エンジンのレスポンスが鋭くなり、エキゾーストノートも変わる。アクセルを深々と踏み込むと、雷鳴がとどろいたようなサウンドを発する。
前後重量配分はほぼ50対50である。コルベットはC5以来、トランスアクスルを採用している。C7にはサーキットでポルシェやフェラーリやアストン・マーティン等の貴族的ブランドたちと戦って来たノウハウが投入されている。コルベットはルマン24時間レースのGTカテゴリーで過去7度もクラス優勝を遂げている。
ロングノーズ、ショートデッキのスポーツカープロポーションのため、ドライバーはリアアクスルの上に座っているような感覚がある。電動パワーステアリングはモードによらず、基本的には軽めで、スイスイ曲がる。
東名高速の大井松田あたりで高速コーナーを試し、御殿場インターチェンジで降りてからは長尾峠で低速コーナーを試した。ロールというものはほとんどしない。長尾峠では、ステアリングギアの可変レシオによるものだろう、マツダの初代「ロードスター」みたいに、操舵(そうだ)初期のクルマの動きがクイックに感じられる。大きなコーナーの方が、動きが自然だ。
ルーフを取り外していても、ボディーはミシリともいわない。先代ではZ06専用だったアルミニウム製のフレームがスタンダード化された結果、フレーム自体の重量が45kg軽くなる一方、剛性は57%高くなっている。この軽量&高剛性フレームがC7の清涼感の源になっている。
記憶の中の先代C6は、でっかくて、少々雑なものを動かしているワサワサ感があった。なんというか、もっとモワーッとしていて、それが味になっていた。わかりにくい? ともかく、そんなC6に鏡を見せて、油をたら~りたら~り流させ、その油からエキスを抽出して純粋培養したのがC7なのである。NVH(騒音・振動・ハーシュネス)がより低くなり、長尾峠のような狭い峠道でも安心して飛ばせるぐらい、ひとまわり小さくなった感がある。ブレンボのブレーキも強力だ。
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いざとなったら牙をむく
ただし、本気で飛ばすには、間違いなく技量がいる。アクセルをガバッと踏み込むと、6.2リッターV8 OHVはゆっくり回転を積み重ね、それからガルルルルッと喉を鳴らして獲物に襲いかかる。0-60mph加速は3.8秒だから、例えば「ポルシェ911カレラS」(同4.3秒)よりも速い。けれど、いきなり速いのではない。中盤から後半、尻上がりにイッキに加速する。
こいつはホンモノの虎だ!
トラックモードを選ぶと、液晶の計器がC6のレーシングカーにならったデザインに変わる。タコメーターがメインのグラフィックになるのだ。V8をレッドゾーンの6500rpmまで回してやる。そう決意してアクセルを踏み込む。6000を超えたあたりで、いつもより多めに回しておりますッ! ということを告げるライトが点灯する。しかれども、その高回転を維持するのは至難のワザだ。なにしろギアリングが高い。エンジンを歌わせようとすると、スピードが手に負えないほど高くなる。
それでも、ワインディングロードをそれなりに一生懸命、走ってると、忘我の境地に至る。スティングレイ(アカエイ)に乗って回遊している心持ちがする。
車両価格は929万円。「日産GT-R」の930万9600円よりも安い。ポルシェ911カレラは1255万円、「アストン・マーティンDB9」は2262万3429円、「フェラーリ458イタリア」は2920万円である。
ドライブ日和とあって、箱根の芦ノ湖の海賊船の乗り場あたりは観光客でいっぱいだった。白地に赤い内装のコルベットはたいそう目立った。スマホのカメラで撮影する外国人もいた。親米のナショナリスト! と思われたかもしれない。スポーツカーの世界でなら、それもよいではないか。自由と民主主義の国、アメリカのヒーローとして生まれたC7コルベットは、乗る者を確かにそういう気分にさせてくれる。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
シボレー・コルベット クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1880×1230mm
ホイールベース:2710mm
車重:1540kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:460ps(339kW)/6000rpm
最大トルク:63.6kgm(624Nm)/4600rpm
タイヤ:(前)245/40ZR18 93Y/(後)285/35ZR19 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:20mpg(約8.5km/リッター)(米国EPA複合モード)
価格:929万円/テスト車=968万1000円
オプション装備:MyLink統合制御ナビゲーションシステム(35万円)/フロアマット(4万1000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:4842km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:564.6km
使用燃料:59.7リッター
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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