ルノー・カングー ゼン(FF/6MT)
完熟のカングー 2014.06.19 試乗記 日本のルノーの半分を占める人気モデル「カングー」に1.2リッターターボエンジンと6段MT搭載の新グレードが追加設定。マニアが注目する(?)新パワートレインの魅力を味わった。しっとり滑らかなシフトフィール
2014年6月中旬現在、日本で活動する正規インポーターのなかで最もマニアックなのは、ルノー・ジャポンだと思う。オフィシャルホームページを開いてみてください。カングーのラインナップをクリックすると、「カングー ゼン(6MT)」と「カングー アクティフ(5MT)」と、1つの車種に2種類のマニュアルトランスミッションを用意していることがわかる。
前者は新たにラインナップに加わった、1.2リッター直噴ターボエンジンに6段MTを組み合わせたモデル、後者が以前からの1.6リッター自然吸気(NA)エンジンに5段MTを組み合わせたモデルだ。
1.2リッター直噴ターボが最高出力115ps/4500rpm、最大トルク19.4kgm/2000rpm、1.6リッターNAが105ps/5750rpmと15.1kgm/3750rpm。スペックだけを見ると、1.2リッターのほうが低回転域から力が出ている。
この2台のどちらにしようかで悩む人が、果たして日本に何人いるだろうか。勝手な予測ではありますが、間違いなく4ケタはいないだろう。もしかすると2ケタということもあり得るかもしれない。
このよりすぐられた精鋭のみなさんに向けて原稿が書けることを、うれしく思います。
しかも1.2リッター直噴ターボのカングー ゼン(6MT)に試乗した翌日、偶然にも知人の1.6リッター+5MT仕様に乗る機会があった。カングー・マニアの神様が降りてきている!?
2台をまったくの同条件で乗ったわけではないけれど、フィーリングの違いを交えながらお伝えできそうだ。
1.2リッター直噴ターボエンジンを始動、スムーズに作動するクラッチを踏み込んで、これまた手応えのいい6段MTを1速にシフトする。シフトのストローク量は適切で、東西南北どの方向に動かしてもシフトミスの心配はない。「カチャコン」という工作機械っぽさを感じる5段MTに比べて、しっとり滑らかなシフトフィールであることも好印象だ。6段MT、いいじゃないですか。
そしてアクセルペダルには一切ふれないまま、クラッチをミートして発進。果たして、懸念していた1.2リッターエンジンのトルクやいかに?
高級感が増したよう
クラッチはかなり手前でつながるタイプ。慎重に半クラッチのポジションを探ると、カングーはぎくしゃくするそぶりを一切見せず、アイドル回転から発進した。「力強く」という表現はホメ過ぎにしても、「スムーズに」と書いても一切のウソはない。
このH5Fという型式の1.2リッター直噴ターボエンジンは、「ルーテシア」に積まれるものと同じ。ただしルーテシアの最高出力が120ps/4900rpmであるのに対して、カングーは115ps/4500rpmとなっている。ルーテシアより200kg以上重いカングーを動かすために、少し低回転域を強化する方向に特性を変えているようだ。
タコメーターの盤面を見ると、1500rpmから2250rpmまでのエリアが「ECO」だと表示されていて、「この回転域を使って走ってください」というルノーのエンジニアのメッセージが伝わってくる。
ただし、「ヨーロッパ製実用車の小排気量エンジンは、ぎゅんぎゅん回して乗るもの」という古い常識にとらわれている身としては、「2250なんかでシフトアップしちゃってホントに走るの?」という疑念を持たずにいられない。しかし、これが走るんですね。
ぽんぽんぽんと、2000rpmをめどに早めにシフトアップすると、カングーはスムーズにスピードを積み上げる。エンジンのフィーリングもターボくささはほとんど感じられない。アクセルペダルの踏み加減に応じて、リニアに力が湧いてくる。本当にターボが付いているのか、もう一度資料にあたりたくなるほどだった。
ここで、1.6リッターNAエンジンとの違いをふたつ感じる。
ひとつは明らかに静かで回転フィールが滑らかなこと。排気量が小さくなったのに、高級感が増したように感じられる。
もうひとつは、4500rpmから上の回転域での爽快さが失われたこと。1.2リッター直噴ターボは、上まで回してもフン詰まったようなフィールで、パワーも伸びない。ま、実用荷役車として考えれば、ここは大きなマイナスポイントではないとも言える。
省燃費装備も充実
新たに装備されるアイドリングストップ機構の出来も上々で、青信号になってクラッチを踏み込んだ瞬間にスパンとエンジンが再始動する。シリンダー内に直接燃料を噴射する直噴エンジンは素早い始動に有利であるとされているけれど、確かにストレスを感じさせない。
ストレスを感じないといえば、坂道発進で車体がずり落ちるのを防ぐヒルスタートアシストも快適なドライブの助けとなる。
サイドブレーキのレバーの根っこには、「ECO」と記されたスイッチがある。このスイッチを押してグリーンのランプがともると、エンジンのトルクカーブやアクセル操作に対する燃料の噴射が、燃費重視の方向にコントロールされる。これも、カングー ゼンに新たに採用された装備だ。
ノーマルモードからECOモードに変えると、最初はアクセル操作に対するレスポンスが鈍くなったように感じられる。けれども、ものの数分で慣れる程度の変化だ。ECOモードはノーマルモードに比べて最大で10%も燃料消費をセーブするというから、もし自分がオーナーだったらグリーンのランプはつきっぱなしになるだろう。
新装備のひとつに、ルノーはエンジンスマートマネジメントと呼ぶ回生ブレーキがある。けれどもこれに関しては、ブレーキング時のフィーリングが不自然ということもなく、これで多少なりとも燃費がよくなってくれるのであれば万々歳である。
フィーリングから装備にいたるまで、やはり新しい1.2リッター+6MTのほうが圧倒的に好ましい。
と、ここまで新しいパワートレインの話ばかりになってしまったけれど、カングーの大きな美点である足まわりのよさは変わっていなかった。
クルマ好きにはたまらない
正直なところ、強くてやさしくて面白い、完全無欠の7代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の足まわりを知った後では、少しだけ古くさく感じたことは事実だ。
けれども、これだけの背丈がありながら、しなやかな乗り心地と高速コーナーでもまったく不安を感じさせない安定した操縦性を両立していることが立派であることは変わらない。
しかもステアリングホイールからはしっかりとインフォメーションが伝わり、操作に対する反応もリニアだから操っていて楽しい。スペースユーティリティーとファン・トゥ・ドライブが融合した珍しい例がルノー・カングーだ。
タコメーターを見ながら早め早めのシフトアップを心がけるドライブも、慣れてくるとゲーム感覚で楽しめる。車に乗せられているのではなくて、「こいつは自分が上手に運転しないとちゃんと走らない」と思わせてくれるあたりが、クルマ好き、運転好きにはたまらない。
自動ブレーキ系こそ用意されないけれど、ESC(横滑り防止装置)をはじめとする安全装備は整っているし、ディーラーオプションのパイオニア製カーナビもちょっと距離が離れていて見にくいけれどきれいに収まっている。
いよいよカングーが完熟した、というのが結論だ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ルノー・カングー ゼン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4280×1830×1810mm
ホイールベース:2700mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:115ps(84kW)/4500rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)195/65R15 91T/(後)195/65R15 91T(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:--km/リッター
価格:241万5000円/テスト車=241万5000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1989km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:319km
使用燃料:27.1リッター
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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