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スズキ・ワゴンR FZ(FF/CVT)/ワゴンRスティングレー X(FF/CVT)

ブランドに自信あり 2014.09.08 試乗記 サトータケシ モーターによる電動アシスト機能「S-エネチャージ」を備え、32.4km/リッターの燃費を実現した「スズキ・ワゴンR」。新機構の効能と、あえて「ハイブリッド」と名乗らなかったその思惑を探る。

ハイブリッドじゃないの?

2014年8月25日にスズキ・ワゴンRが3度目のマイナーチェンジを受けた。注目ポイントは、「ワゴンR FZ」と「ワゴンRスティングレー X」のふたつのグレードが記録した32.4km/リッターというJC08モード燃費だ。この燃費は、S-エネチャージという新しいメカニズムがたたき出したものだ。
ちなみに、従来のエネチャージが記録したJC08モード燃費は30.0km/リッター。S-エネチャージが登場した後も、引き続きエネチャージ仕様はカタログに残る。

試乗会前日にS-エネチャージの資料を読みながら、なぜスズキはこのシステムをハイブリッドと呼ばないのか、不思議に思った。オーガニック野菜の「オーガニック」や松阪牛の「松阪」と同じく、ハイブリッドは宣伝にもなるし高いお代も取れる看板だ。S-エネチャージをハイブリッドと呼ばないのは、松阪牛をただの国産牛と表記して売るのと一緒ではないか。

では、そのS-エネチャージとはいかなる仕組みか。ポイントとなるのがISGというデバイスだ。ISGとはインテグレーテッド・スターター・ジェネレーターの略で、と書いてもなんのことだかわかりませんが、要はモーターの役割も果たす発電機。今までオルタネーター(発電機)とスターターモーターが担っていた役割を、ISGが一手に引き受ける。

2012年に現行モデルがデビューした時から、減速時のエネルギーを電気に変換してバッテリーに蓄える回生ブレーキがワゴンRに備わっていた。これがエネチャージだ。
ISGは、エネチャージで用いたオルタネーターより約30%も効率よく発電できるのが特徴だ。電気の出入りが激しくなることにあわせて、リチウムイオンバッテリーの回路にも変更が加えられている。
停止すると、アイドリングがストップする。そしてエンジンが再始動する時に、ISGがスターターの役割を果たす。

問題はこの後の加速するシーンで、ISGはモーターとしてエンジンをアシストするのだ。エンジンとモーターが力を合わせるこの仕組みをハイブリッドと呼ばず、何と呼ぼう。
といったようなことをつらつらと考えながら、試乗会の会場に向かう。

「ワゴンRスティングレー X」のインパネまわり。今回のマイナーチェンジでは装備の強化も図っており、ターボ車の「スティングレー T」には新たにクルーズコントロールを採用した。
「ワゴンRスティングレー X」のインパネまわり。今回のマイナーチェンジでは装備の強化も図っており、ターボ車の「スティングレー T」には新たにクルーズコントロールを採用した。 拡大
「ワゴンRスティングレー X」のフロントシート。内装については、標準モデルでは一部の仕様が変更されているのに対し、「スティングレー」ではほぼ従来モデルのものが踏襲されている。
「ワゴンRスティングレー X」のフロントシート。内装については、標準モデルでは一部の仕様が変更されているのに対し、「スティングレー」ではほぼ従来モデルのものが踏襲されている。 拡大
「S-エネチャージ」を採用する「ワゴンRスティングレー X」のエンジン。モーターアシスト機構の追加だけでなく、エンジン自体にも燃焼効率の改善やフリクションの低減など、各所に改良を施している。
「S-エネチャージ」を採用する「ワゴンRスティングレー X」のエンジン。モーターアシスト機構の追加だけでなく、エンジン自体にも燃焼効率の改善やフリクションの低減など、各所に改良を施している。 拡大
「S-エネチャージ」用のリチウムイオンバッテリー。既存の「エネチャージ」用のバッテリーをベースに、大電流に対応できるよう改良を施したものだ。
「S-エネチャージ」用のリチウムイオンバッテリー。既存の「エネチャージ」用のバッテリーをベースに、大電流に対応できるよう改良を施したものだ。 拡大
「ワゴンR FZ」
「ワゴンR FZ」 拡大
スズキ の中古車

クルマの素性は前と変わらず

会場の駐車場でワゴンR FZとワゴンRスティングレー Xにご対面。ともに自然吸気エンジンとCVTを組み合わせた仕様。32.4km/リッターを達成したのはFF(前輪駆動)モデルで、四駆モデルは30.2km/リッターとなる(ともにJC08モード)。
S-エネチャージを搭載する両グレードは、フロントグリルの両端に青色LEDのイルミネーションランプが備わるほか、ヘッドランプまわりに青いアイシャドウを入れて、一歩先を行ってますという雰囲気を演出している。後ろに回ると、リアのコンビネーションランプにも同じようにブルーの演出が施されていた。

この両グレード以外、すなわちS-エネチャージが備わらないグレードも、安定感が感じられるように、ヘッドランプとフロントグリルの形状を変更してなるべく幅広く見せようとしている。ハイトワゴンをロー&ワイドに見せるというのは矛盾があるように思ったけれど、背が高いからこそ見た目の安定感が欲しくなるのかもしれない。

S-エネチャージだISGだといっても、普通に乗る限りはその存在を身近に感じることはない。ワゴンRはワゴンR、スペースユーティリティーに秀で、シートアレンジの使いやすさが秀逸な、よくできた背高ワゴンだ。
3500rpm以上でエンジンはにぎやかになるけれど、それ以下の回転で十分力強く走るから、普段の使い方だと「うっせぇなぁ」と思う頻度は少ない。
フラットな姿勢が保たれる乗り心地や、建て付けのしっかりしたボディーのおかげで、走りながら安っぽさを感じたり寂しくなったりすることもない。

高速道路に入って100km/hを超すと、凸凹を乗り越えた後の揺れがなかなか収まらなくなる。そのあたり、かなり割り切って作ってある印象だ。
市街地でのみなさんの足に徹するあたり、どっちつかずの中途半端な車よりも狙いがはっきりしていて潔い。

で、S-エネチャージとエネチャージとの違いがわかるのは、走行中ではなくアイドリングストップから再始動する時だった。

今回のマイナーチェンジでは、従来モデルからフロントマスクを一新。「S-エネチャージ」を搭載した「ワゴンR FZ」には、専用デザインのバンパーやグリルを採用している。
今回のマイナーチェンジでは、従来モデルからフロントマスクを一新。「S-エネチャージ」を搭載した「ワゴンR FZ」には、専用デザインのバンパーやグリルを採用している。 拡大
「ワゴンR FZ」のインパネまわり。
「ワゴンR FZ」のインパネまわり。 拡大

インテリアについては、「ワゴンR FX/FA」では内装色がダーク系となっているのに対し、「ワゴンR FZ」のみライトグレーを採用している。


	インテリアについては、「ワゴンR FX/FA」では内装色がダーク系となっているのに対し、「ワゴンR FZ」のみライトグレーを採用している。
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「ワゴンR」は、軽トールワゴンとしては珍しく、リアシートに左右個別スライド機構を備えている。
「ワゴンR」は、軽トールワゴンとしては珍しく、リアシートに左右個別スライド機構を備えている。 拡大
リアシートに加え、助手席のシートバックにも可倒機構を備えている点が「ワゴンR」の特徴といえる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
リアシートに加え、助手席のシートバックにも可倒機構を備えている点が「ワゴンR」の特徴といえる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます) 拡大

体感できるS-エネチャージの効能

アイドリングストップの状態から再始動する時、S-エネチャージはエネチャージより格段にスムーズで静かなのだ。
従来のスターターは金属製のギアがダイレクトにかみ合って始動していた。したがって音も大きければ抵抗も大きい。一方、ベルトを介してクランクシャフトで回すS-エネチャージのISGは、音が小さくスムーズなのだ。ちなみに、ISGによって再始動時のノイズは約40%低減できたという。
したがって、ドライバーが体感するS-エネチャージは、燃費をよくするシステムというより、上質さを感じさせる仕組みだ。

始動時こそS-エネチャージは存在感を発揮するけれど、走行中はその存在感が消えてしまう。モーターとなってエンジンをアシストしているはずなのに……。
確かにアシストはしているのだけれど、アシストする領域が限られているのだ。15~85km/hの速度域で、最大で6秒間。しかもISGがモーターとしてアシストしている間、エンジンは力を落として燃料をセーブする。したがってモーターが作動したからといって加速が力強くなることはないのだ。速度域やアクセルの踏み方にもよるけれど、モーターのアシストによって最大で10%程度燃費が向上するという。

試乗を終えてから何人かのエンジニアに話をうかがうと、モーターがアシストしているという感触が得られないので、あえてハイブリッドを前面に出さないとのことだった。確かに「ワゴンRハイブリッド」で売り出すと、EV走行しないじゃないかというクレームが入るかもしれない。
話を聞いていて思ったのは、ワゴンRというブランドへの自信だ。あえてハイブリッドの名を使わなくても、「燃費がいいワゴンRが完成しました」とアナウンスすれば売れるという自信があるのだろう。「ワゴンRはハイブリッドより強し」である。

モーターアシスト機構「S-エネチャージ」の採用により、FF車で32.4km/リッター、4WDで30.2km/リッターという燃費性能を実現した。
モーターアシスト機構「S-エネチャージ」の採用により、FF車で32.4km/リッター、4WDで30.2km/リッターという燃費性能を実現した。 拡大
モーターアシストやブレーキエネルギー回生機構などの作動状況を表示する「エネルギーフローインジケーター」を備えたメーター。「ワゴンR FZ」と「ワゴンRスティングレー X/T」に装備される。
モーターアシストやブレーキエネルギー回生機構などの作動状況を表示する「エネルギーフローインジケーター」を備えたメーター。「ワゴンR FZ」と「ワゴンRスティングレー X/T」に装備される。 拡大
エンジンの改良に合わせて、CVTの変速制御も最適化された。なお、下位グレードの「ワゴンR FX/FA」には、5段MTも用意されている。
エンジンの改良に合わせて、CVTの変速制御も最適化された。なお、下位グレードの「ワゴンR FX/FA」には、5段MTも用意されている。 拡大
今回テストした「ワゴンR FZ」「ワゴンRスティングレー X」のタイヤサイズは、ともに155/65R14。いずれもダンロップの低燃費タイヤを装着していた。
今回テストした「ワゴンR FZ」「ワゴンRスティングレー X」のタイヤサイズは、ともに155/65R14。いずれもダンロップの低燃費タイヤを装着していた。 拡大

安易な宣伝に頼る必要はない

今回のマイナーチェンジで、ワゴンRスティングレーのスマートフォン連携ナビゲーションを装着した仕様には、軽自動車初の後退時確認サポート機能が備わるようになった。これは、バックアイカメラを用いた機能で、後退時に左右から自車に向かって移動する物体を検知すると警告するというものだ。
また、バックでの駐車時に停車位置付近になるとカメラ画像が上から映したものに切り替わり、輪どめや駐車枠を示す白線の位置がはっきりわかる自動俯瞰(ふかん)機能もオプションで用意された。
どちらも有効で、「軽自動車にこんな機能が付いたのか!?」と驚かされた。ユーザーが求める車をきちんと作っているという自負もあって、安易に「ハイブリッド」の宣伝効果に頼らないのだと感心した。

エンジニアとの話の中で、驚いたことがある。それは「エネチャージはD社との共同開発でしたが、S-エネチャージはスズキの独自技術ですから」という発言だ。webCGの軽自動車博士H田青年も知らなかったから、あまり知られていない事実だろう。
釣り師としてはD社と聞くとダイワを思い浮かべてしまうけれど、もちろんそうではない。クルマ界でD社といえば、ダイムラーかダイハツかDKW、ひねりにひねってドンカーブートだ。ってことは……。
えーっ、まさかの呉越同舟!? すわ大スクープ! と色めき立ったら、D社とはデンソーのことだった。あーびっくりした。

(文=サトータケシ/写真=向後一宏)

「ワゴンRスティングレー X」のリアビュー。ブルーの加飾を施したリアコンビランプが「S-エネチャージ」搭載車の特徴となる。
「ワゴンRスティングレー X」のリアビュー。ブルーの加飾を施したリアコンビランプが「S-エネチャージ」搭載車の特徴となる。 拡大
「ワゴンRスティングレー」のオプション装備である「スマートフォン連携ナビゲーション」に追加されたバックアイカメラ。車両後方を監視し、横方向から接近するものがあれば警告音と画面表示でドライバーに注意を促す。
「ワゴンRスティングレー」のオプション装備である「スマートフォン連携ナビゲーション」に追加されたバックアイカメラ。車両後方を監視し、横方向から接近するものがあれば警告音と画面表示でドライバーに注意を促す。 拡大
「S-エネチャージ」が設定されるのは「ワゴンR FZ」と「ワゴンRスティングレー X」のみ。従来の「エネチャージ」搭載車も併売される。
「S-エネチャージ」が設定されるのは「ワゴンR FZ」と「ワゴンRスティングレー X」のみ。従来の「エネチャージ」搭載車も併売される。 拡大
「ワゴンRスティングレー X」
「ワゴンRスティングレー X」 拡大
スズキ・ワゴンR FZ
スズキ・ワゴンR FZ 拡大

テスト車のデータ

スズキ・ワゴンR FZ(FF/CVT)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1660mm
ホイールベース:2425mm
車重:790kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
モーター最高出力:2.2ps(1.6kW)/1000rpm
モーター最大トルク:4.1kgm(40Nm)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:32.4km/リッター(JC08モード)
価格:137万2680円/テスト車=150万8153円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(2万1600円)/ディスチャージヘッドランプ(5万4000円)/CDプレーヤー(2万1600円) ※以下、販売店オプション フロアマット(1万9583円)/ETC車載器(1万8690円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:371km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

スズキ・ワゴンR スティングレー X
スズキ・ワゴンR スティングレー X 拡大

スズキ・ワゴンR スティングレー X(FF/CVT)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1660mm
ホイールベース:2425mm
車重:800kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
モーター最高出力:2.2ps(1.6kW)/1000rpm
モーター最大トルク:4.1kgm(40Nm)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:32.4km/リッター(JC08モード)
価格:146万1240円/テスト車=154万9800円
オプション装備:スマートフォン連携ナビゲーション<ハンズフリーマイク+外部端子+バックアイカメラ>(8万8560円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:432km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
 

サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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