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トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ(4WD/5MT)

なにものにも代えがたい 2014.09.22 試乗記 渡辺 敏史 1年間の期間限定で、日本市場に10年ぶりに復活した「トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ」。30年の長きにわたり、世界各地で鍛えられてきた本格クロスカントリー車の実力に触れた。

すべては機能のために

2004年の国内販売終了から数えてちょうど10年。民生車としては、前代未聞ともいえる再販である。が、それは他業種でよく聞く「復刻」ということではない。この間も「70系」はゆっくりと進化を重ねてきた。
前席エアバッグの追加に伴うダッシュボード周りの変更はもとより、2007年により乗用車然とした外装デザインになった理由は、直列エンジンからV型エンジンへのコンバートに伴いエンコン(エンジンコンパートメント)の左右幅を拡大する必要に迫られたからだ。言い換えれば進化の動機は全て機能要件にあって、それの伴わない変更は一切行われていない。

走破性はもとより信頼・耐久性の権化として、トヨタの名を世界に知らしめた「40系」。その直系の後継車種として生まれた70系は、1984年から一貫してコンシューマー向けでありながらプロスペックという路線での進化を遂げてきた。その30周年を祝しての限定再販は、例えば林野庁や消防団といった官庁・自治体などのニーズもくむことになるだろうか。しかし現在はそれを運転する職員の免許もAT限定だったりするだろうから、やはりこれ、基本的には好き者のオッさんたちにとっての祭りということになりそうだ。

指入れに擦過痕がガシガシ残りそうな形状のノブに手を掛けてドアを開けると、そのペラペラぶりに思わずニヤけてしまう。ステップに足を掛けてAピラーのグリップを握り、よっこらしょと乗り込むと、目の前に広がるのは、若干面取りがなされたもののバキバキに樹脂感をさらすダッシュボード、そしてインストゥルメントパネルには懐かしい空調のコントロールパネル……。「70」の車内はともあれ1980年代のトヨタ車の気配が濃厚だ。そういえば気配だけではなく、漂う匂いもその頃のトヨタ車を思い出させる。

「ランクル70」や「70系」などの愛称で親しまれる「ランドクルーザー“70”シリーズ」。ここでは、世界各国で販売される同車の全般的な話をする場合は「70系」、今回試乗した日本仕様のみをさす場合は「70」(ナナマル)と表記する。
「ランクル70」や「70系」などの愛称で親しまれる「ランドクルーザー“70”シリーズ」。ここでは、世界各国で販売される同車の全般的な話をする場合は「70系」、今回試乗した日本仕様のみをさす場合は「70」(ナナマル)と表記する。
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インパネまわりに装飾の類いはなし。助手席側のダッシュボードに手すりがないのは、手すりを握っていると、エアバッグが展開した時に、自分の手で顔を打つ危険性があるためだとか。
インパネまわりに装飾の類いはなし。助手席側のダッシュボードに手すりがないのは、手すりを握っていると、エアバッグが展開した時に、自分の手で顔を打つ危険性があるためだとか。
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全車に標準装備されるファブリックシート。前席には前後スライドおよびリクライニング調整機構が備わる。
全車に標準装備されるファブリックシート。前席には前後スライドおよびリクライニング調整機構が備わる。
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リアシートは左右一体型のベンチ式。ピックアップにも可倒機構が備えられている。
リアシートは左右一体型のベンチ式。ピックアップにも可倒機構が備えられている。
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かつてのデザインをとどめる空調の操作パネル。リアヒーターの操作パネルも、昔のままだった。
かつてのデザインをとどめる空調の操作パネル。リアヒーターの操作パネルも、昔のままだった。
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トヨタ ランドクルーザー の中古車

ハイオク指定の理由

便宜上ここでは大くくりに70と記すが、厳密に言えば再販される70の型式は、セミロングボディーのバンが76、ロングボディーをベースとしたピックアップが79となる。その名称が車検証に記されるということは、トヨタはこの再販に際して型式申請による認可を得ているということだ。ちなみに申請に際して日本仕様向けに設定したのは、左前方の補助ミラーとリアバンパー両端のリフレクターのみ。バンは中東仕様を右ハンドル化、ピックアップは南アフリカ仕様をほぼそのまま用いているという。

搭載されるエンジンは1GR-FE型の4リッターV6。日本で買えるクルマとしては「FJクルーザー」にも搭載されているそれだが、70用として低回転域の粘り強いトルク特性を重視しており、最高出力は45ps落ちの231ps、最大トルクはFJクルーザーのそれより若干劣る36.7kgmを、600rpm低い3800rpmで発生する。意外なことに70系の場合、ディーゼルユニットは全需における割合が低い上、排ガス規制もユーロ4までしか対応していないということで、日本仕様のそれは世界共通仕様のガソリンが選ばれた。仕向け地のガソリンが95RONのため、それを用いる日本仕様はプレミアム指定となるが、エンジン開発担当者に尋ねると、もちろんリタードのプログラムは入っており、緊急時のレギュラーガソリンの使用は問題ないという。

車両が下ろしたてということもあるだろうが、副変速機付きの5段MTの操作感はなかなかに手ごわく、ギアがかみ込む気配が手のひらにダイレクトに伝わってくる。一方で、クラッチの操作感は軽いので足元が疲れることはないだろう。ともあれ歯車がなじむまでシフトダウン時などは気を遣うことになりそうだが、そうやってメカを気遣わせるような生々しいフィードバックがあること自体、懐かしくも新鮮である。

最大積載重量600kgを誇るピックアップ。カーゴベッドは荷室長×荷室幅=1520×1600mmという広さを持つ。
最大積載重量600kgを誇るピックアップ。カーゴベッドは荷室長×荷室幅=1520×1600mmという広さを持つ。
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ピックアップの足元は、スチールホイールに商用車用タイヤの組み合わせとなる。
ピックアップの足元は、スチールホイールに商用車用タイヤの組み合わせとなる。 拡大
1GR-FE型と呼ばれる4リッターV6エンジン。本文中で触れられている「FJクルーザー」のほか、「ランドクルーザープラド」や、かつては「ハイラックスサーフ」にも採用されていた。
1GR-FE型と呼ばれる4リッターV6エンジン。本文中で触れられている「FJクルーザー」のほか、「ランドクルーザープラド」や、かつては「ハイラックスサーフ」にも採用されていた。
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四駆と二駆の切り替えや、ローレンジを使用する際に用いるマニュアル式のトランスファーレバー。


    四駆と二駆の切り替えや、ローレンジを使用する際に用いるマニュアル式のトランスファーレバー。
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バンのラゲッジルーム。後席の格納はタンブル式で、ヘッドレストを装着したままでもたたむことが可能。シートバックに備わるベルトで、床に固定する。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
バンのラゲッジルーム。後席の格納はタンブル式で、ヘッドレストを装着したままでもたたむことが可能。シートバックに備わるベルトで、床に固定する。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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走破性を支える巧みな調律

復活版の70で最も驚いたのは乗り心地のしなやかさだ。フロントをコイルサスとしたのは10年以上前の話だが、その頃から比べても路面からのアタリや横方向の揺れといったリアクションは確実に抑えられている。特にピッチング側のフラット感はあらかただが、主査に話を聞けば、それはサスペンションのリファイン以上に、シートのクッションが低反発ウレタンとなったことが大きいのではないかとのことだった。なるほど、言われてみれば掛け心地は10年前のそれとは違い、形状こそ凡庸ながら体をしっとりと包み込んでくれる。ともあれ「ランドローバー・ディフェンダー」や「メルセデス・ベンツGクラス」といったライバルのそれに比べると、70のライドフィールはひと回りしっとりしている。

その印象は悪路を走っても同様だ。ステアリング機構には王道のリサーキュレーティングボール式を使うこともあって、ギャップに前輪が揺すられ続けても、鋭いキックバックは努めて丸め込まれていることがわかる。それにしてもびっくりするのはサスペンション側からのフィードバックの柔らかさだ。沢登りのような激しいロックセクションでも、各輪の路面に対するかみ込みはしっかりとドライバーに伝えながら、その乗り越えに絶えずつきまとう上下動にはきちんといなしが利いている。走破性の高さは今更言うにおよばずだが、モーグル程度のセクションであれば、ハイテク満載の「レンジローバー」並みに簡単かつ快適に走り抜けてくれるのには驚かされた。高度なトラクションコントロールもヒルホールド&ディセントコントロールも持たない。電子デバイスに関してはいわば丸腰なわけだが、「ワイヤー式の扱いやすさを狙ってチューニングした」という電スロおよびアクセルペダルの操作感が、しっかり狙い通りとなっているため、厳しい悪路での乗りこなしでもまったくストレスがたまらない。

全長×全幅×全高=5270×1770×1950mmというボディーサイズのピックアップ。最小回転半径は7.2メートルに達する。
全長×全幅×全高=5270×1770×1950mmというボディーサイズのピックアップ。最小回転半径は7.2メートルに達する。
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オフロードコースにて、起伏の激しいロックセクションを登る「ランドクルーザー“70”シリーズ」。
オフロードコースにて、起伏の激しいロックセクションを登る「ランドクルーザー“70”シリーズ」。
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サスペンションは前後とも車軸式。バネは前:コイルスプリング、後ろ:リーフスプリングとなっている。なお、バンとピックアップではリーフスプリングの枚数など、一部の仕様が異なる。
サスペンションは前後とも車軸式。バネは前:コイルスプリング、後ろ:リーフスプリングとなっている。なお、バンとピックアップではリーフスプリングの枚数など、一部の仕様が異なる。
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オプションの電動デフロック。ダイヤル操作でリアデフ、またはリアとフロントの両方のデフをロックできる。
オプションの電動デフロック。ダイヤル操作でリアデフ、またはリアとフロントの両方のデフをロックできる。
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車軸式サスペンションがもたらす大きなホイールトラベルも「ランドクルーザー“70”シリーズ」の特徴となっている。
車軸式サスペンションがもたらす大きなホイールトラベルも「ランドクルーザー“70”シリーズ」の特徴となっている。
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今のご時世だからこそ

70を手に入れることで考えられるネガといえば、トヨタ自らが笑いを取りにいったとしか思えない6.6km/リッター(JC08モード)の燃費、そして1ナンバーゆえの低額な自動車税と引き換えにやってくる毎年の車検や、高めに設定される高速道路の通行料だろうか。代わりに得られるのは必要最低限の快適装備を備え、ロングツーリングも望外に楽にこなせる日常性、そしてほぼ全てをドライバーの手に委ねるオフロード・ドライビングプレジャーである。

いっぱしのSUVが買える値札と引き換えに、その世界に突っ込もうという御仁がどれくらいいるのか。僕には想像がつかないが、他類のない経験のために投じる額としては、まったくもって適性なものに思えてしまう。なにせ手に入れるそれは、30年もの間煮詰めに煮詰めて煮こごりと化した、本気も本気のオフローダーなのだ。今のご時世だからこそ、このクルマと過ごす時間はなにものにも代えがたい。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)

丈夫そうなホーシングとデフ玉が目を引くシャシー。排気系の取り回しを避けるためか、ドライブシャフトは車体の右側を通っている。
丈夫そうなホーシングとデフ玉が目を引くシャシー。排気系の取り回しを避けるためか、ドライブシャフトは車体の右側を通っている。
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前軸に備わる「デュアルモードオートマチックロッキングハブ」。ドライブシャフトと前軸を自動でロックする「AUTO」と、常時ロックし続ける「LOCK」を使い分けることができる。
前軸に備わる「デュアルモードオートマチックロッキングハブ」。ドライブシャフトと前軸を自動でロックする「AUTO」と、常時ロックし続ける「LOCK」を使い分けることができる。
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トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ(4WD/5MT)【試乗記】の画像 拡大
トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ ピックアップ
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テスト車のデータ

トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ ピックアップ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5270×1770×1950mm
ホイールベース:3180mm
車重:2220kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:231ps(170kW)/5200rpm
最大トルク:36.7kgm(360Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)7.50R16 LT 114/112R 8PR/(後)7.50R16 LT 114/112R 8PR(ダンロップSPクオリファイアT.G.21)
燃費:6.6km/リッター(JC08モード)
価格:350万円/テスト車=378万4148円
オプション装備:電動デフロック<フロント・リア>(5万4000円)/T-Connectナビ DCMパッケージ(21万6000円)/ETC ブラックボイスタイプ(1万4148円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:334km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ バン
トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ バン 拡大

トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ バン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1870×1920mm
ホイールベース:2730mm
車重:2120kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:231ps(170kW)/5200rpm
最大トルク:36.7kgm(360Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)265/70R16 112S M+S/(後)265/70R16 112S M+S(ダンロップ・グラントレックAT20)
燃費:6.6km/リッター(JC08モード)
価格:360万円/テスト車=388万4148円
オプション装備:電動デフロック<フロント・リア>(5万4000円)/T-Connectナビ DCMパッケージ(21万6000円)/ETC ブラックボイスタイプ(1万4148円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:198km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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