レクサスNX300h“バージョンL”(4WD/CVT)
ボディーもアシも力作 2014.10.07 試乗記 レクサス初のコンパクトクロスオーバー「NX」。個性的なエクステリアをまとうニューモデルのハイブリッド・4WD仕様に試乗した。レクサス的な静かさ
「レクサスNX」で面白いのは、2リッター直噴ターボの「200t」と、2.5リッターハイブリッド「300h」という2種類のバリエーションに、明確なヒエラルキーがないことである。価格こそ200tが少し安めの設定なのだが、動力性能は200tのほうが高いのだ。
追い越しなどの加速タイム各種も総じて200tのほうが速く、それは加減速のピックアップなどの体感とも符合する。日本仕様はもちろん全車が最高速度180km/hだが、欧州仕様の最高速度では200tが20km/hほど上回っている。
NX200tに搭載されるトヨタ初のダウンサイジング過給エンジンは、ゼロからの完全新開発。いかにも最新ターボらしいパワフルさなのに、いわゆる“ドッカン”な感覚が不思議なほど薄い。この種のエンジンとしては滑らかで扱いやすいが、意外にも国産車では屈指の歴史をもつトヨタ製ターボ伝統(?)の「ガ行のノイズ」が多めの音に、「安っぽい」と否定的イメージを持たれる可能性はある。
今回の300hは、それとは対照的に、いかにもレクサス的に静かだ。過給が立ち上がってからのトルク感は、上記のように200tに分があるかわりに、踏み込んだ瞬間のピックアップは電気動力をもつ300hが優勢。
車両重量は想像どおりに200tより50~60kg重いのだが、フロント軸重はともにほぼ同等なので、300hは全体に重厚な身のこなしであっても、ステアリングレスポンスが目に見えて鈍重というわけでもないのだ。
今回は後輪にモーターが追加される4WD仕様だったが、一部ブランドのそれのように、曲がりを積極的に後押しするタイプではなく、滑りやすい場面や荒っぽい運転でも終始安定した身のこなしで、後から「ああ、4WDだったのか」と気づくタイプといえる。その味つけは、エンジントルクを油圧多板クラッチで分散する200tも似たようなものなので、これがレクサス……というか、トヨタのFFベース4WDの基本的な考え方である。
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よくぞここまで
NXは昔ながらの“プラットフォーム”という概念では、北米の「RAV4」、日本でいうと「ハリアー」の系列にある。ホイールベースや乗員レイアウトはハリアーと同じ。ただ、車体構造の要所に“レーザースクリューウェルディング”や接着技術などを駆使したNXを、ハリアーの兄弟車……と済ませてしまうのは、ちょっと失礼だ。
レーザースクリューウェルディングとは、一般的なレーザー溶接=線溶接とは異なり、遠方からレーザーでピンポイントの点溶接をする技術らしい。従来のスポット溶接のすき間を埋めるように溶接を打つことで、これまでにない細ピッチ&大量の点溶接ができるのが特徴だ。まあ、そういう細かいことはともかく、突き上げの鋭さなどにどことなく大衆車感を抱かせたハリアーと比較すると、NXのいかにも硬質な車体剛性感は「よくぞここまで……」と感心するほかない。
NXは車体だけでなく、アシのデキも力作と評価してよい。今回は減衰力をリアルタイム可変する電子制御ダンパー(商品名は「AVS」)を装着していた。細かい凹凸で連続的に揺すられるようなケースでは、もう少ししやなかさが欲しい気もするが、基本的には上屋の動きを抑制しつつも、きっちりとストロークしてショックを吸収してくれる。
これと比較するとノーマルダンパー仕様では、上屋の動きが明確に増える。それでも乗り心地は悪くないが、良くも悪くもフツーのデキという印象。AVSのオプション価格は税抜き10万円だが、その価値は十二分にある。いや、できるならAVSは積極的に選んだほうがいい。
ちなみに、別の機会に試乗した“Fスポーツ”は、より引き締まったサスチューンでありながら、車体に追加されるパフォーマンスダンパーで、操縦安定性のみならず乗り心地もさらにいい。NXは、良くも悪くも、支払ったコストに応じて、乗り味もリニアに上がっていくタイプのクルマだ。
後席居住性はトップクラス
レクサスが最大(というか、それ以外のブランドはほとんど見ていない)のライバルと設定する“ジャーマンスリー”は、良かれ悪しかれ期待どおり(というか、想定どおり)のデザインで出てくることが多いのに対して、その意味ではNXのスタイリングは、個人的には悪くない方向性と思う。随所を深くえぐったアグリー系の意匠も「これがゴジラやエヴァを生んだクールジャパン!」と主張すれば、欧米でもじゅうぶんに通用するだろう。
昨今のクロスオーバーではBMWの「X4」や「X6」、あるいは「日産ジューク」に匹敵するインパクトだが、NXはこれらとちがって、室内空間を犠牲にしていないのは好感がもてるところ。ルーフラインはちょうど後席頭上付近がピークになっていて、後席居住性はこのクラスでもトップ級だ。
NXでは手元コントローラーが、従来のジョイスティック型からタッチパッド風になったのが新しい。なんの事前知識もなく、最初はノートPCのそれと同様に指の腹でなでるように操作したら、これがなかなか思うように反応せず「ダメだこりゃ!」と毒づきたくなった。しかし、その後に取扱説明書を読むと「指先で……」と書いてあったので、今度は指を立てて、虫刺されを優しくかくように触ったら、なるほどドンピシャの操作ができた。最近の分厚いトリセツはなかなか手に取りづらいが、やっぱりトリセツは大切よね。
先ごろの9月4日にトヨタが公表した(発売から1カ月強時点での)受注状況では、200tと300hの割合はほぼ半々という。
乗ったかぎりでは、少々勇ましくも体感的にパワフルな200tのほうが「新しいレクサス」としては分かりやすい。普段は欧州志向をお持ちのかたこそ、200tのキレアジにちょっと感銘を受けるかもしれない。ただ、冒頭のように、トータルでの速さや動力性能はほぼ同等。静粛性や重厚感では300hに分があるのはいうまでもなく、300hは本体価格が高いかわりに、税制や燃料代(200tはハイオク、300hはレギュラー指定)でお得感もある。
なるほど、NXにはパワートレインによる明確なヒエラルキーはない。購入する向きは、かならず両方とも試乗してみたほうがいい。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
レクサスNX300h“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4630×1845×1645mm
ホイールベース:2660mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152ps(112kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4400-4800rpm
フロントモーター最高出力:143ps(105kW)
フロントモーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
リアモーター最高出力:68ps(50kW)
リアモーター最大トルク:14.2kgm(139Nm)
タイヤ:(前)225/60R18 100H/(後)225/60R18 100H(ヨコハマ・ブルーアースE51)
燃費:19.8km/リッター(JC08モード)
価格:582万円/テスト車=661万4880円
オプション装備:NAVI・AI-AVS(10万8000円)/プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー+パノラミックビューモニター+ブラインドスポットモニター(15万1200円)/レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム+カラードヘッドアップディスプレイ(16万3080円)/おくだけ充電(2万3760円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(25万4880円)/寒冷地仕様(2万9160円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1235km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:432.1km
使用燃料:36.0リッター
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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