ポルシェ911 GT3(RR/7AT)/911ターボS(4WD/7AT)/ボクスターGTS(MR/7AT)/ケイマンGTS(MR/6MT)
ダンシング・イン・ザ・レイン! 2014.12.08 試乗記 ところは富士スピードウェイ。最新の「911 GT3」から「ボクスター/ケイマンGTS」までがそろうポルシェのハイパフォーマンスモデル試乗会だというのに、ご覧のとおり路面コンディションはヘビーウエットだ。さあ、コースインの出番がやってきた。雨に踊れば、見えてくるものも、きっとあるだろう。いざ出撃準備完了
「911 GT3」を富士スピードウェイで走らせる。
そんなオファーをもらったら、ジャーナリストなら誰だって胸をときめかせるはずだ。しかし筆者は、別な意味で胸の鼓動を高鳴らせていた。ポルシェジャパンによって一日だけ開催された「ハイパフォーマンスモデル試乗会」が、非情にも激しい雨にさらされてしまったからである。
とはいえ筆者が、単に475psの高出力モデルを雨の中で走らせることに恐れをなしていたわけではない。雨とてタイヤがグリップしてくれさえすれば、911ほどの完成度を持つスポーツカーなら、きちんと運転することができるはずだからだ。
しかしこの新型911 GT3と、それに続いて試乗する「911ターボS」が装着していたタイヤは、極端にドライ路面でのグリップ性能を重視した浅溝スポーツタイヤ、ミシュラン・パイロット スポーツ カップ2だったのである。
いまどきのスポーツモデルでは少数派となったキーシリンダーをひねると、しんとしたピットにドスを利かせたアイドリングサウンドが轟(とどろ)いた。タイプ991になってからのGT3に乗るのは初めてだったが、暖気が十分に済まされているおかげもあってか、演出といわれる駆動系の“ガラガラ音”はさほど気にならなかった。
先代モデルに比べていくぶん座面がふっかりしたように思えるバケットタイプのスポーツシートに身をうずめると、ラグジュアリーな座り心地にもかかわらず、ドライビングポジションはすんなり決まった。
先代GT3や「ケイマンR」など、これまでポルシェのスポーツモデルは必要以上に背筋をピン! と伸ばす窮屈な運転姿勢を強いる印象があり、筆者にはそこだけが不満だった。しかし新型GT3のシートは座面が適度に傾斜(お尻下がり)しており、ステアリングコラムを少し調節するだけで、サーキット走行には最適な“寝そべり気味のポジション”をラクに取ることができたのだ。これだと視線を遠くに置くことができるし、ももの裏側が座面に密着することもあって、制動Gに対しても体を支えやすい。またPDK最大の恩恵である“左足ブレーキ”もやりやすくなる。
雨だからわかることもある
そんなわけで、あっけにとられるほどフレンドリーなコックピットに出迎えられ、意気揚々とコースへと繰り出したわけだが……思った以上に雨量は多かった。
PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)はトラクションコントロールも全てオン。これにエキゾースト/ダンパー/PDK SPORTの3つを追加して走った。
それでもそろそろと突入したコカコーラコーナーでは無情にも4輪がツーッと滑り、その瞬間にガツッ! とスタビリティー制御が入る。そして2コーナーの下りと100R、300Rにできた“川”に乗ればウワンッ! とリアタイヤが空転する。ドライバーとして安心できる最低限の接地感すら得られない中で、エンジンだけは鋭敏かつ元気にうなりを上げていた。
ストレートでは一度だけ、歯を食いしばりながら床までスロットルペダルを踏み込んでみた。すると3.8リッターの直噴エンジンは、分厚くも切れ味鋭い不思議なトルク感をもって、よどみなくタコメーターを9000rpm近くまで跳ね上げた。この感覚はエンジンの構成部品や組み立て精度の高さ、そしてRRのトラクションといった911の全ての要素が組み合わさってできるものにほかならない。
空冷時代のパーツに別れを告げ、完全に水冷化されたこのエンジンは、どことなく先代よりも“芯”のない感じはある。しかしそもそもの高出力と完成度の高さ、そして狂気のサウンドが、911にまとわりついていた“空冷信奉”を、強引にかき消してしまった。
速度計の針は150km/h、200km/h……と見る見る上昇したが、250km/hを指したところで筆者の方が根負けした。午前中に試乗した同業者の中には「270km/hくらいまで出たよ!」と熱っぽく語っている人がいたが、個人的には“No way!”だ。参考までにそれは、思わずPDK SPORTを解除してしまうほどの路面コンディションだった。シフトアップのためにパドルをたたくたびに、クラッチミートの衝撃でリアが滑るのだ。ただそれは少し残念な話である。なぜなら、想定外の大雨とはいえ、PDKの神髄は駆動ロスのないシームレスシフトにあるのだから。少しばかり演出過多なのかもしれない。
もはやレーシングカーの領域に
メインストレートの200m看板を過ぎたあたりからブレーキを踏み込むと、フロント荷重の少ない911の常か、一瞬フロントタイヤの接地感が消える。それでもなんとかABSによってグリップを回復すると、今度はフラフラとテールを左右に振り出す。あの911が、最新の電子制御を駆使してもスタビリティーを保てない様子はひとつの驚きだった。RRの挙動が丸出しなのだ。
全てはこんな調子だったから、正直言って今回はGT3のコーナリング性能を語ることができない。注目のリアホイールステアによる高速コーナーでの安定性も、電子制御式LSDであるPTV Plus(ポルシェ・トルクベクタリング・プラス)の回頭性やトラクション性能も、全く確認できなかった。
こうしたことのほとんどは、残念ながらGT3ではなくパイロット スポーツ カップ2に原因があると筆者は考えている。先代よりも向上したとされるウエット性能に寄せた期待もむなしく、今回の雨量に対してはその排水性がまったく追いつかなかった。ただ排水性さえクリアできれば、またはもう少しだけ雨量が少なければ、カップ2は高いグリップと、優れたコントロール性能を発揮してくれたとは思う。
しかしなぜこんな「インターミディエイト」みたいなタイヤを、ポルシェとミシュランは公道用モデルに装着したのか。確かにGT3を手にするようなオーナーは、どしゃ降りの雨ならサーキットへは行かないだろう。しかしながら、サーキットを走ったあとの帰り道で、雨が降ることだってある。
つまりそれだけ、GT3の性能は極まってしまったのだ。雨の中を走りたければレインタイヤが必要なほど、レーシングカーに近づいたのだと思う。
ならばその楽しさとやらを、確認してみたいではないか。雨で走れないタイヤを履く是非はひとまず置くとして、それを確かめるには、やっぱりドライで乗るしかない。
「ターボ」は踏める、踏める、踏める!
続いて試乗したターボSも、今回はGT3と同じパイロット スポーツ カップ2を履いていた(純正はピレリPゼロ)。だからこそより鮮明に、両者のキャラクターが浮き彫りとなった。
GT3に比べ175kg重いボディーは、今回のような状況では4つのタイヤを地面へと押しつける力として働き、水冷式多板クラッチによってより多くのトルクをフロントに配分できるようになったという4WDシステムが、明らかに高い接地感をステアリングへ伝えてきた。
もちろん目測を誤れば、その巨体が止まりきれずにターンインのラインを外してしまうが、それでもフルブレーキング時におけるリアの振れ幅はGT3よりも少なく、我慢強く粘ると、グリグリとコーナーを曲がってゆく。そして車体が真っすぐを向いたら、迷わずアクセルを踏み倒す。すると560psと71.4kgmのパワー&トルクが、こぼれ落ちることなく路面へと伝わる。踏める、踏める、踏める! のだ。この超高速域での安心感を買うことこそが、911ターボS最大のステータスなのだと痛感した。
最後は「ケイマン」と「ボクスター」の「GTS」に試乗した。可変バルブタイミング/バルブリフト機構であるバリオカムプラスのチューニングによって前者が340ps、後者が330psにまで高められたエンジンパワーが目玉だが、GT3の激しさとターボSの分厚さの前では、食前酒のような軽い口当たりだった。
とはいえブレーキングからターンインにかけての鋭さや、ヨーモーメントが発生するスピードは兄貴分たちよりも素早く、ピリ辛ミドシップの一面も持っている。その気難しさの一因として、20インチにまで大径化されたタイヤのエアボリュームの少なさを挙げることができる。
また、ケイマン/ボクスターは電子制御を完全には解除できないから、ほどよいオーバーステア状態をキープするためには、クルマ側がスタビリティーを保とうとしてブレーキをつまんだりしてきても、それをアクセルでじわりと押しのけてやる必要がある。現状では、このクラスこそがポルシェを等身大で楽しむための最後の砦(とりで)なのだから、このへんはもう少しGT3を見習ってくれてもいいと思う。ちなみにオープンモデルであるボクスターでも、この雨ではボディーへの荷重負担が少なくなるため、ケイマンに見劣りするような場面は見られなかった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1852×1269mm
ホイールベース:2457mm
車重:1430kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:475ps(350kW)/8250rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/6250rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ミシュラン・パイロット スポーツ カップ2)
燃費:12.8リッター/100km(約7.8km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1912万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:7382km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ911ターボS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4506×1880×1296mm
ホイールベース:2450mm
車重:1605kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:560ps(412kW)/6500-6750rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/2100-4250rpm
※“スポーツ・プラス”モードのオーバーブースト機能を作動させた場合、76.5kgm(750Nm)/2200-4000rpm。
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ミシュラン・パイロット スポーツ カップ2)
燃費:9.7リッター/100km(約10.3km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:2539万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2万249km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ・ボクスターGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1800×1270mm
ホイールベース:2475mm
車重:1375kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:330ps(243kW)/6700rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/4500-5800rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 88Y/(後)265/35ZR20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.2リッター/100km(約12.2km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:949万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:5016km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ・ケイマンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1800×1285mm
ホイールベース:2475mm
車重:1345kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:340ps(243kW)/7400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4750-5800rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 88Y/(後)265/35ZR20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:915万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:4991km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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