BMW X6 xDrive50i(4WD/8AT)
保守派も納得? 2014.12.25 試乗記 BMWがSAC(スポーツ・アクティビティー・クーペ)と呼ぶ、クーペルックSUVの元祖「X6」。フルモデルチェンジを受け2世代目となった新型の実力をサーキットで確かめた。BMWの“稼ぎ頭”
こんなことを告白するのは自動車ライターとして致命的かもしれないが、私の自動車の好みはどちらかといえばコンサバティブで、これまでなかったジャンルのクルマに出会うと、それを正当に評価できるようになるまで長い時間がかかる傾向がある。たとえば、レザーシートを使った軽自動車なんてものは言語道断だし、SUVだってその良さを素直に認められるようになるまでにはずいぶん時間を要した。
もっとも、SUVなどはすでに消費され尽くされたジャンルで、いまや派生車種が次から次へと登場していることはご存じのとおり。そうした“新ジャンルSUV”のなかで、最も成功しているモデルのひとつがBMWのX6である。
いや、BMW自身はそもそもSUVなんて言葉を使わず、SAV(スポーツ・アクティビティー・ビークル)と呼んでいる。そしてX6はSAVのクーペ版なのでSAC(スポーツ・アクティビティー・クーペ)という呼び方を用いる。
そんなジャンル名に関する蘊蓄(うんちく)はさておいても、X6はたしかによく売れているようだ。たとえば2014年の1月から9月までの統計を見てみると、X6はグローバルで2万3000台強を売り上げた。これは「X5」の10万5000台弱に比べれば4分の1にも満たない数字だが、「6シリーズ」の1万8233台を20%以上も上回っている。つまり、6シリーズという本物のクーペよりも、クーペルックなSUVであるX6のほうがよく売れているのだ。しかも、6シリーズには2ドアクーペ、4ドアクーペ、2ドアカブリオレの3タイプがあるのに対して、X6のボディーは1種類のみ。おまけにX6はX5よりぜいたくな位置づけだから、売価もX6のほうが少しずつ高い。
こうした事実は、X6がBMWに効率よく利益をもたらす“稼ぎ頭”であることを意味している。ちなみに、2008年の発売以来、X6の累計販売台数は25万台を超す。そこで、ベースモデルというべきX5が2013年に3世代目へとモデルチェンジしたのを機に、X6も第2世代に生まれ変わったという次第である。
「Mスポーツ」も設定
試乗会場で行われたプレゼンテーションの際に書き記したメモをあらためて眺めてみると、デザインや装備に関するものが中心で、最近はやりの「アルミなどの軽量素材を用いてボディーを何%軽量化」という話題がまるで出てこないのは意外だった。もっとも、エンジンの出力は先代に比べて10%も引き上げられたうえ、燃費も先代比で22%も向上したという。このうち燃費向上のほうは、空気抵抗係数が0.36から0.35(いずれも「xDrive50i」のヨーロッパ発表値)に低減されたエアロダイナミクスの改良も寄与しているはずだが、そのほとんどはエンジン本体の効率改善によって達成されたものと推察される(ギアボックスは初代の途中から8段ATを採用している)。
それ以外で注目されるのは、意外にもこれまでX6に用意されていなかった「Mスポーツ」が追加されたことと、「デザイン・ピュア・エクストラヴァガンス」というオプションが新たに設定されたことの2点だろう。
Mスポーツは標準モデルとは異なる専用デザインのホイールやステアリング、スポーツシートといった装備面での違いがあるだけでなく、電子制御式ダンパーやリアエアサスペンションを備えたアダプティブMサスペンションが標準装備されるなど機能面での違いも見逃すことができない。
いっぽう、デザイン・ピュア・エクストラヴァガンスは、標準モデルにもMスポーツにも装着可能な一種のパッケージオプションで、エクステリアとインテリアのそれぞれが用意される。このうち、エクステリアのほうはキドニーグリルやバンパーフィニッシャーなどの塗色が変わる程度の違いだが、インテリアではエクスクルーシブ・ナッパ・レザーを用いたシートがツートンになるほか、レザー仕上げのダッシュボードにコントラストステッチが入るので、見た目の印象はぐっと華やかに変化する。どちらにしても、クーペを選ぶ個性派層には強く支持されそうな装備だ。
積極的にハンドリングを楽しめる
試乗会場は袖ヶ浦フォレストレースウェイ。SUVの試乗会にサーキットを選ぶとはかなり挑戦的だが、BMWに勝算があったのは間違いない。ちなみにBMWでは、サーキットでの試乗をドイツ本社が各国の現地法人に禁止するケースもモデルによってはあるそうだ。裏を返せば、X6はサーキット試乗を禁止されなかったわけで、それだけ走りに自信があるということになる。
「X6 xDrive50i」(Mスポーツではない標準モデル)でコースを走り始めてみたところ、彼らの判断が間違っていないことがよくわかった。
最高出力450ps、最大トルク66.3kgmとパワフルな4.4リッターV8ツインターボエンジンと、電子制御式ダンパーもエアサスペンションも持たない標準モデルのシャシーという組み合わせはいささか酷な気もしたが、これが実によく走るのである。車重は2270kgもあるし、重心だって決して低くはないからロールだってそれなりに大きい。にもかかわらず、スタビリティーコントロールが作動する領域まで追い込んでも4輪がしっかり接地してくれているのでつま先立った感覚は皆無。多少滑ったとしても、タイヤが路面を捉えている感触がはっきり伝わってくるのでまったく怖くない。いや、それどころか、積極的にハンドリングを楽しめるシャシーであると感心させられることしきりだった。
エンジンにもまったく不満を覚えなかった。だいたい量産車でサーキットを走るとたいていは「かったるい」と思ってしまうものだが、X6 xDrive50iは0-100km/h加速が4.8秒と立派なスポーツカー並みに速いので、もどかしさとは無縁。ちなみに、私は袖ヶ浦の最終コーナーが苦手で、完璧な姿勢で立ち上がれたことはめったにないのだが、そんな私でも1コーナーへのアプローチでブレーキングを開始するときには160km/hに達していた。しかも、そうやって走り続けていてもブレーキがまるで音を上げないのだから大したもの。そうこうするうちに、どうやら決められた連続周回数を超えたらしく、停止を命じる赤旗を提示されてしまった。まったく恥ずかしいことこのうえないが、それもこれもX6の走りがいいからいけないのだ(と責任転嫁してみる)。
快適性も十分
たしかにX6の走りはいいけれど、だからといって快適性が犠牲にされているわけでもない。サーキットから離れて一般道に繰りだしてみれば、新型X5とほとんど変わらない静粛性と快適な乗り心地で乗員をもてなしてくれる。車高はX5より6cmも低いそうだが、後席に腰掛けても頭上には拳半分ほどの空間が残る(同クラスのサルーンでもこの程度のヘッドルームであることは少なくない)ほか、膝周りには拳ふたつ分のスペースがあるので楽に脚を組める。運転席だってアイポイントの高さは一般的なSUV並みに高いので視界は良好。さらに、リアシートは40:20:40の3分割に倒すことが可能なだけでなく、ラゲッジスペースは先代より10リッター大きい580リッターに増えたほか、シートを倒せば1525リッターという広大なスペースが現れる(これは先代の75リッター増し)。ラゲッジルームにゴルフバッグを横向きに積むのはさすがに難しそうだが、それを除けば室内スペースに関する苦情はまず出てこないだろう。
さらには、モノラルカメラとミリ波レーダーを組み合わせた「ドライビング・アシスト・プラス」を全車に標準装備したり、「BMW SOSコール」や「BMWテレサービス」といった、いわゆるコネクテッド系装備も標準装備したりしているので、これらの面でも一気にクラス最前線に躍り出た格好だ。
というわけで、新型X6はコンサバティブなクルマ選びが頭にこびりついている私にも納得できる機能性を備えたクルマだった。残るは、クーペフォルムのSUVというスタイリングが好きになれるかどうかの問題だけだろう。「じゃあ、オマエはX6のデザインが気に入ったのか?」と問われれば、コンサバティブな私は相変わらずX5を選ぶでしょうと答えるしかないのが実に悲しいところである。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
BMW X6 xDrive50i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4925×1990×1700mm
ホイールベース:2935mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(330kW)/5500rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)275/40R20/(後)315/35R20(ダンロップSP SPORT MAXX GT)
燃費:8.6km/リッター(JC08モード)
価格:1185万円/テスト車=1360万4000円
オプション装備:電動ガラス・サンルーフ(18万8000円)/リア・サイド・ウィンドウ・ローラー・ブラインド(3万8000円)/フロント・ベンチレーション・シート(13万4000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/ランバー・サポート(9万8000円)/レーン・チェンジ・ウォーニング(10万3000円)/アクティブ・プロテクション(5万1000円)/BMWナイト・ビジョン(32万9000円)/マルチ・ディスプレイ・メーター・パネル(8万6000円)/デザイン・ピュア・エクストラヴァガンス・エクステリア(28万5000円)/デザイン・ピュア・エクストラヴァガンス・インテリア(38万1000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:856km
テスト形態:サーキットインプレッション、ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。