BMW X6 xDrive35d Mスポーツ(4WD/8AT)
まさに規格外 2020.05.15 試乗記 SUVに流麗なクーペスタイルを組み合わせたクロスオーバーSUVの先駆け「BMW X6」がフルモデルチェンジ。最高出力265PSの3リッター直6ディーゼルターボを搭載する「xDrive35d Mスポーツ」に試乗し、多くのフォロワーを生み出した人気の秘密を探った。巨大なボディーに巨大なグリル
このブランドの持ち前ともいえる独立心の旺盛さゆえか、世の中では広くSUVというカテゴリーで認知されるモデルを、あえてSAV(Sports Activity Vehicle)もしくはSAC(Sports Activity Coupe)と言い換えているBMW。車名がXで始まるそうしたモデルのラインナップは、今やその後に続く車格感を表すひと桁の数字が、1~7まで勢ぞろいするという水も漏らさぬ態勢だ。
さらにこの先、それらの頂点に立つ「X8」なるニューモデルの追加設定も確実視されているというのだから、2000年の初代「X5」登場に始まったXシリーズが、BMWにとって今やどれほど重要な存在であるかは「推して知るべし」という状況。そうした中にあって今回紹介するのは、2018年に4代目へとモデルチェンジを行った現行X5とランニングコンポーネンツを共にする、第3世代のX6である。
2008年に誕生した初代、そして2014年に刷新された2代目というこれまでのモデルと同様、前出SACの一員としてラインナップされる2019年デビューの3代目X6も、「典型的なSUVならではの高い地上高や大径シューズの採用を筆頭とした逞(たくま)しい造形のロワボディーに、クーペ流儀の流麗なルーフラインを組み合わせる」というデザイン処理が特徴だ。加えれば、すでに“巨大”という表現がふさわしかった従来型をもしのぐボディーサイズは、ついに全幅が2mをオーバー。少なくとも日本では“規格外”ともいうべき大きさへと至ることになった。
そんな絶対的なサイズに加えこのところ登場するBMWのニューモデルがおしなべてそうであるように、キドニーグリルがますます大型化されたこともあって、その押し出し感たるやまさに圧巻。さらにそんなキドニーグリルには「BMW車として初めて」とうたわれる内部照明までもが備わっている。闇の中に浮かび上がる大きなグリルは、「まるでちょっと“デコトラ”のようなノリ」と表現したら、往年のBMWファンは賛同してくれるのかはたまた否定の声を上げるのか、いったいどちらであろうか?
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実用性よりも見た目で勝負
かくしてそんな新しいX6が、だからといって「こちらもボディーのサイズと同様」ということにはならないのが、そのキャビン空間の印象である。かくも大柄なボディーを備えながらも、明確に前席優先の思想でデザインされ、結果として後席では意外なまでのタイトさを感じるのがX6のインテリア。特にルーフラインの落ち込みと高いフロアの相乗効果によって、後席への乗降性はいいとは言えない。さらにひとたび乗り込んでもその空間では、ヒール段差の小ささもあってリラックスした姿勢が取りづらいのだ。
また、リアウィンドウはその極端な傾斜ゆえに上下寸法が限られ、ルームミラーを通しての後方視界は思いのほか狭い。X6のパッケージングデザインが、こうしたさまざまな実用性の犠牲の上に成り立っていることは明らかだ。
もちろん、だからといってそれらすべてが必ずしもウイークポイントだとも言い切れないのは、このあたりを気にするのであれば、同じランニングコンポーネンツの持ち主であるX5を選択すれば、すべてが解決するからでもある。新しいX6が、ここまで大胆なデザインの採用を許されたのは、「X5があったからこそ」という見方もできるわけだ。
今回テストドライブを行ったのは、日本に3種のグレードが導入されるうちの中間に位置するxDrive35d Mスポーツ。3リッターのターボ付き6気筒ディーゼルエンジンと8段ステップATの組み合わせによるパワーパックはベーシックグレードの「xDrive35d」と同様ながら、電子制御式可変減衰力ダンパーを含むアダプティブサスペンションやスポーツブレーキ、ヘッドアップディスプレイ、スポーツエキゾーストシステムなどは、Mスポーツならではの標準アイテムだ。
さらにテスト車両は、オリジナル比で2インチ大径となる22インチ(!)のシューズやマッサージ/ベンチレーション機能付きのフロントシートなどから構成される「コンフォートパッケージ」のほか、ガラスサンルーフなどの多彩なアイテムがオプション装着されたモデル。その総額は、215万円超にも及ぶ。
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22インチタイヤも履きこなす
大柄なボディーに加えディーゼルエンジンや4WDシステムなどを搭載するとあって、車両重量は2.1t超とさすがに重量級。それでもアクセルペダルの軽いひと踏みと同時に思いのほか軽々と車速を伸ばしていってくれるのは、いかにも低回転域から厚いトルクを発生させる心臓とワイドレシオで伝達効率に優れたトランスミッションの組み合わせがなせる業という印象だ。
1500rpm付近で軽いこもり音が認められはするものの、エンジンノイズは音質的にもあまり気にならず、静粛性は優秀。そうした静かさの中でむしろ目立ってしまっていたのは、幅広い車速で耳に届くタイヤが発する空洞音である。特にエンジンノイズが一定となる80km/h付近での高速道路走行などにおけるそれは、一度気にし始めると結構耳につくボリュームだった。
前述のように、そもそも低回転域から豊かなトルクが発せられるため、日常シーンで高回転域まで引っ張る必要に迫られる機会はさほど多くはなさそう。それでも、「試しに」と高速道路本線への合流時にアクセルペダルを意図的に深く踏み込んでみれば、実はこのエンジンがいかにも直列6気筒らしく、秀逸で小気味よい回転フィールを味わわせてくれることを教えられた。
残念ながら120km/hが上限の日本では、そうした甘美さを味わえるシーンは限定的となりそうだが、これがアウトバーンだったら……と、生産国はアメリカでもやはりドイツブランドの作品というその素性を意識させられる。
ちなみに、今回テストしたモデルは前述のように22インチという“巨大”なアイテムが装着されていたものの、それは現行「3シリーズ」で意識させられるような、快適面における多大なる“我慢”を強いられた印象ではなかったことを加えておきたい。
すなわち、低速走行時に荒れた路面を通過した際のエンベロープ性の低さなどにはその影響も感じられたものの、基本的にはあらゆる速度でフラット感の高いその乗り味は総じて良好。衝撃の吸収性やばね下の動きの収まりに、「22インチだから」という特にマイナスの影響は受け取れなかった。
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排他的なキャラクター
いっぽう「これはやっぱりBMWならではだナ」と納得できたのは、思いのほかダイナミックで自在な動きが認められることとなったそのハンドリングであった。さすがに、絶対的に大きなボディーのサイズやそれが生み出す直近死角の大きさもあって、特に日本で多く遭遇しがちなタイトなワインディング路では、操る感覚が軽快とは言い難い。
反対に、ある程度道幅に余裕のある緩いコーナーの連続をそれなりのテンポで駆けぬけていくような場面では、予想と期待を超える“人とクルマの一体感”を味わうことができた点に、やはりBMWというブランドの作品であることを強く感じさせられたのだ。ちなみに、そうした好ましい走りの感覚をタップリと味わった後にあらためて重量配分をチェックしてみると、実は前後のバランスがほとんどドンピシャで50:50であったのだった。
MINI由来のFFレイアウトベースのニューカマーが次々と現れ、レスシリンダー化を図ったダウンサイジングのエンジンを搭載するモデルが覇権を利かすようになる中で、BMW車がかつて長きにわたって“社是”とした直列6気筒エンジンに50:50という前後重量配分を身につけたこのモデルは、そうした象徴的な記号を並べるにふさわしい走りのテイストを図らずも強く実感させてくれたのだ。
繰り返し述べてきたように、全幅が2mを超え、全長も5mに迫る巨大なボディーは、正直なところ「日本ではあまり増えてほしくはない」と思えるものでもあるし、うっかりすれば往年の“デコトラ”をほうふつさせる照明付きのフロントグリルも、率直に言って決して趣味が良いとは思えないアイデアだ。
しかし、いわばかくも排他的なキャラクターに、少なからず引きつけられる人々が存在するというのは、これまでも他のモデルが証明してきた事実。良きにつけあしきにつけ、少なくとも日本ではさまざまなポイントが何とも“規格外”であることこそが、まずは最大の特徴といえそうな新型X6なのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X6 xDrive35d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×2005×1695mm
ホイールベース:2975mm
車重:2320kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:265PS(195kW)/4000rpm
最大トルク:620N・m(63.2 kgf・m)/2000-2500rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104Y/(後)315/30R22 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.9km/リッター(JC08モード)/11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:1069万円/テスト車=1284万8000円
オプション装備:メタリックペイント<マンハッタンメタリック>(9万2000円)/BMWインディビジュアルフルメリノレザー<ブラック/ブラック>(56万1000円)/プラスパッケージ(15万円)/コンフォートパッケージ(43万7000円)/22インチMライトアロイホイール<ダブルスポークスタイリング699>(17万1000円)/BMWディスプレイキー(4万8000円)/クラフテッドクリスタルフィニッシュ(8万9000円)/カーボンファイバーインテリアトリム(16万4000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(37万7000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(6万9000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1866km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:359.3km
使用燃料:29.3リッター(軽油)
参考燃費:12.2km/リッター(満タン法)/12.4km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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