ポルシェ・マカン(4WD/7AT)/マカンS(4WD/7AT)
これぞポルシェのなせるわざ 2015.02.02 試乗記 2リッター直4ターボ搭載の「マカン」と3リッターV6ツインターボの「マカンS」。ポルシェの最新SUV2台を乗り比べ、その実力を検証した。大切なのはパワーじゃなくて気持ちよさ
昨年末、12月26日に小田原で開催されたポルシェのオールラインナップ試乗会。ここで筆者は、編集部から一日遅れのすてきなクリスマスプレゼントをもらった。
人気殺到で試乗が抽選となったポルシェの最新SUV、マカン。これをみごと編集部K氏が引き当ててくれたのである。しかもベーシックグレードとマカンSの2台をだ。というわけで今回は、ぜいたくにも両車の乗り比べをしてみようと思う。
まずステアリングを握ったのはマカンS。しかし心配性の筆者には、ひとつ気がかりなことがあった。最初にウマいものを食べてしまうと、後がおいしく感じられないのではないかと思ったのだ。冷静に分析はできたとしても、結局のところ340psの魅力にはあらがえないのではないか、と。
試乗会場からひと転がし。高速道路の合流でアクセルをグイッと踏み込んだ瞬間に、その予想は見事に的中した。“S”としての圧倒的な存在感を与えたのは、言うまでもなくV6エンジンである。ダウンサイジング時代の最前線をひた走るだけあって排気量は“たったの”3リッターしかないが、ポルシェはこれをツインターボ化することで、リッターあたり約113psの340psというパワーをこのクルマに与えた。
なかでも筆者が感激したのは、パワーではなくその行程である。もちろんバンクごとにターボを配し、ターボラグを消し去る制御も素晴らしいのだが、そもそも96×69mmというオーバースクエアなシリンダー形状を持ったブロックと、バリオカム・プラス(バルブのリフト量とタイミングを可変する機構)というポルシェの基本要素が、痛快にして緻密なフィールを実現しているのではないかと思う。ブーストによる速さなど、慣れてしまえばどうということはない。しかしマカンには「いい機械に乗っている」という実感があり、ここにポルシェらしさを強く感じるのだ。アクセル開度に対する追従性は、遅れも先走りもないドンピシャのリニアリティー。低中速トルクのドライバビリティーは当然のことながら、回したときの快感指数が高いダウンサイジングターボエンジンに、筆者はコロッとやられてしまった。
高いボディー剛性があればこそ
その身のこなしも洗練のひとことだった。
ポルシェらしさを表すために、やや硬めの乗り味を演出するのではないかと踏んでいたサスペンションは、予想以上にしなやかだった。それもただ柔らかいというのではなく、どっしりとしたロードホールディング性能を有しており、路面からの入力を吸収しながら、カーブでは姿勢を乱さずビターッと走りきる。
「カイエン」よりも身軽だが、威厳のある安定感。聞けばオプションのエアサスは未装着(PASMはあり)とのことだったが、ボディー剛性が高いから標準サスペンションでもきちんと動く。
これも後から聞いた話だが、ベースとなる某車に対してマカンは約3割近いスポット補強が施されているらしく、乗り手はその恩恵を、内容など知らずとも感じ取ることができる。
その足元にミシュランのSUV用タイヤである「ラティチュード スポーツ3」がおごられていたことも、そのしなやかさに大きく貢献している。兄貴分であるカイエンから築き上げたSUVにおける操縦安定性と快適性のデータを、ひとまわり小さく軽量なマカンで思い切り生かしている。そんな印象を抱いた。
これを味わったあとの2リッターターボは、心配したとおり、クチに運んだ瞬間「ありゃー!」という感じだった。1830kgという車重に対する出足のトルク差。ガラガラとした雑味がうっすら感じられる4気筒エンジン。それはV6ツインターボの力強さや質感に遠く及ばず、「ダメっすね、これ」と、生意気にも早々にカタを付けた。
――はずだったのだが……。
理想的な自然吸気エンジンのよう
街中を抜け、高速道路に入り、アクセルをジワッと踏み込んでいくにつけ、筆者は焦っていた。舌の根も乾かぬうちに、その軽口を正さねばいけない心持ちになったからである。
確かにごくごく低回転域での、ATでいえば街中でクリープを併用しながら走るような状況では、4気筒特有のチープさが興を削(そ)いだが、回せば回すほど、このエンジンは中身が詰まっていくような感触となる。カタログ上の最大トルク(35.7kgm)は1500rpmという極めて低い回転域から生み出されているのだが、実際は3000rpmあたりから本性を現し始める。やはりエンジンは、回してナンボの機械なのだ。
そして完全にアクセルを踏み込んだときには、「もう謝るしかない!」と思った。今までの走りがウソのように、4気筒ターボはよどみなくビーン! と吹け上がる。ターボのブーストによる2次曲線的な加速感ではなく、まるで理想的な自然吸気エンジンのように。絶対的な加速性能はV6に及ばないかもしれない。しかし“スピード”が問題じゃないのは、この4気筒ターボも同じことである。
そうなると全てがかみ合うのだ。単純計算で2気筒とターボ1基、35kgほど軽い車体のノーズはV6よりも少し軽やか。サスペンションに“S”ほどのスタビリティーを持たせる必要がないせいなのか、乗り心地もよりコンフォータブルに感じられた(タイヤは同じラティチュード スポーツ3)。
そんなシャシーを、237psという“踏み切れる”パワーで走らせると、まるで重厚な革コート(マカンS)から、ダウンコートに着替えたような“着心地”だった。
4気筒でもやっぱりポルシェ
となれば、がぜん乗り手も気持ちが入る。FRベースの4WDはパワーオンでニュートラルから、やもすればややオーバーステア気味なそぶりを見せたが、常時フロントタイヤに20%ほど配分される駆動力とソフトなフロントサスペンションが、ターンイン時に弱アンダーステアを作り出すことで、トータルの挙動をバランスさせていた。安全でしかもコーナリングが楽しいのである。
果たしてSUVにそんな走りが必要なのか? という話もあるが、その運転感覚は正直言って面白い。むしろ重心が低くて荷重移動しにくい「911」や「ケイマン」「ボクスター」の方が、限界の高さは感じられても“クルマを走らせている感覚”は低いのかもしれない。
マカンの価格は616万円、そしてマカンSは719万円。こうしてみると、その差は意外にも少ない。どちらがポルシェらしい品格や質感、運動性能を備えているのかといえばマカンSだし、プラス100万円で直4ターボがV6ツインターボになるのなら、迷わず“S”を選ぶべきだとは思う。
ただ、マカンの616万円という価格自体が高価なのに、そこからさらに100万円は無理! という気持ちもわかる。そんなとき、初めてのポルシェとして「4気筒ターボ」を選ぶと後悔するかといえば、まったくそんなことはない。直4ターボはV6自然吸気に相当するエンジンであるし、この4気筒ターボにはポルシェ・エンジニアリングの素晴らしさがぎっしり詰まっている。
買えるほうを買えばよい、というのが筆者の結論だ。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥、ポルシェ・ジャパン)
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・マカン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1925×1625mm
ホイールベース:2805mm
車重:1830kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:237ps(174kW)/5000-6800rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4500rpm
タイヤ:(前)235/60R18 103W/(後)255/55R18 105W(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:7.5-7.2リッター/100km(約13.3-13.9km/リッター)(欧州複合モード)
価格:616万円/テスト車=707万4000円
オプション装備:インテリア(アゲートグレー<レザーパッケージ パーシャルレザーシート>)(28万1000円)/ポルシェ・ダイナミックライトシステム(PDLS)内蔵バイキセノンヘッドライト(28万3000円)/スポーツクロノ・パッケージ(19万5000円)/18インチ マカンSホイール(3万3000円)/カラークレスト ホイールセンターキャップ(3万円)/フロアマット(2万2000円)/シートヒーター(フロント)(7万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:7435km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
ポルシェ・マカンS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1925×1625mm
ホイールベース:2805mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:340ps(250kW)/5500-6500rpm
最大トルク:46.9kgm(460Nm)/1450-5000rpm
タイヤ:(前)265/45R20 104Y/(後)295/40R20 106Y(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:9.0-8.7リッター/100km(約11.1-11.5km/リッター)(欧州複合モード)
価格:719万円/テスト車=913万4000円
オプション装備:ボディーカラー(ダークブルーメタリック)(16万3000円)/インテリア(エスプレッソ<ナチュラルレザーインテリア>)(80万円)/ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメントシステム(PASM)(21万円)/スポーツクロノ・パッケージ(19万5000円)/20インチ RSスパイダーデザインホイール(45万4000円)/カラークレスト ホイールセンターキャップ(3万円)/フロアマット(2万2000円)/シートヒーター(フロント)(7万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2390km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
ケータハム・スーパーセブン2000(FR/5MT)【試乗記】 2026.4.28 往年のスポーツカーの姿を今日に受け継ぐケータハム。そのラインナップのなかでも、スパルタンな走りとクラシックな趣を同時に楽しめるのが「スーパーセブン2000」だ。ほかでは味わえない、このクルマならではの体験と走りの楽しさを報告する。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.27 「ランボルギーニ・テメラリオ」がいよいよ日本の道を走り始めた。その電動パワートレインはまさに融通無碍(むげ)。普段は極めて紳士的な振る舞いを見せる一方で、ひとたび踏み込めばその先には最高出力920PSという途方もない世界が広がっている。公道での印象をリポートする。
-
アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ プレミアム(FF/6AT)【試乗記】 2026.4.25 世界的に好調な販売を記録している、昨今のアルファ・ロメオ。その人気をけん引しているのが、コンパクトSUV「ジュニア」だ。箱根のワインディングロードでの試乗を通し、その魅力をあらためて確かめた。これが新時代のアルファの生きる道だ。
-
ホンダ・シビックe:HEV RS プロトタイプ(FF)【試乗記】 2026.4.23 一部情報が先行公開され、正式な発表・発売を2026年6月に控えた「ホンダ・シビックe:HEV RS」のプロトタイプにクローズドコースで試乗。2ドアクーペ「プレリュード」と同じ制御技術「ホンダS+シフト」が移植された、新たな2ペダルハイブリッドスポーツの走りやいかに。
-
日産アリアB9 e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.4.22 「日産アリア」のマイナーチェンジモデルが登場。ご覧のとおりフロントマスクが変わったほか、インフォテインメントシステムも刷新。さらに駆動用電池の温度管理システムが強化されるなど、見どころは盛りだくさんだ。400km余りをドライブした印象を報告する。
-
NEW
第959回:「うすらデカいフィアット」がもたらしてくれたもの
2026.4.30マッキナ あらモーダ!11年にわたりモデルライフを重ねてきた、フィアットのCセグメント車「ティーポ」が、ついに生産終了に……。知る人ぞ知る一台の終売の報を受け、イタリア在住の大矢アキオが、“ちょっと大きなフィアット”の歴史を振り返り、かつての愛車の思い出を語る。 -
NEW
BMWの新世代BEV「i3」の姿からエンジン搭載の次期「3シリーズ」を予想する
2026.4.30デイリーコラム「iX3」に続き、完全な電気自動車として登場した新型「i3」。BMWはノイエクラッセをプロジェクトの御旗に電動化を推進しているが、同社の伝統たる内燃機関搭載車「3シリーズ」のゆくえやいかに。 i3の成り立ちからその姿を予想する。 -
ディフェンダー110オクタP635(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.29試乗記「ディフェンダー」シリーズの旗艦「オクタ」が2026年モデルへとアップデート。メカニズム面での変更はごくわずかのようだが、その速さと快適さは相変わらず圧倒的で、それはオンロードでもオフロードでも変わらない。300km余りをドライブした印象をリポートする。 -
第110回:新型BMW i3(前編) ―BEV版「3シリーズ」のデザインはなぜ「ノイエクラッセ」から変節したのか?―
2026.4.29カーデザイン曼荼羅いよいよ登場した新型「BMW i3」。スポーツセダンのベンチマーク「3シリーズ」がついに電気自動車となったわけだが、そのデザインにはどんな見どころがあるのか? ショーカー「ビジョン ノイエクラッセ」から様変わりした理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
「シビック タイプR」は入手困難 北米生産の「インテグラ タイプS」はその需要を満たせるか?
2026.4.29デイリーコラムホンダが北米生産の「アキュラ・インテグラ タイプS」の国内導入を発表した。エンジンなどのスペックから、それが「シビック タイプR」にほど近いクルマであることがうかがえる。果たしてタイプSは入手困難なタイプRの代替になるのだろうか。 -
クルマの開発で「コストをかけるところ」と「割り切るところ」はどのように決まるのか?
2026.4.28あの多田哲哉のクルマQ&A車両開発において、予算配分は「顧客に最も満足してもらえるクルマ」をつくるための最重要事項である。では、それはメーカー内で、どんなプロセスで決まるのか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。





























