マツダ・アテンザセダンXDプロアクティブ(FF/6AT)
ヨーロッパの価値観で磨かれたクルマ 2015.03.12 試乗記 デビューから2年を経て大幅な改良を受けた「マツダ・アテンザ」。新グレードの「XDプロアクティブ」に試乗し、その進化の度合いを確かめた。垣間見えるクルマ作りの姿勢
以前、プレミアムカーブランドに所属するあるデザイナーからこんな話を聞いたことがある。
「大抵の場合、マイナーチェンジの予算はそのモデルで稼いだ利益が原資になります。だから、売れていないモデルはマイナーチェンジの予算も不足気味で、大規模な改修ができません。反対に、売れているモデルならマイナーチェンジでさらにいいクルマにすることができるのです」
もちろん、すべてのメーカーに彼らと同じ原則があてはめられるわけではなく、あるモデルをテコ入れするためならほかのモデルで稼いだ利益をつぎ込むメーカーだってあるだろうし、逆にもうかったからといってその利益を必ず次のマイナーチェンジに投入するとは限らない。もうけたらもうけっぱなし。それを積み重ねて巨額な利益を計上する自動車メーカーだってなきにしもあらずだ。
そんな姿勢を「ケシカラン!」と頭ごなしに否定するつもりはないけれど、もうかった利益をふんだんにつぎ込んで「価値のあるマイナーチェンジ」をしてくれる自動車メーカーのほうがわれわれユーザーにとってはありがたいし、ブランドに対する愛着も深まる。
で、今回はマイナーチェンジを受けたアテンザがテーマだけれど、新型がどのくらいよくなったかはおいおい説明するとして、感心させられるのがマツダの姿勢である。なにしろ、ほんの数年前まで彼らは立て続けに赤字を計上していたのだ。だから、スカイアクティブでもうかったら、それを懐にしまって財務状態を改善したいと思うのが普通だろう。
ところが、彼らは攻めに打って出た。一定の利益は確保したうえで、さらに「いいクルマを作ろう」としているのだ。いくら、マツダが「一括企画」という考え方を打ち出し、中短期のモデルチェンジ計画を定めているとはいえ、計画どおりに利益を上げて充実したマイナーチェンジを実施するのは容易なことではない。そうした困難を乗り越え、あくまでも「いいクルマを作ろう」とする姿勢があればこそ、いまのマツダは運転好きのドライバーから強く支持されているのだろう。そして、今回のマイナーチェンジでマツダはその姿勢をいっそう明確にしたのだといえる。
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乗れば進化の程が分かる
では、具体的にどんな改良を施したのか。ダンパーやブッシュを改良して乗り心地を改善したほか、車内騒音を低減。シートも改良してフィット感とホールド性を高め、ディーゼルモデルに新世代の4WD車を設定した。さらにエクステリアとインテリアの意匠を見直してデザイン性とクオリティーを引き上げたほか、電子制御を多用したアクティブセーフティーシステムに多数の新機能を追加したのである。
こうした対応から見え隠れするのが、マツダがヨーロッパで評価されるクルマ作りに取り組んでいるという戦略だ。
乗り心地や車内騒音を改善する姿勢はヨーロッパ系プレミアムブランドと完全に一致するもの。シートの改良も、長距離走行の多いヨーロッパでは間違いなく歓迎されるはずだ。4WDを追加してディーゼルモデルの商品性を高めたのも、意匠の変更によりデザイン性と品質感を向上させたのも最近のヨーロッパ車メーカーのトレンドとぴったり一致する。そしてドイツを中心とする自動車メーカーがアクティブセーフティーシステムの製品化に熱心に取り組んでいることは周知の事実である。
しかも、こうした改良がプレスリリースに記されたただのお題目に陥っていないことが、今回の試乗を通じてはっきりと体感できた。
例えば従来型のシャシーは、ハンドリングの機敏さを追求するあまり、快適性の面でやや脇が甘いと指摘されても仕方ない側面があったが、新型では路面から伝わるざらつき感が取り除かれて滑らかな乗り心地に生まれ変わり、同様にロードノイズは路面を問わず低く抑えられてキャビンの静粛性はぐっと高まった。この2点だけでも、クルマの商品性が確実に一段階引き上げられた印象を抱く。
2000rpmで42.8kgm(420Nm)という強大なトルクを生み出す2.2リッター直噴ターボディーゼルエンジンは、最新の4リッターV8ガソリンエンジンに匹敵する力強さで、アクセルを踏み込んだ瞬間にぐっと背中を押されるような感触を味わえる。今回のマイナーチェンジではエンジンに目立った改良が行われたわけではないようだが、ぶっといトルクが素早く立ち上がるレスポンスのよさは、引き続きアテンザディーゼルの大きな魅力といえる。
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長距離ランナーとしての資質は高い
エクステリアの変化は、これらに比べるとずっと規模が小さい。フロントセクションではグリルを下側から支えるクロム系の加飾が分厚くなり、よりスリムになったヘッドライトとの一体感が強まっているものの、テールライトは内部の並びが見直された程度で大きな変化は見当たらない。
いっぽうのインテリアは、ダッシュボードの形状が全面的に見直されて従来型よりも天地方向に浅くなった。さらにはパーキングブレーキが電気式になって見た目がすっきりしたが、それ以上に印象的なのが、質感がぐっと向上したこと。使われている素材のクオリティーが大きく改善されたほか、デザインそのものの緻密さも一段と増している。インテリアの質感は個人的に従来型アテンザの最大の弱点と捉えていたので、ここに改良の手が及んだことはとてもうれしいし、ユーザーの立場からすれば所有する満足感が高まることは間違いないだろう。
同じく改良されたというシートは、全身(というか膝から肩まで)への密着度が確実に高まり、シートによって体重が無理なく支えられるようになった。さらに驚くべきはヘッドレストの位置と形状で、楽な姿勢をしていても後頭部をヘッドレストがしっかりとサポートしてくれる。思わず「こんな出来のいいオフィスチェアがあったら、間違いなく仕事がはかどるのに……」なんてことを考えてしまうほど、快適な掛け心地だった。
乗り心地がよくなって静粛性も高まり、さらにシートがよくなったのだから長距離運転が楽になっていることは疑う余地がない。現行型アテンザが出たときに刮目(かつもく)させられたアクセルペダルのレイアウトは、腰や足首をひねらなくてもまっすぐ右足を伸ばすだけで無理なく操作できる美点が新型でもそのまま引き継がれていたから、その点でも疲れ知らずのはず。今回は高速道路のクルージングを中心に400kmを走行して平均燃費は15km/リッター台だったので、運転次第では無給油で1000kmは走れるだろう。残念ながらワインディングロードを飛ばす機会はなかったものの、ハイスピードクルーザーとしての資質はかなり高いはず。その意味でも、ヨーロッパ車とよく似た価値観で磨き上げられたセダンだといえる。
(文=大谷達也/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
マツダ・アテンザセダンXDプロアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4865×1840×1450mm
ホイールベース:2830mm
車重:1530kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R17 97V/(後)225/55R17 97V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:327万7800円/テスト車=349万9200円
オプション装備:特別塗装色(スノーフレイクホワイトパールマイカ)(3万2400円)/セーフティクルーズパッケージ(スマート・ブレーキ・サポート<SBS>&マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール<MRCC>、スマート・シティ・ブレーキ・サポート[後退時]<SCBS R>、リアパーキングセンサー<センター/コーナー>、ドライバー・アテンション・アラート<DAA>)(7万5600円)/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(2万7000円)/Boseサウンドシステム(AUDIOPILOT2+Centerpoint2)+9スピーカー(8万6400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:3364km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:405.6km
使用燃料:26.0リッター
参考燃費:15.6km/リッター(満タン法)/15.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。