ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX(4WD/7AT)
あくまでもドライバーズカー 2015.03.16 試乗記 2年半の時を経て、「ホンダ・レジェンド」がいよいよ復活。先進のハイブリッド4WDシステムを携えた、ホンダのフラッグシップセダンの走りを試す。4輪で発電し、4輪を駆動する
「アキュラRLXスポーツハイブリッドSH-AWD」の日本版が新型レジェンドである。北米市場にアキュラRLXが投入されたのは2013年3月。スポーツハイブリッドの追加は2014年9月。日本市場はハイブリッドのみ、という方針は「アコード」と同じである。
いまやハイブリッドと聞いて驚く時代ではないが、新型レジェンドのそれは刮目(かつもく)に値する。直噴3.5リッターV6にモーター(35kW)内蔵の7段デュアルクラッチ変速機を組み合わせて前輪を駆動する一方、後輪をモーター(27kW)2基で左右それぞれ別個に駆動する。そのTMU(ツイン・モーター・ユニット)とフロントのハイブリッドユニットを統合制御するのが、新型レジェンドのハイライト、「スポーツハイブリッドSH-AWD」である。先代レジェンドの目玉だったSH-AWDの進化形だ。
エコ性能に着目すると、これにより4輪でエネルギー回生ができるようになった。“走り”に関していえば、SH-AWDが狙うオン・ザ・レールの旋回性能がますます深化したという。試乗前の技術説明会では、チーフエンジニア自ら「かつてだれも経験したことのないクルマとの一体感が味わえる」と述べ、期待を盛り上げた。
試乗会のスタート地点は北九州空港。関門海峡を越えて山口県の秋吉台まで走り、門司へ引き返すという200kmのテストドライブだった。
緻密な制御が支える自然な走り
月販計画台数300台の新型レジェンドは、680万円の「ハイブリッドEX」ワングレードである。明るいアイボリーの内装もあるが、ぼくらがチョイスしたのはブラック。シックだが、ダッシュボードのデザインなどは適度に若向きでスポーティーだ。いかにもホンダのフラッグシップという感じの上等なインテリアである。だが、スタートボタンを押してクルマを起こすと、レクサスの音がした。ウエルカムのジングルが、レクサスのあの音ソックリなのである。
それはともかく、走りだすと、3モーターハイブリッドに生まれ変わった新型レジェンドは、悠揚せまらぬ高級車である。通常の発進時はTMUのみの後輪駆動、緩やかな加速では前輪駆動、急加速では四輪駆動と、トラクションを使い分けているはずだが、その違いは体感できない。急加速時はV6のうなりが耳に届くが、スイートと言ってもいい快音である。減速時には3つのモーターでエネルギー回生をしているのに、ヒューンという特徴的な発電音は聞こえない。そのため、ハイブリッド感はない。静かなマルチシリンダーの高級セダンに乗っている感じである。
だが、ヘッドアップディスプレイにトラクションのモニターを呼び出すと、最新型SH-AWDの人知れぬ仕事ぶりが目でわかる。いま、4輪各輪にどれだけの駆動力がかかっているか、どれだけのエネルギー回生(制動力)が発生しているか、その様子がリアルタイムでグラフィック表示されるのだ。駆動は緑の矢印、エネルギー回生はブルー。最大3コマの矢印の数でその強さが表される。視点を移さずにすむヘッドアップディスプレイに出るというのがミソだ。新型レジェンドの楽しい仕掛けである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ウエットで実感する“全輪制御”の底力
ハンドリングチェックのステージにあてられた長いワインディングロードは、あいにくの雨だった。それもかなりの雨量で、路面には水たまりができている。しかしそのおかげで、スポーツハイブリッドSH-AWDがもたらす操縦安定性の高さを実感することができた。
ヘッドアップディスプレイを見ていると、4輪に実にマメに駆動力とエネルギー回生(減速力)が振り分けられているのがわかる。そうやって理想のトルクベクタリングを実現するのがこのシステムの目的だ。後輪はモーター駆動と聞いて、ドテッとした押し出し感を想像したが、そんな大味さはない。「かつてだれも経験したことのないクルマとの一体感が味わえる」ほどだとは思わなかったが、車重1980kgの大型セダンとしては、身のこなしは軽快で、操縦を楽しめる。
ウエットな路面で試しに一度急発進すると、後輪が一瞬ホイールスピンした。状況によっては、走行中、後輪どちらかだけの1輪駆動で進むこともあるそうだ。
200kmの試乗で車載燃費計は7.6km/リッターを示した。3つのモーターで4輪からエネルギー回生をしていることを考えると、期待はずれである。燃費よりもパワーのハイブリッドということか。
ショーファードリブンとしても使えるが……
運転席まわりで目を引くのは、エレクトリックギアセレクターだ。シフトレバーを廃して、スイッチにした。しかし、レバーなら前後に動かすワンアクションですむものを、なぜわざわざP、R、N、Dの4つのスイッチに置き換えるのか。実際、一見さんには決して使いやすくなかったが、慣れると、車庫入れなどで前進と後退を繰り返すようなときに便利だという。
リアシートは実に快適である。ホンダの社長送迎車になるクルマだから、当然だ。助手席背もたれの右サイドには、シートスライドとリクラインの電動スイッチが備わる。後席から助手席をコントロールするスイッチだ。ショーファードリブンで使われるVIPカーの証しである。
でも、レジェンドはドライバーズカーだ。外から見た“押し出し”になんら利くわけでもない凝った駆動制御システムを搭載する高級ドライバーズセダンである。
欲を言えば、押し出しのほうももうちょっとがんばってほしかったと思う。いかにもインチの定規でデザインしましたという感じのスタイリングは、北米では見栄えするかもしれないが、センチの日本ではちょっと大味に見える。レジェンドファン、ホンダファンだけでなく、今度は同価格帯の輸入車ユーザーにもアピールしたいというならなおさら、その点が惜しい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1890×1480mm
ホイールベース:2850mm
車重:1980kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 SOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:314ps(231kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:37.8kgm(371Nm)/4700rpm
フロントモーター最高出力:48ps(35kW)/3000rpm
フロントモーター最大トルク:15.1kgm(148Nm)/500-2000rpm
リアモーター最高出力:37ps(27kW)/4000rpm(1基当たり)
リアモーター最大トルク:7.4kgm(73Nm)/0-2000rpm(1基当たり)
システム最高出力:382ps(281kW)
システム最高トルク:47.2kgm(463Nm)
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)245/40R19 98Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:16.8km/リッター(JC08モード)
価格:680万円/テスト車=686万4800円
オプション装備:※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。