ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX(4WD/7AT)
フラッグシップに求められるもの 2015.04.15 試乗記 10年ぶりに登場した新型「ホンダ・レジェンド」に試乗。ホンダの誇る最高級セダンの実力を確かめるとともに、その課題を探った。コンプレックスを技術力で覆す
ドライブシャフトの左右長が異なるため、トルクステアが起こりやすく、キックバックにより操作フィールも濁りがち。当然ながら大きな車体を動かす高出力・多気筒エンジンの搭載車ほど、その傾向は顕著になる。
そもそも前輪駆動で、いわゆる高級車を作るのは無理といわれてきた技術的根拠はそういうところにあった。物理的特性ゆえ、それは今も根本的に解消されたわけではない。が、周辺技術の進歩でその特性はかなり軽減されている。FFで高級車が成立しないと断じられるのは20世紀までの話としていいだろう。そう個人的には思う。
ただし、そこには何らかの理由が欲しいことも確かだ。あえてFFである理由、それはFRではかなえられないパッケージ上のメリットでもいい。もしくはそのメカニズムを基にした4WDへの発展性でも構わない。例えば、それを高級車と呼ぶには賛否あるかもしれないが、「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」のパッケージは、エンジン横置きのFFでなければ到底かなえられない。またアウディは、FFベースでありながらエンジンを縦置きとすることでドライブシャフトを等長化し、プロペラシャフトをセンターに通すレイアウトで奇麗に4WDの高級車を形成している。
というわけで、ホンダ・レジェンドである。FFのプラットフォームをベースとしながら、一時はフロントミドシップと銘打ちエンジンの縦置き化を敢行。その後は横置きに戻るも、今度は左右後輪を増速差動させる4WDでハンドリングの自由度を向上……と、その背景にはいつも、FRに対するホンダのコンプレックスがあったことは想像に難くない。だからこそ、物理特性も既成概念も技術で覆す。それはいかにも彼ららしいやり方だ。
が、ホンダが知恵を絞るほどに、レジェンドは不振への道を進んでいく。それを長いものに巻かれるかのような高級車市場の保守化や形骸化と結びつけるのはたやすい。日産にしても高価格帯の市場ではトヨタの後塵(こうじん)を拝しっぱなしだ。輸入車をみてもLセグメントには新たなモデルが続々投入されているが、メルセデスの優位はやすやすとは揺るがない。
とはいえ、レジェンドを取り巻く環境をみていると、不振の原因はそれだけではなさそうだ。少なくとも僕の目にはそのように映る。日本市場では10年ぶりの投入となった新型には、果たして財布を開かせる何かが宿っているのだろうか。
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サイズを感じさせない俊敏な走り
新しいレジェンドの一番の見どころは、先代で採用した「SH-AWD」をモータードライブ化することにより、後軸への駆動伝達をバイワイヤ化したことにある。つまり、駆動用のモーターは前軸側に横置きされる3.5リッターV6エンジンと7段DCTの間に1つ、後軸用に左右輪を独立回転させる2つと、計3つのモーターを持つハイブリッド車となっているわけだ。後軸の電動化により前後をつなぐプロペラシャフトは当然省かれたほか、後軸の2つのモーターはハウジング内に一対で収められ、そのサイズもFR車のリアデフと大差ない。4WD&ハイブリッドという重厚なメカニズムでありながら、そのパッケージングに大きなメリットがあることは、同様のメカニズムを搭載する新しい「NSX」が間もなく証明することになるだろう。ちなみに3つのモーターはすべて内製となる。
システム全体では382psの最高出力を発生する一方で、燃費は16.8km/リッター(JC08モード)。いわば4リッターオーバー級の動力性能を2リッター級の燃費と両立させたというレジェンドの走りは、その体躯(たいく)からは想像がつかないほどに軽やかで俊敏だ。言うまでもなく、一番の貢献を果たしているのは進化したSH-AWDである。
EV走行よりエンジンが始動してからのレスポンス、定速走行から急加速する際のモーターの駆動連携といったハイブリッドパワートレインのしつけは、「アコード」にも増して洗練されていて、トヨタが「クラウン」などに搭載する最新世代の縦置き用ハイブリッドシステムに対しても大きな遜色はない。エンジン始動時の振動はわずかに感じられるが、そのぶんエンジン本体のレスポンスやサウンド、そしてパワーの乗り方は、アトキンソンサイクルを主軸とするトヨタのそれに明確に勝っている。
対して、組み合わせられるトランスミッションは変速スピードやつながり感がルーズな設定で、伝達効率はともあれフィーリングの面ではデュアルクラッチ式のメリットは感じられない。例えば「グレイス」や「ジェイド」など、DCTを搭載する直近のホンダ車は総じてこの傾向にある。想像するに、「フィット」での度重なるリコールを踏まえてDCTのセットアップが相当慎重になっているのだろう。レジェンドの場合、その滑らかさは逆に芸風とも受け止められるが、他のモデルではDCTの長所をどう引き出すかが今後の課題になってくるのではないだろうか。
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コーナリングに表れる技術屋としての意地
大パワーを従えてのコーナリングはレジェンドが最も得意とするところであり、ライバルと明確な違いが感じられるところだ。要となる後輪の差動は、交差点ひとつ曲がるにしても、車線変更程度の舵角(だかく)でも、絶え間なく介入している。操舵(そうだ)方向に対して外輪は頻繁に増速する一方、内輪はハイペースの走行でもない限りは黙々と電力を回生する、その様子はメーター内の液晶モニターだけでなく、明瞭なヘッドアップディスプレイでも確認できる仕組みだ。
感心するのは明らかに駆動力で旋回ゲインを高めていながら、挙動の側にそのリアクションが嫌みとなって表れないことである。操舵フィールに差動の違和感をわずかに覚えることもあるが、速度域が上がるとともに車体の動きが大きくなれば、その感触も霧散する。ブレーキのタッチも然(しか)りだが、類例のない高度な電子技術を自然なフィールに手なずけた辺りに、ホンダの技術屋としての意地が感じられる。ともあれ、全長5m、車重2tクラスのクルマにして、その曲がりっぷりはお見事で、ワインディングでの軽快感はDセグメント級を思わせるほどだ。
アコードのそれに比べれば、応答もまずまずリニアになった追従型クルーズコントロールを用いての“高速巡航燃費”は、12~13km/リッター。車格や動力性能に照らせばハイブリッド車として及第といったところだろうか。FFベースらしくキャビンは広々としており、試してみた後席の乗り心地も特筆するほどではないにせよ、ピッチ、ロール共によくチェックされている。単にハイテクで突っ走るというだけでなく、車台やアシといった基礎の部分もおざなりにはしていないことは伝わってきた。
しかしサルーンとして模範的に四角く広い後席にいて思うのは、これが果たしてホンダのフラッグシップとしてあるべき姿なのだろうかということだ。仮に国内市場は二の次であれば、じゃあアキュラのフラッグシップとして求められた結果なのだろうかという見方をしても、やはり釈然とはしない。
クルマの出来はいいのだが
釈然としない最大の理由は、その商品コンセプトに持てる技術の必然が感じられないからだ。大人4人がゆったりとくつろぎながら移動できる空間がマストというならば、曲がりを輝かせるためにこれほど技巧を尽くした中身は必要ない。というわけで輸出仕様には一般的なFFモデルもあるが、それではあまたのライバルにまみれることになり、ますます求める意味が見いだしにくくなる。
意匠の良否は人それぞれゆえ、いつも言及は避けているが、強いて言えばレジェンドのデザインはたとえ快適な居住性をかなえているとしても、パフォーマンスを予感させるキーワードには著しく乏しい。タッチパネルを用いてもなお煩雑な操作系を一等地に据えたインテリアのデザインも凡庸で、身勝手に言えば僕はまったく心を動かされない。
ここで思うのは、果たしてホンダもしくはアキュラのフラッグシップサルーンの後席でふんぞり返りたいというユーザーがどのくらいいるのかということだ。逆に言えば運転席こそが特等席というユーザーに選ばれることこそが、ブランドとして本望だろう。であれば、従来の高級車像を木っ端みじんにしてしまうようなコンセプトをレジェンドに期待しても見当違いではないはずだ。
後に控えるNSXの登場が、混迷するアキュラのブランディングを大きく転換させる好機になることは間違いない。そのためには主要モデルの技術とデザインに横串を通すこと、それらを束ねる明快で強固なブランドポリシーが必須となる。ことによると、外圧をはねのけてそのポリシーを貫く強力なリーダーシップも必要だろう。が、その総本山ともいえるレジェンドから感じられるのは、技術の優位性と装備込みでのライバルに対する値ごろ感といったところだ。中身の仕上がりに異論はなく、持てるものに可能性も感じるだけに、やはり口をつくのは残念という言葉である。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1890×1480mm
ホイールベース:2850mm
車重:1980kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 SOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:314ps(231kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:37.8kgm(371Nm)/4700rpm
フロントモーター最高出力:48ps(35kW)/3000rpm
フロントモーター最大トルク:15.1kgm(148Nm)/500-2000rpm
リアモーター最高出力:37ps(27kW)/4000rpm(1基当たり)
リアモーター最大トルク:7.4kgm(73Nm)/0-2000rpm(1基当たり)
システム最高出力:382ps(281kW)
システム最高トルク:47.2kgm(463Nm)
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)245/40R19 98Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:16.8km/リッター(JC08モード)
価格:680万円/テスト車=686万4800円
オプション装備:※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3498km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:353.5km
使用燃料:35.2リッター
参考燃費:10.0km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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