マツダ・ロードスター 開発者インタビュー
スポーツカーを楽しもう 2015.03.25 試乗記 マツダ商品本部
主査
山本 修弘(やまもと のぶひろ)さん
より軽く、よりコンパクトに進化した新型「マツダ・ロードスター」。開発のエピソードと、そこに込められた思いを、主査の山本修弘氏に聞いた。
逆境が初心に立ち返らせてくれた
――3代目ロードスター(NC)の発売が2005年8月ですから、およそ10年ぶりのフルモデルチェンジになりますね。長い開発期間に、リーマンショックなどさまざまなことがあったと思うのですが、コンセプトがブレたりはしなかったんですか?
そうですね。確かにリーマンショックのせいで開発期間が延びて、スケジュールが遅れてしまったのは事実ですが、今思えば、それが非常にいい結果をもたらしたんだと思います。ロードスターは本来どうあるべきか、自分たちは何を作りたいのか、もう一度考えるチャンスが与えられたので。
それまではちょっと「イケイケどんどん」な空気があったのですが、「そうじゃなくて本当に欲しいものだけにしよう。不要なものはそぎ落とそう」と、いろいろ見つめなおすことができました。
――それ以前は、コンセプトの異なるクルマだったんですか?
コンセプトは変わっていません。ただ、まわりの意見が多かったんですよ。各リージョンの「ああせい、こうせい」という声が。日本はマツダにとって非常に大事なマーケットなんですけど、ボリュームが小さい。だから「たくさん売れている市場の要求を聞け!」となるわけです。それはごもっともなんですけどね(笑)。
――日本での販売は、世界マーケットの何割ぐらいなんですか?
2割ぐらいじゃないかな(編集部注:累計販売台数で約18%、2014年単年で約5%)。残りは北米と欧州で半々といったところでしょう。
――北米などからは、「もっと大きなクルマにしてくれ」と言われそうですね。
いえ。そうした声はむしろヨーロッパからの方が多かったですね。ドイツでもオランダでも、向こうは体の大きい人が多いですから。彼らが引き合いに出すのはMINIの「コンバーチブル」や「ロードスター」なんですよ。「どうだ売れてるだろう? 荷物もいっぱい入るだろう? こんなクルマを作れ!」と。で、こっちは「作らない!」と突っぱねるもんだから、ずいぶん戦いになりました。
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目標を下げたらいいものはできない
――新型は非常にコンパクトで、資料では初代ロードスター(NA)の数値を引き合いに出していましたが、このサイズは当初から狙っていたものなのですか?
確かにコンパクトに作ることに全身全霊を傾けましたが、実際の寸法はすべてその“結果”で、「いくらのサイズにしなさい」という指示は出していません。
ただ、重量はどうしても「1トン」という目標を立ててやってきました。最初はみんな「できない、できない」と言うわけですよ。「ここにアルミを使わないとできない」「カーボンを使わないとできない」「『エリーゼ』はこうなっている」と。でも「ロードスターはそうじゃないでしょう?」という話を何度もして、技術でもって軽くしようという取り組みを繰り返して、あの車重を実現しました。誰かがどこかで「もうええわ!」となっていたら、そこで終わっていたでしょう。
自動車の開発は、どこかを緩めたら絶対ダメなんですよ。与えられた目標をクリアするためにはどうすればよいか、それを考えるのがエンジニアリングですから。
――トランクや給油口のオープナーもなくなっていますよね。あれも軽量化のためですか?
そうです。ワイヤとレバーと、電磁ロックを比べてみたんです。そうしたら、電磁ロックは高いけど軽かったんですよ。数グラムですが。
――助手席側のグローブボックスをやめたのも?
早々に割り切りました。軽量化と、助手席の居住性のためですね。ダッシュボードにはもうエアバッグとエアコンが入っていて、そこにグローブボックスをつけるとどうしても足元が狭くなる。だったらやめようと。軽量化にもなるし。海外からは相当反発を食らいましたけど(笑)。
困ったのは車検証入れの置き場です。車検証は紙一枚なのでなんとかなりますが、一緒に入っている取説(取扱説明書)は分厚いでしょう? ほかにも収納スペースがあるとはいえ、あれは結構かさばりますから。
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NAのファンに言いたいこと
――それで、取説はどこにしまうように考えたんですか?
お客さまには「取説は一度読んだら、家に保管しておいてください」と説明することにしています。皆さん、そんなにしょっちゅう取説見ないでしょう?(笑) それに、そういう話をすると、ファンクラブの方は工夫するんですよ。自分で取説入れを作ってみたり、友達の分まで作ってあげたりして。そういった手間も楽しんでもらえたらいいなと。まあこれは、ちょっと私の身勝手な考えかもしれませんが。
――先日、横浜のマツダR&Dセンターで開催された「THANKS DAY in JAPAN 2nd」を取材した際、山本主査がたくさんのファンに声をかけられているところを拝見しました。昨年9月のお披露目以来、多くの人とお話しする機会があったと思うのですが、どんな声が多かったですか?
いろいろな意見や質問をいただきましたけど、一番印象に残ったのは、NAのオーナーさんの「NDを買いたいんだけれど、NAを売りたくないんです。どうすればいいでしょう? 山本さんならどうしますか?」という相談でした。
――……それは難しい質問ですね。
この気持ち、本当によくわかるんですよ。それだけに頭が痛い。現実的ではないのは承知の上で、「○○さん、それはもう買い足ししかありませんよ」としか答えようがないですから。だって、NAは手放せないでしょう? 「NAを売ってNDを買ってくれ」なんて言えません。
理想としては、ちょっとの間でもNAとNDを一緒に持っていられればいいと思うんです。そうしたらきっと、「NA、今まで本当にお疲れさま」と納得してお別れできるでしょう。でも、自分の中で納得できないままにNAを手放すと、きっと「ああ、しまった」って後悔しますから。
だから、本当にNAが好きな方には「しばらく(NDの)様子を見ていてください。自分がちゃんと納得するまでは、NAに乗っていてください」と言いたい。あるいは、「クルマはいつか乗れなくなる日が来るから、その時が来たら、NDに乗り換えてくれればいいですよ」と。
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「若者のクルマ離れ」を嘆く前に
――THANKS DAY in JAPANは、1st、2ndともに、たくさんの方が来ていましたね。年配の方ばかりかと思っていたら世代にそんなに偏りがなくて、若い方を結構見かけたのが意外でした。
主に中古のNAやNBのオーナーさんのようですね。こうしたイベントやファンミーティングで友達ができるのが楽しいのでしょう。今回のイベントに来てくださった方は、とにかく皆さん熱心で、中にはネクタイ姿で「仕事の合間に抜け出してきました」という方もいました。御殿場の会場では敷地内を走ることもできたんですけど、こちらがうれしくなるくらい、本当に喜んでくれました。
ロードスターのまわりにいる人は、みんな本当にクルマが大好きなんですよね。私たちは、クルマが好きな人をもっともっと増やさないといけないんですよ。そのためには、若い人に乗ってもらおうというだけじゃなくて、大人が楽しくクルマに乗っている姿を見せなきゃいけない。残念だけど、今はそれができていませんから。
中山(新型ロードスターのチーフデザイナーを務めた中山 雅氏)はよくスーパーカーの話をするでしょう? スーパーカーって昔は憧れの存在でしたけど、あれも親が見るから、子供も「なにを見ているんだろう?」って関心を寄せるんですよ。イギリスでは、お父さんが子供の手を引いてグッドウッド(英国のヒストリックカーイベント)に行くじゃないですか。それで、古いクルマの前でうんちくを語るわけですよ。あれが文化なんですよね。まずは私たち大人がクルマを楽しまないと。
――ありがとうございます。最後なのですが、新型ロードスターの開発で、やり残したことはありませんか?
7年も目標を掲げてやってきて、クルマの性能は狙った通りのものを実現しました。でも、まだまだ、やりたいことがいっぱい出てくるんですね。山に登ったら、見えないものが見えてきたという感じで。エンジンもNVHもサウンドも、ここまでできたら、もっとできることがいっぱいある。終わらないですよ、開発は。
――次に出るモデルは、もっと軽くなるでしょうか?
次のモデルチェンジは、また10年後でしょうね(笑)。
(インタビュー=下野康史<かばたやすし>/まとめ=webCG 堀田剛資/写真=荒川正幸、マツダ、webCG)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。