第295回:何もかもが未知のホンダジェット
それは僕らに突き付けられた挑戦状なのか?
2015.05.12
エディターから一言
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最大巡航速度778km/h、お値段5億4000万円と、何もかもが未知の世界の「ホンダジェット」。日本で初飛行を果たしたホンダ悲願のビジネスジェットを、僕らはどう見ればいいのだろうか?
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日本中が注目したホンダ製のビジネスジェット
「こんなに注目されてるなんて知らなかったなあ」
ホンダジェットの記者会見場で偶然会ったwebCG編集部員のホッタ青年が周囲を見渡してつぶやいた。クルマ関連で知っている顔もあったけれど、大多数はテレビ局や新聞社の記者みたいで、いつものホンダのそれとは明らかに雰囲気が異なっていた。
会見の会場だってそうだ。待ち合わせの場所が羽田空港国際線ターミナル。そこから大きなバスで空港内を移動してANAの巨大な機体格納庫へ。日本に初飛来するホンダジェットを待ち受けるのに最適といえばそうなのだけど、相当に手が込んだ仕掛けだ。
そして、僕もホッタ青年と同じことを思った。なぜこんなにホンダジェットは注目されるのだろうと。午後5時まで続いたイベントから帰宅し、テレビをつけたら夕方のニュースでもう取り上げていて、その思いがさらに強くなった。さらには記者会見から5日後のテレビ東京『ガイアの夜明け』では丸々ホンダジェットを特集していた。
これまでにない飛行機なのだという。最大の特徴は、両翼の上にエンジンを搭載したこと。ビジネスジェットと呼ばれる小型機の場合、胴体後部にエンジンを置くのが常だが、振動と騒音は覚悟して乗るものらしい。そうではないもの、つまり「今までにない技術と価値を生み出す“ホンダイズム”」にのっとり、誰もやらなかったレイアウトに挑んだそうだ。
個性的な設計と“オールホンダ”の開発体制
その主翼上面エンジン配置を発想したのは、ノースカロライナ州の空港のすぐそばに本社を構えるホンダエアクラフトカンパニー社長の藤野道格さんだ。東大工学部航空学科卒業後の1984年にホンダへ入社した藤野さんは、1986年にホンダが飛行機の開発を始めた瞬間、クルマ部署からの異動を命じられたらしい。それから11年後の1997年のある晩、夢の中で主翼の上にエンジンを置くことを思いつき、カレンダーの裏の白紙にいきなりスケッチを描いたのだという。ポール・マッカートニーかよって突っ込みたくなった。
それはさておき、かつてなかったエンジン配置はその後、最適な場所に置きさえすれば空気抵抗が5%ほど低減し、燃費が12~17%向上することが証明され、いよいよホンダイズムにふさわしい設計コンセプトが固まったという。
もうひとつの特徴は、オールホンダであること。一般的に飛行機は機体とエンジンは別の会社が製作するものらしい。ところがホンダは当初からすべて自社でまかなうと決めていた。だからずっとターボファンエンジンなるものの試作を繰り返していた。
ちなみに量産機に積まれる「HF120」型エンジンは、アメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)との共同開発となっている。「やっぱりホンダだけじゃ難しかったんでしょ」とホッタ青年は勘ぐっていたが、実はそのひとつ前の「HF118」型まではホンダが独自で開発したそうだ。航空機には厳しい認定条件があり、量産ノウハウは他社から学ぶべきという経営判断によってGEとのコラボを選んだという。
新しいホンダの姿を想像できるか?
それにしてもだ。最新カーボンコンポジット技術をふんだんに投入した機体開発を含み、丸ごと全部自分たちだけでやろうとした点はやっぱりホンダらしい。オールホンダ。往年のF1を思い出させるフレーズ……。
けれどそれ以外、自分に引き寄せられるものは何もない。そもそもビジネスジェットがなんだかよくわからない。世界には2兆6000億円の市場があり、全米では約2万機が保有されているという事実は『ガイアの夜明け』で知った。最大7人乗りのホンダジェットの価格は約5億4000万円。同クラスでは妥当な値付けらしいが、法人所有にしたって5億の買い物に想像が追い付かない。
だからこそなぜ日本の記者会見でこれほど注目が集まったのか、やっぱりよくわからないのだ。あるいは灯台下暗しというか、モータージャーナリスト系は文字通りモーターに親しみ過ぎたあまりジェットに疎すぎるのだろうか? そしてまた根本的なところでホンダの価値を見誤っているのだろうか?
ホッタ青年よ、もしかすると僕らは試されているのかもしれないぜ。お前らの知っている姿は過去のもの。これからのホンダがイメージできるか? そういう挑戦状だとしたら、僕らはどんな答えを出せばいいのだろう? そのための足掛かりとしてホンダジェットの試乗会を開いてくれないかな。そうすれば今より少しは未来のホンダが想像できると思うのだけど。
(文=田村十七男/写真=webCG、本田技研工業)

田村 十七男
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