スズキ・アルトラパンX(FF/CVT)
走りを取るか、乗り心地を取るか 2015.07.03 試乗記 新世代プラットフォームの導入を機に、燃費だけでなく走りの質でも注目を集めるようになったスズキの軽自動車シリーズ。そのトレンドは女性をターゲットユーザーとした「アルトラパン」にも当てはまるのか? その走りの実力を試した。軽いがゆえのセッティングの難しさ
スズキのシャシーは今まさに躍進の時期にある。例えば商用バンとして活躍する「エブリイ」に乗ったときなどは、本当に驚いた。操作に対し穏やかかつリニアに反応するステアリング。路面の凹凸を上手にいなすダンピング。クルマを支える4つのサスペンションが、タイヤを地面に押しつけながらジワッと伸縮するから、ロールが怖くない。むしろ運転が楽しくなる。まるで「フィアット・パンダ」のように! 開発陣によれば、これは欧州で開発された「SX4 Sクロス」や「スイフト」の評価を積極的に取り入れた結果なのだという。商用バンに!
さて主題のアルトラパンだが、まず評価したいのはボディーのよさだ。アルトがベースということで軽量に仕立てられており、今回試乗したグレード「X」(FF)でも車重はたったの680kg。これに1525mmの全高も効いて、カーブでフラフラしない。軽さが貢献する剛性感の高さも「アルト」ゆずりで、軽自動車を意識させない質感を持っていた。
問題があるとすればフロントサスペンションの剛性だ。ダンパー、スプリング、ブッシュといった伸縮部材の剛性が低く、街中ではハンドルを切っても狙ったラインの通りに走らせるのが難しい。これは「女性ユーザーを意識してのコンサバな味付けなのか?」と開発陣に尋ねると、確かに社内でもハンドリングでは意見が二分しており、具体的にはダンパーなどのダンピングレートを上げると、同時にフリクションも大きくなることが問題だという。車体が軽いからこそ、少しでもアシが突っ張れば、普通のクルマより乗り心地が悪化するのだ。エブリイがしなやかだったのに対し、アルトがいまひとつ安っぽい乗り心地だったこともこれで合点がいった。つまりアルトは操縦性を優先し、今回ラパンは乗り心地を取ったということになる。ただ高速道路でのレーンチェンジなどでフロントの巻き込みがやや早いので、もう少しだけダンピングレートを上げた方がよいと話をさせてもらった。
「女性目線で徹底的に作り込んだ」ことが話題の核になるであろうラパンだが、走りも徹底的に考えて作り込まれている。スズキの開発陣たちは自動車を開発することを、心底真剣に楽しんでいると感じた。ラパンが売れに売れて、もっといいダンパーを使えるようになったなら、かなりすごいクルマになっちゃうと思う。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
【スペック】
全長×全幅×全高=3395×1475×1525mm/ホイールベース=2460mm/車重=680kg/駆動方式=FF/エンジン=0.66リッター直3 DOHC 12バルブ(52ps/6500rpm、6.4kgm/4000rpm)/トランスミッション=CVT/燃費=35.6km/リッター(JC08モード)/価格=138万9960円

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。