第307回:世界に誇るミドシップ車の専門工場!?
八千代工業で「ホンダS660」が生まれる瞬間に立ち会う
2015.08.12
エディターから一言
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「ホンダS660」を注文して、納車を待っている皆さん。今、四日市の工場で一生懸命作っているので、楽しみに待っていてください! ……と関係者でもない人間が言うのもヘンだけれど、八千代工業の四日市製作所でS660の製造風景を見学した私は、本当にそう言いたくなってしまった。
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S660の工場として八千代工業が選ばれた理由
自動車の製造工場というと、ロボットが動き回り、それを補佐するように人間が淡々と作業するというイメージがあった。
テレビのニュースで見る「自動車の生産台数が過去最高を記録」みたいな映像はいつもそんな感じだ。
でも、ここ八千代工業四日市製作所の風景は、そんなイメージとは少しちがっていた。
想像していたよりもずっと、人がクルマの製造に関わっていたのだ。
八千代工業四日市製作所の1日あたりの生産台数は、現在およそ150台。そのうち48台をS660の生産に充てている。
48台のS660以外はなにを作っているのかというと、「アクティ トラック」「アクティ バン」「バモス」「バモス ホビオ」だ。
「えっ? 軽トラと一緒に作ってるの!?」と思われた方、確かにそうなのだが、この生産ラインナップにはもう一つキーワードが隠されている。
……そう、八千代工業四日市製作所は、世界に数少ない「ミドシップ車専用工場」なのだ。恐らく生産台数では、ダントツで世界一なのではないだろうか。
「まあたしかにアクティはミドシップかもしれないけど……」と、私も当初は思った。
けれども、今回のメディア向け工場見学会に同席したS660の開発責任者である椋本 陵LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)によると、八千代工業四日市製作所をS660の製造工場として選んだ理由の一つに、ミドシップ車の製造に習熟している点があったという。
実をいうと私は、つい最近まで20年物のアクティ バンを所有していた。それを自虐の意味も込めて「農道のフェラーリ」なんて呼んでいたけれど、やっぱり正真正銘のミドシップマシンだったのだ。椋本さんのお墨付きを得られたようで、ちょっと鼻が高い。
アクティやバモスと一緒にS660が流れていく
いざ工場に入ってみると、まず驚くのが本当にアクティとS660が一緒に作られているということだ。
別のラインで作っているとか、隅っこの方で組み立てているとか、時間を決めて作り分けているとかではなく、同じラインで「次はアクティ トラック、次はバモス、次はS660」という風に、ランダムに製造されているのである。
元アクティオーナーとしては、うれしいような、それでいていささか申し訳ないような気持ちになってしまうが、この柔軟性こそがS660製造のキモとなっているのだ。
つまり、少量生産のスポーツカーを高い品質で、しかも手の届く値段で製造するには、軽トラとの混流生産が可能な八千代工業四日市製作所の技術が必要不可欠なのである。
大量生産の工場にはない、匠(たくみ)ともいえる従業員の腕と、柔軟に対応できるラインのシステムが、S660の市販化を可能にしたのだ。
もちろん、実用車の極みともいえるアクティと、オープンスポーツであるS660とでは、製品に求められる特性も品質も異なってくる。
そのため、八千代工業四日市製作所では、S660の軽量高剛性ボディーの生産を実現すべく、新たなプレス方式や加工方式を採用している。
またハンドリングなどの品質を保つために、専用のアライメント調整設備や走行テスト用のコースなどが設けられている。
出荷前検査はS660専用の「S660スペシャルレーン」と呼ばれるエリアで行われ、ここだけはアクティたちとは違ったラインを経て、出荷されることとなる。
クルマ作りもレースもエンジョイ
見学会の翌日、われわれメディアとホンダ関係者は鈴鹿サーキットへと移動した。
S660の開発陣とメディアとで、カートレースを楽しもうというイベントに参加するためである。
カートといっても遊園地にあるアレではなく、全員レーシングスーツ着用という本格的なものだ。私は直前に腰を痛めてしまい、100分×2回の耐久レースに耐えられる自信がなかったので、ステアリングは『webCG』のナイジェル・マンセルことH編集部員にゆだねることにした。
レース開始後、ナイジェル・マンセル改めナイジェル・肉の万世ことH編集部員はタイムが伸び悩み、他チームの後じんを拝する形となってしまったが、当人はとても楽しそうだった。
けれども、一番楽しそうにしていたのは椋本LPLや衝突安全担当の坂元 玲氏など、S660の開発陣だった(両氏のことが気になる人は、S660の開発者インタビューをどうぞ)。
私は、工場のラインをS660とアクティが連なって流れているのを見たときに、思わず「日本ってすてきな国だな」と感動してしまった。
アクティは、日本の農林漁業や建設業、物流を支える大切なクルマだ。
そんなアクティたちに交じって、生粋のオープンスポーツであるS660が作られている。こんな工場、ほかにあるだろうか。
「S660を作ろう」という計画を、創意工夫と技術と熱意で解決した結果が、目の前に流れるこのアクティとS660なのだ。とかく画一的だといわれがちな日本だけれど、実はこんな多様性があるのだ。いろいろなものが一緒にあるというのは、見ているだけでワクワクしてくる。
S660は、異例の若さでLPLに登用された椋本さんや、椋本さんの強力な右腕となった“金髪がトレードマーク”の坂元さんといった、個性的でバラエティー豊かなメンバーが開発に当たった。
「いろいろな人が一緒になって、いろいろなものを一緒に作る」という姿を見て、ワクワクにワクワクが重なってしまった。
こんな風にして作られるクルマを、首を長くして待っているという人がうらやましい。
あなたのS660、ただいま精魂込めて製作中ですから、しばしお待ちを!
(文=工藤考浩/写真=工藤考浩、本田技研工業、webCG)
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工藤 考浩
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