シトロエンC4セダクション アップグレードパッケージ(FF/6AT)
プジョーとは違う“味”がある 2015.08.25 試乗記 新世代の1.2リッター直3直噴ターボエンジンとトルクコンバーター式6段ATを搭載した「シトロエンC4」が登場。その走りの実力と、同じエンジンを積む「プジョー308」との違いをリポートする。ファン待望の新しいパワートレイン
プジョーではなく、あえてシトロエン……というファンの方々には、これは待望のテコ入れだろう。C4に308と同じ新世代パワートレインが載った。エンジンはもちろん1.2リッター3気筒ターボだが、変速機もこれまでの2ペダル6段MT(商品名はEGS=エレクトロニック・ギアボックス・システム)ではなく、308と同じくトルコンの6段ATが組み合わせられる。
と同時に、今回はグレード構成も見直された。C4は日本発売当初、1.6リッター自然吸気と4段ATを組み合わせた「セダクション」と、同ターボ+6EGSの「エクスクルーシブ」でスタート。その後セダクションがフェードアウトして、エクスクルーシブのみとなっていた。で、今回の新パワートレイン搭載にともなって、ベースモデルとしてセダクションが復活した。
ただ、今回は上級モデルとして「セダクション アップグレードパッケージ」が登場。その内容は、パノラミックガラスルーフ、スマートキー(エンジンスタートボタン付き)、17インチホイール、フロントソナーに加えて、最近話題のレーダー系安全機能のひとつであるブラインドスポットモニターが追加されて、セダクションの20万円高となる。
まあ、C4が事実上の2グレード構成に戻ったということだが、上級のエクスクルーシブの名が使われない理由はよく分からない。以前の定義からすると「両グレードでパワートレインが同じだから」という理由も考えられるが、「C3」や「グランドC4ピカソ」では同じパワートレインで、セダクションとエクスクルーシブがあるからだ。
トルコン式6段ATの恩恵
今回の試乗車は、上級のアップグレードパッケージである。ちなみにプジョー・シトロエン・ジャポンでは、C4全体の80%がアップグレードパッケージになると想定している。
担当者は、今回の改良で「自動車税が安くなることや燃費向上に加えて、プジョーと同じ6段ATになったことで、より多くのお客さまにアピールできる」という。個人的には2ペダルMTは嫌いじゃないし、扱い方のコツをつかんだときの人車一体感は格別と思う。ただ、あれを「シフトアップ時の空走感が……」と親のカタキのように嫌う人たちがいるのも事実なので、インポーターの期待感は痛いほど理解できる。
軽量プラットフォームを前面に押し出す新しい308に対して、C4はいわば先代308の兄弟車であり、プラットフォームは1世代前の旧式ということになる。新パワートレインはエンジンチューンもATのギアリングも308と共通である。
ただ、今回のアップグレードパッケージでも車両重量は1330kgで、実は現在の「308シエロ」より10kg重いだけである。というわけで、新しい3気筒のC4も当たり前のように力強く走る。さらに6段ATなので、ストップ&ゴーを繰り返すような低速での柔軟性も言い訳いらずだ。
新しいC4で印象的なのは静粛性で、その場で乗り比べたわけではないし、実際の計測値も不明だが、「もしかしたら308より静かかも……」と思わせるのも事実だ。なんというか、高度な解析技術で余分な遮音・吸音材を省いた308に対して、C4の静かさは物量で抑え込んだように、ノイズが遠いのだ。変な言葉づかいをお許しいただければ「重厚な静粛性」とでもいうべきだろうか。
内装調度は基本的にこれまでと変わりないが、308比でいい意味での古さを感じるところでもある。繊細なメッキパーツの質感や組み立て精度は308に分があるが、C4のダッシュボードはタップリ肉厚でソフトタッチ。樹脂成形に308より甘い部分もあるものの、かわりに昔ながらの重厚な高級感がある。
ステアリングが醸し出す重厚感
パワートレインが共通化されたC4と308の車両重量差は、前記のとおりわずか10kgなのだが、スペックを確認しないと、とてもそうは思えない。C4のほうが乗っていてずっと重く感じる。この場合は“重厚感”という、いい意味での重さだ。単独で乗っているかぎり、しっとりと落ち着いた乗り心地とレスポンスで、17インチのネガも感じさせない。308より伝統的なフランス車っぽいといえば、たしかにそういう側面もある。
この好印象の一因となっているのが、ステアリングだろう。旧式プラットフォームのC4は、パワーステアリングも308の電動式ではなく電動油圧式。さらに超小径ステアリングホイールを売りとする現在のプジョーとちがい、C4のそれは380mmという最近としてはめずらしいほどの大径で、握りも細めである。
C4のステアリングフィールは308より明らかに重く潤いがあり、大径かつ細めのグリップなので、ステアリング操作も自然とゆったり上品になりやすい。こうしたもろもろの相乗効果で、C4は快活な308とは対照的な乗り味の醸成に成功している。
今回は横浜近辺の市街地と都市高速の試乗だけだったので、3気筒化によるノーズの軽さを体感するにはいたらなかった。ただ、3気筒ターボはエンジン単体では軽いのだろうが、トルコン式6段ATや補機類の関係でトータルパッケージとして特別に軽いわけではなそうだ。調べてみると、新しいC4の前軸荷重は、以前の1.6リッター自然吸気+4段ATより40kg重く、これまでの1.6リッターターボ+6EGSと比較しても20kg軽いだけである。仮にワインディングロードに持ち込んだとしても、私程度が体感できるかはビミョーだ(すみません)。
2つのプラットフォームが共存する“幸せ”
PSA(プジョー・シトロエン)にとって、両ブランドの差別化問題は永遠の課題である。最近のPSAがシトロエンから「DS」を分離しようとしているのも、その一環だろう。また、シトロエンは時代ごとに、高級になったり、RV風のスペース重視になったり……を繰り返している印象もある。失礼ながら、このC4などはもっとも差別化が困難なシトロエンのひとつだと思う。
それと同時に、ハードウエアの共通化は進むいっぽうで、あの「C5」に「ファイナルエディション」が登場したことで、シトロエン独自ハードウエア最後のトリデだった“ハイドロ”も、ついに終了だそうである。
以前は両ブランドでサスペンションチューンも明らかにちがっていたが、ひとつのプラットフォームにスイートスポットがいくつも存在するわけもない。時代を追うごとに似通ってきたのも否定できないし、意図的に差別化したことで、シトロエンがちょっとイビツに柔らかすぎる乗り味になってしまった例もある。
最近はステアリングホイールを超小径のプジョーに対して、シトロエンは大径で……と、表面的な運転感覚を差別化しようとしている。これはある意味でうまい手法だと思うが、根本的な解決にはならないだろう。われわれとしては、中身は同じでもブランドとデザインの選択肢があるだけでありがたいが、供給するメーカー側がいつも頭を悩ます問題でもある。
その意味でいうと、C4と308が世代ちがいのプラットフォームで共存する現在は、フランス車ファンにとっては、ちょうど幸せな時期なのかもしれない。プジョーとシトロエンの同クラス車が、パワートレインを共用化しても、ここまで味わいが異なる例は最近では少ない。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
シトロエンC4セダクション アップグレードパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1790×1490mm
ホイールベース:2610mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91V/(後)225/45R17 91V(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:16.3km/リッター(JC08モード)
価格:296万円/テスト車=315万9260円
オプション装備:ボディーカラー<ルージュ バビロン>(5万9400円)/SDメモリーカードナビゲーションユニット(12万9600円)/ETC車載器(1万260円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。