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ダイハツ・コペン セロ(FF/5MT)

人類の夢、ここに実現 2015.09.02 試乗記 今尾 直樹 「ダイハツ・コペン」に、第3のデザインとなる「セロ」が登場。ダイハツが誇る軽オープンスポーツカーの魅力に浸りつつ、いよいよ実現した“自動車の着せ替え”がかなえる可能性を想像する。

プロレスラーで例えるなら

こんなにスポーツカーしていたんだ! と驚いた。0.66リッターの直3ターボはまるで2リッター直4のような感触がある。サウンドは野太く、ステアリングフィールはしっとりしていて、ボディーはドイツ車のようにしっかりしている。乗り心地は硬めで、骨太感がある。乗り心地がこんなに硬いとは……。

「ホンダS660」が華麗なるテクニシャンだとすれば、コペンはパワーファイターである。ウィーッ! そう叫びながら、右手で牛のマークをつくって(人さし指と小指を伸ばし、中指と薬指と親指をくっつけて折り曲げる)天高く伸ばしたくなるほどに。テキサス・ロングホーン。「ブレーキの壊れたダンプカー」「不沈艦」スタン・ハンセン! ウエスタンラリアット!! えーっと、いまが何年だと思っているんだ。2015年だぁ。ウィーッ!

2代目コペンの直列3気筒12バルブDOHCターボは排気量わずか658ccから最高出力64ps/6400rpm、最大トルク9.4kgm/3200rpmを紡ぎ出す。5段マニュアルとの組み合わせだと、現代の基準からすれば、ありえへんくらいウルトラ・ローギアードだ。筑波山への道すがら、常磐道で試した100km/h巡航は5速トップで4000rpm近くにもなる。「軽は意外と燃費が悪いんだ。のべつ回しているから」と、徳大寺有恒さんがよく言っておられたことを思い出す。

単に思い出しただけで、21世紀のコペンにこの言葉は当てはまらない。カタログ燃費はCVTで25.2km/リッター、MTで22.2km/リッター。あえてホンダS660を引き合いに出せば、S660はCVTで24.2km/リッター、6MTで21.2km/リッターである。ちなみにS660の0.66リッター直3ターボは64ps/6000rpm、10.6kgm/2600rpmで、S660のほうが低速からトルクを出している。NA(自然吸気)に間違えそうなほどターボの違和感がない。対して、コペンはトルクがグワッと盛り上がる。そのストロングっぷりが私にいわせれば、スタン・ハンセンなのだ。ウィーッ! 

2015年8月に発売された「ダイハツ・コペン セロ」。セロは「ローブ」「エクスプレイ」に続く、第3の内外装デザインとなる。
2015年8月に発売された「ダイハツ・コペン セロ」。セロは「ローブ」「エクスプレイ」に続く、第3の内外装デザインとなる。 拡大
「コペン セロ」のインテリア。コペンでは「ローブ」「エクスプレイ」、セロのそれぞれに、専用形状のダッシュボードとセンタークラスターが用意されている。
「コペン セロ」のインテリア。コペンでは「ローブ」「エクスプレイ」、セロのそれぞれに、専用形状のダッシュボードとセンタークラスターが用意されている。 拡大
黒い内装色と赤いファブリックシートおよびドアトリムは、「セロ」の専用オプションである「レッドインテリアパック」に含まれるもの。標準仕様の内装色はブラウン、シートカラーはベージュとなる。
黒い内装色と赤いファブリックシートおよびドアトリムは、「セロ」の専用オプションである「レッドインテリアパック」に含まれるもの。標準仕様の内装色はブラウン、シートカラーはベージュとなる。 拡大
最高出力64ps、最大トルク9.4kgmを発生する「コペン」のエンジン。
最高出力64ps、最大トルク9.4kgmを発生する「コペン」のエンジン。 拡大
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いよいよ可能になった“着せ替え”

思えば、21世紀もはや15年が過ぎてしまった。昨2014年6月に発売となったダイハツの2代目コペンは、本年6月3日の時点で販売台数1万台を達成したという。好評の理由の一端が、ようやく筆者にも理解できた。なにしろ初めて乗って実感した。クルマのデキが素晴らしい!

高速直進性になんら不足はなく、高速道路での乗り心地は上々である。山道のハンドリングも楽しい。筑波山は走り屋を撃退するために行政が路面に凸凹をつくって危険な山道と化しているのでオススメはできないけれど、狭くてクネクネした道は得意中の得意だ。

おまけにコペンときたら、ボタンひとつで屋根が自動的に開いて閉じる。正確にはロックを2カ所、手動で外す必要がある。でも、このロックの作動が実にスムーズで軽い。ネイルに描いたアートを女性が気にしなくてもいいほどに。ロックを外したら、クーペからオープンカーに変身するまで、およそ20秒。曇り空でもためらう必要がない。屋根を開けて走るときの開放感は、オープンカーならではである。景色の観客ではなくて、空間と一体化する。

本稿の本題は、コペン発売1年後に登場した第3の意匠=衣装「セロ」についてである。セロとは、資料にいわく“丸みのある意匠と「DRESS-FORMATION」の始まりを表現すべく「Circle」と「Zero」からの造語”だという。DRESS-FORMATIONというのは、2代目コペンのウリのひとつ、新骨格構造「D-Frame」採用によって実現した内外装脱着構造のことである。骨格だけで応力を支えるから、樹脂製の外板やヘッドランプ類を自由に交換できる。

クルマの着せ替え人形は、構想としては昔からあった。80年代の「日産エクサ」や、90年代初めのマツダの軽ミドシップ「AZ-1」がすぐに思い浮かぶ。でも、市販車での実現は法規上と商業上のさまざまな制約がある。2代目コペンにせよ、セロより前に「ローブ」と「エクスプレイ」という2つのデザインが発表されていたけれど、この2台、前後ライトは同じように見えるし、いかにもパネルの相互取り換えができそうなのに、構造上の微妙な違いにより、実はできない。

2代目「コペン」は2014年6月に登場。当初の意匠は「ローブ」のみだったが、5カ月後に第2の意匠である「エクスプレイ」が、1年後に第3の意匠である「セロ」が追加された。
2代目「コペン」は2014年6月に登場。当初の意匠は「ローブ」のみだったが、5カ月後に第2の意匠である「エクスプレイ」が、1年後に第3の意匠である「セロ」が追加された。 拡大
テスト車にはオプションの「アルティメット・スポーツパック」が採用されており、BBS製の鍛造アルミホイールとLSDが装備されていた。
テスト車にはオプションの「アルティメット・スポーツパック」が採用されており、BBS製の鍛造アルミホイールとLSDが装備されていた。 拡大
5段MTのシフトノブ。「コペン」にはMT車とCVT車が用意されているが、CVT車にはオプションのLSDを装備することができない。
5段MTのシフトノブ。「コペン」にはMT車とCVT車が用意されているが、CVT車にはオプションのLSDを装備することができない。 拡大
シルバー装飾付きの革巻きステアリングホイール。今のところ、「セロ」には上級モデルの「S」が用意されていないので、MOMO製のステアリングホイールを選ぶことはできない。
シルバー装飾付きの革巻きステアリングホイール。今のところ、「セロ」には上級モデルの「S」が用意されていないので、MOMO製のステアリングホイールを選ぶことはできない。 拡大
 
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初代のファンに秋波を送る

いまさら申し上げるまでもなく、「着せ替え自動車」というのは人類の長年の夢である。「デザインの計画的陳腐化」なんて言葉があるくらい、自動車は毎年、“手を変え品を変え”で消費者の欲望を刺激し続けてきた。それで大きな成功を収めたのが、アルフレッド・スローンが率いたゼネラルモーターズ(GM)である。
GMの一方には黒い「T型」をせっせとつくり続ける自動車王ヘンリー・フォードがいた。GMが勝利したのは、消費社会に生きる私たちが、他人とは違うデザインのクルマを望んでいたからだとも、大量広告によってそう仕向けられたからだともいえる。

夢の着せ替え自動車はセロから始まる。樹脂外板11パーツと前後ランプを、ローブとそっくり交換できるのだ。初代コペンが好きで、般若ロボットみたいな2代目の顔にあまりピンとこなかった……けれど、初代コペンの登場は2002年にさかのぼり、生産終了になってからまるっと2年たっていたから、思わず去年出たときに買ってしまった人が、「やっぱりこれぞコペンだ、こっちのほうがいい」と欲望するような、そういうカタチをセロは最大の特徴とする。

さはありながら、リアのトランクリッドの造形を何気に見ていたら、スポイラー部分はまるでBMWの「6シリーズ」を思わせる。丸い真っ赤なテールランプは「フェラーリ・カリフォルニア」のようでもある。フェラーリ・カリフォルニア! そう思いながら、フロントマスクに視線を動かしていくと、これまたカリフォルニアに見えてきて、うれしいと考える自分がいた。

「コペン セロ」の発表会で行われた「DRESS-FORMATION」のデモンストレーションの様子。(写真=webCG)
「コペン セロ」の発表会で行われた「DRESS-FORMATION」のデモンストレーションの様子。(写真=webCG) 拡大
「コペン セロ」のフロントマスク。丸いヘッドランプと台形型のフロントグリルを組み合わせた“笑い顔”のデザインが、初代モデルをほうふつさせる。
「コペン セロ」のフロントマスク。丸いヘッドランプと台形型のフロントグリルを組み合わせた“笑い顔”のデザインが、初代モデルをほうふつさせる。 拡大
初代モデルを思わせる4灯式のテールランプ。一方トランクフードは、“尻下がり”のデザインだった初代とは異なり、空力性能を考慮して後端がスポイラー形状となっている。
初代モデルを思わせる4灯式のテールランプ。一方トランクフードは、“尻下がり”のデザインだった初代とは異なり、空力性能を考慮して後端がスポイラー形状となっている。 拡大
 
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クール・ジャパンの体現者

試乗車のボディー色は「ブライトシルバーメタリック」だけれど、これを「マタドールレッドパール」に変えてみたらどうだろう。そして、ボンネットに「カバリーノ・ランパンテ」のバッジを貼り付ける。内装はベージュを選ぶ。1分の1チョロQのフェラーリ・カリフォルニア! ステイ・フーリッシュにステキではないか。

月曜日はボディー色を「ブリティッシュグリーンマイカ」にして、アストンマーティンか、ジャギュアのバッジを貼る。火曜日は、試乗車のまとっている、ブライトシルバーメタリックに、内装「レッドインテリアパック」で、シュトゥットガルト市の紋章を貼っちゃったりして「ポルシェ356スピードスター」に変身。水曜日はスリーポインテッドスターで「300SLロードスター」、木曜日はプロペラ・マークで「507」気分。さらにオレンジ、ブルーと、コペンは全8色あるから、全色取りそろえたら、1週間毎日着替えても1着余る。女性誌だったら、「今年の秋はこれで完璧。着回し1カ月」という特集を組まないといけない。

フランス車にも、アングロ・アメリカの「コブラ」にも、なにしろ気分の話なので、変身自由自在。衣装の置き場所をどうするか、というのはおしゃれさんの現実的悩みでありましょう。

人類の夢、着せ替え自動車。

ローブとセロの交換パーツは35万円前後で発売となる。飽きちゃったな、と感じたら35万円で気分一新できる。フォードもスローンもビックリ。コペン エクスプレイ用、あるいはもっと気軽に着せ替えを楽しめる10~20万円程度のパーツについても準備中だそうだ。アフターマーケットも充実してくるだろう。2次創作はクール・ジャパンのエンジンである。コペンはコスプレでますます盛り上がる……ことを期待したい。

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)

「コペン セロ」の外装色は「ブライトシルバーメタリック」や「マタドールレッドパール」など全8色。そのうち、「ブリティッシュグリーンマイカ」はほかの仕様では選べないセロの専用色となっている。
「コペン セロ」の外装色は「ブライトシルバーメタリック」や「マタドールレッドパール」など全8色。そのうち、「ブリティッシュグリーンマイカ」はほかの仕様では選べないセロの専用色となっている。 拡大
テスト車に施されたオプションの「Dラッピング」。ルーフをカーボン調に仕立てることが可能で、シルバー、ワインレッド、ブラックの3色が用意されている。
テスト車に施されたオプションの「Dラッピング」。ルーフをカーボン調に仕立てることが可能で、シルバー、ワインレッド、ブラックの3色が用意されている。 拡大
「コペン」のトランクルーム。2分割式のハードトップは、オープン時にはここに収納される。(写真をクリックすると、オープン時の荷室の様子が見られます)
「コペン」のトランクルーム。2分割式のハードトップは、オープン時にはここに収納される。(写真をクリックすると、オープン時の荷室の様子が見られます) 拡大
 
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テスト車のデータ

ダイハツ・コペン セロ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/50R16 75V/(後)165/50R16 75V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:187万3800円/テスト車=221万5793円
オプション装備:アルティメット・スポーツパック(22万320円)/レッドインテリアパック(3万2400円)/Dラッピング<シルバー>(5万4000円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ、レッド>(1万7993円)/ETC車載器(1万7280円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2138km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:227.2km
使用燃料:15.0リッター
参考燃費:15.1km/リッター(満タン法)/15.0km/リッター(車載燃費計計測値)
 

ダイハツ・コペン セロ
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今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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