「コペン」は永久に不滅です! 軽オープンの存続宣言にみるダイハツの“スポーツカー魂”
2022.07.11 デイリーコラムこれで終わりじゃありません!
2022年6月19日、世界最小のオープンスポーツカーこと「ダイハツ・コペン」が、誕生20周年を迎えた。めでたい。実にめでたい。このところ明るい話を聞かない軽スポーツのかいわいで、久方ぶりの吉事と言えるのではないだろうか?
……いや、「明るい話を聞かない」なんてオブラートに包んで言ったけど、現状、このかいわいはお通夜状態である。ホンダが「S660」をやめ、スズキも「アルト」の代替えとともに「ワークス」をフェードアウトさせた。長ーい氷河期を経て2010年代中盤に復興の兆しを見せた軽スポーツだが、それもひと夜のはかない花火だったようだ。某宮崎映画のヒゲ参謀じゃないけど、思わずつぶやきたくなる。「みじけえ夢だったなあ」。
そんな状態だからこそ、ダイハツから「コペン20周年説明会」なるイベントの案内状が届いたとき、筆者はひそかに涙した。今春には神奈川・鎌倉のブランド発信拠点「コペンローカルベース鎌倉」も閉店するとアナウンスされていたし、20周年を機に最後の限定車を出して、コペンもいよいよアディオス・アミーゴ……と、そんな発表を(勝手に)想像したのだ。
しかし実際は違った。当説明会において、ダイハツのカスタマーサービスを統括する武田裕介氏と、開発・製造サイドの親分である南出洋志氏は、高らかに宣言したのだ。20年という節目を超えて、これからもダイハツはコペンをつくり続けますと。そして本年9月発売予定の記念モデル「ダイハツ・コペン20周年記念特別仕様車」をにぎにぎしく公開したのである。
“テコ入れ”は愛の証し
あらためまして、コペンの20年史や記念の施策を紹介する説明会は、先述のコペンローカルベース鎌倉で開催された。語られたのは「いかにコペンがオーナーに、つくり手に愛されているか」ということで、毎回盛り上がりを見せるファンイベントの様子に加え、オーナーの日々にゆとりをもたらす軽オープンスポーツとしての役割、同車が参戦するモータースポーツ活動の計画などが紹介された。
またブランド発信拠点であるコペンローカルベースも、単に閉店するわけではなく、鎌倉からダイハツの根城である大阪・ダイハツ町に移転する予定とのこと。ダイハツ関係者でもコペンオーナーでもない筆者だが、「それはよかった」と安心した次第である。
加えて、個人的にちょっと意外だった&興味深かったのが、南出氏の解説した販売台数の推移だ。初代が10年間で5万8000台だったのに対し、現行型は2014年からの8年間で3万5000台(2021年末時点)。景気やら世相やらといったクルマを取り巻く環境の変化を思うに、現行型も存外に善戦しているとは言えまいか。加えて「デビュー直後にドバッと売れて、後は尻すぼみ」という一般的なスポーツカーの売れ行きに対し、現行型コペンは発売6年目の2019年が一番売れたという。ご存じ「コペンGRスポーツ」が発売された年で、トヨタの販売分が上乗せされたのはもちろんのこと、ダイハツだけの実績を見ても、現行型では過去最高の販売台数となったようだ。
「ローブ」に「セロ」「エクスプレイ」といった“デザイン違い”の設定に、「ドレスフォーメーション」と呼ばれる着せ替えサービスの展開、そしてトヨタと共同開発したGRスポーツの発売と、ダイハツはコペンでさまざまな施策に取り組んできた。そのすべてが成功したかは分からないが、こうした取り組みが話題を呼び、製品の鮮度を保ち、販売面で踏ん張る力を与えているのは確かだろう。決して販売台数の多い車種ではないだろうが、つくづくコペンは幸せなクルマだと思う。
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クルマに宿る20年の歴史
そうこうしているうちに、いよいよお待ちかね、「コペン20周年記念特別仕様車」のお披露目である。ベールの下から現れた一台は、ボディーのブリティッシュグリーンマイカと本革シートのアイボリーの対比が上品で、カタログモデルの「コペン セロ」とはシッカリ違いが感じられるものだった。
聞けば本革製スポーツシートの設定は、現行型コペンではこれが初とのこと。初代ではけっこう広範にレザーシートの設定があった……ような気がする(うろ覚え)から、ちょっと意外だ。もちろんアイボリーの内装色も同車専用で、インテリアについては一目で「おぬし、タダ者ではないな」と分かる仕立てである。
……なんて書いても、きっとヘソ曲がりなアナタは「そんなもん、どうせ屋根を閉じたら見えませんやん」とおっしゃることでしょう。ご安心あれ。外観もちゃんとスペシャルなものになっているのだよ。確かにその差異は内装と比べてつつましやかだが、しかしいずれも「知る人ぞ知る」「分かる人は分かる」という類いの、好事家のツボを押さえたものなのだ。
一番はやはり、リアの「Copen」ロゴと「20th ANNIVERSARY」のバッジ。筆記体のロゴにピンときたアナタは相当なコペン通で、これは実は、初代で使われていたロゴを復刻させたものだ。一方、フロントにまわると通常ならコペンの「C」エンブレムが付いている場所に、ダイハツの「D」マークが。特段説明はなかったが、これも恐らく初代をオマージュしたものでしょう。初代の頃にはコペンに専用エンブレムはなく、鼻先にはDマークが付いていたのだ。
屋根を開ければ、ドアを開ければ、一目でそれと知られてしまうクセに、外装に関しては通にそれとなく訴えかける控えめぶり。しかしそのアクセントは、マニアなら仲間内で一席ぶちたくなるものばかりだ。
いいね。いいね。オジサンこういうの大好きよ!
「スポーツカーをつくり続ける」という気概が違う
道行く人の衆目を感じつつ、ガラス際に置かれたグリーンのコペンを撮りまくる。
つくづく思うのだが、コペンには人々をハッピーにするオーラが宿っている。それは、今も昔も小さなスポーツカーだけが持つ魔法の力だ。乗る人も見る人もつい笑顔にしてしまうなんて、お値段3000万円、最高速300km/hのスーパーカーにだってできない芸当だろう。こういうクルマが存続するニッポンは、欧米とはまた違うベクトルで自動車文化が成熟(……発酵?)していると思うし、ギョーカイの末席を汚す者として胸を張れる。
しかし一方で、日本でもこうした遊び心あるクルマの存続が難しくなっているのも事実だ。厳しさを増す環境規制に騒音規制に安全規制。加速する技術革新と話題の消費サイクル。今や軽自動車ですらアダプティブクルーズコントロール(ACC)が選択でき、コネクテッドサービスの恩恵にあずかれる時代である。そのいずれもが非搭載・非対応のコペンを見ると、この8年がいかに性急であったかを実感せずにはいられない。さらに、2025年12月からは国産の継続生産車にも自動ブレーキの装着が義務づけられ、コペンも今のままでは売れなくなるという。規制対応の難しさを理由に、由緒あるモデルが多数断絶している昨今を思うと(参照)、コペンもいずれは……とイヤな予感を抱かずにはいられない。
しかし、筆者は思うのだ。ダイハツなら、ダイハツならやってくれるんじゃないかと。ABCトリオなき後に初代コペンを世に問い、スポーツモデル不遇の時代にもそれをつくり続けた、諦めの悪い、しぶとい彼らを、筆者は全力で応援する所存です。
戦えダイハツ、負けるなダイハツ。小さなスポーツカーの未来は、あなたたちにかかっている。
(webCGほった<webCG“Happy”Hotta>)
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◆画像・写真:ダイハツ・コペン20周年記念特別仕様車
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。