第14戦日本GP「王者の逆襲」【F1 2015 続報】
2015.09.27 自動車ニュース![]() |
【F1 2015 続報】第14戦日本GP「王者の逆襲」
2015年9月27日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたF1世界選手権第14戦日本GP。1週間前のシンガポールGPでフェラーリ、レッドブルらライバルに完敗を喫したメルセデスが、世界屈指の難コースである鈴鹿で復活した。シルバーアローは今年8度目の1-2フィニッシュを達成。ポイントリーダーのルイス・ハミルトンは今シーズン8勝目を手にし、圧倒的に有利なポジションで残り5戦へと向かうことになった。
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■連戦の憂鬱
既に発表されている2016年のF1暫定スケジュールによると、開幕戦となるオーストラリアGPは例年の3月中旬ではなく4月3日に、最終戦アブダビGPは従来通り11月後半の27日に予定され、この短縮された期間に今季より2レースも多い史上最多21レースが組み込まれている。結果的に2連戦が増え、さらに、シーズン後半にはシンガポール~日本~マレーシアの「アジア3週連続開催」が待ち受けるという多忙極まる日程になりそうで、ジェンソン・バトンら関係者からは不安の声があがっている。
1週間前の前戦シンガポールGPでは、まさかの3列目グリッドからスタート、レースではポイントリーダーのルイス・ハミルトンがメカニカルトラブルで今年初リタイア、ニコ・ロズベルグは4位完走と、突如絶不調に陥ったメルセデス勢。特に、一番やわらかいスーパーソフトタイヤ装着時にはタイヤに十分な熱を入れることができず、デグラデーション(摩耗による性能劣化)がひどかったという。
今季これまで10勝を記録している最速マシンが、なぜあれほどまでに遅かったのか。チャンピオンチームはシンガポールで原因をつかめないまま、レースを終えるやすぐさま荷物をまとめ、ライバルたちとともにわずか数日後に迫った日本GPに向けて旅立たなければならなかった。連戦とは、単に物理的な移動に忙しくなることではない。シーズン中も日進月歩のマシン開発に、暇を与えてくれないのだ。
メルセデスとタイヤといえば、ここ最近気になる動きもあった。第11戦ベルギーGPで相次いだタイヤバーストを受け、タイヤサプライヤーのピレリはタイヤの内圧を高めにするよう各陣営に指示を出していた。そして続く第12戦イタリアGP、メルセデスは内圧を低くし過ぎたという嫌疑がかけられ、ウィナーのルイス・ハミルトンは勝者の権利を失いかけた。ベルギー、イタリアの高速戦では目立たなかったメルセデスとタイヤ内圧の問題が、コーナーの多いシンガポール市街地コース+スーパーソフトで顕在化したのではないか。そんな見方もできた。
シンガポールの市街地コースと鈴鹿サーキットはコース特性が全く異なる上、鈴鹿に持ち込まれたタイヤは硬めのハードとミディアムということもあり、メルセデスのピンチ再来は予想しづらかった。しかし、走ってみなければ分からないというのは、先のシンガポール戦を見ても明らかだった。
日本GP初日は雨に見舞われ、金・土3回のフリー走行、合計240分のうち、金曜日の90分×2回のプラクティスはウエットでのセッションとなった。雨上がりの土曜日、残された最後の1時間に予選、決勝に向けた準備を詰め込まなければならなくなったチームやドライバーに、余裕は一切なし。F1はサーキットの中でも外でもスピードを求められるスポーツだということを、あらためて知らしめた。
そして、土・日とドライになった世界屈指の難コースで速さを見せたのは、やはりというべきか、常勝軍団の2台だった。
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■ロズベルグ、今季2度目のポールポジション
3回目のフリー走行をロズベルグ1位、ハミルトン2位で終えたメルセデス勢は、続く予選に入っても安定して最速タイムを計時し続けた。トップ10グリッドを決めるQ3、最初のアタックでトップに立ったのはロズベルグ。わずか0.076秒差でハミルトンが2番手につけた。
各車が最後のフライングラップに入っていたセッション終了間際、ヘアピン前でレッドブルのダニール・クビアトが、マシンが宙返りするほどの大クラッシュを演じた。クビアトは無事だったが、赤旗中断の末に予選は36秒を残して終了。これにより、ロズベルグが鈴鹿で2年連続、第5戦スペインGP以来となる今シーズン2回目、通算17回目のポールポジションを決め、シルバーアローの2台はフロントローを独占することとなった。
3番グリッドはウィリアムズのバルテリ・ボッタスで、2位ハミルトンに0.440秒まで迫った。シンガポールのウィナー、フェラーリのセバスチャン・ベッテルは4位、ウィリアムズのフェリッペ・マッサはドライビングミスの影響で5位、フェラーリのキミ・ライコネンは不満足なアタックで6番グリッドにおさまった。
レッドブルのダニエル・リカルドは7位、ロータスのロメ・グロジャン8位、フォースインディアのセルジオ・ペレス9位、そしてクビアトはノータイムの10位となったが、マシンが大破したことによりピットスタートを選択。予選11位のニコ・ヒュルケンベルグのフォースインディアは前戦のペナルティーで3グリッド降格が決定しており、12番手タイムだったトロロッソのカルロス・サインツJr.が10番グリッドからスタートすることとなった。
7年ぶりに母国レースを迎えたホンダのパワーユニットを搭載するマクラーレンは、フェルナンド・アロンソが14位となり、他のドライバーのペナルティーで12番グリッドを確保。ジェンソン・バトンはQ1敗退、結果的に14番グリッドから決勝に臨んだ。
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■勝敗が分かれたスタート
ドライでのロングランデータが圧倒的に不足する中、53周のレースをどう戦うか。各陣営は共通した課題を抱えながら、気温27度、路面温度38度に達した快晴の決勝日を迎えた。
勝敗を分けたのは、スタート直後の1、2コーナーだった。ポールシッターのロズベルグにハミルトンがインから差すも、最初のコーナーではわずかにロズベルグがリード。しかし外側のロズベルグは半ばハミルトンに押し出されるような格好で行き場を失い、2コーナーでタイヤをコース外に落とし、2位ベッテル、3位ボッタスに次ぐ4位に後退した。ここでトップに立ったハミルトンが、以降の主導権を握る形となった。
上位陣のタイヤ交換競争で口火を切ったのは、11周を終えピットに飛び込んだ3位ボッタスだった。ウィリアムズの後ろでくすぶっていたロズベルグは“飛ばし時”だったが、16周目に自らもピットに入ると、再びボッタスの後ろで戻ることに。
続いて首位ハミルトンもタイヤを替え、最初のピットストップが一巡すると、1位ハミルトン、6秒差で2位ベッテル、3位ボッタス、4位ロズベルグというオーダーとなったのだが、すかさずロズベルグはボッタスをシケインで抜き、自らのドライビングで3位の座を奪い取った。
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■フェラーリ、遅きに失しベッテル3位に後退
ミディアムを履き、ファステストラップを更新しつつ逃げるハミルトンは、20周して10秒以上のリードを構築。ハードを選択した3位ロズベルグの次なる目標は、2秒前を走るハード装着の2位ベッテルだった。
30周目、ロズベルグが先んじて2度目のタイヤ交換に踏み切った。2位を守りたいベッテル&フェラーリは翌周これに反応してタイヤを替えるも、ニュータイヤで猛追したメルセデスにはかなわず、ロズベルグがアンダーカットに成功し2位に上がった。
一方5位のライコネンも、1秒以内で追いかけていた4位ボッタスとの対決で先手を取ってタイヤ交換、ウィリアムズから4位の座を奪い取った。
この日最後のピットストップを終え、1位ハミルトン、9秒差で2位ロズベルグ、2秒のギャップで3位ベッテル、13秒離されて4位ライコネン。しばしこの間隔をキープしたまま上位は膠着(こうちゃく)したが、ゴールが近づくにつれてハミルトンのリードは再び広がり始め、最終的には2位ロズベルグに19秒もの大差をつけて完勝したのだった。
ハミルトン、ロズベルグ、ベッテルと、今年おなじみとなった表彰台の顔ぶれ。メルセデスは今季8回目の1-2フィニッシュを達成し、自らが持つ年間記録にあと3つと迫った。そしてハミルトンは、残り5戦=125点満点という状況でロズベルグに48点もの差をつけ、2年連続3度目のタイトル獲得にまた一歩前進した。
シンガポール、日本でのアジア戦を終えたF1は、2回目の開催となるロシアGPへと向かう。決勝は10月11日に行われる。
(文=bg)