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リンカーン・ナビゲーター(4WD/6AT)

あの“グルーヴ”が懐かしい 2015.10.05 試乗記 渡辺 敏史 アメリカが誇るフルサイズSUVにもエコの波が到来? 新たに3.5リッターV6ツインターボエンジンを搭載した「リンカーン・ナビゲーター」に試乗し、最新のダウンサイジングターボにできること、できないことを確かめた。

今日は燃費競争、明日はパワーウォーズ

フォードのフルサイズピックアップトラック「Fシリーズ」といえば、長年にわたりアメリカで最も売れている自動車の座を守り続ける同社の顔。現地では“Fトラック”などと呼ばれるものの、トラックというよりはクルマの代名詞みたいなものと言っても大げさではないだろう。

そのFトラックに今日日のダウンサイジングコンセプトが採用されたのは5年前のこと。3.5リッターV6をターボ過給した、フォードいわくの「エコブースト」ユニットは、従来の4.6リッターV8の代替的存在として市場で受け入れられ、一時はFトラックの販売の4割を占めるほどになった。
えっ、アメリカ人、V8じゃなくていいの?というのはいささか古い考えなのだろう。時がたてば世代も変わり、世代が変われば価値観も動くということだ。

加えて言えば、かの地の方々は景気や原油価格の上下によって、欲求をガラリと変える。それはもう、日本的な感覚で言えば「今日は寒いからラーメンの方がつけ麺より出るぞ」というレベルでだ。「F-150」に3.5エコブーストが積まれた頃といえば、アメリカはリーマンショック後のどん詰まり感にあえいでいた時期。シェールがいけるとなって景気が上向き、中国経済減速も手伝って原油価格が下落中の今ならば、同じF-150でも「新型『ラプター』まだかいな?」と、そういうムードになっていても全然おかしくない。

フォード系のプレミアムブランド、リンカーンがラインナップするフルサイズSUV「ナビゲーター」。現行モデルの本国デビューは2006年のことで、日本では2008年に販売が開始された。
フォード系のプレミアムブランド、リンカーンがラインナップするフルサイズSUV「ナビゲーター」。現行モデルの本国デビューは2006年のことで、日本では2008年に販売が開始された。 拡大
「リンカーン・ナビゲーター」のインテリア。2015年モデルでは、左右対称のダッシュボード形状は踏襲しつつ、各部の質感が大幅に高められている。
「リンカーン・ナビゲーター」のインテリア。2015年モデルでは、左右対称のダッシュボード形状は踏襲しつつ、各部の質感が大幅に高められている。 拡大
フロントマスクは従来モデルから刷新。今日のリンカーン車のアイコンとなっている、「スプリット・ウイング・グリル」が採用された。
フロントマスクは従来モデルから刷新。今日のリンカーン車のアイコンとなっている、「スプリット・ウイング・グリル」が採用された。 拡大
「ECOBOOST(エコブースト)」とは、フォード車に搭載されるダウンサイジングターボエンジンの総称。「ナビゲーター」には3.5リッターV6直噴ツインターボエンジンが搭載される。
「ECOBOOST(エコブースト)」とは、フォード車に搭載されるダウンサイジングターボエンジンの総称。「ナビゲーター」には3.5リッターV6直噴ツインターボエンジンが搭載される。 拡大
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さらばV8、今選べるのはV6ターボだけ

世の中が変われば価値観も動くといえば、かの地ではもはやショーファードリブンに「リンカーン・タウンカー」や「キャデラック・フリートウッド」を見かける機会は本当に少なくなっている。取って代わったのはリンカーン・ナビゲーターや「キャデラック・エスカレード」だ。そもそもは若年層にとって裕福の証し的な存在だっただろうSUVが、十幾年の時を経てオフィシャル化された。その現況は要人の車列ひとつ見てもよくわかる。日本になぞらえれば、芸能人ばかりか議員や閣僚までも「トヨタ・アルファード」に乗っているという状況によく似ている。これを様式の多様化と見るか崩壊と見るかで、世代はぱっくりと割れるのだろう。

そんなナビゲーターに先ごろ、3.5エコブースト搭載モデルが設定された。というか、搭載されるエンジンは今やこれだけで、V8はディスコン、すなわちカタログ落ちとなっている。昨今ではごく一部の嗜好(しこう)銘柄以外、大排気量エンジンは青色吐息という日本の市況を見るに、こっちの方が堅いというインポーターの判断はもちろん正道だ。アルファードにしても売れ筋は4気筒かハイブリッド。V6はトゥーマッチというのがユーザー心理の大勢だろう。

しかしなぁ……せめてフルサイズ級のSUVくらいV8で乗りたいよなぁ……という極東のいちアメ車好きの気持ちに3.5エコブーストはどう応えてくれるのか。僕にとってもそれは初めての味見である。

シート表皮はレザーが標準。運転席と助手席には10wayの電動調整機構が備わる。
シート表皮はレザーが標準。運転席と助手席には10wayの電動調整機構が備わる。 拡大
2列目シートはベンチタイプの3人乗り。4:2:4の3分割可等式で、背もたれを倒してフラットに格納できる。
2列目シートはベンチタイプの3人乗り。4:2:4の3分割可等式で、背もたれを倒してフラットに格納できる。 拡大
2列目同様、3列目シートもベンチタイプの3人乗りとなっている。
2列目同様、3列目シートもベンチタイプの3人乗りとなっている。 拡大
ラゲッジルームの容量は8人乗車時で523リッター。2列目シートと、電動格納式の3列目シートを倒せば、2925リッターまで拡大できる。(写真をクリックするとシートの倒れる様子が見られます)
ラゲッジルームの容量は8人乗車時で523リッター。2列目シートと、電動格納式の3列目シートを倒せば、2925リッターまで拡大できる。(写真をクリックするとシートの倒れる様子が見られます) 拡大

勢いを増すフォードのダウンサイジング戦略

考えてみれば、フェイスリフトしたナビゲーターは正規モノではこれが初上陸だ。そのベースとなる「フォード・エクスペディション」はざっくり言えばF-150のフルキャビンモデルであり、F-150のフルモデルチェンジに伴っての全面刷新も近いのではとうかがえるが、そのうわさは聞こえてこないどころか、本年度モデルで大きなマイナーチェンジが施された。ナビゲーターはこのエクスペディションの改良を先取りするかたちで昨年度にマイナーチェンジを受けている。

ちなみに、元ネタのF-150は先のフルモデルチェンジでボディーの側をオールアルミ化、最大で230kgの軽量化を果たした。それに伴い、搭載されるV6エコブーストはこの3.5リッターユニットからさらに縮小され、2.7リッターとなっている。フォードのダウンサイジングテクノロジーにおいては、同排気量でのディーゼルとガソリンの性能的差異が限りなく無に近づきつつあることを実感させられる。

ナビゲーターに搭載される3.5エコブーストはショートストローク型V6をツインターボ化したもので、その最高出力は385ps、最大トルクは63.6kgmだ。スペック的には従来の5.4リッターV8よりもがぜん力強く、トルクに関しても3リッターディーゼルの水準を軽く上回っている。

巨大なボディーが目を引く「ナビゲーター」だが、米国仕様には全長5646mm、ホイールベース3327mmのロング仕様「ナビゲーターL」も設定されている。


	巨大なボディーが目を引く「ナビゲーター」だが、米国仕様には全長5646mm、ホイールベース3327mmのロング仕様「ナビゲーターL」も設定されている。
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装備は充実しており、1列目シートの頭上には電動サンルーフが標準で備わる。
装備は充実しており、1列目シートの頭上には電動サンルーフが標準で備わる。 拡大
サイドシルの下方には、ドアの開閉に連動して自動でせり出し、格納されるパワーランニングボードが装備されている。(写真をクリックすると、ランニングボードが展開する様子が見られます)
サイドシルの下方には、ドアの開閉に連動して自動でせり出し、格納されるパワーランニングボードが装備されている。(写真をクリックすると、ランニングボードが展開する様子が見られます) 拡大
カーペットを飾る「LINCOLN」のワッペン。
カーペットを飾る「LINCOLN」のワッペン。 拡大

乗ってみれば「アメリカのSUV」そのもの

ダッシュボードやセンターコンソールの全景は先代と変わらぬものの、コントロール系をタッチパネルにまとめ、各種情報を速度計の両脇に表示するなど、内容が今日的なフォード系のロジックとなった。質感は大きく向上したものの、情感的には70年代のメーターパネルをイメージした従来のものの方が優れていたように思う。が、ともあれ巨大なガタイに見合った広大な室内、左右席間の距離、窓枠にすら肘が置けるベルトラインの低さ、あまたのSUVより完全にひとつ高いところにある視点など、全体から受け取る印象はこちらが期待するアメリカのSUVそのものだ。

それは乗り心地についても然(しか)りで、275/55R20という巨大タイヤをまったくものともせず、という以前に「バネ下重量って何ですのん?」と言わんがばかりの路面と隔絶された乗り心地の浮遊感は、やはりフレーム構造でなければ醸せない。反面、接地感や操縦性はこんにゃく状態かと思いきや、新型では電子制御ダンパーが与えられたこともあって、走行モードを「スポーツ」に設定すればある程度のコンタクト感も得られる。ただし、基本はステアリングの8時20分辺りに手を添えつつ、車体に任せて直線をダラッと走らせることが何より心地いいクルマだ。こうしていると、足湯に漬かっているように気持ちがいい。このようなアメ車も最近は数が減りつつあるが、ナビゲーターは間違いなくその筆頭格といえるだろう。

オーディオなどの機能を音声やタッチパネルで操作できる「マイ・リンカーン・タッチ」のモニター。ステアリングホイールの音声認証スイッチを長押しすると、カーナビゲーションシステムが起動する。
オーディオなどの機能を音声やタッチパネルで操作できる「マイ・リンカーン・タッチ」のモニター。ステアリングホイールの音声認証スイッチを長押しすると、カーナビゲーションシステムが起動する。 拡大
メーターは速度計の左右にマルチインフォメーションディスプレイを備えた単眼式。走行モードの切り替え機構などは、こちらのディスプレイとステアリングスイッチで操作する。
メーターは速度計の左右にマルチインフォメーションディスプレイを備えた単眼式。走行モードの切り替え機構などは、こちらのディスプレイとステアリングスイッチで操作する。 拡大
タイヤサイズは275/55R20。サスペンションには電子制御ダンパーが標準装備される。
タイヤサイズは275/55R20。サスペンションには電子制御ダンパーが標準装備される。 拡大
今回の改良ではリアまわりのデザインも変更。テールゲートを左右に横断する、新しい意匠のリアコンビランプが採用された。
今回の改良ではリアまわりのデザインも変更。テールゲートを左右に横断する、新しい意匠のリアコンビランプが採用された。 拡大

ダウンサイジングターボにできること、できないこと

そしてくだんのエンジンだが、こと車体を動かすことに関しては、先代のV8に対して力不足を感じることはなかった。もちろん、ブン回せば明らかに速くなっていることはパワーの差からも察せられるが、興味の大半である低回転域、それもアイドリングから2000rpm以下のアクセルを薄く踏み分ける辺りでどれだけの厚みや粘りをみせてくれるかという点で、3.5エコブーストはほぼ満点のレスポンスを見せてくれる。物足りないところがあるとすれば、6速ギアに入ろうかという80km/h前後の車速で、やや強めの加速を求めた際にキックダウンを余儀なくされることだが、それ以外で小排気量をつくろうための変速のビジーさを感じることはなかった。

ただし100km/h巡航での燃費はさすがに10km/リッターの大台には手が届かないかというところで、その点では先代のV8に対して著しい伸びは期待できなさそうだ。むしろナビゲーターの場合、ある程度の“無駄炊き”を余儀なくされる街中での燃費のほうが、V8に対して伸びしろがありそうである。

とはいえ、だ。やはりそこはV6ターボ。サウンドや回転のフィーリングにV8のような“グルーヴ感”は望めない。吸気音などでそれなりのハク付けはしているようだが、盛らずともその音階や音圧からしてV8は独特の世界がある。細かいことをいえばブロックやマニホールドの材質や構造からして音は変わるものだ。まずエコという本懐を果たすことが優先されるV6に、無駄から醸される“懐メロ”を望むのはお門違いということだろう。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)

米国仕様には全8色のボディーカラーが用意されているが、日本仕様で選べるのは「タキシードブラック」と「ホワイトプラチナム」の2色のみとなる。
米国仕様には全8色のボディーカラーが用意されているが、日本仕様で選べるのは「タキシードブラック」と「ホワイトプラチナム」の2色のみとなる。 拡大
「ナビゲーター」に搭載される3.5リッターV6直噴ツインターボエンジン。従来の5.4リッターV8エンジンが最高出力314ps、最大トルク50.4kgmだったのに対し、新エンジンは最高出力385ps、最大トルク63.6kgmを発生する。
「ナビゲーター」に搭載される3.5リッターV6直噴ツインターボエンジン。従来の5.4リッターV8エンジンが最高出力314ps、最大トルク50.4kgmだったのに対し、新エンジンは最高出力385ps、最大トルク63.6kgmを発生する。 拡大
6段ATのシフトセレクター。センタークラスターの下部には、4WDシステムやヒルディセントコントロールなどの操作スイッチが配置されている。
6段ATのシフトセレクター。センタークラスターの下部には、4WDシステムやヒルディセントコントロールなどの操作スイッチが配置されている。 拡大
 
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テスト車のデータ

リンカーン・ナビゲーター

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5290×2010×1980mm
ホイールベース:3020mm
車重:2770kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:385ps(283kW)/5250rpm
最大トルク:63.6kgm(624Nm)/2750rpm
タイヤ:(前)275/55R20 113T/(後)275/55R20 113T(ハンコック・ダイナプロHT)
燃費:17MPG(約7.2km/リッター、EPA 複合モード)
価格:1028万円/テスト車=1039万8044円
オプション装備:ETC車載器(1万2420円※)/フロアマット(10万5624円)
※ETC車載器の取り付け工賃は別。

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2795km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:178.1km
使用燃料:33.0リッター
参考燃費:5.4km/リッター(満タン法)/6.2km/リッター(車載燃費計計測値)
 

リンカーン・ナビゲーター
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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