ジャガーXE S(FR/8AT)
スポーツサルーンのひとつの理想形 2015.10.05 試乗記 ジャガーのミドルクラスサルーン「XE」のフラッグシップモデル「XE S」に試乗。340psの3リッターV6スーパーチャージドエンジンを搭載するスポーツサルーンとじっくり向き合い、その実力を探る。【総評】これぞジャガーの“忍び足”……★★★★★<5>
ジャガーXE Sはミドルクラス・スポーツサルーンに期待する動力性能やハンドリングを備え、操る楽しさにあふれている。340psのパワーや20インチホイールに象徴されるように、ドライバーの手足の動きに即応するレスポンスが素晴らしく、ドライバーが抱くほぼすべての要求に応えてくれる。また、4.7mの全長や1730kgの重量を感じさせない軽快な動きには、無駄というものを封じた一体感がある。剛体としての重量分布に優れ、車体の外側が軽く中心部が重く、車輪の接地荷重をしっかり確保した上で慣性重量を小さくまとめている。だから、20インチの大径タイヤを生かし、その広い接地面を路面にしっかり押しつけ、かつ余計なイナーシャ分の遅れてくる動きを効果的に封じている。
従来ならば、その大きなタイヤ/ホイールがもたらすバネ下重量をもてあまし、ドタバタとした悪い乗り心地につなげてしまうところだろう。しかし、このXE Sはサスペンションのコンプライアンスで逃げることなく、サスペンション本来の動きである上下動で吸収する仕事を全うさせた上で、その後の動きもしっかり抑え込んでいる。したがって、見た目からは想像できないかもしれないが、通常の乗り心地も上質である。
以上をまとめれば、これぞジャガーらしい“精悍(せいかん)な忍び足”といえる。昔のジャガーのネコ足はいわば小型動物のソレであったが、XE Sはその上をいく大容量をもって、よりどう猛な大型ネコ科動物が持つ、しなやかにして敏捷(びんしょう)な動きを備えたといえる。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2014年9月にロンドンでワールドプレミアされ、日本では2015年6月に発表された。ジャガーのモデルヒストリーで見れば「ジャガーXタイプ」(2001~2009年)の後継モデルに当たるが、駆動方式の基本をFFからFRに改め、ボディーに同社お得意のアルミモノコックを用いたり、「インジニウム」と呼ばれる新しいエンジンシリーズを投入したりと、非常に力の入った内容となっている。
「Dセグメントで唯一」とうたわれるアルミモノコックは、専用開発された高強度アルミニウムが用いられており、構造体全体から見るとアルミの使用率は75%に及ぶ。軽さだけではなく強度の高さも特徴で、従来型の「XF」と比較して剛性は20%向上しているという。一方、新型インジニウムエンジンは、設計から生産まで一貫してジャガー・ランドローバーが手がけたもので、効率の高さが自慢だ。現時点では2リッター直4ディーゼルが市場に出ており、欧州市場では2016年中にはガソリンエンジンも“インジニウム化”されていくものと見られる(現在の2リッターガソリンはインジニウムユニットではない)。
(グレード概要)
早くも「XER-S」なる500psオーバーの高性能モデルのうわさが出始めているようだが、現時点におけるXEのフラッグシップは今回テストした「XE S」である。340psの3リッターV6スーパーチャージドエンジンを搭載し、0-100km/h加速は5.1秒で、最高速は250km/hと発表されている。そして、その下位には2リッター直4ガソリンターボの240ps版と200ps版が控えている。
まだデリバリーは始まっていないが、2リッター“インジニウム”ディーゼル(180ps版)の導入がすでに発表されており、価格も公表されている(497万円~549万円)。ちなみにディーゼルモデルのデリバリー時期は「2015年内」とされている。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★☆<4>
ウッドパネルこそ無いものの、効果的にトリムされた光り物やレザー処理による内装は、より大きなジャガーから乗り換えても落差はさほど感じないだろう。計器類のビジュアルも繊細で、高精度の雰囲気あるしつらえだ。スイッチやレバー類の作動感もしっかりとした節度を伴っており、高級感を醸すのに一役買っている。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、DSC、AEB(オートマチック・エマージェンシー・ブレーキング=自動緊急ブレーキ)など最近の安全デバイスは標準で組み込まれているし、8ATの変速パドルもあるし、ジャガーファンの要求を広範囲にカバーしている。
(前席)……★★★★☆<4>
シートはたっぷりしたサイズやホールド性に優れる形状などにより、座り心地は上々である。調整機構も完備されており、スポーツドライビングに適したポジションが得られる。低くセットして座れば、往年のジャガーサルーンのように首だけをショルダーラインから上に出し、上体がキャビンに包まれ、守られるような感覚が得られる。ボンネット越しに直接路面を見るような、前方の視界も申し分ない。キビキビと反応する車体の動きからは小さなクルマを思わせるが、計器類や内装の仕上がりを見ると、大きなジャガーと比べてまったく遜色ないゆったりとした雰囲気が味わえる。センターコンソールのシフトダイヤルまわりには何も無い、広々感のある空間が演出されている。筆者は習慣としてシフトレバーに手を乗せていることも多いのでちょっと手持ちぶさたではあるが、近年のジャガーに馴染(なじ)んだ人には、大きなジャガーから乗り換えても同じ感覚で運転できることに安心感を持つだろう。
(後席)……★★★☆☆<3>
傾斜の強いルーフラインからも想像されるように、ヘッドクリアランスなどの空間的な余裕は限られるものの、スッポリ収まるがゆえの落ちついた居心地のよさはある。爪先は前席下の隙間に滑り込ませることができるなど、普通に座っていれば問題ないが、ワンボックス車に慣れてしまって動き回りたい子供にとっては、見た目に窮屈かもしれない。強固なボディー剛性を得るために敷居部分ががっしりしており、ルーフラインは低い。そのため乗降時は頭を下げなくてはならず、やや窮屈ながら、フロアは低いので足つきはまずまずである。
(荷室)……★★★★☆<4>
フロア面積の点では十分な広さが確保されている。スペアタイヤは無く、空気ポンプとパンク修理キットが収まる床面は低い。リッドの敷居はそれなりに高さがあるから、開けてすぐ荷物が転げ落ちるようなこともなさそう。トランク上面までの高さもあって、いわゆるトランク部分の立方空間としてはクラス平均か。内張りも丁寧に仕上げられており、価格相応の満足感が得られる。これでも足りなければリアシートを倒して、トランクスペースをさらに広げることも可能である。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★<5>
3リッターV6エンジンがもたらすパワー/トルクは圧倒的で力強い。スロットル操作にレスポンスよく即応する加速の立ち上がり感覚は素晴らしい。コンパクトなボディーサイズもあって、狭い峠道などでもバイク感覚の加減速を楽しめる。今までで一番機敏なジャガーかもしれない。FR車であってもプロップシャフトや長いホイールベースを感じさせない、前後輪の連携による前後Gと横Gのコントロールには、ガシッとした一体感があり、遅れを感じさせない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★<5>
ジャガー製スポーツサルーンに期待する、ほぼすべての欲求を満足させてくれる。20インチのタイヤ/ホイールを見て、その接地部分のハイトの少なさからゴツゴツしたひどい乗り心地を想像して覚悟していたが、それはいわばうれしい誤算だった。エアーボリュームが大きいおかげか、その太さゆえにエンベロープ特性に優れるためか、路面の突起をまろやかに受け止め、荒れた凸凹に対しても車体を揺らすまでには至らず、姿勢をフラットに保ったままなので、乗員は平穏に過ごすことができる。今までに経験したこの手の高性能タイヤを履いた例の中で、一番好感を持てたチューンである。
(燃費)……★★★☆☆<3>
3リッター340psの“激加速”を楽しんでしまえば当然ながら燃費は悪化するものの、不急の時にはトルクを生かした低回転でゆるゆると歩めるので、それなりに燃費は稼げる。うまく転がせば、2桁の数値を維持することもできるだろう。エンジンにはスタート/ストップ機構も備わる。燃料タンクは容量が63リッターあるから、十分な航続距離を提供してくれるだろう。今回のテストは都内から箱根・伊豆までを往復し、ドライブコンピューターが示した燃費は8.7km/リッターだった。
(文=笹目二朗/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ジャガーXE S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1850×1415mm
ホイールベース:2835mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)235/35R20 92Y/(後)265/30R20 94Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:769万円/テスト車=972万7456円
オプション装備:ベニヤ(カーボンファイバー)(19万5000円)/メタリックペイント(8万2000円)/パノラミックグラスサンルーフ(20万6000円)/プライバシーグラス(6万2000円)/電動トランクリッド(11万5000円)/ステアリングホイールヒーター(3万6000円)/パーフォレイテッド・トーラスレザー・スポーツシート(31万2000円)/シートヒーター(前席)(5万7000円)/カスタマイズ可能なインテリア・ムードランプ(5万2000円)/イルミネーテッド・シルプレート(7万5000円)/ブラインドスポット・モニター(クロージングビークルモニター、リバーストラフィックディテクション付き)(9万3000円)/ADVANCED PARK ASSIST PACK+PROXIMITY CAMERA(27万4000円)/20インチ Propellerアロイホイール(20万5000円)/カーボンファイバーミラーカバー(左、右)(14万3856円)/カーボンファイバーサイドパワーベント(左、右)(12万9600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4266km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:269.7km
使用燃料:32.6リッター
参考燃費:8.3km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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