ジャガーXE 300スポーツ(FR/8AT)
イギリスの猫は雨が嫌い 2019.01.28 試乗記 ジャガーのDセグメントセダン「XE」に、300psの2リッターターボエンジンを搭載した「300スポーツ」が登場。雨天のテストドライブでリポーターが感じた“心残り”とは? 2019年モデルより追加された、新しいスポーツグレードの出来栄えを報告する。ジャガー製セダンの末っ子
今が旬(?)の“ブレグジット”騒動や、重要なマーケットである中国での新車販売の落ち込みといった荒波にさらされて、今年に入っても「世界で4500人を削減」などと不穏なニュースが伝えられる英国きってのメーカー、ジャガー・ランドローバー。
そんなネガティブな話題も確かに耳には届くものの、一方で2000年代に入ってからのこのブランドの作品が、どれもかつての“停滞期”のそれとは見違えるように魅力的になっているという点に関して、異論を挟む人はそう多くはないはずだ。
過去の栄光を捨てられず、それゆえ新たな挑戦には及び腰になっていたジャガー・ランドローバーは、完全に過去のものとなった。現在の「XJ」以降に姿を現したさまざまなジャガー、そして、初代モデルが世界中でスーパーヒットを飛ばした「レンジローバー イヴォーク」以降のランドローバーの作品を思い浮かべれば、ここで言わんとしていることはすぐに納得してもらえるに違いない。
そうした中で2014年秋に発表され、日本では翌2015年の夏から販売されているジャガーのブランニューモデル、XE。それはフォード傘下の時代に鳴り物入りでリリースされながら不発に終わった「Xタイプ」以来の、このブランドでは末っ子となるサルーンである。
特徴的なショートデッキのプロポーションで、兄貴分の「XF」に対してホイールベースは135mm、全長は285mm短い。一方、FRレイアウトがベースの基本骨格は同様で、XFが「ラグジュアリーなビジネスサルーン」をうたうのに対して、こちらは「ジャガー史上最も洗練されたスポーツサルーン」と、そんなフレーズでアピールされている。
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“上から2番目”にスポーティー
シリーズ中最もハイパフォーマンスなスペックの持ち主は、唯一の3リッター6気筒ユニットにメカニカルスーパーチャージャーを組み合わせ、最高380psという出力を発生する心臓を搭載した「S」グレード。一方、ここに紹介するのは、2018年の10月に受注が開始された、“2019年モデル”へのリファインを機に追加されたSに次ぐスポーツバージョンだ。
グレード名に含まれる数字は、察しの通り搭載エンジンが発する最高出力。同じ4気筒ターボ付き直噴でありながら最高出力が250psの従来ユニットに対し、「セラミック・ボールベアリングを用いてフリクションを低減させレスポンスの向上を図りつつ、26%のエアフロー容量アップを図ったコンプレッサータービンを備えるツインスクロールターボチャージャーの採用などでハイパワー化を図った」と報告されている。8段ステップATと組み合わされた結果の0-100km/h加速タイムは5.9秒で、当然ながらSの5.0秒と250psエンジンモデルの6.5秒の中間に収まる。
フロントグリル周辺部分やサイドベント、シル部分やドアミラーケースがダークサテングレーに彩られ、インテリアではダッシュボードやシートのステッチ色に鮮やかなイエローが採用されるなど、見る人が見れば違いは明確という“地味派手”なコスメティックが、見た目上の300スポーツの証しとなっている。
気持ちを高ぶらせるサウンドがほしい
ハイチューンエンジンが搭載されたことに期待を込めてその心臓に火を入れると、いきなりちょっとばかりの肩透かしを食らう結果となった。サウンドのチューニングには熱心であるはずのジャガーの作品ながら、このモデルの場合には、完爆(各シリンダーがサイクルごとにきちんと着火する状態、エンジン始動が成功した状態)に至っても“イイ音”を聞かせてくれることにはならなかったからである。
かくして、「イイ音がしない……」という物足りなさは、走り始めてからも変わることはなかった。6気筒エンジンを載せていると言われれば信じてしまいそうになるほどに回転フィールは滑らかだし、なるほどターボラグなどほとんど意識させられることなく、低回転域からアクセル操作に即応するパワフルさが実感できる加速のポテンシャルにも文句はまったくない。
けれども、自らスポーツサルーンを名乗るジャガーの作品としては、やはりあまりにも音が寂しいのだ。別に“爆音”を出してほしいというわけでもないし、アフターバーンのような演出が不可欠とも思わない。が、せっかくジャガーに乗っているのだから、やはり加速とともにそれなりに気持ちを高ぶらせてくれる音色が欲しい。“ノイズ”としか受け取りようのない、あまりにも実用車風味が強い現在の音ならば、きっと無音のままに加速Gを感じられる電気自動車の方がエモーショナルであると思う。
雨の日のグリップ力に難あり
今回のテスト車には、電子制御式の可変減衰力ダンパー「アダプティブダイナミクス」や標準比で1インチ増しとなる20インチのタイヤ&ホイール、さらにはゴージャスなオーディオシステムやサンルーフ等々、総額200万円を超える多彩なオプションが装着されていた。困惑させられることになったのは、このうちの“20インチシューズ”である。実は、テストドライブの当日は朝方から冷たい雨。こうした状況の中では、フロント:235/35、リア:265/30というファットな「ピレリPゼロ」タイヤは、驚くほどに低いグリップ力しか発揮してくれなかったのである。
実は、Pゼロというタイヤがたとえドライの路面であっても、「冬の冷間時にはびっくりするほど低いグリップ力しか発揮してくれない」というのは、他車での経験からもかねて気になっていた事柄。そこに雨という悪条件が加わった今回は、試しにとトラクションコントロール機能をカットすると、ゼロ発進後に2速ギアへとバトンタッチされてからも、ラフなアクセル操作では簡単にホイールスピン! という状況に陥ってしまった。こうなると当然、加速が利かないばかりか安定性も極端に低下する。タイトなコーナーが連続するワインディングロードでは、あまりのリスキーな挙動に驚かされることにもなった。
もちろん、トラクション/スタビリティーコントロール機能をONとした上で、慎重なアクセルワークを心がければ、よくできたFRレイアウトの持ち主ならではの自在なハンドリング感覚を味わうことができる。が、それに気をよくして走りのペースを上げていくと、たちどころに前述のコントロール機能が介入。その段階で、気分のいいテンポでの走りはたちまち“打ち止め”となってしまうのだ。
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うらむべきは天気か、タイヤか
実はXEの300スポーツというグレードには、4WD車も設定されている。例えばアメリカでは2WD/4WDのいずれかを選択可能だし、本国イギリスでは4WDのみという設定だ。かくして、今回のテストドライブでは「タイヤを別の銘柄に履き替え、4WDシャシーが絶対欲しい」という思いに終始した。残念ながら“Pゼロを履いた2WDシャシー”では、とても本来のパフォーマンスを味わうには至らなかったということだ。
とはいえ、高速クルージング中のしなやかでフラット感に富んだ乗り味は、やはりプレミアムブランドの作品であると実感できるものだし、前述のようにエンジンも絶対的な動力性能や上質な回転フィールなどは不満ナシ。738万円というのはもちろんそれなりの金額だが、それでもトップグレードのSより116万円も抑えられた価格に魅力を感じる人はいるに違いない。恐らくはフロント側の違いがメインになると思われる、50kgの重量ダウンがもたらすよりヒラリとした感覚の強い身のこなしも、300スポーツならではの美点になるはずだ。
そんなこんなで、「好条件がそろった中で、もう一度乗ってみたい」とちょっと心残りに思ったのが、XEの新たなスポーツバージョンだった。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジャガーXE 300スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1850×1415mm
ホイールベース:2835mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300ps(221kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1500-2000rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 92Y(後)265/30ZR20 94Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.9km/リッター(JC08モード)
価格:738万円/テスト車=945万7000円
オプション装備:サテングレーアッシュ(6万1000円)/InControlセキュリティー(9万7000円)/コールドクライメイトパック(10万6000円)/アドバンスドパーキングアシストパック(29万1000円)/アクティブセーフティーパック(15万2000円)/ライティングパック(7万2000円)/電動リアサンブラインド(9万9000円)/MERIDIANサラウンドサウンドシステム(38万6000円)/アダプティブダイナミクス(17万6000円)/20インチ10スポークスタイル1014サテングレーフィニッシュ(8万8000円)/18ウェイパワーシート<フロント>(3万5000円)/電動スライディングパノラミックサンルーフ(21万9000円)/プライバシーガラス(6万7000円)/コンフィギュラブルアンビエントインテリアライト(5万6000円)/ハンズフリーパワーテールゲート(14万1000円)/コンフィギュラブルダイナミクス(3万1000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3353km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:416.9km
使用燃料:51.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。