ジャガーXE 20dピュア(FR/8AT)
みんな誤解している 2016.04.01 試乗記 スポーティーな走りが身上のジャガーのDセグメントセダン「XE」に、待望のディーゼルモデルが登場。完全自社開発の新世代パワーユニットと、今日のジャガーの特徴ともいえる絶妙なドライブフィールが織り成す走りに触れた。ジャガーはもっと売れていい
ジャガーは“誤解”をされている――うっかりそんなフレーズを用いると、今度はそんな言葉自体がまた、新たなる誤解を呼んでしまいそう。
けれども、少なくとも東京都心では「ひっきりなし」と表現しても過言ではないメルセデスやBMWを見かける頻度に比べると、ジャガー車を目にする機会が極端に少ないことに、「もしかすると、このブランドは不当な“過小評価”を受けているのではないか!?」と、そんな思いが拭えないことは事実なのだ。
日本で「輸入車」といえば、それが半ば自動的にドイツのブランドを指すのは周知のこと。その人気の一極集中ぶりは、決して今に始まったことではない。
もちろん、こうしてドイツの作品が人気独占にいたるのは、それなりの理由があったからこそ。いかにも「アウトバーンが鍛えた」というセリフがふさわしい高い高速安定性や、世界的に定評のある日本車に準じた信頼性などを否定するつもりは、もちろんない。
さらには、販売やサービス網の充実ぶりなど、車両本体以外の要因が少なくないことも当然想像できる。が、それにしても、見れば見るほど、乗れば乗るほどに、「本来はもっともっと売れておかしくないのに……」と、そんな思いがよぎるのが、昨今のジャガーの作品群に対する個人的な印象なのだ。
ダイナミックな走りこそ身上
「フォードが親会社」という時代に、果敢に新たなボリュームゾーンの開拓へと挑んだ「ジャガーXタイプ」。2001年にローンチが行われたものの、残念ながらこのクルマは期待にそう成果を残すことができなかった。
以来、実に13年という歳月を経て再び欧州Dセグメントのカテゴリーへと投入されたブランニューモデル、XEが、なんとも溜飲(りゅういん)の下がるエモーショナルな走りを味わわせてくれることはすでに体験済みだし、機会を得るたびにそれを文字にもしてきた。
中でもそのハイライトは、バランス感覚に富んだフットワークのテイストにある。滑らかで気分のよい荷重の移動感や、それによって4輪の接地性を自在にコントロールしていける感覚は、同じセグメントに属し、この点では世界のトップランナーといえる「BMW 3シリーズセダン」にも勝るとも劣らない。
かつて世界中で絶賛されたスポーツカーや、ルマン24時間レースを代表とするコンペティションの分野で輝かしい戦歴を残したヒストリーなどを振り返り、「こうしたダイナミックな走りのテイストこそ自らのDNA」と強く、再びアピールするに至っているのが、昨今のジャガー車に共通する特徴でもある。
ジェントルで上品な、年配者のためのサルーン――このブランドの作品を、もしも“それだけ”と理解するのであれば、それもやはり誤解というものであるはず。今のジャガー車が例外なく備える流麗で躍動的なスタイリングからして、走りのダイナミズムを基準に構築されているのだ。
完全自社開発のディーゼルエンジン
そんなジャガーの最新作であるXEのラインナップに、さらなる援軍が加えられた。すでに日本でもデリバリーが始まって久しいガソリンエンジン仕様に加え、発表のみが先行していたディーゼルエンジン仕様もいよいよ上陸となったのだ。
“インジニウム”という愛称が与えられた2リッター4気筒の可変ジオメトリーターボ付き直噴ユニットは、「ジャガーランドローバー社自身による、完全新開発のエンジン」とうたわれるもの。尿素SCRシステムを用いてユーロ6の排ガス規制も当然クリアするその新たな心臓は、オールアルミ製で、ツインバランサーシャフトを用いて振動を封じ込め、最新ガソリンユニットと主要構造の多くを共有する4バルブのDOHC……と、いかにも最新エンジンらしいスペックだ。
外観上は、ガソリンモデルと何一つ変わるところのないディーゼル仕様のXE。しかしキャビンへと乗り込めばフルスケールが6000rpmのタコメーターが、またトランクリッドを開けば排ガス浄化に不可欠な尿素水“アドブルー”の注入口が、このモデルが新しい心臓を搭載することを控えめに証明する。
かつて、寒い時期にはイグニッションをオンにしてから数秒の予熱時間が不可欠だったディーゼルエンジンも、昨今の乗用車ではそんな“儀式”は「今は昔」というもの。このディーゼル版XEでも、エンジン始動の手順はガソリンモデルと変わらない。まだ気温がひとケタ台の前半だった取材当日も、冷間状態からまさに瞬時に目を覚ましてくれた。
走りのポテンシャルは文句ナシ
一方で、ノイズに関しては「ガソリン仕様と同じ」とは言えないのは事実。ガソリンユニットとは異なる特有の放射音は、暖機が進み温間状態になっても消えないし、キャビン内でもその音質の違いは明確だ。ただし、それは決して「うるさい」と感じるほどではないし、車外で耳にするボリュームはメルセデスやBMWなどのライバルよりも小さく、「これならば、早朝の住宅街などでも『ディーゼルだから』と言い訳せずに済みそう」という印象だ。
残念だったのは、アイドリングストップ状態から再始動する際の振動が、許容できない水準にあること。“ブルン”とくるその揺れ方が、「これだと、アイドルストップは使いたくないナ」と思わせる大きさなのだ。
走りのポテンシャルは、ひとことで言えば”文句ナシ”だ。
街乗りのシーンでは、「2000rpmまでですべてが事足りる」という低回転域でのトルク感が頼もしい。ガソリン自然吸気ユニットであれば4リッター級に相当する43.8kgmという最大トルク値が、1750rpmから得られるというカタログ値も納得の印象だ。
そこには、滑らかできめ細かな変速をシャープなレスポンスと両立させている8段ATの貢献度も含まれる。100km/hでのクルージングにおけるエンジン回転数は1400rpmほどで、それはまさに「これから本領発揮!」というポイント。
ちなみに、こうした速度域になるとロードノイズなどの“暗騒音”が高まってくるので、もはやゆるゆる回るエンジンが発するノイズなど、まるで気にならなくなってしまう。燃費面を考えても力強さを考えても、ハイウェイクルージングではガソリン仕様を差し置いて、こちらの独壇場なのだ。
魅力もネガも全車共通
ディーゼル版XEの車両重量は、ガソリンモデル比で20~40kg増しという計算。ただし、実際のフットワークでそうした差を実感させられることはなく、前述した“XEならでは”の好感度の高いスポーティーサルーンとしての振る舞いは、ガソリンモデルと何ら変わるところはないと報告できる。
一方で、そんなガソリンモデルと同じアイテムを採用するがゆえに、ネガティブな面まで同じとなってしまっているのが、操作を画面のタッチに頼ったナビゲーションシステムをはじめとするインフォテインメント系。アイコンスイッチ類のレイアウトも今ひとつで、使いづらいと表現するしかない。「取りあえず日本仕様へのローカライズはやっておきました」というエクスキューズが聞こえてきそうな、この期に及んでカタカナ表記のみのメーターパネル内のワーニング表示も、時代遅れ感が否めない。
“ジャーマン3”の作品はおろか、このあたりはごく少数の輸入しか行われないアメリカ発のライバルにすら大きく後れをとっている部分。「市販型のナビをビルトインする」という手法に長年甘んじてきたポルシェですら、ついに本社開発の最新マルチメディアシステムの搭載が始まった今、この差はかなり決定的だ。
とはいえ、かねて得意としてきたアルミ技術をいよいよ全車種へと展開し、その強靱(きょうじん)な骨格を武器にダイナミックでエモーショナルな走りを味わわせてくれるジャガーの魅力は、いまや各車に共通して備わっている。もはや特定のモデルに限ったフロック(まぐれ)などとは到底思えない。
え? そんなジャガーにディーゼルエンジンなんか似合わない!? だから、それもまた“食べず嫌い”がもたらす誤解だと言っているのである。
(文=河村康彦/写真=宮門秀行)
テスト車のデータ
ジャガーXE 20dピュア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1850×1415mm
ホイールベース:2835mm
車重:1660kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:43.8kgm(430Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)205/55R17 95Y/(後)205/55R17 95Y(ダンロップ・スポーツブルーレスポンス)
燃費:17.1km/リッター(JC08モード)
価格:497万円/テスト車=573万6000円
オプション装備:メタリックペイント<グレイシャーホワイト>(8万2000円)/インテリア・ムードランプ アップグレード(1万円)/フロアマット(1万8000円)/ブラインドスポットモニター<クロージングビークルモニター、リバーストラフィックディテクション付き>(9万3000円)/コールドクライメートパック(9万9000円)/ライティングパック(19万円)/アドバンスドパークアシスト+プロクシミティカメラ(27万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3147km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:245.6km
使用燃料:20.5リッター
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。