トヨタ・ランドクルーザーZX(4WD/6AT)
実力を試すことすら難しい 2015.10.16 試乗記 内外装の変更を含む、大幅なマイナーチェンジを受けた「トヨタ・ランドクルーザー」。今日も世界中で活躍を続ける“陸の王者”の、実力の片鱗(へんりん)に触れた。砂漠の国のステータスシンボル
首都はドーハ、というサッカーファンであればおなじみの国、カタール。今から4年半ほど前、なぜかそんな場所で行われた某車の国際試乗会へと出掛けた折、初めて訪れた中東の街で目を引いたのは、急発展を遂げたいかにも未来都市風の高層ビル群の中を走る、どれもがよく磨き上げられたランドクルーザーたちだった。
資源に恵まれたカタールは、オイルマネーが生み出した多くの富裕層が暮らす国。となれば、当然ながら街中では、欧州プレミアムブランドのクルマたちを見掛ける頻度も高い。が、それは乗用車系に限ってのことで、感覚的には街行くクルマの半分ほどを占めるSUV系は、その7割がたがランクル。残りは「日産サファリ」が2割ほどで、あとは「ポルシェ・カイエン」の姿がちらほらいる程度。きっと数多く走っているだろうと想像したレンジローバーやランドローバー、さらにはメルセデスやBMWのモデルなどは、「むしろ東京で目にする方が多いのでは!?」と、そんな状況だったのだ。
この数年でそんな欧州勢も多少シェアを増してはいるかもしれない。けれども、きっとランクルの王者の座に揺るぎはないだろう。
かくもランクルが支持される理由が、「圧倒的に高い信頼性ゆえ」と教えてくれたのは、試乗会の自由時間中に体験をした、砂丘を疾走する“サファリドライブ”のドライバー氏だった。自身でも先代モデルの「100系」ランクルを操る彼いわく、この地では「壊れにくく、修理も楽なランドクルーザーこそが、最高のステータスシンボル!」と語ってくれたのだ。
キモはデザインの変更と装備類の強化
……と、そんな例を持ち出すまでもなく、ランドクルーザーにとって、イチにもニにも重要なポイントが、その圧倒的なタフネスぶりにあるというのは、ことあるごとくに耳にしてきた事柄。そんなランクルが、マイナーチェンジによって新しくなったという。
かくして、編集者のHサンのドライブでロケ現場へと運ばれてきたのは、小山のように大きく、しかもSUVなどという表現は似つかわしくないゴツいプロポーションの、やたらに派手で巨大なフロントグリルを備えたモデル。けれども実はこれこそが、この8月にマイナーチェンジが実施されたばかりの200系ランクル。そもそもの誕生は2007年で、2度目となるビッグマイナーチェンジが図られた今回のモデルは、そこから数えればすでに8年が経過をしたものなのだ。
そう言われて車両のサイドへ、さらには後方へと回り込んで眺めてみると、なるほど「これは確かに見たことあるナ」という印象。そんな最新200系は、実はボディーの骨格やランニングコンポーネンツに大きな変更はなく、ランクルシリーズの頂点に立つモデルにふさわしい内外装のデザインの採用や、ここ数年で急激な進歩を遂げてきたさまざまな安全装備の搭載など、主にエレクトロニクス系のアップデートを図ったものであるという。
ちなみに、デビューから8年というこのタイミングで再度のリファインが実施されたとなれば、200系が“10年選手”となることはもう間違いナシでもあるわけだ。
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ディテールに見るホンモノの証し
離れて見ても十分大きいそんなランクルは、全長が4950mmで全幅が1980mm、さらには全高も1870mm……と、その寸法はおよそ“乗用車”の感覚から掛け離れている。
実際、ドアミラーの張り出しまでを含めれば、リアルワールドでの絶対幅はたっぷり2.4m程度に達しそう。パレット式立体駐車場はそもそもギブアップとしても、自走式パーキングなどでも所によっては進入を諦めざるを得なくなりそうで、そうした意味では、これが“人と場所を選ぶクルマ”であることは間違いなしだ。
決して見せ掛けのアクセサリーなどではなく、このモデルの場合にはれっきとした実用装備であるステップに足をかけた後、よじ登る感覚でドライバーズシートへと腰を下ろす。
ATセレクターほか、新設されたドライブモードのセレクターボタンやトランスファーダイヤルなど、駆動システム関係の操作系が並ぶ幅広のセンターコンソールを挟んだパッセンジャー側シートが思いのほか“遠くにある”ことに、例の車幅を意識させられる。
それでも視界に優れるのは生粋のオフローダーの証し。ボディー周囲を監視するモニターの機能も充実する一方、直接目視ができる範囲も思いのほか広い。2つのバルジが盛り上がるボンネットフードは、その間のへこみ部分がノーズ中央部を把握するのに貢献するし、窓枠部分の低さはそこから身を乗り出して路面を目視するのに重宝しそうだ。
法規内で許されるぎりぎりまで高められたというヘッドライトは、遠方を高い位置から照射することを意識し、そのユニットを後方寄りにレイアウトしたのは、木の枝などによる損傷を避けたいという思いからと聞いた。さらには、下まわりのヒットから守るため高い位置にラジエーターをマウントした……と耳にすると、あの派手で唐突に思えたグリルの意匠も、昨今のほかのトヨタ車とは異なって(?)“機能美”のひとつなのか……と、急に違和感が薄れるのは気のせいだろうか?
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“6段どまり”のATが惜しい
搭載エンジンは、今や世界的な“絶滅危惧種”である自然吸気V8ユニット。4.6リッターという排気量から318psの最高出力と46.9kgmという最大トルクを発するものの、それでもさしもの2.7トン近い重量を相手にするがゆえ、スタートの瞬間からその動きはゆったりしている、というか、正直かなり重々しい。
ルーズな駆動力の伝達感が、「トルコンスリップによって、トルク増幅作業を懸命に行っている」という雰囲気を醸し出す中、それでも絶対的な動力性能にはまず不足は感じない。
ただ、その一方でさほどの余裕を感じないのは、クルージング状態からアクセルペダルを踏み加えると、即座にダウンシフトを行う場面が多いからだ。ATが従来同様の6段ユニットに据え置きなのはちょっと残念で、よりワイドなレンジと小さなステップ比が両立できる多段のATとの組み合わせが実現すれば、同じエンジンのままでもより大きな動力性能のゆとりが得られそうだ。
静粛性の高さ、特にロードノイズの小ささは特筆の水準で、これは例えば「オフローダーのクラウン」といったフレーズを用いるのにも抵抗ナシ。一方で、路面凹凸を拾うたびにブルブルと残留振動感の強い乗り味は、“3世代前のクラウン”とでもいうべきか。もっとも、そんな乗り味を「より振動の収まりの良いドライなものにしてほしい」という要求は、まず“ランドクルーザー乗り”の中からは現れそうにはないわけだが。
意外だったのは、日常シーンでパワーステアリングの味付けが重めであった点と、低速時にステアリングホイールへと伝えられるキックバックが思いのほか大きかったこと。もっと軽々とした、“乗用車風味”のテイストを予想していたが、それは大きく外れていた。
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道なき道を走りたい
というわけで、久々に味わった“ランドクルーザーワールド”だったが、心残りなのは、今回のテストドライブの範囲内では、実はこのモデルが備える本当のポテンシャルは、少しも引き出せていないということだ。
そう、ランクルは本来はオフロードでこそ比類なき走りの実力を発揮するに違いないモデル。しかし、今回は撮影のためにホンのわずかに舗装路上から外れたのみで、そもそも4WDの恩恵を実感できる場面すらなかったのだから、まさに宝の持ち腐れに終始したことになる。
4WDローモードを選択し、地上高を増した上で、センターデフロックを掛けてからガレ場へと挑んだら、いったいどれほどのすさまじい走破性を披露してくれるのか? それはまさに未知なる世界。本来ならば、「そこのところをチェックしなければ意味がない」と突っ込まれそうだが、実際には、たとえそうした舞台を見つけたとしても、髪の毛ほどの傷も付けることが許されないプレスカーを撮影に用いるとなれば、そんな勇気はなかなか生まれない。
そうは言っても、恐らくは当代随一とおぼしきオフロード性能の持ち主となれば、何とかその片鱗を味わってみたいという思いが募る。それまでは、どうやら自身の中での“ドリームカー”に終わりそうなのが、最新のランドクルーザーなのだ。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
トヨタ・ランドクルーザーZX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1980×1915mm
ホイールベース:2850mm
車重:2690kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.6リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:318ps(234kW)/5600rpm
最大トルク:46.9kgm(460Nm)/3400rpm
タイヤ:(前)285/50R20 112H/(後)285/50R20 112H(ダンロップ・グラントレックPT2A)
燃費:6.7km/リッター(JC08モード)
価格:682万5600円/テスト車=805万2480円
オプション装備:ヘッドランプクリーナー(1万800円)/ルーフレール<ブラック>(3万2400円)/パワーバックドア<イージークローザー+挟み込み防止機能付き、上側のみ>(10万8000円)/クールボックス(7万200円)/T-Connect SDナビゲーションシステムDCMパッケージ+トヨタプレミアムサウンドシステム 12ch・DSPアンプ 18スピーカー+マルチテレインモニター<フロントカメラ+サイドカメラ[左右]付き>+リアクロストラフィックアラート+リモートセキュリティーシステム<リモートイモビライザー>(77万1120円)/リアシートエンターテインメントシステム<後席11.6型ワイドVGAディスプレイ×2+リモコン+HDMI端子付き>(14万7960円)/寒冷地仕様<リアフォグランプ+ウインドシールドデアイサー+PTC[補助]ヒーターなど>(1万7280円)/フロアマット<エクセレント>8人乗り(6万9120円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1148km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:452.6km
使用燃料:66.9リッター
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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