フィアット500Xポップスタープラス(FF/6AT)
500とは違うよさがある 2015.11.19 試乗記 フィアットが初めて手がけた“Bセグメント”のクロスオーバーSUV「500X」。1.4リッターFFモデルに試乗してわかった、走りの特徴や乗り心地、燃費などを、項目ごとに詳しく報告する。【総評】……★★★★☆<4>
その昔、筆者がある自動車雑誌の編集者だったとき、先代「フィアット500」に乗っていた。そのとき気に入っていたのは、軽自動車より小さなボディーや空冷2気筒エンジンの響き、リアエンジンならではのハンドリングであって、デザインに引かれていたわけではなかった。
なので、500が水冷エンジンをフロントに横置きした前輪駆動のハッチバックに生まれ変わり、さらにひと回り大きな5ドアクロスオーバーの500Xまで登場するというストーリーには戸惑うばかりだったが、ブランドでモノを選ぶ現代人にアピールするには、こういうものづくりこそ正道なのかもしれない。
その点、FCAグループは有利だ。フィアットとクライスラーの両陣営とも、昔からブランドの取り扱いに長(た)けているからだ。例えば前者は、同じプラットフォームからフィアットとランチアとアルファ・ロメオを、三者三様の個性を与えて生み出してきた経験を持つ。
ここで紹介する500Xとプラットフォームやパワートレインを共用する車種としては、「ジープ・レネゲード」がある。別の機会にレネゲードをドライブした経験から言えば、この2台はデザインだけでなく、例えば乗り心地ひとつ取っても、ちゃんと“500らしさ”“ジープらしさ”が表現できている。
今回テストした「500Xポップスタープラス」の具体的な評価は後に記す通りだが、個人的に最も印象に残ったのは、同じ素材から500Xとレネゲードという、まったく違う作品を作り上げてしまうFCAのブランドマネジメントだった。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
フィアット500Xは、“Bセグメント”に属するクロスオーバーSUV。2014年10月のパリモーターショーで世界初公開され、日本市場では2015年10月に発売された。
プラットフォームは“Aセグメント”の500ではなく、同じFCAグループの小型SUVジープ・レネゲードと共用しており、実際のボディーサイズ(FF車で全長×全幅×全高=4250×1795×1610mm)も、500より大きい。
駆動方式はFFと4WDの2タイプ。エンジンはガソリンの1.4リッター直4ターボのみで、FF車は最高出力140psで最大トルク23.5kgm、4WD車は170psに25.5kgmと、アウトプットに違いがある。トランスミッションも2種類あり、FFにはデュアルクラッチ式の6段ATが、4WD車には9段ATが組み合わされる。
(グレード概要)
グレード構成は、FFがベーシックな「ポップスター」(車両価格:286万2000円)と、レザーシートや18インチアロイホイール、運転支援システムなど装備の充実したポップスタープラス(同307万8000円)の2種類。4WD車は「クロスプラス」(同334万8000円)1車種が用意される。
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【車内&荷室】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★☆☆<3>
ボディー同色のパネルを除くと、インストゥルメントパネルに500らしさは薄い。ステアリングホイールやセンターパネルがホワイトではなく、大きな単眼だったメーターが3眼になっているなど、フツーのクルマっぽくなっているからだ。洋の東西を問わず、増え続ける装備をいかにスッキリ収めるかが、今後のデザイナーの腕の見せどころだろう。
装備で興味深かったのは、オーディオの音量調節や選曲をするためのステアリングスイッチが、ステアリングホイールの左右スポーク裏側にあって、ブラインドタッチするタイプであること。ジープやクライスラーではおなじみのスイッチで、レネゲードにも採用されている。意外なところでFCAグループの結び付きを知った。
(前席)……★★★★☆<4>
座面が硬く傾きが大きめの、イタリア車らしい作り。センターアームレストが前後にスライドするのは、500と異なるロングツアラーという役割が500Xに持たされていることもあるだろう。
最も目を引いたのは、試乗したポップスタープラスに与えられるコーディネートだ。つやを抑えたブラウンのレザーにグレーのパイピングを組み合わせ、センターコンソールはマットなシルバー。イタリアンプレミアムという言葉が似合う空間になっていた。
(後席)……★★★☆☆<3>
こちらは前席から一転して座面がほぼ水平で、背もたれの角度は垂直に近い。着座位置は高めなので、ダイニングチェアに座ったかのような姿勢になる。座り心地は硬めで、形状が平板なのでサポートはあまり期待できない。ただ身長170cmの筆者が、前席で自然な運転姿勢をとったうえで後席に座ると、ひざの前には約10cmの空間が残る。頭上のスペースにも余裕がある。
短時間ではあるが、一般道で走行中の乗り心地もチェックした。荒れた路面では揺すられ気味になるものの、路面からのショックは前席よりもむしろ丸めて届けられていた。長距離でなければ使える空間だ。
(荷室)……★★★☆☆<3>
荷室の容積は定員乗車時で350リッター、後席を畳むと1000リッターになる。フロアは高めで、横幅は左右のホイールハウスに侵食されているが、奥行きは従来型500の倍くらいはありそう。このクラスのハッチバックやクロスオーバーなりのスペースは持っている。なお、同等のボディーサイズのクロスオーバーでは「マツダCX-3」が同じ350リッターだ。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★☆<4>
吸気側のバルブの開閉にカムシャフトではなく油圧を使う「マルチエア」エンジンは、アルファ・ロメオやアバルトにも積まれている1.4リッター直列4気筒ターボ。最高出力140ps、最大トルク23.5㎏mというスペックは、アルファでいえば「ミト」と「ジュリエッタ」の間にある。コンビを組むのが6段デュアルクラッチトランスミッションなのは、アルファと共通だ。
最近のダウンサイジングターボの常で、低回転からまんべんなく豊かなトルクを発生する。エンジン音はアルファのような“聞きほれるサウンド”ではなく、一般的な響きだ。トランスミッションは、発進時のクラッチミートがやや唐突な傾向があり、ローで引っ張り気味であるほかは、終始スムーズなマナーだった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★☆☆<3>
街中での乗り心地はフィアット500らしく、少しヒョコヒョコしていて、段差や継ぎ目のショックも伝えがちだ。その点、18インチのホイール/タイヤを装着するテスト車よりも、17インチのベースグレード「ポップスター」のほうが好ましいかもしれない。しかし高速道路に入ると、上下動は残るものの乗り心地はやや落ち着いてくる。500を名乗る現行フィアットの中では、リラックスして過ごせるクルマである。
ハンドリングは、現代の前輪駆動実用車として満足できる水準にある。従来の500のように、短さや幅の狭さ、背の高さが意識されることはなく、自然な気持ちでコーナーを走れるようになった。欲を言えば、もう少しステアリングの手応えがあるとよい。
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(燃費)……★★★☆☆<3>
JC08モード燃費の数字が15.0km/リッターであるのに対して、高速道路9割、市街地1割の試乗で出した燃費は満タン法で13.8km/リッター、車載燃費計では13.4km/リッターだった。今のこのサイズの前輪駆動車なら15km/リッターは走ってほしいという気もしたけれど、高速道路メインの試乗ルートだったとはいえ、モード燃費との差が少ないのは好ましい。
(文=森口将之/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
フィアット500Xポップスタープラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4250×1795×1610mm
ホイールベース:2570mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:140ps(103kW)/5000rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91V/(後)225/45R18 91V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:15.0km/リッター(JC08モード)
価格:307万8000円/テスト車=318万1032円
オプション装備:ETC車載器(1万3392円)/ナビゲーションシステム(5万9400円)/フロアマット(3万240円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2008km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:257.5km
使用燃料:18.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.8km/リッター(満タン法)/13.4km/リッター(車載燃費計計測値)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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