MINIクーパー クラブマン(FF/6AT)
カワイイのその先へ 2015.11.26 試乗記 全長4270mm、全幅1800mmとシリーズでもっとも大きなボディーを持つにいたった新型「MINIクラブマン」。いよいよCセグメントに成長した立派なボディーがもたらす走りとは? 1.5リッター直3エンジンを搭載する「クーパー」に試乗した。MINIでも幅は「クラウン」
とうとう全幅1.8m。ボディーの幅だけでいえば、もうクラブマンではなくて「クラウン」である。MINIが生き延びるためには、強烈な個性を薄めてより一般化し、またより多くの顧客を引き付けるためにはボディーサイズもミニから脱皮する方向を目指さなければならない、と頭のどこかで理解してはいるが、どこまで「ミニ」と呼べるのか、あらためて考えさせられた新型クラブマンである。それはたとえば“カワイイ”は何歳まで許されるのか、あるいは子ども料金はどのぐらいの身長まで適用されるのか、などという答えの出ない設問と似ているようにも思えるが、どうもBMWはこのようなサイズ拡大も初めから行程表に織り込み済みのような気がする。少しずつ世の中に浸透させていけば、前輪駆動のBMWが当たり前になるように、CセグメントどころかDセグメントサイズのMINIも可能かもしれない。というふうに考えるとちょっとブルッとする。BMW、恐るべし。
2代目(BMW MINIとして)にして一気に成長したMINIクラブマンの日本向けモデルは2種類あり、クーパーは1.5リッター3気筒ターボ(136ps/220Nm)に6AT、「クーパーS」は2リッター4気筒ターボ(192ps/280Nm)に8ATの組み合わせ。ベース価格はそれぞれ344万円と384万円。ただし、ここに取り上げたクーパー クラブマンの試乗車は例によって豊富な種類のオプションがふんだんに(計140万円余り)大盛りされており、トータルでは487.9万円に及ぶ高額モデルである点にご注意ください。
もはや「ゴルフ」と同等サイズ
何といっても注目すべきは、2007年デビューの先代モデルよりふた回りは大きくなったボディーサイズである。新型MINIクラブマンの全長×全幅×全高は4270×1800×1470mm、ホイールベースは2670mmというもの。これはもはや現行「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とまったく同等の寸法、ホイールベースはむしろMINIのほうが長い。従来型クラブマンに比べると全長は+290mm、全幅は+115mm、ホイールベースも125mm伸びている。現行のMINI 5ドアは4000×1725×1445mmだし、MINIクロスオーバーと比べても全高以外はこちらのほうが大きい。つまりMINIクラブマンは今、もっとも大きなMINIなのである。
その辺はBMWもさすがに気にしているらしく、プレスリリースには「MINI初の“プレミアム・コンパクト・セグメント”モデル」と表現され、そして「そのセグメントにふさわしいボディーサイズとクオリティーを与えた」などと、どうにも苦し気で微妙な言い回しが使われている。少なくとも、小さいから、カワイイからこそ許されることもあるが、ゴルフなど他のCセグメントとまったく同じとなれば、もはや言い訳無用であることを重々承知というわけだ。そうそう、右側だけに観音開きドアが備わり、“ミニミニ・シューティングブレーク”のようなユニークな雰囲気を演出していた従来のクラブマンとは異なり、新型はどこから見ても一般的な4枚ドアを持つ普通のステーションワゴンのフォルムを持つ。
4枚ドアの5人乗り
全幅1800mmもあるから当然だが、従来モデルよりはるかにルーミーになったインテリアの仕立ての腕はますます上がったようで、MINIファミリーのルールに従いながら整理整頓された上等な雰囲気にあふれている。目を引くのは広くなった室内のあちらこちらにちりばめられたクロムのトリムだ。トグルスイッチやエアアウトレットのリング、ドアハンドルなどすべて金属のように見せて実は樹脂製のようだが、プラスチック製を感じさせない仕上がりが見事だ。しっとりとした輝きは。メーカーによってはサテンクロム、あるいはリキッドクロムなどと称するタイプだが、こういう処理には日本のメーカーが学ぶべき点は多い。他にもアンビエントライトの使い方やレザーシートの仕立て方、色合いなど、オプション代はしっかり取られるが、できれば欲しいと思わせる装備品のまあ多いこと。その演出の手腕には舌を巻くしかない。実際の手間のかけ方は別にして、レクサスのほうがすてきだと断言できる人がいたら、ぜひお話をうかがいたい。
現行MINIをベースにしているだけにドライビングポジションはもはや自然であり、コントロール類に特徴となるような癖もない。リアシートの足元も十分な余裕があるが、座面クッションはサイズが小さ目で角度がついているせいか、どうもお尻が落ち着かない感じ。ちなみに今度のクラブマンはリア3人がけの定員5名である。前後ドアは通常タイプとなったが、リアゲートは左右観音開きのドアを踏襲している。ラゲッジルームはさほど広くはないが、360リッターと先代(260リッター)よりは一気に大きくなった。ブリヂストンのランフラットタイヤが装着されているためスペアタイヤは搭載されない。
先祖返りのシャープさ
車重は1430kgとクーパーの「5ドア」と比べて150kg以上重くなっているが、1.5リッター3気筒ターボが生み出す136ps(100kW)/4400rpmと22.4kgm(220Nm)/1250-4300rpmに不足はなく、十分に身軽に走ることができる。意外に思ったのは、ボディーサイズやドアなど一般的になった部分が多いのに、ハンドリングに関してだけは以前のMINIのゴーカートフィーリングを明確に押し出している点だ。コツンカツンと硬めの突き上げをダイレクトに伝える乗り心地、切り始めにピッと切れるステアリングのゲインの高さ、ロールする前にノーズが動く水平移動感覚など、現行のMINIでは姿をひそめたあの感覚が戻ってきたようだ。
もしかすると大きく重くなった分、ダルになったと指摘されるのを懸念したのかもしれないが、一世代前のMINIのようにやや人工的でピーキーなハンドリングはパキパキ飛ばしたい人にはいいが、私のようなオヤジは現行「MINI ONE」や「クーパー」のようにもっと自然にストロークして接地感を伝えてくれるキャラクターのほうが安心できる。タイヤがオプションの18インチではなく標準サイズの17インチであればまた違うのかもしれない。
たとえコンパクトセグメントだとしても全幅1.8mなんて行き過ぎ、あるいはステアリングフィールが人工的、などと拒否する声は、どこから見ても美しい出来栄えのクラブマンに乗っているうちにいつの間にか聞こえなくなってしまう。それどころか家族持ちのファーストカーにはちょうどいいんじゃないか、とさえ考えてしまう。それがジワジワ広がる“ミニ菌”の恐ろしさなのである。
(文=高平高輝/写真=小河原認)
テスト車のデータ
MINIクーパー クラブマン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4270×1800×1470mm
ホイールベース:2670mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:136ps(100kW)/4400rpm
最大トルク:22.4kgm(220Nm)/1250-4300rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:17.1km/リッター(JC08モード)
価格:344万円/テスト車=487万9000円
オプション装備:PEPPER PACKAGE(18万2000円)/スター・スポーク アロイ・ホイール シルバー(12万円)/ダイナミック・ダンパー・コントロール(7万7000円)/リヤ・ビュー・カメラ(10万3000円)/シルバー・ルーフ&ミラー・キャップ(2万5000円)/ファイバー・アロイ イルミネーテッド(7万5000円)/レザー・チェスター/インディゴ・ブルー(43万7000円)/ドライビング・アシスト アクティブ・クルーズ・コントロール(9万4000円)/LEDヘッドライト(12万7000円)/パーキング・アシスト・パッケージ(12万3000円)/ヘッド・アップ・ディスプレイ(7万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1170km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。