MINIクーパーSD クラブマン(FF/8AT)
MINIという名の新種 2016.07.25 試乗記 ユニークな6枚ドアを持つ「MINIクラブマン」、そのクリーンディーゼル搭載モデルに試乗。中でもパワフルな「クーパーSD クラブマン」は、MINIの生みの親であるアレック・イシゴニスも驚くであろう、相反する魅力を持ち合わせていた。満を持してのディーゼル版
オリジナルMINIが人気を得た時、セルジオ・ピニンファリーナはスタイリングがあまりにも素っ気ないと感じたらしい。「少しはボディーをデザインすればよかったのに」と言われたアレック・イシゴニスは、「いや、MINIは私が死んでいなくなってもずっと流行しているよ」と答えたそうだ。機能美こそが正義であるという信念に裏打ちされた言明である。彼は正しかった。しかし、50年以上たってMINIがこれほどの百花繚乱(りょうらん)状態になるとは想像もしなかっただろう。
コンパクトハッチに加えオープンやクロスオーバーまで6つのモデルがあり、それぞれに数種類のパワーユニットが用意される。MINIだけで小宇宙が形作られているから、ユーザーは、ほかのモデルを顧みることなく好みの一台を選べるのだ。名称がサイズを制約する意味はすでに失われている。2014年のディーゼルモデル導入で、さらに選択肢が広がった。この4月からは、ディーゼルのMINIは6モデルが追加され、ラインナップは10種となった。
クラブマンは1969年のモデルにルーツを持つ名で、荷室を拡大して実用性を高めた車種である。新世代になってからは2007年に初代が登場し、昨年2代目となった。新たに与えられたのは、2リッター直4ディーゼルターボエンジン。チューンが2種類あり、「D」は150ps「SD」は190psの最高出力となっている。
今回の試乗車はハイパワーなSDで、価格は404万円。それだけでも結構な価格だが、乗ったのはいわゆる全部乗せで、オプションが150万円分加わっていた。プレミアム感満々の仕様である。ドアロックを解除した時にドアミラーからMINIロゴが投影されるというおもてなしは過剰かと思ったが、実は車格に見合った演出なのだ。
オンリーワンのインテリア
内装の設(しつら)えも見事なもので、高級感にあふれている。MINIが一貫して採用している円をモチーフにしたインテリアは、ともすればファニーに見えてしまいそうだ。しかし、使い続けるうちにブラッシュアップされてグレード感が増していった。スポーティーさと豪華さを両立させたデザインはオンリーワンで、ほかのどのクルマにも似ていない。素材の質感向上や加飾の巧みさで、着実に進化を遂げてきた。試乗車にはバーガンディーレザーのスポーツシートがおごられていて、リッチな雰囲気がさらにアップしている。
外観ではリアスタイルが印象的だ。横長になったコンビネーションランプには同心円が用いられていて、クジャクの羽の目玉模様を思わせる。ボディーサイズが先代に比べてはるかに大きくなったことは知っていたが、このデザインは実際以上に立派に見せる効果があるようだ。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」と同等のサイズだが、もっと大ぶりな印象だ。威風堂々という言葉がふさわしい。
現行型では、運転席側のフロントドアとリアドアの観音開きは廃されたが、リアゲートのスプリットドアは引き継がれている。両手がふさがっている時でも不便がないように、キーを持っていればバンパーの下に足先をかざすだけで自動的にオープンする機構を採用した。このシステムは10年以上前に「BMW 7シリーズ」で初お目見えしたと記憶しているが、その時は使いものにならなかった。いくら足を突っ込んでも反応せず、クルマの後ろでタコ踊りするハメになったのだ。センサー技術の進歩は目覚ましいもので、MINIクラブマンは足を一度動かせば右、2度動かせば左のドアが確実に開く。
大きくても動きは俊敏
2リッター直4ディーゼルターボエンジンは、3ドアや5ドアのMINIにも搭載されている。クラブマンは重量級であり、3ドア/5ドアの170psに対し190psとよりハイパワーなチューンを施した。コモンレールシステムや可変ジオメトリーターボを装備した最新クリーンディーゼルだが、意外だったのはエンジン音だ。最近のディーゼルは徹底して音を抑えこむようになっていて、うっかりするとガソリン車と間違うこともある。クラブマンの運転席では、明確にディーゼルエンジン特有のリズムが感じられた。ディーゼルの持つおおらかさと力強さをポジティブにとらえた演出なのだろうか。
上質なインテリアの中でディーゼルの音と振動を感じると心にややざわつきが生じたが、アクセルを踏み込むと晴れやかな気分になる。低回転からでも即座に強力な加速が得られ、高速道路の巡航は泰然たるものだ。ポテンシャルを使い切ることなく余裕を持って走れるのがディーゼルの美点だろう。
ステアリング操作に対する反応の素早さは、やはりMINIだと感じさせられる。ずうたいが大きくなっても、キビキビとした動きは譲れないポイントなのだ。俊敏に水平移動するような感覚は健在で、動きに鈍重さはない。MINIのアイデンティティーはここにあると言わんばかりである。
SPORT、MID、GREENという3つの走行モードがあり、シフトセレクターを囲むリングで操作できるようになっている。切り替えると、モニターに日本語でモードが表示される仕組みだ。SPORTが「最高のゴーカートフィーリング」なのはわかりやすい。MIDが「際立つMINIの走る喜び」なのもいいのだが、GREENが「効率的な走る喜び」なのはちょっと戸惑った。もう少しこなれた日本語を使えないものか。
モードによって、ドライビングパフォーマンスのプログラムが切り替わる。GREENではアクセルから足を離すとコースティング状態になり、エアコンやシートヒーターの作動も制限されて燃費が最優先される。
ゴーカートフィーリングは健在だが……
ダンパーの設定もモードで変わる。MIDとGREENは快適性重視で、SPORTは俊敏性のプライオリティーが高い。MINI伝統のゴーカートフィーリングは運転していれば楽しいが、後席の乗員には歓迎されないだろう。SPORTではドライバーにとっても硬すぎるように感じられた。道路の継ぎ目や荒れた路面では、かなり強めの揺れがクルマ全体を襲う。
さすがに腰にくるのでGREENに切り替えてみた。多少は柔らかくなったような気がしたが、それでも平均的なレベルからすれば間違いなく硬い。クイックなハンドリングと俊敏な運動性を得るためには代償を払う必要がある。硬いとはいっても、土台がしっかりしているからボディーがきしむようなことはもちろんない。
高速道路では、クルーズコントロール(ACC)を使ってのんびり走るのが上策だ。トルクが太くてパンチ力があるので、つい誘惑に負けて気持ちよく加速してしまう。ACCは無駄なくおとなしい運転をしてくれるので、間違いなく燃費が向上するはずだ。いつも思うのだが、ACC走行だと右足の置き場に困る。右にもフットレストが欲しくなるのだが、これだけ普及してきたのだから何らかの解決策が講じられてもよさそうだ。
500km弱走って、燃費は満タン法で16.5km/リッターだった。JC08モード燃費は22.7km/リッターで、22.0km/リッターの「MINIクーパーD クラブマン」よりも良好な数字である。歩留まりは7割以上だから、ディーゼルモデルに期待される燃費性能は十分なものだと言っていいだろう。
ただ、これはACCを駆使して高速道路を巡航した結果である。高級GTとして使っていればいいのだが、このクルマが圧倒的に楽しいのは山道だった。急勾配をものともせずに加速していくのは、ハイパワーディーゼルの本領だ。メーターの燃費計を見ると大変なことになっていたのだが、気にしてはいられない。ディーゼルエンジンによって、MINIクラブマンは極太トルクと低燃費という相反する魅力を手に入れた。イシゴニスの思惑をはるかに超え、MINIの小宇宙は拡大し続けている。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
MINIクーパーSD クラブマン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4270×1800×1470mm
ホイールベース:2670mm
車重:1490kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4000rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y /(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:22.7km/リッター(JC08モード)
価格:404万円/テスト車=549万8000円
オプション装備:CHILIパッケージ<コンフォートアクセスシステム+MINIエキサイトメントパッケージ+マルチファンクションステアリング+クルーズコントロール+自動防眩(ぼうげん)エクステリアミラー+MINIドライビングモード+スルーローディングシステム+18インチアロイホイール スタースポークシルバー 8J×18 225/40R18+クロス/レザーコードカーボンブラックスポーツシート>(32万5000円)/ボディーカラー<メルティングシルバーメタリック>(7万6000円)/レザークロスパンチ ピュアバーガンディー<スポーツシート>(※28万1000円)/リアビューカメラ(5万9000円)/18インチアロイホイール スタースポーク ブラック 8J×18 225/40R18<ランフラットタイヤ>(※2万5000円)/アラームシステム(5万5000円)/インテリアサーフェス ファイバーアロイ イルミネーテッド(7万5000円)/ドライビングアシスト アクティブクルーズコントロール(9万4000円)/アダプティブLEDヘッドライト(2万5000円)/パーキングアシストパッケージ<PDCフロント&リア含む>(12万3000円)/ヘッドアップディスプレイ(7万6000円)/harman/kardon製HiFiラウドスピーカーシステム(12万3000円)
※印は、CHILIパッケージ選択時に追加オーダーした場合の差額
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1442km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:477.8km
使用燃料:29.0リッター(軽油)
参考燃費:16.5km/リッター(満タン法)/14.9km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。