MINIジョンクーパーワークス クラブマン(4WD/8AT)
レーシングレジェンドのDNA 2021.08.20 試乗記 マイナーチェンジした「MINIクラブマン」の高性能モデル「ジョンクーパーワークス」に試乗。最高出力306PSのパワーユニットと4WDが組み合わされたステーションワゴンは、ホットな走りとクールなフォルムが魅力の、アガる一台に仕上がっていた。JCWへシフト
MINIのスポーツモデルといえば「クーパー」や「クーパーS」が定番だが、MINI乗りの知人によれば、ハイパフォーマンス志向のユーザーの間でジョンクーパーワークス(以下JCW)へのシフトが進んでいるという。
いまさら説明する必要はないかもしれないが、JCWは世に「Miniクーパー」を知らしめたジョン・クーパーの息子であるマイケル・クーパーが立ち上げたチューナー。BMWが2008年にその名前を買い取り、いまやMINIのハイパフォーマンスモデルに冠されるようになった。レジェンドの魂がMINIのスポーツモデルを支えているという意味では変わりはないのだが。
それはさておき、ワゴンスタイルのクラブマンで比較すると、「MINIクーパーSクラブマン」が452万円であるのに対し、MINI JCWクラブマンは571万円と約120万円高いが、最強のグレードを手に入れたいと思うファンにとって、この価格差は十分納得のいく数字ということになる。
現行のMINIクラブマンにJCWが追加されたのは2017年1月のこと。その当時に搭載されたのは、最高出力231PS、最大トルク350N・mの2リッター直列4気筒ターボで、スポーティーなMINIクーパーSクラブマンの2リッターに比べて39PS、70N・m上回る性能の持ち主だった。これに8段オートマチックと4WDの「ALL4」が組み合わされ、最も速いMINIクラブマンの座を手に入れている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
最新版は306PS
そして2019年、MINIクラブマンのマイナーチェンジとともに、MINI JCWクラブマンもバージョンアップ。注目は新設計の2リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載したことで、最高出力、最大トルクがそれぞれ75PS、100N・mアップの306PS、450N・mとイッキに向上。
これにともない、フロントバンパー内に2基のラジエーターを搭載したほか、フロントアクスルに機械式ディファレンシャルロックや、スポーツ走行に適した8段スポーツオートマチックトランスミッションを採用することで、エンジンの高出力を受け止めている。駆動方式は引き続きALL4を採用している。
こうしたパワートレインの性能向上により、同クラスの4WDホットハッチの「フォルクスワーゲン・ゴルフR」や「アウディS3スポーツバック」と肩を並べることになったのだ。
JCWは他のMINIにも用意されているが、より高出力なパワートレインを搭載するのは、このMINIクラブマンと「MINIクロスオーバー」の2タイプだけ。全高と車両重量は、MINIクロスオーバーが1595mmと1670kgであるのに対し、MINIクラブマンは1470mm、1600kgで、より低く、より軽いことから、MINI JCWクラブマンこそが走りの頂点ということになる。
![]() |
![]() |
![]() |
勇ましくも痛快な加速
早速ヘッドレスト一体型の専用スポーツシートに身を委ねると、いつもどおりにぎやかなコックピットが目に入ってくる。大きく丸いセンターディスプレイやトグルスイッチが並ぶセンタークラスターなどを見ると、瞬時に気分が高揚するから不思議だ。
見慣れたメーターパネルはオーバルの液晶メーターにいつのまにか変わっていた。「マルチディスプレイメーターパネル」と呼ばれるこのデジタルメーター、いわゆる2021年モデルからこのMINI JCWクラブマンにも標準装着されるようになったらしい。
「GREEN」「MID」「SPORT」のドライビングモードから、まずは「MID」を選んで走りだすが、アクセルペダルを軽く踏んだだけでも低回転から力強く、レスポンスの良い2リッターエンジンに頰が緩んでしまう。もう少しアクセルを踏み込んでみると勢いを増し、勇ましいサウンドがもっと踏めといわんばかりにドライバーを誘惑する。
ここでSPORTに切り替えると、瞬時にエキゾーストノートが高まり、軽くアクセルペダルに触れるだけで、トルクが湧き出してくる。4000rpmの手前あたりからはさらに加速が鋭くなり、レッドゾーンに向かってイッキに吹け上がる快感は病みつきになること必至だ。
そんな場面でも、ALL4とハイパフォーマンスタイヤのおかげで、エンジンのパワーは余すところなく路面に伝えられるが、それでもウエット路面では軽くトルクステアが顔を出すこともあるから、慎重なアクセル操作を心がけるに越したことはない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ゴーカートフィーリングは標準装備
MINI JCWクラブマンの乗り心地は、MIDモードでも明らかに硬めで、路面にもよるが高速域ではやや跳ね気味になることも。それでも乗り心地はなんとか許容できるレベルには収まっており、後席でもガマンできるのが救いである。
そのぶん、ハンドリングはクイックで、ステアリング操作に応えて面白いようにコーナーを抜けるのは期待どおり。“ゴーカートフィーリング”がワゴンスタイルのMINI JCWクラブマンでも堪能できるのがうれしい。
ステーションワゴンというには、ラゲッジスペースは広いとはいえないが、「3ドア」や「5ドア」のMINIに比べれば収納力は高い。観音開きのリアゲートは後方視界の邪魔になるものの、MINIクラブマンのスタイルには必須アイテムと考えれば、“あばたもえくぼ”に思えてくる。
とにかく、加速もハンドリングも、良くも悪くもわかりやすいのがMINI JCWクラブマンで、刺激的な走りを一度知ってしまうと、他のグレードには戻れなくなる魔性のMINIなのだ。
人も荷物も余裕で載せることができて、さらにスポーティーな走りも手に入れたいという望みをかなえてくれるMINI JCWクラブマンは、最強の4ドアMINIと言っても過言ではないだろう。
(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
MINIジョンクーパーワークス クラブマン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1470mm
ホイールベース:2670mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306PS(225kW)/5000rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)225/40ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:13.7km/リッター(JC08モード)/12.1km/リッター(WLTCモード)
価格:571万円/テスト車=626万円
オプション装備:ボディーカラー<サンダーグレーメタリック>(8万円)/JCWスポーツシート<ダイナミカ/レザーコンビネーション カーボンブラック>(0円)/デジタルパッケージプラス<MINIドライバーサポートデスク3年間有効、スマートフォンインテグレーション、ワイヤレスパッケージ、MINIコネクテッドXL>(4万9000円)/アダプティブサスペンション(7万9000円)/レッドルーフ&ミラーキャップ(0円)/レッドスポーツストライプ(3万3000円)/アラームシステム(5万7000円)/MINI Yoursインテリアスタイルピアノブラックイルミネーテッド(2万7000円)/プライバシーガラス<リアガラス>(5万1000円)/ヒートシーター<フロント左右>(4万8000円)/harman/kardon製Hi-Fiラウドスピーカーシステム(12万6000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2361km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:257.2km
使用燃料:28.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/11.2km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。