シトロエンDS5【海外試乗記】
シトロエン流グランツーリスモ 2011.11.16 試乗記 シトロエンDS5 THP155(FF/6AT)/THP200(FF/6MT)/ハイブリッド4(FF/6AT)シトロエン「DSライン」の最新モデル「DS5」が登場。東京モーターショーでの実車確認を前に、新型クロスオーバーモデルの走りをフランスからリポートする。
量ではなく質を極める
シトロエン「DSライン」の第3弾にして現時点でのトップレンジとなる「DS5」は、2つの面で既存の「DS3」や「DS4」とは異なる。1つめは2005年のフランクフルトショー発表の「C-スポーツラウンジ」というコンセプトカーの具現であること。2つめは、DS3やDS4では「C3」「C4」と共通だったプラットフォームやインストゥルメントパネルが、“独自”の設計となることだ。
さすがフラッグシップ、贅(ぜい)を尽くしていると思うかもしれないが、種を明かせば、プラットフォームはDS4やC4のストレッチ版。4530×1871×1512mmのボディーは「Cライン」で同格となる「C5」より265mmも短く、そのC5に与えられるオイル/ガス併用の電子制御サスペンション、ハイドラクティブIIIは装備されない。
ちなみに南仏で行われた国際試乗会で本国のスタッフに尋ねたところ、サイズについては当初から「C5」よりコンパクトにするつもりだったとのこと。にもかかわらず、フランスでの価格は同じエンジンを積むC5より1500〜2000ユーロ(約16万〜21万円)高い。欧州でのライバルは「BMW3シリーズ」や「アウディA4」だという。
またエンジンは、C5が積んでいた3リッターV6はなく、HDi(直噴ディーゼルターボ)を含めてすべて4気筒となる。唯一のガソリンユニットである1.6リッター直噴ターボには出力違いで156psと200psが用意され、「プジョー3008」と共通メカではあるが、シトロエンで初めてとなる「ハイブリッド4」もラインナップされるという。
この説明を聞いて、DSラインの目指すところがかなりクリアになった。ボディーの大きさやメカニズムの複雑さで差をつけるのは過去の価値観であり、どれだけ独創的なデザインや先進的なテクノロジーを与えるかという、量ではなく質のアドバンテージをウリにしたプレミアムカーというわけだ。
見たことないカタチ
実車を見るのは2011年4月の上海モーターショーに続いて2回目である。流れるようなフォルムの中に、ハッチバックやワゴン、ミニバンの要素を溶け込ませたスタイリングは、他の何にも似ていない。しかもヘッドランプからドアの前の三角窓に伸びる「サーベル」がとにかく目立つ。最近のシトロエンの中ではダントツに大胆なカタチじゃないだろうか。
飛行機のコクピットを意識したというインパネまわりは、奥行きが長く、センターコンソールがスロープして、コンセプトどおりグランツーリスモ的。仕上げは最近、赤丸上昇中のシトロエンの中でも最上で、メーターから時計までほとんどのパーツが専用だ。他のDSラインとのスペシャル感の違いに圧倒される。
中でも目につくのが、センターコンソールやオーバーヘッドに並んだ三角形のスイッチだ。通常はドアにあるパワーウィンドウのスイッチまでここに集めるという徹底ぶり。カッコいいだけでなく、扱いやすさも最高レベルだった。フランス車としてはウエストラインが高いということもあり、前席はタイトな雰囲気。でも腕時計のベルトにヒントを得たというレザーシートの着座感はやさしくてシトロエンそのものだ。
後席は、身長170cmの僕が座ると膝の前には約15cmの空間が残り、頭上にも余裕が残る。角度と高さがとにかく絶妙で、座り心地は前席に負けていない。それでいてこの後席はダブルフォールディング方式で畳むことができ、468リッターの容量を持つラゲッジスペースをさらに広げることができる。2人乗りでの長距離旅行というシーンにも対応できるパッケージングなのである。
DSファミリーに共通する乗り心地
最初に乗ったのは「ハイブリッド4」、これが驚きだった。 モーターによる発進と停止はスムーズで、エンジン始動時のショックはなく、シングルクラッチ方式の2ペダルMTは変速時にモーターを瞬間的に回して減速感をシャットアウトしている。しかもオート、スポーツ、4WD、ZEV(ゼロエミッションビークル)の4つの走行モードの違いが明確で、自分の手でクルマを操っている実感が得られるのだ。
それに比べると、2012年夏頃に日本に導入される予定のガソリンモデル、156psの1.6リッターターボ+トルコン式6段AT仕様は、C5でおなじみのパワートレインであるため、特別な印象は抱かなかった。しかしあらゆる場面で加速に不足はなく、1500rpmあたりから過給を立ち上げるフレキシブルな特性は、慣れない道ではありがたい。また6段MT仕様の200psの1.6リッターターボは、高回転での伸びが爽快で、活発な排気音にも引かれたが、DS5のキャラクターには156ps+6ATのほうが合っている。
乗り心地とハンドリングは、DS3やDS4と似ていた。例えばハイドラクティブIIIを備えたC5のような、フンワリ感の演出はないけれど、ストローク感のあるサスペンションによるしっとりした乗り心地と粘り腰のロードホールディング、そして高速道路での盤石の直進安定性はダブルシェブロン一族そのものだ。
この直進性と快適な乗り心地に身をまかせ、はるかかなたまで走り続けたくなるのも大きなシトロエンならでは。それでいてDS5は、同じ道をC5よりハイペースで駆け抜けたくなる。流れるようなフォルムやコクピット感覚のキャビンにふさわしい走りをしようという気にさせられるのだ。たしかにこれは、シトロエン流グランツーリスモなのだった。
(文=森口将之/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
NEW
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。