シトロエンDS5シック(FF/6AT)【試乗記】
食わず嫌いの人にこそ 2012.10.10 試乗記 シトロエンDS5シック(FF/6AT)……445万円
ミニバンにはなじめない。SUVにも抵抗がある……。そんな悩めるドライバーに好機到来。この手のクルマを食わず嫌いしている人にとって、「シトロエンDS5」は救世主となるだろう!
外も内も刺激的
発売から約2カ月、しかし「シトロエンDS5」のボディースタイリングはいまなお新鮮に映る。シトロエンといえばアバンギャルドを自認し、車名が「C」で始まる一般的な実用車シリーズでさえスタイリングは十分に個性的だ。それなのに、最近派生した「DS」ラインはその上を行き、派手ないでたちで衆目を集める。今回試乗した「DS5」は、「DS3」「DS4」と続くDSラインの旗艦モデル。エンジン駆動系、サスペンション、基本骨格など、中身はほとんどDS4を踏襲している。
クロムメッキを多用したギラギラ光る顔だちは、最近のはやりといえそうだ。ドイツ車でも日本車でも、傾向として増えつつある。DS5では面積的には少ないものの、ノーズから2本目のAピラーの付け根部分まで伸びる光り輝くモール「サーベルライン」が象徴的に使われており、大胆な造形とともに一見してにぎやかな様相を呈している。しかし、いったんそうした化粧モノを消去して見直してみれば、基本的な構造骨格やシルエットとしてのフォルムに、いままでとは違った概念のカッコ良さも見えてくる。
外観以上に内装も凝っており、画学生の好きそうな凸凹した立体的な処理がなされている。こうなると実用的な使い勝手はどうか、などという次元の話ではなく、操作そのものを楽しむ気分が触発される。乗るたびに興奮してばかりもいられないけれど、われわれシニアドライバーにとって刺激になるのはいいことなのかもしれない。
実用性を置き去りにしない
運転席のシート高は約620mm。ドアを開けて、横方向に自然に移動して乗り込める室内は、フロアの低いスポーツカーに潜り込む感覚ではないし、SUVのようによじ登る感覚でもない。上方に絞り込まれた空力キャビンはルーフラインの“かもい”が高めで、一般的なセダンより乗降性に優れる。乗り込むときに、頭を下げる必要はない。
それに対してセンターコンソールは幅広く、しかもダッシュボードから斜めに続く丘のように傾斜も連続しているから、そこを乗り越えて横に移動し、反対側のドアから出るなんていう行為は難しそうだ。
横、前後、上下とそれぞれの方向に余裕のある空間に身を置きながら、それでいながらすっぽり収まるシートは体にタイトにフィットする。シートやミラーの調整はどこでするのか? パワーウィンドウのスイッチは? と、なにもかも珍しい眺めに一瞬は戸惑うものの、よく見て探せばそう難解なものはない。
初代「ルノー・エスパス」を思い出させる特徴的な“2本構成”のAピラーは、三角窓と考えれば、視界の中でそれほど邪魔な存在ではない。ドライバーは比較的に高めに座るため目線が高く、これに加えて車両のノーズの絶対的な短さ、コーナー部分の丸いボディー処理、あるいは前後の超音波ソナーや「サイド&バックカメラ」などのおかげで、前方直下の路面に対する見切りについては不安をほとんど感じずに済むだろう。
こんな調子でひとつひとつ説明していくとなかなか走り出せないから、あとは写真を見て判断していただくことにしよう。
スポーティーなフットワーク
156psを生み出す1.6リッターエンジンや6段ATは、「シトロエンC4」や「プジョー508」でもおなじみのユニットで、現在のPSAプジョーシトロエンの主力でもある。ステアリングホイールにシフトパドルなどは持たず、センターフロアのレバーでギアポジションを選択する。ただし、実用性を損なうほどではないが、左ハンドル用そのままなので、左手で動かすには少し不自然さもある。
一見して大柄なボディーでありながら、車両重量は1550kgと比較的軽いおかげで、動きだしはスッと身軽だ。6段ATのギア比も適切で、2000rpm以下のトルクも十分だから、あまり回さずとも順次、高いギアまで送りこめる。
このエンジンは6000rpmという高回転域まできれいに回り、トルクもレスポンスも申し分ないが、上まで回してもなぜか面白みはあまり感じられない。一方で、ATは普通のトルコン介在型ではあるが、ロックアップ機構もうまく働いて、スリップする感覚はほとんどない。右足をスロットルペダルに乗せながら左足でブレーキ操作を加えても、エンジンが失速することなく加減速は小気味よい。
そして、広いトレッドと225/50R17タイヤによるコーナリングは、高めの重心高でありながら、ロールセンターも同様に重心高近くまで高めてあるおかげで、ほとんどロールせずあっけなく旋回作業を終えてしまう。
リアトレッドがフロントトレッドより広い恩恵もあり、ステアリングの切り初めから後輪が追従してくるので、初期のアンダーステア感はほとんどない。この辺の感覚は、ホイールベースが長く、後輪がただ追従してくるだけの温厚な性格だった昔の「DS」や「CX」とは明らかに違う。「ホイールベース2725mmの大型車」というくくりでFRレイアウトのクルマと比較してもスポーティーといえる。タイヤなどのバネ下と車体との間にソリッドな感触があり、互いに遅れが少ないことも奏功している。
新しい世界へ踏み出してみては?
乗り心地についても、昔のDSやCXとは大きな違いがある。DS5はやや硬めの設定であり、シトロエンだからといってふんわりした感覚を期待すると当てが外れるだろう。しかし、コーナリングの最中に1輪だけボトムするような状況でも、そこだけが見事にストロークして車両本体はフラットな姿勢を崩さない。ただ単にバネやスタビライザーだけ固めたアシではない。
本当は、このDSに「C5」の油圧サスペンションを組み合わせればもっとオモシロイのに……と思わないわけでもないが、そういう仕様が出るかどうかは今後のお楽しみにしておくとして、現状では価格との折り合いの点で納得すべきなのかもしれない。DS5はまだ1車種しか用意されないが、将来はDS4にもある6MT仕様などの追加も可能だろう。
それともうひとつ、DS5の軽量ボディーは燃費にも貢献する。別の機会にライバル車と比較したことがあるのだが、DS5がダントツに良かった。今回は首都圏だけを150kmほど移動し、総平均でリッター約9.0km走った。
DS5は走行感覚は新鮮だし、外観のスタイリングは街行く人たちを振り向かせるのに十分なカッコ良さがある。ワンボックスは嫌いだし、ミニバンの類いはどうしてもなじめない。SUVにも抵抗がある。ワゴンもねえと思いつつ、いまさら地味なセダンには戻れない……。そんな調子でこの手のクルマを食わず嫌いしている人にとって、DS5は新しい次元の選択に踏み切る好機になるかもしれない。
(文=笹目二朗/写真=小林俊樹)

笹目 二朗
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