MINIクーパーSクラブマン(FF/8AT)
サイズアップの裏事情 2016.01.15 試乗記 2007年に登場したMINIのステーションワゴン「クラブマン」がフルモデルチェンジを受けて2代目に。大幅なサイズアップの裏側に垣間見えるBMWの戦略を探った。果敢なチャレンジを支える強力なブランド力
1969年誕生のオリジナルモデルにオマージュを抱きつつ、BMWのプロデュースとなって初のクラブマンが発表されたのは2007年夏のこと。その後、初めてのフルモデルチェンジを経て登場した現行型は、昨2015年9月に日本で発売され、11月に納車が開始された。「従来のMINIとは一線を画す、全く新しいモデル」というのがキャッチフレーズだ。
従来型では右側面と後面の2カ所だったユニークな観音開き式のドアは、新型では後面のみへの採用となった。が、それよりも多くの人々を戸惑わせたのは、ステーションワゴンのプロポーションは踏襲しつつも、全長が+290mm、全幅が+115mmと一挙に拡大されたそのサイズである。このボディーの大型化によって、後席居住性は当然大きく向上。ルーフが水平に近いラインのまま後方へと引かれるので頭上には十分な余裕が残るし、前席下への足入れ性にも優れ、大人が長時間を過ごすにも不満のないスペースとなった。
かくも後席の使い勝手がよくなれば、ボディー側面に「まずはフロント側を開かないと開閉できない観音開きのドアを設ける」という選択肢は残らない。これが、新型の右側面ドアが、オーソドックスな“前ヒンジ2連式”へと改められた理由のはずだ。
ところで、従来型でせっかく獲得したユーザーの離反を招くリスクを犯し、「こんな大きいクルマは“MINI”ではない!」という声が渦巻くことを承知の上でボディーサイズを拡大したのには、BMWがもくろむ戦略が密接に関係しているはず。実は新型クラブマンの2670mmというホイールベースは、BMWの「2シリーズ アクティブツアラー」や、FRからFFレイアウトへとプラットフォームが変更・刷新された「X1」のそれと同数値。すなわち、そこには「MINIで培われたソリューションをBMW車でも最大限に活用する」という戦略が見てとれるのだ。
端的に言ってしまえば、「大きくなったクラブマンと、小さくなったX1や新車種の2シリーズ アクティブツアラーを同じホイールベースで統一し、開発や生産の大幅な合理化を図る」――これこそが、両ブランドにかかわる開発陣の念頭にあった事柄に違いない。
かくして、BMWが「MINI」というブランドを手にした当初からの夢であったはずの“FFのBMW車”が実現した一方で、それゆえに「MINIらしさ」をより狙った演出が垣間見えるのが、新型クラブマンというクルマである。ちょっと荒っぽいが分かりやすくキビキビ感が味わえる走りのテイストや、アイキャッチャーである円形センターパネル部分のますますの大型化などは、その象徴と考えられる。
ボディーが一挙に大型化したことで確かに居住性は高まったし、深いサブトランクの実現も含めてラゲッジスペースも拡大された。
反発はあるかもしれないが、それもこれも含んだ“何でもアリ!”なチャレンジに勇猛果敢にトライできるのも、MINIがすでにBMWにも勝るとも劣らない強大なブランドを確立させていることの表れにほかならないはずだ。
(文=河村康彦/写真=峰 昌宏)
【スペック】
全長×全幅×全高=4270×1800×1470mm/ホイールベース=2670mm/車重=1470kg/駆動方式=FF/エンジン=2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ(192ps/5000rpm、28.5kgm/1250-4600rpm)/トランスミッション=8AT/燃費=16.6km/リッター/価格=384万円

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。