フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/6MT)
プリミティブであることの魅力 2016.01.19 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のスポーツグレード「GTI」に、3ペダルの6段MT仕様が登場。そこに優秀なDSG仕様を避けてまで選ぶほどの“操る喜び”はあるか。箱根のワインディングロードで確かめた。3モデル同時のMT復活
6年ぶりの日本導入――そんなフレーズと共に新たにカタログに加えられたのが、3ペダル式のオーソドックスなMTを搭載するフォルクスワーゲン車たち、すなわち「ポロGTI」に「ゴルフR」、そしてここに紹介するゴルフGTIのMT仕様だ。
いずれも以前から販売されている2ペダルDCT(DSG)仕様より10万円安い価格設定となっているが、欧州では過半のモデルにMT仕様が存在するフォルクスワーゲン車の中で、あえてこの3台がチョイスされたのは決して「安価にできる」という理由からではない。MTにこだわりを持つコアなクルマ好きに選んでほしいという思いから決められた事柄であるのは明らかだ。
日本への導入が報じられたのは、3車種そろって2015年6月9日。これはもちろん車両が完成したタイミングなどではない。「それまでDCT仕様のみだった日本で再度MT仕様を発売する」という戦略は、100%インポーターであるフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)の意向に基づいたものと考えていいはずだ。
一方VGJでは、そんな昨年の発表の後に社長が“電撃交代”を遂げて現在に至っている。
それゆえ、なぜこの期に及んで再度のMTを?……という問いに対する明確な回答は、もはや得ることは難しいかもしれない。
優秀な“DSG”がある一方で
人の手では到底不可能な電光石火の変速をやってのけ、シームレスな加速に加え、もはやタイムの面でも燃費面でも明確なアドバンテージを備える“DSG”。そんなフォルクスワーゲン自慢の先進メカニズムがすでに用意されているというのに、わざわざプリミティブなMTを再導入することの意義は2ペダルモデルに乗り慣れて、それに何の不満も抱かないドライバーにとってはもはや理解の範疇(はんちゅう)を超えたものなのかもしれない。
一方で、2本の脚で3つのペダルを操らねばならず、ギアポジションの選択も完全に人任せという“旧態依然”としたMTについて、そうしたシンプルな操作ロジックであるからこそドライバーが運転操作に介入できる範囲が広く、結果としてより大きな魅力が享受できる、とする意見にも大いに賛同できる。
コンピューターの制御や学習機能が進化し、ドライバーが望む通りの動作の実現に近づいてきたとはいえ、それでもなお、この先に起こり得る事態を正確に予想し、それを踏まえた制御を行うまでは困難というのがATの現状である。
自動運転の話題も喧(かまびす)しい昨今、そこへ向けて装備される各種センサーを生かした人工知能が発達を遂げれば、またハナシは別となるかもしれない。が、そもそも自らの思いとは異なる制御が入ることを殊更に嫌うドライバーにとってみれば、すべてを支配下に置けるMTが今でも大いに魅力あるアイテムであることは間違いないのだ。
ペダル位置、シフトフィールともに不満はない
かくして、久々に目にするクラッチペダルの付いたゴルフへと乗り込み、ドライビングポジションを決める。
ひと昔前までは「輸入車のMT仕様は、左ハンドルが通好み」といった理屈がまかり通ったが、“自動車は左側通行”の国であえて左ハンドルを選ぶのは、もはや不便で危ないだけのこと。実際、このモデルでもブレーキとクラッチペダルの間にステアリング軸が収まるレイアウトゆえ、不自然なペダルのオフセットなどは全くなかった。
ゴルフクラスのモデルであれば、欧州ではまだまだMTが主流。それもあってか、シフトレバーもごく自然な位置へのレイアウトが実現されている。6段Hパターンの中で左上となる第1速はドライバーから最も遠くに位置するが、それも違和感を抱くほどのものではない。
シフトフィールは絶品! とまでは言いかねるが、ストロークはやや長めながらも、ポジション選択時にスコッと決まる感覚はなかなか心地良い。“わざわざ買う人”を失望させない仕上がりだ。
MTの場合、そんなシフトフィールと共に重要なのがクラッチのペダルフィールである。ミートポイントがつかみづらく、しかしその先で唐突につながってしまうようなものは、せっかくのドライビングプレジャーを大いにスポイルしてしまう。このモデルの場合、そこは問題なく合格点。アイドリングストップからの復帰についても、クラッチペダルを踏み込んでエンジンが始動し、ちょうどトルクが高まったポイントがクラッチミートのタイミングとなるので違和感がない。“MT食わず嫌い派”がとかく敬遠の理由とする上り坂発進時の後ずさりも、ヒルホルダーが装備されるので問題ナシだ。
選べること自体がひとつの朗報
ポロGTIでは、MT仕様に限って+7.1kgmの“エキストラトルク”がプレゼントされるものの、ゴルフGTIではそうしたボーナスが用意されないのがちょっと残念。もっとも、そんな上乗せがなくても動力性能に不満などなく、十分に速いモデルであることは間違いない。
「サスペンションはDSG車から変更ナシ」とうたわれるように、フットワークのテイストはこれまでのGTIと同様。正確そのもののハンドリング感覚は相変わらず好感が持てる。今回のテスト車がオプションの電子制御式可変減衰力ダンパー付きということもあり、長距離長時間のクルージングでも疲労を感じさせない、フラット感の高いGTカー的乗り味を提供してくれた点もまた魅力のひとつと評価できる。
一方、せっかくこだわりのMT仕様だからこそ細かく注文を付けたくなるのが、当のトランスミッションのギア比。1速と2速の間がやや離れ気味で、スタートの後にアップシフトを行うと、エンジン回転数のドロップが思った以上に大きい印象なのだ。
もちろん1000rpm台の半ばでも十分なトルクが得られるエンジンの柔軟性ゆえ、実用面での不満は全くない。が、ここがもう少しクロス化してくれていれば、1→2→4という街乗り時のズボラなシフトにもよりスムーズに対応してくれそう。何より、さらなる小気味よい走りの快感を日常的に味わうことができそうだ。
理詰めでチェックを入れてしまえば、今や「MTはDSGに勝ち目がない」とそんなことになってしまうだろう。が、そもそも欧州向けには用意のあった“もう一種類のGTI”を日本でもようやく手に入れられるようになったことは、文句ナシに朗報と言っていい。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1470mm
ホイールベース:2635mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:220ps(162kW)/4500-6200rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4400rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:16.0km/リッター(JC08モード)
価格:389万円/テスト車=428万9600円
オプション装備:Discover Proパッケージ(18万3600円)/DCCパッケージ(21万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1111km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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