ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
格段に進化したけれど 2016.02.11 試乗記 750台は瞬く間に完売。310psを発生する2リッターVTECターボエンジンを搭載し、3年ぶりに復活した「ホンダ・シビック タイプR」の走りを試す。見た目からしてタダ者ではない
「ニュルブルクリンク、FF最速」という開発目標を掲げ、それを達成したのが新型シビック タイプRだ。170以上のコーナーを持つ全長約20kmの難コースを1周して7分50秒63。それまで「ルノー・メガーヌ ルノースポール トロフィー」が持っていた7分54秒36を明確に上回った。
2009年に日本で発売された先代の「タイプR ユーロ」同様、新型も英国ホンダからのお取り寄せである。車検証の車名も「ホンダオブザユーケー」だ。リーマンショック後のカンフル剤的な意味合いも強かった先代は限定2010台だったが(後に1500台が追加販売された)、今度はさらに狭き門の750台。発表は2015年10月28日で、とっくに売り切れている。広報車は6台用意されているが、いずれも750台には入っていない“シリアルナンバー0000”である。
その1台のキーを借りて、ホンダの地下駐車場で対面する。ブラックグリルの顔が迫力だ。全幅を1880mmまで広げたブリスターフェンダーもスゴイ。黒いアルミホイールから赤いブレンボがのぞく足元もスゴイ。3次元曲面のカーボンウイングや4本出しマフラーを見せつける後ろ姿もスゴイ。先代モデルがホットハッチなら、これはもうレーシングハッチである。すぐにもSUPER GTにエントリーできそうだ。
直噴化とターボ化が施された新型2リッター4気筒VTECは、先代の2リッターを一気に109ps上回る310psを絞り出す。コールドスタート直後の振る舞いは意外やフツーだったが、青山通りに出て初めてアイドリングストップしたときには、「あっ、止まった!」と思った。やはり、それくらいの存在感はある。
クルマ全体にただよう上質感
数日前、都内でも雪が降ったこの日、走りだしてまず印象的だったのは、シフトノブがすごく冷たいことだった。表面だけのアルミ“仕上げ”ではない、タイプRの伝統でもある無垢(むく)のアルミ球ならではだ。冬場は手袋がマストかもしれないが、コクコクきまる6段MTのシフトフィールは文句なしにすばらしい。世界最良のシフトタッチといってもいい。クラッチペダルも重くはない。
“ニュルいのち”でセットアップされた足まわりには覚悟をしていたが、意外や乗り心地はワルくない。ダッシュボードの「+R」スイッチを押すと、アダプティブダンパーがさらにハードになるが、その場合でも、ベンチマークだった(?)メガーヌ ルノースポールや、最後の日本製シビック タイプR(FD2)ほど硬くない。ゆったり体を包んでくれる上等なスポーツシートのおかげもあって、ぎりぎりデートカーにもなりそうだ。
上等といえば、クルマ全体から伝わる高級感もなかなかのものである。ドアが閉まるときの重厚な音などは、日本人の知っているシビックのそれではない。スポット溶接に加えて、接着剤で広い面を接合したという5ドアボディーは、極めて高い剛性感を与えてくれる。速いクルマである前に、“いいクルマ”な感じがするのだ。BMWの「M3」とまでは言わないが、「M135i」くらいの上質感がある。
エンジンは粘るし、回る
FFは200psが限界だ、なんて言われた時代を知る人間にとって、ついに大台を超えた新型タイプRの310psは驚きである。車重は1380kg。速いのは言わずもがなだ。
レブリミットは7000rpm。5000rpmを超すとデジタル速度計の中に黄色いランプがつく。6300rpmからはそこに赤ランプが加わり、6800rpmで赤が点滅する。
そんな高回転に踏み込まなくても、この2リッターターボはトルクに富み、1000rpmからでも加速を受け付けて立ち上がる。ターボラグは感じない。粘るし、回る。両刀使いのエンジンである。
とはいえ、シビック タイプR初のターボバンを早く味わってみたい。しかるべき場所に出てから、スタートダッシュを試みた。ステアリングがとられるトルクステアはまったく発生しなかったが、1速のトップエンド近くでは前輪が断続的に跳ね、フロントからダダダダっと大きな音が出た。前輪の接地性を上げるのに注力した新型ストラットサスペンションも打ち負かすじゃじゃ馬ぶりである。
ただし、1速フル加速時の前輪ジャダーは+Rモードにすれば消える。ゼロヨン大会に出たり、模擬レースで本気のスタートをきったりするような場合は、赤いボタンを押すのをお忘れなく。+Rモードだと、ダンパーのほかにエンジン、電動パワーステアリング、スタビリティープログラムの反応や効きもよりスポーティーになる。
428万円は高くない
全長約20kmと長いだけでなく、300mの標高差でアップダウンを繰り返す。地上エアレースのように3次元でクルマを翻弄(ほんろう)するのがニュルブルクリンク北コースのフラットアウトだ。
そこでFF車史上最速のタイムをたたき出したフットワークを今回は堪能することができなかった。行きつけのワインディングロードは路肩に雪が積まれ、雪解け水のヘビーウエットだったからだ。だが、仮に条件がよくても、公道でとても限界など試せないのは、このクルマも、メガーヌ ルノースポールも同じである。
あっというまに限定台数を売り切ったといえば、2015年10月にSTIが放った「スバルWRX STI S207」もそうだ。今から書いたところでバイヤーズガイドにはならないから、あえて独断評価を記せば、エンジンはタイプRのほうが楽しい。乗り心地はS207のほうがいい。S207は4WDだから前輪のジャダーも起きないが、しかしクルマとしてのまとまりはタイプRのほうが上だと思う。ハードウエアにスーパーカー的な濃厚さがあるのは両者同じだが、価格はタイプRのほうが200万円近く安い。このクルマの428万円は高くない。
6年半前、298万円で販売された先代シビック タイプR ユーロと比べるとどうか。比べられないほど、新型は格段にバージョンアップした。しかし、走りだすなり眉間のしわがゆるむような先代のファン・トゥ・ドライブには及ばないと思った。たしかにニュルでは「FFイチバン!」かもしれないが、一番速いからといって、必ずしも一番楽しいわけではない。この定理は、クルマのよくしたところである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4390×1880×1460mm
ホイールベース:2600mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:310ps(228kW)/6500rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)235/35ZR19 91Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:428万円/テスト車=449万5306円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(3万7800円)/Gathersナビ<VXM-165VFi>(17万7506円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4384km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:365.6km
使用燃料:37.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.7km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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