第24回:ラーメンやめてカレーを食うべし!!
チーム日本の大バトル! デリーオートエキスポ2016に突撃(前編)
2016.02.20
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
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不躾(ぶしつけ)小沢がインドの自動車ショー「デリーオートエキスポ2016」を突撃リポート。熾烈(しれつ)を極める国民車バトルで勝ち残るには何が必要なのか? “未来の自動車超大国”として熱い視線が注がれるインドの今と、そこで戦う日本メーカーの姿を紹介する。
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カレーの国でしのぎを削る日本メーカー
またまたビックリですよ不躾小沢コージ。これからは愛食する夜中のラーメンをやめ、もっとカレーを食べまくろう!? とすら思ったくらい(笑)。そう、先日突撃したインドの自動車ショー「デリーオートエキスポ2016」の話だ。
というのも、みなさん知っているだろうか? インドにおける“チーム日本”の大バトルを。インドといえば1982年にいち早く参入したわれらが庶民派メーカー、スズキの現地合弁会社であるマルチ・スズキ・インディア(以下マルチ・スズキ)が有名だ。なにしろ、「アルト」をはじめとする軽自動車で培った、小さくて質の高いクルマづくりの技術を武器に、80~90年代はシェア50%超えの半寡占状態をキープ。ところが今や、「その先駆者利益を吹き飛ばせ!」というほどの、日本勢をメインプレーヤーとするグローバルな“仁義なき戦い”が繰り広げられているのだ。
いわばそれは、“いかに現地人の気持ちになっていいクルマを作れるか”バトル。しかも既に1ラウンド目は結果が出ている。ざっくり言うと、スズキの復活とヒュンダイ&ホンダの躍進。トヨタはプレミアム路線へと舵(かじ)を切り、日産は“小休止”の状態となっている。
日本ではなじみのないクルマだが
ざっくり言うと2010年ごろから激化したこのインド国民車バトル。それ以前はどんな状況だったかというと、トヨタは1999年から「カローラ」の、2005年からは新興国向けにキモ入りで作ったフレーム付きボディーの世界戦略車「IMV(イノベーティブインターナショナル・マルチパーパス・ビークル)」の現地生産を開始。ホンダも2003年には「フィット」ベースのアジア戦略車「シティ」を作り、定評を得ていた。
しかし、シティは安くても70万ルピー(約175万円。1ルピー=2.5円で換算)、カローラは100万ルピー(同、約250万円)以上するプレミアムなモデル。インドで数を売って勝負するためには、お値段25万ルピーからというマルチ・スズキの「マルチ800」クラスは無理としても、「スイフト」クラスと肩を並べる40万ルピー台からのクルマを用意する必要があった。
そこで登場したインド戦略車が、2011年にトヨタ・キルロスカ・モーターが生んだ「エティオス」であり、2014年に日産が投入した「ダットサンGO」であり、2011年登場の「ブリオ」を皮切りとする一連のホンダ・アジア戦略カーだ。一方、その市場に既にいたのが王者スズキのスイフトや、ライバル・ヒュンダイの「i10」「i20」といった「i」シリーズ。スイフトを除くと日本じゃ売られてないクルマばかりなのでなじみが薄いが、これらが新興国じゃ当たり前の各社のグローバルカーだったりする。
貫禄のスズキ、善戦するホンダ
で、ぶっちゃけ結果を言っちゃいますと、エティオスが年間販売6万台をメドに頑張っている一方、ダットサンGOシリーズはミニバンの「GO+」と合わせても2014年度は約1万6000台。月1000台ちょっとと大苦戦している。かたや、王者スイフトはハッチバックが年20万台強と大成功していたのに加え、2012年に投入したセダンの2代目「スイフト ディザイア」が大ヒット。キモは優遇税制が適用される全長4m以下にサイズを縮めたことで、結果として単独で20万台以上と、新たな市場を作っちゃったわけ。
一方、ホンダはホンダでスゴくて、2011年度はわずか年5万台レベルだったのが、12年度は8万台弱、13年度は13万台強、14年度は20万台弱とあれよあれよと大躍進。ハッチバックのブリオをはじめ、セダンの「アメイズ」、ミニバンの「モビリオ」など、矢継ぎ早に投入したアジア向けの新プラットフォーム車がウケている。総数では販売力に勝るスズキにかなわないまでも、見事インドで一矢報いているワケなのだ。
そんな状況を踏まえつつ、いよいよ今年のデリーショー、つまりオートエキスポ2016の会場に突入。各社の目玉をチェックすると、戦略の違いが露骨に目に見えている。
今年のデリーショーにみる各社の戦略は?
現地筆頭スズキからいくと、こちらはますますもっての“新ジャンル開拓”でしょう。それを象徴しているのがSUV市場、それも優遇税制が適用される4m以下のクラスに満を持して投入した新型車「ビターラ ブレッツア」だ。日本でいう「エスクード」の小型版なのだが、設計からデザイン、製造まで、すべてを現地のマルチ・スズキが担当。エンジンも1.3リッターディーゼルと、競争力は高い。
このクラスのコンパクトSUVは、フォードが「エコスポーツ」で先鞭(せんべん)をつけたもので、今急激に伸びている。もちろん、そこには世界的SUVブームのほかに、先ほどから述べている優遇税制が絡んでいて、規定のサイズと排気量(全長4m以下、排気量はガソリン車が1.2リッター以下、ディーゼル車が1.5リッター以下)を満たすと、物品税が通常の24%から12%に半減するのだ。よってプレッツァは間違いなく競争力抜群。新たなるマルチ・スズキの柱になる可能性もあるわけです。
一方、ホンダが発表したのは、ブリオから始まる新プラットフォーム製品群の第4弾「BR-V」。すでにインドネシア、タイで発表済みのクルマだが、最大のポイントは3列シートであること。全長は4m以上なので優遇税制は受けられないが、SUVらしいボクシーな見た目と、車内の広さ、そしてアジア・ホンダならではの高い質感があれば相当売れるはず。しかもホンダは今回、八郷隆弘社長が直々にプレゼンテーションに立つなど、インド重視の戦略が見え見えなのであーる。
狙いはブランドイメージの強化
これらイケイケ2社に対し、トヨタはエティオスについては一定のバリエーションを出し終えたのか、取りあえず現状キープ。逆に手を付けたのは、得意とするプレミアム路線だ。注目はインドじゃ11年間クラストップという人気ミニバン「イノーバ」の新型で、今回のフルモデルチェンジで、名前も新たにサブネーム付きの「イノーバ クリスタ」となった。
トヨタはこのクルマに新興国向けプラットフォーム「IMV」の新世代版を採用しており、フレームからエンジンから6段ATまで新開発。見た目のクオリティーも明らかに高く、会場でもたっぷりと人だかりができていた。取りあえずは“憧れのトヨタ”をより印象付けたって感じでしょうか。
日本勢のトリを飾るのは、メインのダットサンGOに大幅なてこ入れをしようとしている日産だ。同社が持ち込んだのが、2015年10月に世界初公開したクロスオーバー車の「GO-crossコンセプト」。コンセプトカーなので車内は見えなかったが、ゴージャスさ優先の見た目から察するに、市販バージョンでは欠点とされていたインテリアも大幅にクオリティーアップがなされる可能性もある。これまた反撃に注目だ。
このほかにも、インドじゃ高嶺(たかね)の花となる「GT-R」を9月に正規導入すると発表。ハイテクな「エクストレイル ハイブリッド」の投入も発表した。どちらも販売台数は見込めないが、プレミアムイメージが高まることは必至。日産もまた当分はイメージアップ作戦でいくのでありましょう。
(後編へ続く)
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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