ジープ・レネゲード トレイルホーク(4WD/9AT)/フィアット500Xクロスプラス(4WD/9AT)
同じなのに全然違う 2016.03.01 試乗記 冬の信州で「ジープ・レネゲード トレイルホーク」と「フィアット500Xクロスプラス」に試乗。雪道での試乗を通して感じた、同じプラットフォームから生まれたとは思えない、両モデルの個性の違いをリポートする。根っこは同じの米伊SUV乗り比べ
FCAジャパンの広報担当者は、説明会でプロジェクターに自分の名刺を4種類並べて映し出した。1枚目が「フィアット グループ オートモービルズ ジャパン」で、順に「クライスラー」「フィアット クライスラー ジャパン」「FCAジャパン」となっている。世界的な自動車業界再編が進行する中で「フィアット」と「クライスラー」の提携が行われ、最終的に両社が統合した。日本法人もそれにともなって組織形態が変わり、2015年1月に現在の形に落ち着いたのだ。
結果としてFCAジャパンは「アルファ・ロメオ」「クライスラー」「フィアット」「ジープ」「アバルト」の5ブランドを抱える大所帯となっている。東京から長野県白馬村までを往復する雪上試乗会には、多士済々のモデルが用意された。「アバルト595Cツーリズモ」や「クライスラー300S」にも心引かれたが、われわれの選択は常識的な線に落ち着いた。ジープ・レネゲード トレイルホークとフィアット500Xクロスプラスである。
ジープファミリーの末っ子とフィアット500シリーズのクロスオーバー版だから成り立ちは遠く離れているが、両車はプラットフォームを共用している。見た目は似ていなくても、根っこは同じなのだ。ブランドを超えた共同開発がどのような果実を得たのかを確かめようと考えた。2台を乗り比べる機会は貴重である。
まず試乗したのはジープ・レネゲード。トレイルホークというのは最上級グレードで、専用のパワートレインを与えられている。2.4リッターエンジンに9段ATを組み合わせ、オンデマンド方式の4WDを採用した。他グレードは1.4リッターエンジンのFFだから、メカニズムは相当に違う。
ポップとワイルドが共存
レネゲードは土くさくないデザインが特徴で、ボディーカラーがイエローだとさらにポップな印象だ。7スロットのフロントグリルやフェンダーはブラックなので、ワイルドなテイストも共存させている。給油口のフラップが浮いたようになって大きな隙間が開いていたが、それもワイルドさの表現だと解釈することにした。「RENEGADE」「TRAILHAWK」のバッジを目立つ場所に配置してトップグレードであることを主張している。
ブラック基調のインテリアはモダンな意匠を入れつつも武骨さを残しており、そこここにジープのヘリテージをアピールする文字やマークがちりばめられている。2.4リッターエンジンはさすがにパワフルで、山道でも高速道路でも気持ちのいい加速感だった。レネゲードに乗ったのは軽井沢からで、それまでは「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」に乗っていたのだが、引けをとらない走りをする。感覚的には、こちらのほうがスポーティーだと言ってもいい。
荒々しいという意味ではない。悠然として落ち着きのある動きだ。エンジンが目いっぱいの力を発揮しようと奮闘する様子はなく、余裕のあるパワーを9段ATがおおらかに受け止める。おかげで高速巡航では室内の静粛性も高い。ドライバーの心は穏やかだ。ハンドリングも神経質なものではなく、意思どおりの進路を正確にたどっていく。
試乗車は「My Skyオープンエアルーフ」仕様だった。サンルーフのたぐいだが、ボタン一つで開閉するような安楽装備ではない。ここではワイルドさがテーマとなる。前後に分かれたルーフを外すには、まず専用工具でフックを解除しなければならない。上方に引き上げるのだが、角度が微妙で簡単には外れてくれなかった。ラゲッジルームに収納用のバッグが備えられているものの、その中にうまく収めるのはコツがいる。手続きを踏んで苦労を重ねた者にだけ、オープンエアモータリングの楽しみが与えられる。
運転席にいる限り、上空の景色を楽しむことは難しい。運転を代わってもらって後席に移ると、すてきな眺望を得られた。しかし、まわりを雪景色に囲まれた中では恐ろしく寒い。不思議なことに、上半身ではなく太もものあたりに冷気が集中する。かすかに感じられるエアコンの暖風を頼りに、大自然を全身で受け止めるしかない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モードが異なるが4WD性能は同等
白馬村は例年よりも雪が少なかったようだが、それでも道は完全に雪に覆われていた。もちろんレネゲードはスタッドレスタイヤを装着しており、むちゃをしない限り安心して走ることができる。危険な状態になった時にどうなるかを公道で試すわけにはいかないので、スキー場の駐車場に特設コースが設けられていた。小さな山を上り下りし、平らな場所では旋回性能を試せる。
トレイルホークにはスイッチで5つの走行モードを切り替える「セレクテレインシステム」が装備されている。ダイヤルで「SNOW」を選んで小山へと向かうと、何の苦労もなく上り切ることができた。「AUTO」モードでも問題なし。旋回を試みると最初は何度かしくじったものの、慣れれば結構なスピードで回れる。コースには「ジープ・ラングラー」もあったので乗り比べてみると、やはりこちらのほうがダイナミックな走りができた。トレイルホークの4WDシステムは、あくまで安全重視である。
翌朝になってフィアット500Xに乗り換え、同じコースを試した。前日と同じようにセレクターでモードを選ぼうとしたら、「SNOW」モードがない。アイコンで表示されているのは「AUTO」「TRACTION」「SPORT」の3つなのだ。雪道に適しているのは、TRACTION モードということになるだろう。ただ、レネゲードと同様にAUTOで走ってみても問題なく雪の小山を上ることができた。同じ4WDシステムを用いているのだから、性能に大差はなくて当然である。
両車で大きく異なるのはエンジンだ。500Xが搭載しているのは、フィアットが誇るターボエンジンの1.4リッター直4マルチエアである。FFモデルの「ポップスター」では同じエンジンで140psなのに対し、チューンを高めて170psを得ている。2.4リッターのレネゲードは175psだから、わずか5psの差でしかない。トランスミッションは同じZF製の9段ATを採用している。
乗り心地には明確な差
500Xは3ドアコンパクトハッチの「500」と比べると二回りほども大きい。丸っこいかわいさには通じるところもあるが、バンパー形状やフェンダーの造形の工夫でSUVらしいたくましさを身にまとっている。ただし、同じSUVの兄弟車であるレネゲードと見た目ではほとんど共通点がない。顔つきのせいかボディーが小さく感じられたが、サイズは全長と全幅がほぼ同じ。全高は500Xのほうが100mm低い。
レネゲードに乗った時、ステアリングの裏にある突起が変速スイッチなのかと思って押してみたら、センターモニターに表示されたラジオの選局が変わっただけだった。500Xにも同じスイッチがあったが、こちらにはパドルもついている。何度か試してはみたけれど、ATは9段もあるのだからどうしても手動で変速しなければならない場面は多くはない。
雪が少なくなって路面が乾いてきたので安心していたら、ズルッと滑ったような感触があってあわててしまった。路面が凍結している様子もないので変だと思ったら、レーンデパーチャーウォーニングが作動していた。車線から外れたのを感知したことを警告するのに、ブザーではなくランプとステアリングの振動を用いる方式だったのだ。500Xにはカメラとレーダーセンサーが装備されていて、衝突軽減ブレーキやブラインドスポットモニターなどの先進安全機能が与えられている。
後席に座ってみると、頭上の空間はレネゲードに少し劣るように感じた。車高が低くてルーフが丸いので、どうしてもハンディーがある。もっと気になったのは乗り心地だ。ゆったりしていたレネゲードよりはっきりと硬く、突き上げが腰にくる。タイヤサイズの違いが影響しているのかもしれないが、差はかなり大きかった。
プラットフォーム共通化からモジュール化へと時代は進んでいるのだそうだ。効率化を徹底しながら製品の多様化も同時に追求していくことが求められる。FCAがアメリカとイタリアという2つの国の文化を基盤に持っていることは、有利な条件と言っていいだろう。試乗した2台はともにイタリアの工場で生産されているが、別々の個性に仕上がった。グローバル化も悪いことばかりではない。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ジープ・レネゲード トレイルホーク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1725mm
ホイールベース:2570mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 SOHC 16バルブ
トランスミッション:9段AT
最高出力:175ps(129kW)/6400rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/3900rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96Q/(後)215/60R17 96Q(グッドイヤー・アイスナビ6)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:345万6000円/テスト車=376万7944円
オプション装備:My Skyオープンエアルーフ(16万2000円)/カーナビゲーションシステム(11万8000円)/ETC車載器(1万584円)/フロアマット(2万3760円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:9748km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(3)/山岳路(3)
テスト距離:126.3km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.6km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |
フィアット500Xクロスプラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4270×1795×1625mm
ホイールベース:2570mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:170ps(125kW)/5500rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Q/(後)225/45R18 95Q(ピレリ・アイスアシンメトリコ)
燃費:13.1km/リッター(JC08モード)
価格:334万8000円/テスト車=345万1032円
オプション装備:ETC車載器(1万3392円)/ナビゲーションシステム(5万9400円)/フロアマット(3万240円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:7702km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:296.3km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.2km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。



































