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第441回:大矢アキオのジュネーブショー2016
魅惑の用品館にようこそ!

2016.03.18 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ

ルマンの技術者が作った個性派EV

第86回ジュネーブモーターショーが2016年3月13日に閉幕した。会期中の入場者数は68万7000人で、前年比0.7%の微増だった。

なお、早くも2017年のプレスデー(報道関係者公開日)のホテル争奪戦は始まっているようで、今ホテルの予約サイトを見ると、格安宿から「満室」マークがともり始めている。

さて、今回のプレスデー初日でのことだ。

会場到着後、オフィシャルガイドのページをめくっていると、ユーモラスなフロントマスクを持つクルマに目がとまった。その姿、まるで映画『カーズ』に出てきそうである。ご縁があったのだろう。スバルのブースの真正面。その小さなスタンドは、すぐに見つかった。写真を撮っていると、気さくなスタッフに声をかけられた。

そのクルマ、名前を「Bee Bee(ビービー)」という。20kWのモーターを搭載するEVで、航続距離は90kmから110km。サイドビューもそれなりにファニーだ。クルマに関心がない人が描いた絵のごとく、面積比が大きく異なる前後ドアを備えている。車両の周囲には、イメージを盛り上げるべく砂が敷かれていて、砂浜遊びグッズが置かれている。なお、インテリアは完全な防水仕様になっているので、水洗いも可能である。

ベース価格は2万7480ユーロ(約348万円)だが、フランスでは、政府のエコ奨励金が適用されると2万1180ユーロ(268万円)になる。目標生産台数は年間500台だ。

こういってはなんだが、ボクのジュネーブ通い13年の間に、いったい何社が出展1回限りで消えていっただろうか。それらは、出資者の趣味の領域を出ないもの、場合によっては自治体などの地域産業奨励金目当ての、いわば“きっかけづくり”が大半であった。ビービーも、まだ生まれたばかりである。だが聞いてみると、製造するのはルマンカーや各種フォーミュラカーのエンジニアリングを四半世紀にわたり手がけてきた、「ベータ・エプシロン」という実績ある企業であった。

彼らが定めるライバルは明確だ。ずばりビーチカーである。フランス領の離島やイタリアのカプリ、エルバといった避暑地では、古い「シトロエン・メアリ」や「ルノー・ロデオ」といった往年のビーチカーが今も直し直し使われている。乗用だけでなく、レンタカーとしても用いられていて、ボクもつい借りたくなってしまったことがある。

しかし生産終了後メアリは28年、ロデオも29年が経過している。レジャーカーの“高齢化”が進んでいるのだ。マーケティング次第では、シトロエンが展示した「E-メアリ」とともに、市場は十分にあるとボクはみている。また、地中海沿岸の国々には「海辺の別荘に保管しておく自動車」に対する需要があることも無視できない。E-メアリもこのあたりを狙っているわけだが、働き詰めの日本メーカーの社員には想像するのが難しいマーケットである。

ボクが集合写真を撮りたいというと、声をかけあって、幹部も撮影に応じてくれた。大メーカーにはない、まごころ対応がうれしかった。

リゾート用EV「ビービー」。
リゾート用EV「ビービー」。 拡大
「マツダRX-8」の観音開きのドア以上に、前後ドアの面積が違う。
「マツダRX-8」の観音開きのドア以上に、前後ドアの面積が違う。 拡大
ウオータープルーフのキャビン。フローリングを模したフロアマットがイカす。
ウオータープルーフのキャビン。フローリングを模したフロアマットがイカす。 拡大
防水性を考慮したスイッチ類。
防水性を考慮したスイッチ類。 拡大
「ビービー」の開発に携わるベータ・エプシロン社のみなさん。左から2番目は開発主任のフィリップ・ルー氏。ゴルフ場でカートとして使用するときは、ドアなしでも可。
「ビービー」の開発に携わるベータ・エプシロン社のみなさん。左から2番目は開発主任のフィリップ・ルー氏。ゴルフ場でカートとして使用するときは、ドアなしでも可。 拡大

あのブランドの意外な製品

ところでジュネーブショーの会場には、アール(ホール)7というパビリオンがある。

到達するには、6つの主要パビリオンからトンネル状の通路を抜けてゆく。ついでにいえば、この7号館を通過してゆくと、雨に一切あたることなくジュネーブ空港にたどり着ける。それでも日本であまり報道される機会がないのは、この館がカーアクセサリー&用品館に割り振られているからである。小さなものまで含めたところで出展メーカーは50弱と少なく、日本で知られているブランドがあまりないのも、その理由だろう。

そうした中、目にとまったのはドイツの「ケルヒャー」である。とっさに思い出したのは、東京の義姉が使っている高圧洗浄機だ。ちなみに義姉は、「ジープ」「バンドエイド」のごとく、その手の機器は他メーカーのものでも、すべてケルヒャーと呼ぶ。まあ、それだけケルヒャーが普及していることの証左であろう。

それはともかくケルヒャーのブースに展示されていたのは、なんと洗車機であった。ガソリンスタンドなどの横にある、あれだ。CIカラーであるイエローこそ同じものの……へえー、こんなものまで作っていたのか!

対応してくれたステファンさんは初対面にもかかわらず、とてもフレンドリーだった。聞けば、かつてジュネーブの日本料理店でも勤務経験がある人だった。
「ケルヒャーは洗車機の世界で、すでに約20年の実績があります」とステファンさん。乗用車用からトラック用まで、さまざまな機種を取りそろえていて、マーケットは米国や南米にも及ぶという。競合他社に対するケルヒャー製洗車機の強みは? との問いには、「モーターからケースまで、すべてのパーツが自社製であることによる、高い品質とアフターサービス」と胸を張って答えてくれた。

なお、ここスイスもケルヒャーにとって大切な市場だという。「高級車を所有する自動車愛好家の中には、自邸内に洗車機を設置する場合があるからです」。

さすがスイスである。

ケルヒャーのブースで。プロ用洗車機「CBライン」は、他社製品と一線を画すクールなデザインに好感がもてる。
ケルヒャーのブースで。プロ用洗車機「CBライン」は、他社製品と一線を画すクールなデザインに好感がもてる。 拡大
ケルヒャーのステファン・グラセさん。
ケルヒャーのステファン・グラセさん。 拡大

実演は突然始まった

ケルヒャーでの取材を終えると、向かいのブースから声をかけられた。「ノーライン」というその商品は、一見すると、筒に入ったパソコン液晶画面拭きだが、実際には自動車用のクリーナーだった。

考案者のフレデリック・ポンサールさんによると、セリングポイントは「ボディーはもとより、車内・車外のプラスチック、クロム、ガラス、皮革、人工皮革、ゴムなど、どんなマテリアルでもオーケー」な点で、「これまでに何種類ものクリーナーを使い分けなければいけなかった苦労よ、さようなら」とのこと。有害な溶剤系が一切含まれていないのもポイントだという。

程なく オリジナル「MINI」を使って、実演が始まった。客はボクひとり。さながら一般公開日の予行演習である。

これから10日以上、繰り返し実演するのに、汚れはどうするのか?

「こうやるんだよ」。ポンサールさんの相方の若者が雑巾を絞ったあとのような汚水をスポンジに染み込ませて、クルマにぽんぽんとたたきつけた。乾くと汚れ状になるのだという。

やがてポンサールさんは、ブースの隅から瓶とプラスチックカップを取り出してきた。マルティーニだ。さながら「イタリア住まいだってねえ。マルティーニ飲みねえ」といった感じである。

若者いわく、ポンサールさんは以前モデルエージェンシーを経営していたが、奥さんの嫉妬心をあおってしまった。そこでノーラインを開発。その商売に注力することにしたという。

いやはや、こういうフランクなムードも、大メーカーのブースではなかなか得がたい。日ごろあまり酒をたしなまないボクが昼間から飲まされたものだから、そのあとの取材はどうでもよくなってしまった。

普段ビッグマックを食べるときは、ゴマ粒までひとつ残らず拾って食べるボクが思うに、モーターショーも、隅から隅まで味わうのがおすすめである。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>) 

ジュネーブショーの7号パビリオンは、アクセサリーや用品の展示スペースに充てられている。これはタイヤ交換装置。
ジュネーブショーの7号パビリオンは、アクセサリーや用品の展示スペースに充てられている。これはタイヤ交換装置。 拡大
万能カークリーナー「ノーライン」を考案したフレデリック・ポンサールさん(写真右)。
万能カークリーナー「ノーライン」を考案したフレデリック・ポンサールさん(写真右)。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。

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