第345回:「ABARTH DRIVING ACADEMY」に参加
最新のアバルトで富士スピードウェイを爆走する!
2016.05.19
エディターから一言
![]() |
アバルトオーナーを対象としたドライビングセミナー「ABARTH DRIVING ACADEMY(アバルトドライビングアカデミー)」に、最新モデルの「595コンペティツィオーネ」で参加。富士スピードウェイを全開走行して感じた、現代版アバルトの魅力とは?
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
イタリア車のオーナーは走るのがお好き?
webCG読者諸兄姉の皆さんは、マイカーの加速や制動、旋回の限界性能を試したことはありますか? 「俺のドライビングはいつだって全開だぜ!」とお答えのアナタ、それはほぼ確実に道路交通法違反なのでかんべんしてください。そして「ない」と答えた方に重ねて質問です。そもそも今日のクルマの限界って、どの辺りにあると思います? 「いやあ、想像したこともないなあ」という方はぜひ一度、どこかのドライビングセミナーを受けてみてください。公道でのマイカーの姿しか知らないアナタは、現代のクルマの性能に驚くはず。ワタクシも、そうしたイベントを取材するたびに驚かされます。
今回自分が参加したのは、2016年4月末に富士スピードウェイで開催されたABARTH DRIVING ACADEMY(アバルトドライビングアカデミー)。読んで字のごとく、アバルトのオーナーを対象としたスポーツ走行とセーフティードライビングのレッスンです。クラスはベーシックな運転技術を学ぶ「BASE(バーゼ)」、本格的にスポーツ走行を学ぶ「TECNICO(テクニコ)」、そして少人数制の上級者向けカリキュラム「BOOT CAMP(ブートキャンプ)」の3種類。今回の参加台数は3クラス合計で85台(!)というから驚きです。イタリア車のオーナーは、やはり走り好きが多いのかもしれません。
また、3つもクラスがあることからも分かるとおり、参加者の幅が広いのもこのセミナーの特徴。「普段から国際格式のサーキットで走りこんでいる」という猛者がレーシングスーツ持参で参加する一方、「サーキット走行はこれが初めて」という方も少なくないのだとか(今回は24人)。スポーツ走行はミニサーキットやジムカーナで遊ぶ程度、というワタクシは、ちょっと背伸びしてテクニコのクラスを受講することにしました。
ちなみに、この日の相棒はアバルト595コンペティツィオーネのシングルクラッチ式AT仕様。車重1120kgで最高出力180psという、FCA自慢のロケット小僧です。
想像以上に曲がる、曲がる
午前中の課目はピットビルでの座学と、駐車場を使った特設コースでのブレーキング&荷重移動の練習。実技の内容は、Rの異なる2つのコーナーを組み合わせたオーバルの周回と、パイロンスラローム、そしてフル加速からのフルブレーキの“3点セット”です。こうしたセミナーではおなじみの基礎練で、それだけに、これら3つの練習がドライビングでいかに重要かがうかがい知れます。
早速、まずはオーバルの周回から練習開始。いつものようにRの頂点を示すパイロンと、次のパイロンとの中間あたりをクリッピングポイントと見定め、できるだけ外にふくらまないように気をつけながら3周します。「フフフ、1本目からまずまずな走りができたな」と心の中で自画自賛しつつゴール地点でいったん停止。すると、走行を観察していた講師の塩谷さんが仰(おっしゃ)いました。
「ラインはキレイです。次はもっとスピードを出してみましょう」
しからばと、2本目は自分としては結構なハイペースでオーバルを周回。すると塩谷さんは、今度は「あんまりタイヤが鳴かないですねえ。あ、ピレリじゃない。ミシュランだ」などとタイヤをチェックしつつ、こう仰いました。
「まだまだ行けます。もっともっと、もっとスピードを出してください(笑顔)」
……マジで?
そんなわけで、3本目のアタック(?)はアンダーステア覚悟でオーバルを激走。それでも595コンペティツィオーネはラインを外しません。すごい旋回性能! と思っていたら、2周目でやはり外へとはらみました。これはもう、典型的なアンダーステア。少しスピードを緩めて3周目をクリアすると、塩谷さんは満面の笑みで言いました。
「お見事です。途中でアンダーステアが出ちゃったけど、その前まではキレイにタイヤのグリップを使い切れていましたよ」
クルマより先にドライバーに限界が……
オーバルだけでなく、スラロームもフルブレーキもだいたいこんな感じ。要するに、595コンペティツィオーネの運動性能の限界は、自分が想像していたよりずっと高かったわけです。
例えばパイロンスラロームでは、「ギアは1速ホールド、ブレーキはナシで」と言われているにも関わらず、最初のパイロンへの進入で「スピードを出しすぎた!」と思ってちょんとブレーキを踏んでしまい、講師の水谷さんから「進入でスピードを落としすぎて、自分で難しくしちゃっています」との指摘が。2本目、3本目と走ってみると、確かに、ちょっと怖いくらいのハイペースでも595は涼しい顔で、むしろそのくらいの方がリズミカルに、楽にパイロンの間を縫っていけます。
またフルブレーキの練習では、自分では思い切りよくペダルを踏んづけたつもりだったのに、「(加速は)いい勢いできていましたけど、ブレーキはもっと利かせられます。蹴っ飛ばすつもりでいってください」とのお言葉をいただく始末でした。そして、ならば見ておれとばかりに挑んだ2本目で悲劇は起きました。
あ、右足つった。
三十路(みそじ)を過ぎて久々のこむら返り、痛いのなんの。
「足つっちゃったの? 大丈夫ですか? つま先の方でペダルを踏んじゃうとよく起きるんですよね。ペダルを踏む位置は、指の付け根より下になるように気をつけてくださいね」
朗らかな笑顔で仰るテクニコクラスのチーフインストラクター、福山さんのアドバイスにうなずきつつ、涙目でその場を退散。いやはや、スポーツドライビングは身体的にもやっぱりスポーツですね。ペダルワークはもちろんですが、普段あまり体を動かしていない方は、事前の準備運動を心がけてください。
もっともっとスピードを
楽しいお弁当タイムの後は、早速午後の部がスタート。午前中に基礎練をしていた駐車場に戻ると、いつの間にやらそこは立派なジムカーナ場に早変わりしていました。楽しい講習を陰で支えるスタッフの仕事に感服です。ちなみに、コースは本ページ掲載の写真のごとし。アタックできるのは4回までです。
スタートの合図とともにアクセルベタ踏み。大外をぐるりと回ってパイロンスラロームをクリアしたら、その先を急角度で曲がってコースの内側に侵入します。ヘアピンはスピードを落とさないようにやや大回りしたいところですが、なにせ狭いのでコースどりが難しいところ。ここは2本目からの課題としましょう。先ほどのコーナーから外周に戻ったら、往路で走ったスラロームを右手に見ながらぐいぐい加速。外周を半周してパイロンの隙間から再びコースの内側に入り(意外な急コーナーでびっくりしました)、その先のパイロンを避けながら、4本のパイロンでできたゴールに突入、フルブレーキ。
ゴール地点では講師の田中さんが待ち受けていました。
「ライン取りは今ので正解です。次はもっとスピードを上げてみましょう」
それ、似たような助言を午前中にもいただきましたね。自分はもう少し、思い切りのいい人間にならなければいけないようです。
その後は講師の皆さんのアドバイスにしたがって、少しずつタイムアップ。最終的には3本目の39秒40が私の自己ベストとなりました。これにて駐車場を使った特設コースでの課目は終了。次はいよいよ、富士の本コースでのフリー走行です。
広すぎる富士スピードウェイに四苦八苦
先に白状しておきますと、ワタクシ、富士スピードウェイの本コースを走るのは人生で3回目。うち1回はマイカーで参加した低速でのパレード走行ですし、正直、ちゃんとスポーツ走行するのは今回が初と言っても過言ではありません。
慣熟走行とペースカーありでの高速先導走行が終わると、いよいよフリー走行がスタート。これまでの反省もあり、ここでは初めから「これが自分の限界だ!」という勢いでがんばってみたところ、第1コーナー手前のブレーキングでテールがむずむずして冷や汗をかきました。電子制御って素晴らしい。
それにしても、さすがは世界耐久選手権やSUPER GTが開催されるサーキットですね。富士スピードウェイは広い。とてつもなく広い。そんなわけで、初心者の私は広いコースのどこを走れば正解なのか、皆目見当がつきません。ついでに言うと、富士は前半のセクションと後半のセクションとで、コースの性格が全然違うんですね。特にダンロップコーナーから先はいきなりタイトコーナーの連続になるので、いい気になってハイペースで走っているとその落差にビビります。
「こんなことなら『グランツーリスモ』で勉強しておくんだった。いや、プレイステーション持ってないけど」などと、いまだアナログな自分のライフスタイルを反省していると、ヘルメットをかぶった救世主が登場。テクニコのサーキット走行では、フリー走行とプロドライバーによる同乗レッスンとが交互に行われるのです。
ヘルメットをかぶっていたので誰かは分かりませんが、そのインストラクター氏は「ライン取りがさっぱりです」と白状する私に、「アバルトはよく曲がるクルマなので、まずはコンパクトに走ることを意識してみましょう」と仰いました。
高い運動性能と賢い電子制御
第1コーナーはきっちりイン側につき、コカ・コーラコーナーではそんなにがんばらないで、100Rはそのまま“インべた”で走ること。横Gに恐れをなしてイン側から離れてはダメ。そうすればアドバンコーナーで自然とアウト・イン・アウトのラインに入れる。恐怖のテクニカルセクションの入り口であるダンロップコーナーは、スピードをそがぬように……なんて考えないでドーンとブレーキング。シケインを抜けた先の第13コーナーとプリウスコーナーは、縁石の内側にあるポールを削り取るつもりでインを攻め、脱出加速重視のラインでパナソニックコーナーを抜けたら、ホームストレートでレッツ・アクセル全開。
もちろん、そう教わったからといって、いきなりそれができるようにはなりません。ひとつひとつのコーナーのことばかり考えていたらギクシャクするし、先の見えないプリウスコーナーとパナソニックコーナーで突っ込んでいくのは、やっぱり怖い。ひとまずは、いただいたアドバイスをきっちり実践できることを次までの(?)課題といたしましょう。
こうして一日、みっちりスポーツ走行を学んで印象に残ったことは、まずはアバルトというクルマの運動性能の高さでした。ころころとしたかわいらしいカタチをしているのに、自分が思っているよりずっとよく曲がるし、止まるし、加速します。そしてもうひとつ感じたのが、電子制御の恩恵と、それにともなう運転の仕方の変化でした。これについては、セミナーの閉会式で講師の皆さんも仰っていたこと。高速域でドーンとブレーキを踏んでも平気なのは、やはりABSや横滑り防止装置があるからでしょう。
日々のアシからサーキット走行まで
私は長いことポンコツの「ローバー・ミニ」に乗っているのですが、それでスポーツ走行をしていたころは、ブレーキはタイヤをロックさせず、姿勢の保てるギリギリのあたりを手探り(足探り?)しながらペダルを踏んでいました。そして、それでもうまくいかずに「あーれー」とか「コンニャロ」と悲鳴を上げていたものです。そんなクルマで今日のアバルトと同じことをしたら、タイヤがロックしてコースアウトか、そうでなくともおシリが流れてとっちらかって、やっぱりコースアウトでしょう。
そんな風に今日一日を思い出しつつ、「今のクルマは本当に賢いなあ」と感心しながら帰宅の準備をしていて、ふと気づきました。ちょっと待てよ。ミニサーキットやジムカーナならまだしも、富士の本コースを全開で走ったクルマに乗って、そのまま家に帰れるなんて、冷静に考えたらスゴいことじゃないの?
エアコン全開の快適な車内で渋滞情報を確認しながら、そういう点でも「アバルトはすごいなあ」と感服する、上りの東名高速でした。
(文=webCG ほった/写真=FCAジャパン)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。