ランボルギーニ・ウラカンLP580-2(MR/7AT)
クラシコの粋がわかるドライバーへ 2016.06.30 試乗記 その派手ないでたちから、ランボルギーニというと、とかくアバンギャルドなイメージを抱きがち。しかし、クルマに込められた作り手の思いは意外や“古風”だ。車両の挙動や、その自由度の高さを楽しませてくれる後輪駆動の「ウラカンLP580-2」は、クラシコの粋がわかるドライバーに薦めたい。580psのハンドリングエディション
近代ランボルギーニの飛躍の原動力となった“ベイビーランボ”。「ガヤルド」の後継モデルとして2013年に登場したウラカンの、ホットモデルに試乗した。
正式名称は「ランボルギーニ・ウラカンLP580-2」。同社伝統のイニシャルである「LP」はエンジンの後方縦置きを意味し、その出力は580ps。そして「ハイフン2」は2WDを意味する。
そう、レギュラーモデル「LP610-4」は610psの最高出力を4WDで受け止めるのだが、こちらは“ニク”。ガヤルド時代から派生車種として加わった、ピュア・ハンドリングエディションというのがそのスタンスであり、30psドロップしたパワーは、シャシーバランスにおける限界点を見定めたランボルギーニ社が自主規制した結果である。
ちなみに直接のライバルであるフェラーリは、二輪駆動の「488GTB」で670psものパワーを吸収している。だがその価格はウラカンの2462万円に対して3070万円! これよりは540psをやはり後輪で受け止める「マクラーレン570S」(2556万円)の方が比較対象になるのかもしれないが、共に筆者は試乗経験がないので詳しくはwebCGの試乗記事を読んで比べてみてほしい。
どちらにしろ庶民にはその馬力も価格も天文学的な数字であることには変わりなく、少しばかり冷ややかな目をもってその競争を生温かく見守るしかないのだが、こうした馬力(と価格)競争が、70年代のスーパーカーブームのように多くのクルマ好きを巻き込んだものではなく、“天上界”での出来事になってしまっているのも、世代的には少し悲しい気もする。
気持ち良さは20%増し
そんな庶民のひとりである筆者が今回見極めたかったのは、こうした過激な競争の結末ではなく、LP610-4との違いである。というのもLP610-4は、ちょっとばかり“洗練され過ぎたスーパーカー”だったからだ。
具体的にはその610psという途方もないパワーを、カーボンとアルミを複合したシャシーの高い剛性と4WDの優れたトラクション性能、最後は「ANIMA」をベースとする電子制御スタビリティーコントロールで巧みにバランスさせていたが、肝心なスポーツカーとしての味付けは、ややそのハンドリングがダルだった。
だから30ps出力を抑えたとはいえ(代わりに車重は33kg軽くなり、前後重量配分は40:60となったけれど)、そのウラカンが持つ性能を、2WDバージョンがどう表現しているのかを確認したかったのである。
4WDモデルと大きく違う印象を受けたのは、やはりステアリングから伝わる感触だった。当日は技術的に詳しい説明のない“イタリアン方式”で、それこそwebCGの海外試乗記によればサスペンションのスプリング剛性はソフト方向にリセッティングされ、代わりにフロントのスタビライザーレートが上がったとのことだったが(リアスタビはソフトになった)、その手に伝わる手応えは4WDモデルよりも鮮明。大きく荷重をかけてターンインしていった際にもフロントの腰砕け感がなく(ここが最も違うところだ)、しかもすっきりと旋回姿勢に入ることができた。
その乗り味は、ポルシェで表現すると「911 GT3 RS」ではなく、「911 GTS」と「GT3」の中間といったところだろうか。つまり2WDモデルだからといって、かつてのガヤルドのように、張り切って足を固めた印象はない。オープンロードで乗っていないのでなんとも言えないが、ことサーキットにおける操作の快適性は、20%増しといった印象を受けた。
素直な挙動
試乗当日の鈴鹿サーキットは所々にウエットパッチがちらばった“ダンプ路面”で、備え付けられたトランシーバーからは「くれぐれも、コーナーではアクセルを踏み込まないようにしてくださいね……」とインストラクターの不安げな声が漏れていた。そして「ESCは絶対に切らないでください」と何度も念を押された。
それでも筆者はこの性能を大いに楽しめた。
鈴鹿名物である3連続S字や逆バンク、上り勾配ながらGが高くかかるダンロップコーナーでは高いスタビリティーが確認でき、その刺激を恐怖ではなくスリルのレベルにまで落としてくれる包容力がシャシーにあった。これはすごいことである。
デグナーカーブでの飛び込みも、ターンインでリアがニュートラル方向へゆっくりと流れ出す慣性バランスの良さを確認できた。ここではESCが介入したことから、アクセルでスライドをコントロールすることはできなかったが、その作動もきめ細やかであり、高いレベルで安全を担保してくれた。
後輪駆動というとアクセルオンでリアをスライドさせることばかりをイメージしがちだが、レーシングスポーツの醍醐味(だいごみ)はブレーキングからの姿勢作り、その自由度にある。ここでLP580-2は非常に素直な特性を見せてくれた。
真のランボルギーニファンへ
ANIMAの制御は「スポルト」が運転を楽しむよりオーバーステア気味なセッティングで、「コルサ」がより速く走るために弱アンダーステア方向の味付けだと記憶していたが、当日の路面状況、およびESCを働かせていた限り、その違いは明確ではなかった。どちらでも楽しめるけれど、強いて言えば7段DCT、ランボルギーニでいうところのドッピア・フリッツィオーネの反応速度が速い、コルサが気持ち良かった。
スプーンカーブをクリアした裏ストレートでの最高速は、260km/hを超えた。
パワーは30psドロップされたとはいえ、5.2リッターのV10ユニットを、8000rpmまで回しきる狂気には一点の曇りもない。
この時代とともに消えゆく運命にある自然吸気エンジンを――当面ランボルギーニだけは守り続けてくれそうだが――骨の髄まで楽しむのならば、筆者はLP610-4ではなくこのLP580-2を薦めたい。
日本においてランボルギーニは、どちらかというとイロモノ色が強い。しかしアウディと血を分けた近代ランボの作りは非常にしっかりとしており、かつ緻密。またそのシャシーに込められた作り手の気持ちやコンセプトは職人かたぎで、同じイタリアでもF1で洗練されたフェラーリと比べると、もっと古風(クラシコ)。
快楽の中に誠実さを含んだそのキャラクターが、筆者は大好きだ。だからウラカンLP580-2に乗るドライバーは、そうした粋をわかる人であってほしいと思った。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンLP580-2
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4459×1924×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1389kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:580ps(426kW)/8000rpm
最大トルク:55.1kgm(540Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.9リッター/100km(約8.4km/リッター 欧州指令EC/1999/100準拠 複合燃料消費率)
価格:2280万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。