フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツ トラックエディション(FF/6AT)
FFスポーツの新境地 2016.07.12 試乗記 “GTI”の誕生40周年を祝うアニバーサリーモデルとして、パフォーマンスを突き詰めた「フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツ トラックエディション」が登場。専用の空力パーツや電子制御LSDで武装した、限定モデルの走りを試す。走りを追求したアニバーサリーモデル
フォルクスワーゲン・ゴルフGTIをベースとするクラブスポーツとは、ゴルフGTIの生誕40周年を記念して“走りを特化させる”という目的で開発された限定GTIだ。
そのゴルフGTIクラブスポーツにはいくつかのバージョンがあるようで、日本法人の公式リリースによると、今回の「トラックエディション」はあくまで第1弾で、場合によっては、この後も別バージョンを“おかわり輸入”する可能性が示唆されている。
そんなゴルフGTIクラブスポーツの頂点は、日本未導入の「クラブスポーツS」となるだろう。この種のメーカー純正体育会系コンプリートカーに目がないエンスー筋は、そのクラブスポーツSが今年4月に、独ニュルブルクリンク北コースで“市販FF最速”のタイムをたたき出した……というニュースをすでにご承知のことと思う。
市販FF部門の現ニュル王者であるゴルフGTIクラブスポーツSは、3ドアをベースに、後席の省略やサブフレームのアルミ化、さらにはあえての6MT化やエアコンレス化で軽量化し、エンジンも今回のトラックエディションよりさらに強力な310ps/39.3kgmまでチューン。サスペンションも専用で、バネやダンパーはもちろんのこと、「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」タイヤを履いて、ブッシュまで専用の強化型という。すなわち、頂点の“S”は考えつくかぎりのフルメニューチューンといった風情だが、今回日本で販売されるトラックエディションは、残念ながら(?)そこまでカツカツではない。
“体育会系”であるがゆえの可変ダンパー標準装備
日本仕様のGTIクラブスポーツのエンジンは標準GTIより45ps高く、“S”より45ps低い265psをうたうが、この場合「ゴルフGTIのエンジンをパワーアップして……」という表現は、厳密には正しくない。このエンジンはヘッドまわりやピストン、ターボチャージャーなどが強化型となっている4WDの「ゴルフR」用がベースだそうで、「280psの『ゴルフRエンジン』を、2WD化に合わせて最適にデチューン」と書いたほうが正確だろう。
シャシーは標準GTI比で15mmローダウンしたうえで、専用の19インチタイヤを履かせてある。サイズ自体はニュルアタッカーの“S”と共通だが、試乗車の銘柄はわずかに穏当な「ピレリPゼロ」だった。バネや減衰力も締めてあるはずだが、クラブスポーツにはさらに標準GTIではオプションだったリアルタイム可変ダンパーの「DCC」を標準装備する。
「マジの体育会系マシーンに可変ダンパーかよ!?」とツッコミたくなる一部の頑固エンスーの気持ちは、私もアラフィフ世代の古いタイプのクルマオタクなので、痛いほど分かる。
ただ、「速さを追求するならアシはガチガチであるべし」という思想は、すでに古くなりつつある。事実、“S”もDCCが標準装備だそうだし、先代の記録ホルダーだった「ホンダ・シビック タイプR」も可変ダンパーがつく。特にアップダウンが激しく、また刻々と路面が変化するニュルのようなコースでは、可変ダンパーによって姿勢を安定させて、ダウンフォースなどの空力効果も最大限に引き出すのがトレンドなのだという。
そのほか、「大幅にダウンフォースを増した」という前後のエアロパーツ、そして市販FFではまだほとんど例を見ない「電子制御フロントディファレンシャルロック(=電子制御LSD)」も、“S”を含めたクラブスポーツ共通の標準アイテムとなる。
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標準車の美点を犠牲にしていない
今回はなんとも幸せなことに、GTIクラブスポーツのにわかオーナー体験を、私は4日間も味わうことができた。しかも、走る場所も市街地から高速道路、山坂道、そしてクローズドサーキットにまでおよんだ。
というわけで、GTIクラブスポーツをここで総括すると、それは「ゴルフGTIそのもの」だった。
いや、もちろん、コーナリング性能やスピードはハッキリと上がっている。その動力性能やサウンド、クラブスポーツ独特の操縦性などで官能性も増強されている。しかし、少なくとも日本仕様のトラックエディションは、ゴルフGTI本来の美点を、なんら犠牲にしていない。そういう意味での「そのもの」である。
DCCを「コンフォート」モードにセットしたときの乗り心地がまるで高級サルーンばりに快適性で、逆にもっとも硬い「スポーツ」モードでも絶望的な乗り心地にならないのは、(DCCつきの)標準GTIに共通する。19インチならではの硬質なアタリをわずかに感じるものの、あえて指摘したくなるほどでもなく、ちがいは本当にそれだけである。
ただ、山坂道でクリッピングを意識して走るときにも、コンフォートモードが使えるようになったのが、クラブスポーツの大きな利点だ。そういうシーンでの標準GTIは、ステアリング反応がマイルドすぎて使う気にならないケースも少なくなかったが、全体に俊敏性を増したクラブスポーツでは、路面状況や曲率によっては、本来使うべきスポーツモードよりコンフォートのほうが総合的に走りやすいケースもめずらしいことではない。
そして、エンジンの諸元が45ps高く、さらにフルスロットル時には290ps/38.8kgmに跳ね上がるオーバーブースト機能まで作動しても、前輪が暴れまわるそぶりがまるでないのも、クラブスポーツの「GTIそのもの」たる部分である。
強力なダウンフォースとLSDのトラクション
このクルマにおける、頂点の“S”とも共通するエンスー注目ポイントには、本格的な空力開発が施されたエアロパーツと電子制御LSDがある。前記のように素晴らしく優秀なDCC付きのシャシーに加えて、この2つが、クラブスポーツをクラブスポーツたらしめている大きな武器といっていい。
高速道路……とくにカーブが連続する山間部でのクラブスポーツが、標準GTIより明らかにビターッという安定感を見せるのは、大幅増強したというダウンフォースの効果もあると思われる。「空力なんて高速サーキット限定では!?」といぶかる向きもあるかもしれない。ただ、私の経験上、本気で練り込まれたエアロダイナミクスは、ニュルなどのサーキットをカツカツに走らずとも、一般公道で走るときにも、なにかしら体感できるものだ。
そんな絶大な高速安定性に加えて、あらゆる路面のあらゆるコーナーで、標準GTIより確実にワンテンポ早く、しかも深めにスロットルペダルを踏み込めるのは、最新兵器の電子制御LSDによるところが絶大である。
この電子制御LSDは従来の「XDS」のようなブレーキによる疑似LSDとは異なり、きっちりと機械的に、しかも強力に差動制限する。また作動したときの締結力もヘリカルやトルセンといった一般的な市販車用LSDとはちがう。機械式LSDばりの締結力をもちながら、日常使いになんら神経質さを見せないのが電子制御式のメリットであり、本物のLSDの推進力はやはり別格だ。
“三種の神器”がかなえた新しい走り
とにかく、これほど思いきり踏めるFFは、少なくとも私には経験がない。「踏んで曲がれるFF」という意味では、2つ前のニュル王者だった「ルノー・メガーヌ ルノースポール」も同じなのだが、GTIクラブスポーツの操縦性は、リアが小躍りするルノースポールのそれとはまた、別の種類のものである。
ゴルフGTIはもともとリアの安定性を優先したセッティングで、強引にタックインを誘うような乗りかたをしてもムダ……というか逆効果ですらある。その点はクラブスポーツも同じで、これもまた「ゴルフGTIそのもの」なポイントのひとつである。
しかし、本物のLSDによる“けん引力”はそれ以上にすさまじく、サーキットや山坂道で相応に走らせたときのGTIクラブスポーツは、フロントに引きずられるように、リアが曲がり込んでいく。こういう曲がりかたをするFFはあまり経験がない。この独特の操縦性こそ、電子制御LSDによるものだろう。
ゴルフGTIクラブスポーツ トラックエディションは、5ドア+6段DSGという日常性と、普段使いになんら不満のない快適性を維持しつつも、すこぶる速く、そしてDCC、ダウンフォース、電子制御LSDという“クラブスポーツ三種の神器”で、ちょっと大げさにいえば、高性能FFの新境地をひらいている。さらにいうと、このショルダーサポートつきのスポーツシートも、体にしっとり吸いつくようなホールド感の絶品といっていい。ちなみに高機能なナビも標準装備だ。
「せっかくならニュル新王者のクラブスポーツSをそのまま輸入してほしかった」というマニアの気持ちはわかる。469万9000円という正札もライバルより額面は高い。ただ、その内容や戦闘力、オールラウンドに走れて使える汎用性を考えると、これはこれで孤高のポジションを確立しており、標準GTIや日仏のライバルと比較しても、不当に高いとは思わない。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツ トラックエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1470mm
ホイールベース:2635mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:265ps(195kW)/5350-6600rpm(ブーストモード時:290ps<213kW>)
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1700-5300rpm(ブーストモード時:38.8kgm<380Nm>)
タイヤ:(前)225/35R19 88Y/(後)225/35R19 88Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.7km/リッター(JC08モード)
価格:469万9000円/テスト車=469万9000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3357km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:704km
使用燃料:78.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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