MINIクーパーSD 3ドア(FF/6AT)
目からウロコが落ちる 2016.07.15 試乗記 いよいよMINIにも本格的なディーゼルの波が到来。今春、実に6車種ものディーゼルモデルが一斉に日本に導入された。今回は、そのなかでも特に高性能な「クーパーSD 3ドア」に試乗。小柄なボディーとトルクフルなエンジンが織り成す走りに触れた。満を持しての登場
BMWブランドのディーゼル化計画をほぼ終えたBMWの日本法人は、いよいよMINIのディーゼル化に本格的にカジを切ったようである。
もっとも、MINIのディーゼルはこれが初出ではなく、2014年秋に「クロスオーバー」と「ペースマン」(というミドル系プラットフォーム車)にディーゼルを追加。それらは今も現役機種であり、クロスオーバーのディーゼルにいたっては同車全体の7~8割という販売比率を占めるんだとか。ただ、クロスオーバーもペースマンも、いってみればイロモノ担当。というわけで、これまでのMINIはさすがに本格的なディーゼル時代到来……とまではいえなかった。
まあ、MINIのディーゼル化がBMWより一歩遅れたのはいくつかの理由があろう。
純粋な手間ヒマの問題やイメージ戦略から、あえてBMWを先行させたという側面もあろうし、BMWのディーゼル戦略が本格化した2014年当時はMINIの基準モデルである3ドア/5ドアハッチバックそのものが、ちょうど世代交代の時期であったのも無関係ではあるまい。さらに、その直後にBMWのディーゼルエンジン本体も世代交代期となり、ドンピシャの導入時期がなかなか見つからなかったのは事実だろう。そして、例のフォルクスワーゲンのディーゼル排ガス問題も、MINIのディーゼル導入時期に微妙な影響をもたらしたことも想像にかたくない。
ただ、その結果として、MINIの主力ディーゼルは、こうして満を持しまくった(?)状態で上陸することとなった。よって、今回は出し惜しみ感がまったくない。「3ドア」「5ドア」「クラブマン」というMINIのメインストリーマー全機種に、それぞれ「クーパーD」と「クーパーSD」の2機種ずつを用意することになった。
これで遅いはずがない
新世代MINIに搭載されたディーゼルは、そのエンジン本体もクロスオーバー/ペースマンのそれとは別物のBMWとMINI共通の新世代ユニットとなる。ガソリン同様の1気筒あたり約500ccとなる例のモジュール設計の3/4気筒である。で、安価なクーパーDに積まれる新たなベーシックディーゼルは1.5リッター3気筒、高出力のクーパーSDが2リッター4気筒となる。
新世代の3気筒ディーゼルはクロスオーバー/ペースマンに積まれている従来世代のクーパーDの2リッターより、0.5リッター小さい排気量から同等以上のパワー/トルクを発生する。
対するクーパーSDのほうも、その車名のとおり、現在のクーパーSDクロスオーバーに積まれる2リッターの後継機種という位置づけなのだが、驚くのはそのスペックである。
従来世代のクーパーSDの最高出力/最大トルクが143ps/31.1kgmなのに対して、この新世代クーパーSDのそれは170ps/36.7kgm。数値上は従来世代比で約2割増し! 基本的に同じエンジンを積むBMWブランドの表記に従うと、そのチューンレベルは「18d」と「20d」の中間、さしずめ「19d」といったところだ。さらに、その絶対的な最大トルク値は、ガソリンエンジンで3.5リッター相当。従来型のBMWディーゼルでいうと「523d」にもせまろうかという高い水準にある。
今回連れ出したMINIクーパーSD 3ドアは、すでに「BMW 1シリーズ」や「3シリーズ」も軽々と走らせている新世代ディーゼルエンジンを、1.3トンに満たないコンパクトカーに積んでいる。今回登場したMINIの新世代ディーゼルモデルのなかでも、パワーウェイトレシオおよびトルクウェイトレシオは、当然のごとくトップである。まったく普通に考えて、遅いはずがない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
濃密なドライブフィールを味わえる
いや、実際のクーパーSD 3ドアは、遅いはずがない……どころか、ちょっと驚くほど速い。欧州で公表される動力性能データ(ともに6ATの場合)によれば、あの「クーパーS」(ガソリン)の0-100km/h加速が6.7秒で最高速が233km/hなのに対して、クーパーSDのそれは7.2秒で225km/h。実質的には互角だ。
ただ、体感的な味わいとしての速さや迫力では、ある意味でクーパーSより上かもしれない。スロットルを踏み込んだときの加速レスポンスをあえて擬音化すると、クーパーSが“ギュイーンッ!”なら、このクーパーSDは“ドーンッ!”という感じ。いかにもズ太いキックを繰り出す。
また、ディーゼルらしく右足にネットリと粘りつくように吹け上がり、ジワーッと踏むとグワーッとトルクが湧き出るように力強い。エンジンブレーキのトルク感(?)もいかにも太く、運転している実感と一体感はガソリンより濃密だ。
静粛性や洗練性も明らかに進化している。アイドリングやアイドルストップ作動時こそディーゼルっぽさは明白であるものの、きっちりと回っている間の震動は本当に少ない。
走行モードを統合的に切り替える「MINIドライビングモード」(オプション)をスポーツモードにしてレバーを横に倒すと、6ATは完全なマニュアル変速となり、リミットの5200rpmまできっちりと使えるようになる。
この新世代4気筒ディーゼルは5200rpmまで驚くほど滑らかに回り切るが、正直いって、そんなトップエンドを使う意味はない。実質的なパワーは3000rpmくらいでアタマ打ちとなり、4500rpmあたりから強制的にトルクが絞られていく。よって、山坂道でも、ガソリンより1~2速高いギアを使いながら、2000~3000rpmくらいでハミングさせながら走ったほうが、ラクだし速い。ガソリンの常識がまだ体にこびりついている身には、このディーゼルの常識がとても新鮮で楽しい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
まさしく“ディーゼルホットハッチ”
この新クーパーSDエンジンは、従来型クーパーSDとは別次元にパワフルで洗練されたスポーツディーゼルである。いやホント、ちょっと感動的に気持ちいいエンジンだ。
ところで、今回の試乗車にオプション装着されていた「JOHN COOPER WORKSパッケージ」(以下、JCWパッケージ)には、固定減衰のスポーツサスペンションと非ランフラットの17インチタイヤも含まれている。
私もこれまで、クーパー、クーパーS、ジョンクーパーワークス……と、現行MINIのホットグレードは何台か試乗したし、可変ダンパーやタイヤサイズなどのバリエーションもいくつか経験した。そのうえで、シャシーの味わいについては、今回のJCWパッケージが、今までで一番ツボにハマったことを告白しておく。
もっとも、今回と同じ個体を試乗会で乗った高平高輝さんは、以前「過剰演出ぎみで……オジサンには気疲れするだけ」と書かれていた。なるほどエンジン(=ノーズ)の重さに起因するとおぼしきドシッとしたパワステは人によってはわずらわしく感じるだろうが、乗り心地はパリッと小気味いいのに硬すぎず、ステアリングフィールはすっきり鮮明。路面不整にいい意味で鈍感な直進性をもち、荷重移動に喜々として応えてくれる回頭性を見せたかと思えば、高速コーナーでは低く構えてベタッと張りつくグリップ感……と、オールラウンドに楽しむホットハッチとしては、この固定減衰スポーツサスと非ランフラット17インチの組み合わせは、現行MINIでベストのシャシーだと思った。
ディーゼルに興味がない向きも、MINIに本格ホットハッチの味を望むなら、JCWパッケージは候補に入れたほうがいい。
景色が早送りで流れるスプリントのペースで走っても、エンジンは鼻歌まじりにジョギングしているだけ……。すでに日本のクルマ好きにもディーゼルの魅力はかなり浸透しているはずだが、その絶対的な速さと、ガソリンとは明確にちがう速さの“質”において、この3ドアクーパーSDはまた新しい世界を見せてくれた感がある。
これまでも欧州やマツダのディーゼルを引き合いに出して「ディーゼルでもスポーツモデルはありえる」などとしたり顔をしていた私だが、新クーパーSDエンジンと軽量コンパクトな車体を組み合わせたこの3ドアクーパーSDこそ、まさしく目からウロコが落ちる“本物のディーゼルホットハッチ”なのだぁ……と断言してみたい。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
MINIクーパーSD 3ドア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3860×1725×1430mm
ホイールベース:2495mm
車重:1290kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:170ps(125kW)/4000rpm
最大トルク:36.7kgm(360Nm)/1500-2750rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88W/(後)205/45R17 88W(ダンロップSP SPORT MAXX RT)
燃費:23.8km/リッター(JC08モード)
価格:364万円/テスト車=476万6000円
オプション装備:レザー クロス・パンチ カーボンブラック<スポーツシート>(26万8000円)/JOHN COOPER WORKSパッケージ(29万5000円)/リアビューカメラ(4万6000円)/ブラックボンネットストライプ(1万7000円)/インテリアサーフェス ピアノブラック(1万5000円)/アームレスト<フロント>(2万4000円)/ドライビングアシスト アクティブクルーズコントロール(11万4000円)/アダプティブLEDヘッドライト(2万7000円)/レインセンサー<自動ドライビングライト>(1万6000円)/ヘッドアップディスプレイ(5万8000円)/ハーマンカードン製HiFiラウドスピーカーシステム(12万3000円)/パーキングアシストパッケージ<PDCフロント&リア含む>(12万3000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1434km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:463.6km
使用燃料:34.2リッター(軽油)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/15.1km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。