MINIクーパーD 5ドア(FF/6AT)
MINIにはディーゼルがよく似合う 2016.08.15 試乗記 2016年春に導入されたMINIの最新ディーゼル商品群の中から、今回は5ドアの1.5リッターモデル「MINIクーパーD 5ドア」をチョイス。3気筒ユニットの出来栄えや、独特のドライブフィールを持つMINIというクルマとのマッチングを確かめた。今一番新しいMINI
イギリスのEU離脱で、BMW MINIはどうなるのか。主力工場はすべて英国内にあるのだから、なんらかの影響を受けないということはないだろう。関税の復活でヨーロッパ大陸での販売価格が大きく上がるようなことになれば、生産拠点をイギリスから移転させる可能性もある。BMWから正式なアナウンスはまだないから、取り越し苦労をしても始まらないが、いずれにせよ、BMW MINIこそ、英国車でもドイツ車でもない、まさにEU車だったのだ。
そんなMINIの、最新バージョンがこれである。現行の3代目でついに登場した5ドアボディーに、この春、国内初導入の新世代クリーンディーゼルの組み合わせ。たくさんありすぎて、もう何がなんだかよくわからない人が、「とにかく一番新しいMINI持ってきて!」と頼んだら、MINI 5ドアのクリーンディーゼルがくる(?)。
今回試乗したのはクーパーDで、116psの1.5リッター3気筒ターボを搭載する。同じグレード名でも、クリーンディーゼルMINIシリーズ第1弾として2年前に登場した「クロスオーバー」「ペースマン」のクーパーDに使われる2リッター4気筒ターボとは異なる。1気筒増やすと2リッターにアップして「クーパーSD」用となる新しいモジュラーユニットの1.5リッタークリーンディーゼルである。
マナーは上々、パワーはそこそこ
このクルマの興味の焦点は、新しい1.5リッタークリーンディーゼルだろう。1.5リッターターボといえば、「マツダ・デミオ」のディーゼルもそうだが、あちらは4気筒。1気筒少なくて大丈夫なのか?
大丈夫である。音や振動の点では、マツダの4気筒と比べても遜色ないし、MINIを含むBMWの2リッター4気筒ディーゼルと乗り比べたって、マナーは見劣りしない。MINIのガソリン1.5リッター3気筒には、ちょっとくすぐったいような独特のビートを感じるが、人によってはネガに感じるそうした3気筒っぽさが、この1.5リッターディーゼルにはない。
排気量もパワーも、BMWクリーンディーゼルとしては一番のチビっこだが、十分な低速トルクと、素早く吹け上がらせるターボチューンのおかげで、力に不足はない。緩急の差が激しい混んだ町なかでは特に、ガソリンの1.5リッターMINIよりもキビキビ走れる。
ただし、高速道路や山坂などでここ一発のパンチが欲しいときには、ちょっと物足りないこともある。下であるように上でもあると思うな。これはディーゼル車の一般論である。ディーゼルにこだわり、よりオールマイティーなパワフルさを望むなら、2リッター4気筒のクーパーSDを奮発したほうがいいかもしれない。
おとなしい仕様も用意してはいかが?
ホイールベースを7cm延ばして、後席用ドアを与えたのが5ドアMINIである。リアのレッグルームにも余裕が生まれている。背もたれは相変わらず立ち気味で、足もとの床も窮屈だから、フル4シーターとはいえないものの、リアシートの乗降性は格段に向上した。
ボディー全長も伸びて、ジャスト4mになった。後席ドアは小ぶりで、特にリアシートから見ると、馬車のトビラみたいだが、それもオシャレに見えてしまうのがMINIの“車徳”である。
この3代目MINIでは、丸い特大センターメーターにカーナビの地図などを表示するディスプレイがついにビルトインされた。その円周部に埋め込まれた“ディスプレーリング”と呼ばれる電飾も新趣向だ。例えば、アイドリングストップ中は緑色の光が息をしているみたいに明滅する。カーナビの音声案内にも呼応して、さまざまな色とパターンで注意喚起する。夜乗ると、実ににぎやかだ。次期型MINIではマップマッチングとか言い出すんじゃなかろうか。
BMW MINIが発足時から力を入れているこうしたドイツ流の“お祭り演出”は、個人的にはゴメンナサイで、ダッシュボードのデザインも含めて、徹底的にシンプルなバージョンもつくってもらえないかなといつも思う。
![]() |
![]() |
![]() |
乗り味にマッチしている
1.5リッター3気筒ディーゼルの印象についてはすでに書いたが、“乗った感じ”はいつものMINIである。
ボディーには分厚い剛性感があり、乗り心地はズッシリと重厚だ。ステアリングの操舵(そうだ)力をはじめとして、すべての操作系は重めにしつけられている。運転していると、硬い革のカバンをイメージさせるような、BMW MINI独特のドライブフィールには、胸板の厚いディーゼルのほうがフィットしているかもしれない。スジが通っている感じがする。クリーンディーゼルMINIに乗ってみて、そう思った。
約500kmを走って、燃費は15.1km/リッターだった。以前乗ったガソリン1.5リッターの「クーパー」も似たようなものだったが、こちらは軽油だから、無鉛ハイオクガソリンより燃料単価は2~3割安い。燃費自慢の軽自動車と変わらない燃料コストで乗れる。
5ドアクーパーDの価格は318万円。同じボディーのガソリンクーパーより20万円高い。5ドアMINIを選ぶ人は、最初から目もくれないかもしれないが、3ドアのクーパーDは300万円だから、ドア2枚プラスのお代は18万円。ハイスペックのほうがお買い得に感じる価格設定は、いつもながらBMW MINIのうまいところである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
MINIクーパーD 5ドア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4000×1725×1445mm
ホイールベース:2565mm
車重:1280kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:116ps(85kW)/4000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1500-2250rpm
タイヤ:(前)205/40R18 86W/(後)205/40R18 86W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:23.9km/リッター(JC08モード)
価格:318万円/テスト車=492万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ムーンウォークグレー・メタリック>(2万9000円)/MINI Yoursレザーラウンジ(38万4000円)/PEPPERパッケージ<コンフォートアクセス+ストレージコンパートメント・パッケージ+MINIエキサイトメント・パッケージ+レインセンサー[自動ドライビングライト付き]+ライトパッケージ>(9万7000円)/ADVANCED SAFETYパッケージ(17万2000円)/NAVIGATIONパッケージ<ナビゲーションシステム+MINIコネクテッド>(17万8000円)/18インチアロイ MINI Yoursバニティー・スポーク 2トーン7J×18 205/40R18(32万8000円)/MINI Yoursスポーツレザーステアリング サテライトグレー<3本スポーク>(6万円)/ダイナミック・ダンパーコントロール(7万7000円)/クロームライン・インテリア(2万4000円)/カラーライン シャドーグレー(1万5000円)/インテリアサーフェイス MINI Yoursファイバーアロイ(5万5000円)/MINIドライビングモード(2万9000円)/ETC車載器システム内蔵 自動防眩(ぼうげん)ルームミラー(6万9000円)/LEDヘッドライト LEDフロントフォグランプ(10万3000円)/パーキングアシスト・パッケージ<PDCフロント&リア含む>(12万3000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1941km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:495.6km
使用燃料:32.8リッター(軽油)
参考燃費:15.1km/リッター(満タン法)/14.7km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。