MINIクーパーSD 5ドア(FF/8AT)
うまくできている 2021.10.09 試乗記 いまや、MINIの基盤といえる「3ドア」以上の人気モデルに成長した「5ドア」。ディーゼルの上級モデル「クーパーSD」をロングドライブに連れ出し、2度目のマイナーチェンジで進化し磨きがかけられた個性と、支持を集めるその理由を探った。現行MINIの売れ筋モデル
日本でBMW MINIが初めてお披露目されたのは、2001年秋の東京モーターショーである。「新しいMINI」も今年で早20年。古いBMCミニの半分の年齢に達したわけだ。
BMCミニの特徴を捉えて焼き直したデザインを初めて見たとき、こういうレトロデザインはモデルチェンジでどうするのだろうかと思った。でも、なんてことなかった。
2013年以来の現行MINIは英国流に言えばMkIIIに当たるが、イメージは最初から変わらない。中身を変えても、デザインはずっとキープコンセプト。そのため、BMW MINIはいまや日本全国どこへ行ってもいちばんよく見かける外車である。ここ20年間の国内販売台数はトータルで32万台以上を数える。
そのMINIのなかでも3ドア/5ドア/コンバーチブルにこのほどマイナーチェンジが施された。機構的に大きな変更はないが、フロントマスクの表情が変わり、新旧の見分けはつけやすい。試乗したのは5ドアのクーパーSD(車両本体価格427万円)である。
MINIに5ドアが加わったのは、ボディー全幅が全車1.7m超の3ナンバーになった現行3世代目からだが、MINIハッチバックの販売は5ドアが55%と、すでに3ドアを上回っているという。ディーゼルの比率も40%にのぼる。なかでも、5ドアのクーパーSDは現行MINIの売れ筋モデルである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これぞMINIの足まわり
MINIの最新バージョンに乗り込んで、まず目を引くのは、ステアリングホイールの向こう、ドライバー正面にある新しいメーターだ。陸上競技トラックのようなカタチの、薄くコンパクトなマルチディスプレイに変わった。タブレット端末を思わせる、メーターの最新モードだ。見やすいだけでなく、かさのある従来のアナログメーターより圧迫感が減ったのがうれしい。
ハンドルの左側スポーク上で操作するACC(アダプティブクルーズコントロール)は、停止・発進までカバーするようになった。前走車が20km/h以下に減速しても、ETCゲートを追従走行できる。
車線逸脱を警告するレーンデパーチャーウオーニングも標準装備された。ただし警告だけで、操舵まで介入するレーンキープ機能はない。BMWのレーンキープアシストはかなりハンドルをグイグイ切ってくるタイプだから、警告で十分だと個人的には思う。
というか、このクルマにレーンキープアシストなんて要るか!? と感じるほどMINIは高速でのスタビリティーが高い。ステアリングの据わりがよくて、ストレートでもコーナーのトレースでもハンドル操作に余計な神経を使わせない。
MINIの足まわりは「ONE」から始まるどれに乗っても、基本、硬い。17インチの「グッドイヤー・イーグルF1」タイヤを履くクーパーSDも、乗り心地はけっこう揺すられるタイプだが、それもターゲットスピードの高さゆえと考えたい。どんなMINIも、街なかのお使いばかりだと、宝の持ち腐れだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
SDのアドバンテージは明らか
今のMINIハッチバック系はディーゼルもガソリンも「クーパー」が1.5リッター3気筒。「クーパーS」が2リッター4気筒である。
クーパーSD用の2リッターターボは最高出力170PS、最大トルク360N・m。ディーゼルでもクーパーSの太鼓判が押されるアウトプットに不満はない。もともと0-400mよりも0-40mの生活加速に優れるのが高トルクディーゼルの強みだから、街なかではガソリンのクーパーSよりも力強いのではないかと思う。
ディーゼルの「クーパーD」(最高出力116PS/最大トルク270N・m)との比較でも、SDのアドバンテージは明らかで、感覚的に言うと、SDはより小さなアクセル開度でクーパーDよりも速く走れる。
だが、新しい1.5リッター3気筒ターボを積むクーパーDのほうが音は静かである。とくにアイドリング時の車外騒音は、ほとんどディーゼルとわからない1.5リッターに対して、2リッターはコロコロという特徴的な音が聴こえる。
変速機は8段AT。クーパーDは7段DCTで、MTモードで積極的に走るようなときは、8段ATよりレスポンシブで楽しめる。総じてスポーツユニットとしての楽しさは3気筒のクーパーDのほうがむしろ少し上かなと感じたが、クーパーSDを指名買いする人は、そういうことよりもクーパー“S”を求めているのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
巧みなパッケージ設定
MINIの5ドアは、3ドアより全長(+16cm)もホイールベース(+5cm)も長い。後席ドア新設による乗降性のよさは言うに及ばず、リアシートも荷室も5ドアのほうが広い。3ドアよりテールゲートのヒンジが奥にあるため、開口部が大きくて、荷物の積み降ろしもしやすい。生活者の便を考えたら、5ドアが販売の主流になるのは当然だ。
今回のマイナーチェンジから、MINIは「トリム」という新しいデザインパッケージを採用する。素の「エッセンシャル」のほかに、「クラシック」「ジョンクーパーワークス」「MINIユアーズ」の計4種類がある。試乗車はクラシックトリム(17万円)で、アルミホイールのデザインや、シート表皮や内装の加飾パネルなどがそれに対応したものになる。
一方、パドルシフトはオプション(7万5000円)である。クーパーSDなのに? と思うが、52万円のジョンクーパーワークストリムを選べば、最初から付いてくる。うまくできている。
427万円の車両本体価格もなかなかだと思うが、クラシックトリムには含まれないオプションをいろいろ載せた試乗車は、総額で500万円を超えていた。MINIも高くなったなあとため息をつくか、この20年間ほとんど賃金の上がらないこの国を嘆くか、正しいのはどっちでしょうか。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=神村 聖/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
MINIクーパーSD 5ドア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4040×1725×1445mm
ホイールベース:2565mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 12バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:170PS(125kW)/4000rpm
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1000-2750rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88W/(後)205/45R17 88W(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:23.1km/リッター(JC08モード)/18.9km/リッター(WLTCモード)
価格:427万円/テスト車=501万3000円
オプション装備:レザーシートパッケージ<レザーシート、フロントスポーツシート、フロントヒートヒーター>(17万8000円)/デジタルパッケージプラス(14万1000円)/クラシックトリム(17万円)/17インチアロイホイール テンタクルスポーク シルバー<7J×17>+205/45R17タイヤ(0円)/アラームシステム(4万8000円)/ホワイトボンネットストライプ(2万1000円)/harman/kardon製HiFiラウドスピーカーシステム(11万円)/ドライビングアシストパッケージプラス(0円)/コンフォートパッケージ<電動調整式&電動可倒式自動防げんドアミラー、フロントアームレスト、ストレージコンパートメントパッケージ、オートマチックエアコンディショナー>(0円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1622km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:326.9km
使用燃料:26.3リッター(軽油)
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)/15.5km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。





















































