第360回:かつてないモーターショー
「オートモビル カウンシル2016」を振り返る
2016.08.10
エディターから一言
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8月5日~7日の3日間、幕張メッセで開催された「オートモビル カウンシル2016」。自動車を文化としてとらえる機会を共有し、世界に発信するために企画されたという新たなオートショーを振り返る。
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「日本の自動車文化」を世界へ
幕張メッセを訪れたことのある方はご存じだろうが、各展示ホールを結ぶ通路は階上にあり、ホールには階段やエスカレーターで下りるようになっている。そのため通路のレベルから、会場を見下ろすことができるのだ。そのようにして通路レベルからオートモビル カウンシルの会場を俯瞰(ふかん)すると、目に入ってくるのはTOYOTAやSUBARU、MAZDAといったメーカーのサインボード。東京モーターショーや東京オートサロンなどで見慣れたオートショーの風景である。ところが会場フロアに下りると、展示車両の大半はヒストリックカーなのだ。
小は新車の発表会から大はファン感謝イベントまで、メーカー主催のイベントで、ヘリテージモデルと最新モデルが同居するのは、珍しいことではない。だが複数のメーカーの新旧モデルが同一会場に展示される機会となると、限られてくる。鈴鹿サーキットや富士スピードウェイなどレーシングコースのメモリアルイベントや、モータースポーツジャパンくらいだろうか。だが、それらのイベントに展示されるのは、原則としてコンペティションマシンのみ。そうでないモデルを含めた、複数のメーカーの新旧そろい踏みとなる場を設けたのは、「CLASSIC MEETS MODERN」というテーマを掲げた、オートモビル カウンシルが初めてなのである。
にもかかわらず、会場内の雰囲気に違和感がないどころか、とても魅力的だった。なぜこれまでこうしたオートショーがなかったのだろう? と思ったが、それを日本で初めて実現したところに、このイベントの意義があるわけだ。
戦後に限っても70年の歴史があり、すでに世界に誇るべきヘリテージがありながら、産業および商業面の発展に注力するあまり、過去を振り返ることが少なかったわが国の自動車界。世界一の自動車生産大国となった今でも、自動車の文化的価値が十分に認められているとは言いがたい状況に風穴を開けるべく企画されたのが、オートモビル カウンシルなのである。
出展メーカーは、ヘリテージカーと最新モデルを並べることで、過去から現在に至る自社のヘリテージとブランドフィロソフィーを訴える。それらメーカーをはじめ、自動車趣味をバックアップするヘリテージカー専門店からオーナーズクラブに至る出展者、そして自動車を愛好する来場者までが一体となって、日本における自動車文化を育み、世界に向けて発信していこうというイベントである。
希少なヘリテージカーにため息
会場に並べられた車両は、メーカーの展示が35台、ヘリテージカー専売店の展示が約80台、ほかにクラブブースや主催者招待などの展示を合わせて、約120台。絶対数は多くはないが、希少性、ヒストリー、コンディションなどの面から、これだけレベルの高いクルマが集まる機会はめったにないといえるほど粒がそろっていた。
ヘリテージカー専売店の展示車両のほとんどは販売車両だったが、レベルの高さを反映して、お値段も立派だった。しかし、期間中に“4ケタ万円”のモデルを含めた、少なからぬ数の車両が売約済みあるいは商談中となっており、世の中にはお金持ちがいることにいまさらながら驚かされた。だが即決されたということは、それだけ車両の状態が良好で、信用のおける出展者であったことの証しだろう。
個人的に展示車両のなかで気になったのは、L.F.A.が出展していた1977年「プジョー104」。70年代のプジョーのエントリーモデルとなるコンパクトな2ボックスだが、日本には正規輸入されていないので非常に珍しい。しかも展示されていた個体は、走行わずか2200kmという極上車だった。
シルバースターが出展していた1971年「メルセデス・ベンツ300SEL 6.3」にはシビレた。AMGがチューンして同年のスパ・フランコルシャン24時間で総合2位、クラス優勝したマシンのレプリカだが、当初は内外装をそれらしく装ったものだと思っていた。ところがエンジンを実車同様6.8リッターに拡大し、しかもトランスミッションは特注の6段MTに換装しているというではないか。その本気ぶりに脱帽したが、隣に並んでいた1960年「メルセデス・ベンツ300d」もすばらしかった。63年に「600」が登場するまでは戦後メルセデスのフラッグシップだったモデルである。
展示規模、内容ともに群を抜いていたのがワクイミュージアム。同所は世界的にも希少なロールス・ロイス/ベントレー専門の私設ミュージアムだが、ロールス・ロイス/ベントレーの車両販売とメンテナンス、レストアなどを行う部門も併設している。会場には両部門のコーナーを設け、ミュージアム部門には、現存する世界最古のオリジナルベントレーである1921年「ベントレー3リッター・ゲイルン製トゥアラー」、1928年ルマン24時間の優勝車である「ベントレー4-1/2リッター“オールド・マザー・ガン”」、それに白洲次郎や吉田 茂が愛用した車両など、所蔵車両のなかでも特に希少なモデル5台を展示。いっぽう販売/ファクトリー部門にはレストア済みとレストア途上の「ロールス・ロイス・シルバーシャドウ」など3台を展示し、レストアの手法を紹介していた。
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まるで「大きなミュージアム」
マルシェと呼ばれる、自動車関連書籍、モデルカー、ウエアやオートモビリア(クルマ関係の小物)などの専門店のコーナー、オーナーズクラブやイベントオーガナイザーのブースも興味深かった。設立から60年の歴史を誇る「日本クラシックカークラブ(CCCJ)」をはじめ、こちらも粒ぞろい。展示してある車両も、ヒストリーを持つ個体だったりするのだ。マルシェに自動車関連のアートを扱う店が目についたのも、自動車文化の形成をうたうイベントらしいところだった。
「キーノート&トークセッション」と題された、目玉企画のひとつだったゲストによる講演やトークショーも好評だった。会場はメイン会場である2・3ホールから少々離れた国際会議場で、毎回入れ替え制だったが、いずれの回も約100名のキャパシティーはほぼいっぱいで、立ち見が出たこともあった。演者はカーデザイナーやエンジニアから現職の衆議院議員までさまざまで、話題も広範囲にわたっており、貴重な話が聞けた。このイベントが単なるオートショーではないことを、強く印象づけたプログラムだったといえよう。
このキーノート&トークセッションに登壇した複数のゲストスピーカーから、「自動車文化」や「大人の趣味」といったフレーズが、幾度となくキーワードのように発せられた。出展者と来場者が織りなす会場の雰囲気も、その言葉にふさわしいものだった。露出度の高いキャンギャルもいなければ、当然彼女たち目当てのカメラ小僧もいない。ズンドコズンドコと重低音を響かせたBGMもなければ、声高に叫ぶMCもない。落ち着いてクルマを眺め、出展者や仲間と言葉を交わすことができる、例えるならば大きなミュージアムといった感じの、ゆったりとした心地いい空間だった。
そんな大人のクルマ好きのためのイベントだったオートモビル カウンシル、主催者によれば、2017年も同時期(8月4日~6日)に同じ会場での開催を予定しているという。希望をいえば、出展者や展示車両は増えてほしいが、数が多ければいいというものではない。車両のクオリティーや落ち着いた会場の雰囲気は、このままキープしていただきたいものである。ちなみに主催者発表による3日間の来場者数は、1万8572人。初回開催としては、まずまずの成功といえるのではないだろうか。
(文と写真=沼田 亨)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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