第5回:ヒストリックカー趣味の欠落
2016.08.23 カーマニア人間国宝への道“初恋の人”「フェラーリ328」
連載も5回目となり、そろそろ前回までのあらすじを説明するのがつらくなってきたが、2009年に発生した我がカーライフ2度目のジャイアント・インパクト前後の経緯を延々と説明させていただいている不肖清水草一である。
ところで2009年当時、我がご神体たるフェラーリ様は、87年式の「328GTS」だった。つまり当時で22年落ち。今で言うネオクラシックとかヤングクラシック圏内に位置するだろう。
正直なところ、私にはヒストリックカー趣味はない。これはカーマニア人間国宝を目指す上で大きな欠落だ。
「カーマニア人間国宝」という単語を聞いて、人はどんな姿形を想像するだろう。最も一般的なのは、○○○○美術館とかを開設してしまうようなウルトラグレイトなエンスージアストではないだろうか。つまりヒストリックカーのコレクターである。それが世の中で最も尊敬されるカーマニアの姿だ。
なのに私にはヒストリックカー趣味がない。この頃328に乗っていたのは、単にそれが初恋の人だったからだ。歳を取って初恋の人に会いたくなりました。そういうことですね!
「フェラーリ328」への想い、再燃
私のフェラーリ原体験は、池沢早人師先生に乗せていただいた「テスタロッサ」だが、そこからややさかのぼったところにある原記憶はというと、カーグラフィックTVのオープニングに出てきた328なのだ。
328が谷田部のバンクを疾走するあの神々しい姿。ひょっとして買えるかもしれないと夢想させるギリギリのところに位置する価格とサイズを持つフェラーリ様。ちなみに『サーキットの狼』は中学から高校時代だったので、リアルタイムでは読んでいない。
最初に買ったフェラーリが「348tb」。続いて「512TR」を2台(赤と白)。そこから「F355スパイダー」「360モデナ」と現代化を続け、財政的にその次に行けなくなった時、「じゃ戻るしかないべ」で買ったのが、この初恋の人だった。
328は今でも高い人気を保ち、バリものは1500万円の値も付いており、最低1000万円は出さないとコンディション良好なタマは買えないらしいが、当時はそれがたった600万円くらいで買えた。
で、コンディション良好なる我が328、実際乗った感じはどうだったか。
最初に買った「328GTB」は日本仕様だったので、言わばカッコだけのフェラーリだった。エンジンは高回転の抜けが悪く、回すとエントツさん苦しそう。フェラーリにとっては最初期の排ガス対策車であり、初めてでっかい触媒を取り付けた上に、カムのプロファイルも低速型だった。
買った当時は「これは癒しのフェラーリだ! そこがステキだ!」と思ったが、1カ月後、たまたま試乗した欧州仕様の328GTSのあまりの吹け上がりの良さに大ショックを受け、その場で買い替えを決めてしまった。
「328GTS」は永遠の青い鳥だ!
そうやって手にした黒の328GTSは、欧州仕様のため触媒もなく、カムも高速型、日本仕様とはまるで別物というか別のクルマだった。
しかも、ネオクラシックと言うにはちょっと速すぎるくらい“当たり”のマシンだった。なにしろゼロヨン計測で13秒7を出してしまったのだ。信じないかもしれないが「ランエボⅩ」にも中間加速対決で勝った。
「クワァァァァァァ~ン」と吹け上がる3.2リッターV8 32バルブDOHCは古典的なレーシングエンジンそのものだが、速さは古典的とは言い難い。メカ的にも丈夫でメンテナンスにあまりお金がかからない。ただし走行距離だけは控え目にネ! そういうクルマだった。
つまりフェラーリ328は、ネオクラシックではあるが永遠の青い鳥。現役スーパーカーとまでは言えないが、間違いなく現役スポーツカーだったのだ!
こういうクルマと出会ったら、本物のクラシックカーになるまで後生大事に所有して、最後は私設博物館に展示するのがカーマニア人間国宝のあるべき姿かもしれない。しかし私は2009年秋、買ってわずか1年余りで他のフェラーリに買い替えてしまった。それはなぜだったのかあぁぁぁ!?
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
