メルセデス・ベンツE200アバンギャルド スポーツ(FR/9AT)
一歩進んだ 2016.08.22 試乗記 先進の運転支援システムをひっさげて登場した、新型「メルセデス・ベンツEクラス」に試乗。セリングポイントである安全装備の使い勝手や、軽量ボディーがもたらす走りの質を、2リッターのガソリン車「E200アバンギャルド スポーツ」でチェックした。存在そのものがサプライズ
自動車業界でおまんまを食わせていただいている人間にとって、メルセデス・ベンツEクラスは大物だ。が、さすが大物、フルモデルチェンジにももったいぶった部分があり、今回試乗できたのはボトムに位置するE200のみである。
新型の登場と同時に代替えを検討する、代々Eクラスを乗り継いでいるタイプの方にとって、2リッター4気筒直噴ガソリンターボエンジンを積んだE200は、「買わないけど一応どんな感じか知っておきたい」というくらいのグレードではないだろうか。というより、「えっ、Eクラスに200なんて出たの!?」かもしれない。先代Eにも2リッターガソリンターボモデルはあったが、名称は「E250」、最高出力は211psだった。184psの新型E200は存在そのものがサプライズである。
ということで、今回の試乗記はあくまで前奏曲ということで、割り切ってお伝えいたします。
E200を新型Eクラスの前奏曲と割り切ると、最大の焦点は、完全自動運転への前奏曲ともいうべき「ドライブパイロット」だろう。
内容的には、従前のディストロニックプラス+レーンキープアシストから一歩進めて、クルーズコントロールオンで車線の中央を自動的に維持しつつ、その状態でウインカーを出せば自動車線変更が可能になった。
そう聞いて思い浮かべるのは、テスラの「オートパイロット」である。ぶっちゃけ、あれより進んでいるのか!?
安全装備は注意が必要
新型Eクラスの海外試乗記を見ると、ドライブパイロットは大絶賛の嵐だが、今回の短時間のテストでは、「テスラよりちょっと進んでる」というのが実感だった。
Eクラスもテスラも、白線をカメラで認識するが、テスラはペイントが薄くなっていると割合すぐお手上げ状態になり、オートパイロット作動時はその点に常に注意している必要があった。
実はEクラスも、それについては大差なかったのである。「天下のベンツ、テスラより目がいいんじゃないか」と期待したが、やはり白線が薄いと見失ってしまう。つまりテスラ同様、「常に注意が必要」なことに変わりなかった。
カメラが白線を見失っている間は、インパネの小さなグリーンの“ステアリングマーク”が白に戻る。その間はドライバー自身がハンドルを操作しなくてはならない。Eクラスの場合、このインジケーターがテスラより小さいので、より注意が必要ともいえた。
建前としては、「ドライバーは常に前方を注視しつつ運転しなければならない」のだが、こうした装置を試している間は、クルマが道路を認識しているかどうか、そっちに注意を払うのが自然の成り行きである。つまりインジケーターが小さいのは結構痛かったりする。
いやいや、現在の自動運転技術はあくまでドライバーのアシスト。メルセデスがインジケーターを小さく目立たないものにしたのは、「基本的に自力で運転セヨ!」という姿勢の表れだろう。
現状のドライブパイロットは、混雑や渋滞中の疲労軽減が主目的と考えるべし。それなら必ず前走車がいる。前走車がいれば、白線を見失ってもそっちに追従してくれるから、インジケーターの問題もないのである。
便利だけれど、なくてもいい
もうひとつの新機軸、「アクティブレーンチェンジングアシスト」の方は、テスラより反応がクイックで「使える!」という印象だった。ウインカーを出すと、割合即座に、かつスムーズに車線変更を始めてくれる。テスラのソレはタイムラグが大きめなので、交通量が多めだとほぼ使えなかったが、Eクラスのコレは結構使える。
また、一定時間以上ステアリングから手を放していると、「ドライバーが死んだかも!?」ということで、自動的にゆっくり減速して停止する機能も加わった。
実際にドライバーがなんらかの原因で意識を失った場合、その車線をキープしつつゆっくり減速して停止すると、「高速道路の真ん中で止まっちゃうじゃないか!」という懸念も生じるわけだが、そのまま走り続けるよりはまだマシだろうし、「自動的に路肩に止める」のが無理な現状においては、これ以外に手がないだろう。
さて、ここまでお読みになった皆さまは、どうお感じになりますか?
かなり以前だが、大手キャリアのパイロットに、「今旅客機って、離着陸も自動操縦なんでしょ?」と聞いたことがある。返ってきた答えは意外なものだった。
「冗談じゃない、付いてるけどそんなもん使わないよ! 腕落ちるじゃんか!」
高度な自動操縦装置を積んでいる現代の旅客機でも、機械にまかせるのは巡航中のみで、離着陸などはすべて自力で操縦するし、難しければ難しいほど燃える。昔の香港・啓徳空港への着陸が一番好きだったそうだ。
これは、クルマ好きにとってのクルマにも当てはまるのではないか。われわれドライバーにとって、完全自動運転はひとつの夢だが、Eクラスのドライブパイロットはまだその過程にある。「使えるか?」と問われれば「まあまあ使える」と答えるが、「必要か?」と問われれば「あれば便利だけど、なくてもいいかな」となる。
これが「ぜひ欲しい」になるのは、高速道路上だけでも完全自動運転が実現してからだ。アシスト機能はあくまでアシスト。必須ではない。取りあえず一歩進んだ。それは間違いない。つまり、焦って手に入れるほどではない。数年後には「一部完全」が出るかもしれないのだから。
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まるで軽量スポーツセダン
ただ、ドライブパイロットを試している時に頭に浮かんだのは、ブランドへの信頼感だった。テスラは経営者自身が冒険家なので、使ってる最中はこっちも冒険気分だが、メルセデスなら「間違いはないだろう」と無意識のうちに考えている。新型Eクラスは自動ブレーキ系の機能も大幅に強化されている。つまり、そういった予備知識とあいまって、ハラハラ感を大幅に低減させたのだった。
さて、ここからようやくクルマとしてのE200の評価に入らせていただきます。
見た目はまるで「Sクラス」だ。いやまるで「Cクラス」ともいえる、とにかく、違いはサイズだけの超相似形である。乗ったのはアバンギャルド スポーツ。ただの「アバンギャルド」が675万円なのに対して、アバンギャルド スポーツは727万円となっている。
走り始めると、まるで軽量スポーツセダンみたいな乗り味に驚いた。5m近い大柄なボディーに軽量な2リッターガソリンエンジンを積み、タイヤは19インチ。下手するとCクラスより軽快に感じる。ナリはデカいけど中がスカスカでメチャ軽いという印象だ。
なにしろエンジンは4気筒の2リッター。184psのパワーは必要にして十分だが、4気筒らしい軽快なフィールと相まって、Eクラスに期待するどっしり、ゆったり感とはほど遠い。Sport+モードにでもしようものなら、「これ、『アルテッツァ』ですか!?」みたいな感じになる。コンフォートモードでもまだスポーティーすぎて、路面からの突き上げが気になった。
これが“スポーツ”の付かないただのアバンギャルドなら、タイヤが17インチというだけでかなりゆったり感があったはずで、E200のアバンギャルド スポーツは、新型Eクラスの際物だろうと想像する。あるいは超初期ロットにありがちな熟成不足か。
個人的には、「E220d」の17インチホイールモデルに期待したい。もう少しの重みとトルク、それにメルセデスらしいゆったりした乗り味があれば、新型Eクラスの軽量高剛性ボディーは、その真価を遺憾なく発揮するのではないだろうか。
いずれにせよ、今回のE200試乗はほんの前奏曲である。
(文=清水草一/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE200アバンギャルド スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1850×1455mm
ホイールベース:2940mm
車重:1740kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:184ps(135kW)/5500rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)275/35ZR19 100Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:14.7km/リッター(JC08モード)
価格:727万円/テスト車=812万4000円
オプション装備:メタリックペイント<セレナイトグレー>(9万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ<本革シート+Burmesterサラウンドサウンドシステム+エアバランスパッケージ[空気清浄機能、パフュームアトマイザー付き]+後席シートヒーター+自動開閉トランクリッド+パノラミックスライディングルーフ[挟み込み防止機能付き]+ヘッドアップディスプレイ>(76万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1816km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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